<是永克也さん・保母浩章さん> Big Smile 「paper planes」3月8日−13日)

片寄直樹さん
【これなが・かつや】(写真左)1963年大分県生まれ。劇団「Big Smile」座長。上京後、渡辺プロダクションに所属し、テレビドラマやバラエティーに数多く出演する。現在はエキサイティング・トリガーに所属。1996年に劇団「I-CHI-MI」を結成。2004年に「I-CHI-MI」解散後、「Big Smile」を結成。
【ほぼ・ひろあき】(写真右)1960年東京都生まれ。演出家。ドラマ、バラエティー、ドキュメンタリーなど多数のテレビ番組に携わる一方、CM、ミュージックビデオ、各種ステージの監督・演出も数多く手掛けている。
Webサイト:http://bigsmile.biz/

 「直球勝負で伝えたい 紙飛行機を作った心のイメージ」

−「Big Smile」結成のいきさつを教えてください。
是永  もともとはお笑いの仕事を中心にやっていたメンバーが集まって1996年に「I-CHI-MI」という劇団を立ち上げました。翌年、「Big Smile」というタイトルの旗揚げ公演を行ったんですが、その演出をお願いしたのが(演出家の)保母さんです。保母さんのことは「I-CHI-MI」の結成前から知っていて、当時はダンスユニット「ZOO」のコンサートの立ち上げなども手掛けていました。非常に繊細な演出で、その映像的な手法を「I-CHI-MI」の芝居に取り入れられればなと思っていたんです。
  その後「I-CHI-MI」は十数回の公演を重ねてきたのですが、昨年解散し、一部のメンバーと一緒に新たな劇団「Big Smile」を結成しました。

−解散の理由は何だったんでしょう。
是永 言ってみれば方向性の違いです。お笑いをやっていたメンバーが多かったために、舞台のなかで次第にコント的要素が強くなっていったんですね。もちろん芝居において笑いは重要です。私も「ボケて、ツッコんで」という笑いもキライではないのですが、やはり、芝居の流れのなかで役者の関係性や場面設定による笑いを指向して行きたいですね。笑いは、芝居のテーマや本筋を重視した上で、その中でのピンポイントだと考えています。それによって、芝居のポイントが変わっていくのは辛いですからね。そんなこんなで3年前より自分の向かうべき方向を考えるようになり、昨年、解散を決意しました。
 

−保母さんとの関係はどうだったんですか。
是永 保母さんに演出してもらったのは初回の「Big Smile」公演だけで、その後は演出してもらう機会がなかったのですが、芝居の方向性については保母さんと考え方が共通していました。もう一度「Big Smile」のような芝居をやりたいという気持ちが二人のなかにあったわけです。そこで、新たにスタートするということで、その「Big Smile」を新しい劇団名にして保母さんにも再び加わってもらいました。

−「I-CHI-MI」のときから脚本は是永さんが担当していたんですか。
是永 基本的に私が書いていたんですが、立ち稽古の段階になるとどうしてもコント的な要素が付け加えられていくところがあって。実際にそうしたシーンはお客さんにもうけましたし、初めのうちは私も気にならなかったんですが、次第に「僕がやりたいことはこう言う事ではない」という気持ちが強くなってきたんです。
  現在にたどり着くまでに紆余曲折があって時間もかかったわけですが、その分だけ、いまはすごく楽しいですね。一時期は「誰のために書いているんだろう、誰のために芝居をやっているんだろう」ということばかり考えていたんですが、いまでは「自分のやっていることは意味のあることにつながっていくはずだ」という気持ちになっています。

−現在のメンバーはどのように構成されているんですか。
是永 メンバーは現在12人いるんですが、「I-CHI-MI」時代からの役者と、「I-CHI-MI」を観客としてみてきたんだけれど、そこに入っても自分の居場所はないと考えていて、今回の旗揚げを機に参加した人たちが大半で、まったく新しいメンバーは2-3人です。

−メンバーの年齢構成は・・・。
是永 私が40代で一番上になり、あとは30代と20代でばらけています。今回の芝居に出てくるおじいさんの役は必然的に年長者の私になるため、年明けからひげを伸ばして役作りをしています(笑い)。

−「Big Smile」の芝居は具体的にどのような路線になるんでしょうか。
是永 人間は誰しも何かの価値を持って生まれてきているはずだという気持ちが強くあって、その何かというのは答えは出ないかもしれませんが、そうしたものにスポットをあてられたらと考えています。私たちの芝居をみて、自分の心のよりどころ、忘れかけていたものを見つけてほしい、心のなかのお土産を持って帰ってほしいと思っています。私はイタリア映画が好きで、例えば「ニューシネマパラダイス」の世界などは普遍的ではないでしょうか。

