ゴシックホラーか歴史ミステリーか
―榴華殿の愛憎劇―
「林檎時計」


時空を越えて貫く時間
   
 
北 嶋 孝
 その男の出現を予想していたかのように執事が振る舞い、屋敷の姉妹はなぜかいがみ合う。むごい仕打ちに耐える召使い、なぞの女性占い師、取材に訪れる記者。
 屋敷で密かに続けていた亡き父の研究内容がなぞの底に横たわっているらしい。そして殺人事件が次々に起きていく……。 軽い笑いが小劇場のはやりだった90年前後、横溝正史か江戸川乱歩かというおどろおどろしい筋立ては異彩を放っていた。耽美傾向の濃い「ロマンチカ」などとともに注目の劇団だったが、こってり作る「ロマンチカ」と違って、浪漫伝は演劇的な実験を恐れず、特に91年に榴華殿になってからは新しい試みに絶えず挑戦していた。人形を主役に据えた「KATAN DOLL」や、無声映画と弁士の役割を芝居に持ち込み、4人が同時に舞台に立つ「1人4役」などのスタイルには意表を突かれ、ふるえがくるほど強烈な印象を残した。
もうひとつ、当時見たいずれの作品も構成がしっかりしていることに感心した。作・演出の川松理有の才能はたしかにその後の活躍に現れている。
 「榴華殿」の前身「浪漫伝」時代の「林檎時計」公演を見た記憶がある。1990年の第8回アリスフェスティバルだった。当時の参加劇団は少年王者舘、ブリキの自発団、岸田事務所+楽天団、B級遊撃隊などのほか、初めてソウルと釜山からやって来た芝居が加わり、アジア演劇シンポジウムも開かれた。アリスフェスティバルが国際的なすそ野を広げるきっかけとなった記念すべき年に、その後はフェスティバルでおなじみになった浪漫伝(榴華殿)が、この作品を携えて初登場したのである。
 今回のリニューアル公演をみながら当時の記憶が少しずつよみがえってきた。ゴシックホラーの雰囲気をまとった愛憎劇というか、その愛憎の糸が時空を超えて貫く歴史ミステリーといっていいかもしれない。緻密な構想力に支えられた作・演出の才能は今回も健在だった。
 広い屋敷の一室に、見知らぬ若い男が突然現れるところから舞台が始まる。男は記憶を失っている。中央に大きな時計。
けれど、もっともっと評価され表舞台に躍り出ていいと思うのはぼくだけでないはずだ。 十年余り前の作品とはいえ、時間を軸にした芝居づくりの原型が既にこの作品に存在している。若者が突然、屋敷に出現するという時空超越の設定だけでなく、亡き博士の研究内容が時間と密接に関わっているからだ。舞台の主線は愛憎織りなす人間関係のもつれというより、現実を超えて貫く「時間」だと言っていいだろう。だからこそ、時間を定着させ、舞台のリアリティーを確保するために、作品に緻密な構成が要求されているのかもしれない。
 これから人形と時間のモチーフを絡ませた過去の作品をシリーズで取り上げるのだろうか。そのときは代表作といわれる「REM」(95年)を外してほしくない。個人的な事情で当時、残念ながらこの作品を見逃しているからだ。それともビデオやDVDで舞台を記録しているとしたらぜひ見てみたい。本作を含め、劇団の公演記録をコンピュータで加工しDVDなどに残すことは、この劇団のスタイルに似つかわしいのではないだろうか。

(きたじま・たかし ノースアイランド舎)∽∽