<御笠ノ忠次さん> 激弾スペースノイド (「童貞(イマジン)」12月24日‐26日)

「自由さと熱っぽさをひっさげて、宇宙を目指す」

激弾スペースノイドの御笠ノ忠次さん

【みかさの・ちゅうじ】
1980年千葉県生まれ。高校卒業後、劇団「1980」に所属する傍ら、表現者集団スペースノイドのメンバーとして活動。「1980」を退団後、「激弾スペースノイド」の演出家として本格的に活動を開始する。日本演出家協会主催の「若手演出家コンクール」で優秀賞・奨励賞をそれぞれ受賞。今回が第13回公演。
Webサイト:http://www.spacenoid.com

−公演では御笠ノさん自身も舞台に立たれているんでしょうか。
御笠ノ 明確な使い分けはないんですが、作・演出については「御笠ノ忠次」名義で、役者としては「伊藤栄之進」名義でやっています。初めて作・演出をやった公演のときに、人数の関係で私自身も大きな役で出演したんですが、すべて同じ名義だと「自分のことがそんなに好きな奴なんだ」と思われるのが少しイヤだったので(笑い)。

−「御笠ノ忠次」というのは変わった名前ですね。
御笠ノ 祖父が任侠の方面の人で、北海道の三笠炭坑で仕切りの仕事をしたり、大衆演劇をやったりしていたんですが、そのときの通り名をアレンジしました。たしかにちょっと右翼っぽいですね(笑い)。

−劇団結成のいきさつを教えてください。
御笠ノ 一番近いノリは、暴走族の結成のようなイメージですね(笑い)。同じ高校出身のメンバーが多いのですが、これがド不良学校でして。そういう連中ともつるんだりはしていたんですが、私は教師に反抗してみたり、万引きやってみたりというのが、あまりおもしろくないなと思っていて。かといって、真面目で、そういう連中に搾取される側の部類でもなかったわけです。そういったどちらにも属さないような人間が周りに結構たくさんいて、たまたま何人かの共通の知人を介してパフォーマンスというか路上で騒ぎを起こすというのを始めたんです。その延長線上に演劇がありました。

−「路上で騒ぎを起こす」というのは・・・。
御笠ノ たとえば、路上漫才のようなものだとか、なかには法的に完全にNGの過激なものもありました(笑い)。かといって、思想的に何かあるというわけではなく、「こんなことをやってみたら、おもしろいんじゃないか」というノリですね。

−そのノリが芝居に向かったきっかけは。
  高校卒業が迫ってきたので、なにか形に残る大きなことをやってから大人になろうではないかということになり、3年生の1月に地元の劇場を借りて公演を打ちました。当初はそれで終わりのつもりだったんです。私は卒業後に新劇の劇団に所属して、役者や演出助手をやっていました。他のメンバーも大学に入ったりしたのですが、結局、私がその劇団を退団し、「激弾スペースノイド」として本格的な活動が始まりました。

−演劇に関心を持ったきっかけは何だったんですか。
御笠ノ たまたま「演劇集団キャラメルボックス」をテレビで見て、「こういう表現方法もあるんだな」と思ったのがきっかけですね。中学の頃からバンドを続けているんですが、芝居は大人数で一つのものを作っていくというのが新鮮で、せっかくまわりに仲間が大勢いることだし、という流れでした。

−芝居の構成として即興の要素を取り入れているようですね。
御笠ノ いままでにやった公演のうち、3分の1くらいはアドリブ主体の芝居です。大まかな筋は設定されているんですが、そのときそのときで役者が抱えているプライベートな問題などを、そのまま本番の舞台で芝居の設定として提示してみるんです。それで、お客さんの反応も加わって話がどうなっていくのかという、ドキュメンタリー風な構成になっています。