−今回の公演のタイトルは「paper planes」ということですが・・・。
是永 これは頭に“The”でも“My”でも“Your”でも自由に付けてもらって、お客さん自身の紙飛行機をイメージしてもらいたいんです。紙飛行機は誰しも子供のころに作ったことがあると思いますが、そのシチュエーションはみんなそれぞれであって、飛行機のバランスも違えば、飛ばす場所も違うし、風のあるなしも違う。うまく風に乗れれば遠くまで飛んでいけるし、でもいずれは落ちるわけですが、その落ち方が大切だったりする。それがどこか人生に似ているのかなと思うんです。自分の力だけで飛んでいるんじゃないんだよ。飛んでいる姿を見ている人がいるんだよ。そういうことを感じてもらえればなと思います。

(ここで、所用のため遅れていた保母さんが合流する。)

−稽古の進み具合はいかがですか。
保母 これまでのところは結構早い展開ですね。これからさらに内容を深めていって、おもしろくしていきたいと思います。今回はいろいろな変化球を使っている芝居ではないので、とにかく役者の心情づくりに時間をかけています。

−具体的にはどのように・・・
保母 役柄のバックボーンをおのおのでつくらせています。例えば、「お前は朝飯は何を食べてきたんだ、昨日の晩は何をしてきて、いまどういう状況に立っているんだ」という台本とは全然関係のないところまで掘り下げて考え、セリフを言ってもらうようにしています。
  テレビドラマの場合にはどうしても流れ作業になってしまい、細かい部分を掘り下げることはむずかしいんですが、こうした芝居では役作りに時間をかけたいですね。そのために、台本も早めに上げてもらうように依頼したところ、思ったよりもかなり早く上がってきたので、びっくりしたほどです(笑い)。
是永 その分、あとから何度も書き直しましたが(笑い)。それでも、言いたいことは初めから変わってませんので、あとは役者次第ですね。

−先ほど、「I-CHI-MI」の旗揚げ公演だった「Big Smile」の話が出たんですが。
保母 私のなかではものすごくストレートで、テレビでは言えないようなことをテーマにできた芝居でした。日頃はビジュアル面や役者の設定などで変化球を使った演出が多いんですが、「Big Smile」ではテーマをいかに伝えるかということだけを中心に考えて、観客動員数なども気にせずにやったところ、結果的にお客さんにストレートに伝わったなという実感がありました。今回、その「Big Smile」を劇団名にしたということなので、テーマを伝えるためにはどうしたらいいのかという点には今後もこだわっていきたいです。

−保母さんは舞台やドラマに限らず幅広く活動されていますね。
保母 変わったところでは「五木寛之の百寺巡礼」というテレビ番組で、作家の五木寛之さんと全国の百のお寺を訪ねています。現時点で96のお寺をすでに巡ったのですが、五木さんは70歳を超えてらっしゃるのにたいへんエネルギッシュで、こちらが驚かされます。

−今後、劇団「Big Smile」はどのように発展していくんでしょうか。
保母 以前の公演の経験を通じて、自分たちのテーマを率直にお客さんの心に突き刺していけば必ず伸びていくんだという確信があるので、仮にマスメディアには載らず口コミだけであったとしても、お客さんは付いてきてくれると思います。
是永 初めのころ保母さんが劇団員みんなの前で「一流を目指さない人は帰っていいよ」という話をしたんです。この劇団の作品を演じるのは自分たちしかいないんだと、どこかから借りてきた猫ではなくて、自分たちが一流を目指す気持ちを持ってやらなければ、お客さんの心には伝わらないんだという話でした。この考えはみんなが共有していますね。

−年齢的に20代から30代中心の劇団が多いなかで、40を過ぎてがんばっているお二人の活躍は心強いですね。
保母 われわれもまだまだですよ(笑い)。
是永 五木さんに負けずに70、80歳まで現役でやろうと思ったら、まだ40年近くありますからね(笑い)。
(2005年2月6日、新宿の喫茶店)

<ひとこと> 「I-CHI-MI」時代の「Big Smile」は、旗揚げ公演にもかかわらず日に日に観客数が増えていき、「全部で3回みました」「4回みました」というお客さんも多かったそうです。お二人の当時と変わらぬ、いやそれ以上とも思われる意気込みを聞く限り、劇団「Big Smile」もそれと同じ軌跡をたどるのではないかという強い予感を抱かされました。
(インタビュー・構成 吉田ユタカ)

>>戻る