<渋谷・F・真和さん> ハッスルマニアHustlemania) 「青青青!!!」3月18日−21日

渋谷・F・真和さん
【しぶや・F・まさかず】1975年新潟市生まれ。舞台芸術学院卒。同期生らを中心に2003年5月に現劇団を旗揚げ。座付き作者。ペンネームの「F」は、大好きな「藤子・F・不二雄」にちなんで付ける。
webサイト:http://ikebukuro.cool.ne.jp/hustle_mania/

 「人間の感情を「青」(ブルー)で表現 非日常の''日常''を描く」

−今は脚本だけを書いているんですか。
渋谷 そうです。最初は舞台芸術学院の同期と「ネバールーズ」という劇団をやっていて、そこでは役者として舞台に立っていました。2002年にそのメンバーの何人かと今の劇団を結成しました。前に僕がショートショートみたいな軽い短編を書いたことがあったので、それを知っていたメンバーに言われて脚本を書き始め、そのまま今まできたという感じです。

−(今回の公演チラシを見ながら)「青青青!!!」とありますが…。
渋谷 これで「ブルースリー」と読ませます。人間が生きていくうえで、感情を表現するとき、「青」が使われることが多いじゃないですか。例えばブルーな気持ちとか、青息吐息とか、あとチラシにもありますけど「情熱」の「情」の字とか。友情だったり、愛情だったり。他に日本代表のユニホームなどのイメージあると思います。そういった人間の強い感情を表すいろいろな「青」が前面に出るような作品になっていると思います。

−では場面がいくつか繋がったオムニバスのような作品でしょうか。
渋谷 ではなくて、社会人ラグビーのチームを舞台に、さっき言った人間の「青」を全編で見せていくという感じです。それこそ、ラグビーでしたら上の人間が後輩を「ケツが青い」とか。役者がさまざまな「青」の感情を持って舞台に立っていますね。

−どんなラグビーチームなんですか。
渋谷 社会人企業で、トップリーグの東日本で、第4部くらいの弱小チームという想定です。僕自身も高校のころラクビーをやってました。そのころガタイよかったんですけど、東京出てきて1人で暮らしてる間にどんどん痩せてしまいました。

−出身はどちらですか。
渋谷 新潟です。新潟の方言を役者にも話させたりしています。今回の舞台は架空の「羽鶴(はつる)」という町なんですけど、これはまったくの造語で、劇団名が「ハッスル」なんでそれでおもしろいかなと思って名付けました。

−今回15人も役者さんが登場するというそうですが、大変ですね。
渋谷 そうですね。3回目の公演ですが、おかげさまで出してくれっていう友人や後輩が多くて、「いいよ、いいよ」って言ってるうちにどんどん増えちゃいました。それをひとつの作品の中で、役者のモチベーションが下がってもいけないので、ひとりひとりの役に光があたるようなシーンをいくつかいれたんですけど…。初めは主人公が1人決まっていて、そいつの話を書こうと思ってたんです。ラグビー部に天才ラガーマンが入ってくるという設定でした。ただ演出家がそれじゃおもしろくない、主人公は「ラグビー部」自体であってほしいということで、そのラグビー部の6−7人が主人公になります。全体的にバランスがとれたんじゃないかと思います。

−コンセプトやイメージがあって作品を作っていきますか。
渋谷 こんなシーンがあったらいいなという思いつきがあって、これだったらラグビー部ができるとか、こういう設定だったらおもしろいんじゃないかと考えます。その中でラグビー部だったらこんな事件が起こりそうだとか。それで3つくらいの設定を作っておいて、メンバーと話して、それをまた煮詰める。だから先に題名が来て、そこからコンセプトができる感じです。

−脚本家が全部書いて、出来上がったものを読み合わせるというスタイルとは違うんですか。
渋谷 違います。本当はそうやって書けるといいですけどね。

−いろんなやり方がありますよね。劇団のメンバーに投げてみて、一緒に作るというのもひとつのやり方ですから。
渋谷 そうですね。今回もそういうやり方で、例えば僕も稽古場にいたら、僕も含め15人のフィルターを通して作るという風になっていると思います。みんながこの役だったらこういうことやりたいっていう、セルフプロデュース的にやって、そのベースに僕がいて、最終的に統率するのが演出ということになるので、バランスを取り合いながらやってます。

−団員は何人ですか。
渋谷 5人です。他は出たいと言ってくれた人とか、自分たちが見に行った芝居で出て欲しいと思った人に声をかけたりとか。役者をプロデュースするかたちになっています。みんな客演などに忙しかったりするので、公演は1年に1回のペースです。

−「ハッスルマニア」という名前の由来は?
渋谷 僕はプロレスファンなんですけど、アメリカにWWEプロレスの一大イベントに「レッスルマニア」というのがあって、その語源が「娯楽エンターテインメントの夜明け」という意味らしくて。名前を決めるときに演出の滝沢と、その「レッスル」の「レ」を「ハ」にかえて「ハッスルマニア」なんて、いいんじゃない?とふざけながら言ってたんです。名前はまあ後からついてくるものだという話になって、この名前で行くことになりました。あと、「ハッスル」を辞書で調べたら、「ハスラー=人をだます」というのがあるらしいんです。役者はいい意味で人をだましてるわけですから、ちょうどいいなと思いました。

−特徴はどういうところにありますか。
渋谷 その人にしかわからない価値というのでしょうか、その人にとっての日常を描きたいと思います。1作目の公演はタイニイアリスのある新宿2丁目ということでオカマバーの話でした。2作目は浮浪者の話だったんですけど、そういった人たちの日常は僕らにとっては非日常なわけですよね。今回はラクビー部ですけど、遅刻したから先輩にスクワット100回なんて彼らにとっては普通です。そういう人たちにとっての日常で、当たり前のこと、登山家、サーファーとか、僕らにとって非日常な人たちの「日常」を描きたいと思っています。いわゆる日常の生活を描いてるものとかあると思うんですけど、そこに嘘があったり、自分たちに近い日常すぎるものを描いてもしょうがないかなと思ったりします。その人の職業とか立場での特異な日常を描いていきたいと思っています。

−そうすると、第1作目から劇団の色は出ていたということですね。
渋谷 そうですね。あとはどこまでエンターテインメントにできるかということでしょうか。僕らの世代や、前の「ネバールーズ」という劇団もそうだったんですけど、90年代の「静かな演劇」に影響を受けていますが、逆にそれへの反発ですかね、今回も芝居をやっている間に突然歌い始めたりとか、そういう楽しませ方がどこまで自然に受け入れてもらえるかな、というのはありますね。

−「静かな演劇」に対する違和感があるんですかね。
渋谷 違和感はないです。ただやってることの技術はすごく高いと思うんですけど、それを見て、よしがんばろうという気持ちにはならないじゃないですか。上手いなあとは思うけど、それで終わるというか…。ハッスルマニアの芝居を見ることによって、何か勇気づけられたとか、オレもがんばろうという気持ちになってくれたらいいなと思います。それがいちばんですかね。
(2005.2.11 新宿の喫茶店にて)

<ひとこと> 高校時代はラグビーに打ち込んだそうです。ポジションはプロップ。スクラムの最前列で相手とぶつかり合い、チーム全体のために頑張る厳しい役どころです。当時のがっちりした体型は想像できないほどいまはスマートになっていますが、その分、精神的にたくましくなっているのではないでしょうか。そんな体験を生かしたステージが楽しみです。(インタビュー・構成 北嶋孝@ノースアイランド舎/山下千春)

 

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