−稽古はどのような形で進めていくんですか。
御笠ノ きちんとした筋書きがある芝居の場合は、一般的な稽古と変わらないと思います。アドリブ主体の芝居の場合は、徹底的にディスカッションをしていくという感じです。もっというと、話し合いと殴り合いが7対3くらいですね。どうしても言葉よりも先に手が出る人間が多いので(笑い)。とにかく、各人が考えているテーマについて、お互いに率直な意見をぶつけ合っていきます。もちろん、本番になると事前のディスカッションにはなかった話もバンバン出てきます。役者がそれを楽しんでいるようなところもありますね。

−芝居としては割とシリアスな部分が多いんですか。
御笠ノ もちろん笑いの要素も好きなんですが、一方でお客さんが何も痛い思いをしないで帰るような、残らない芝居というのはいやなんです。だから、比較的テーマは重たいかもしれません。

−今回の公演はどのような話になるんでしょうか。
御笠ノ いまのところ、設定などを含めてはっきりしていません。かっちりとした筋書きのある芝居になるかもしれませんが、その場合でも最終的な台本ができあがるのは本番の数日前で、通し稽古も3日間くらいというパターンが多いので(笑い)。

−テーマのようなものは・・・。
御笠ノ 現状で一つだけ決まっているのは「熱のあるもの」をやりたいということです。同世代を見ていても、なんだか熱っぽさがなく、醒めている人たちが世の中に多すぎるなという気がしているんです。失敗することをすごく警戒しているというか。私は本宮ひろ志の漫画の世界などが大好きなんですが、ああいった「全力で間違っている姿」というのはかっこいいと思うんですよね。変な話ですが、童貞の頃ってイマジネーションがすごいことになるじゃないですか(笑い)。それに通じるような熱っぽさを失いたくないんです。

−メンバーのかたは劇団以外にもさまざまな活動をしているようですね。
御笠ノ 私自身、いまでもバンドは続けていますし、なかには別に独自の劇団を持っている役者もいます。劇団として自由な雰囲気を大切にしたくて、そのほうが集団として健全だと思うんですよね。劇団によっては、縛りがきつくて、宗教的な結束で固まったところもあるようですが、スペースノイドはそういう集団にはしたくないので。

−劇団名の「スペースノイド」は「機動戦士ガンダム」に出てくる宇宙移民のことですか。
御笠ノ そうです。もともとは一般的なSF用語のようですが、ガンダムが大好きなので。高校時代に先ほどの話のパフォーマンスを始めた頃、「地元の八千代市から千葉市、千葉市から千葉県、千葉県から関東、関東から日本、日本からアジア、アジアから世界、世界から宇宙へ」という壮大なスケールをイメージして命名しました(笑い)。

−今後の劇団の運営はどのように考えていますか。
御笠ノ みんな自力でやっていきたいという人間の集まりなので、いままでどおりの形で続けていくことになると思います。劇団ごと事務所に引き取ってもらうという話もあるにはあったんですが、うまくいく自信がまったくないんで・・・。なにしろ、役者の寝坊でゲネプロがなくなったりということが普通にあるんですが、私もそれで怒ったりはしません。チキンレースみたいなもので、みんな「はじめにびびったほうが負けだ」という意識があるんです(笑い)。

−公演はちょうどクリスマスの前後のようですが。
御笠ノ 12月の24、25、26日なんですが、単純にこの時期に劇場をおさえる劇団はいなくて、空いていたので。自分たちでは「キャンセル待ち劇団」といってまして、他の劇団の都合で劇場のキャンセルが出たりすると、そこにすっと入り込んだりすることもよくあるんです。今回は、クリスマスに「童貞」というタイトルの芝居を観に来るお客さんがどれだけいるかはわかりませんが(笑い)。
(2004年11月6日、新宿・喫茶店)

<ひとこと> 御笠ノさんも劇団も表面上は破天荒で型破りなため、意表を突かれることの多い刺激的なインタビューでした。一方、率直で懇切丁寧な話しぶりからは、劇団として観客に何を提示するのか、そのためにどのように表現するのかという根本の部分に対して、真摯な姿勢がひしひしと伝わってきました。 (インタビュー・構成 吉田ユタカ)

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