<千葉裕子さん、繭Co.さん、鬼塚俊秀さん>
Run-Beat 第3回公演「雨間〜メリーさんの羊〜」(7月7日-11日)
「天皇を神と呼ぶ女の子の哀しみ 占領下日本が舞台の物語」
山田能龍さん(左)と後藤隆征さん
 写真は、左から鬼塚俊秀さん、繭Co.さん、千葉裕子さん
【ちば・ひろこ】 昭和56年、東京都生まれ。日本大学芸術学部中退。映画・音楽制作会社を経て演劇制作会社へ。短編映画の脚本も手掛ける。プロデュースユニットRun-Beat 主宰。脚本担当。2004年4月旗揚げ公演。今回が3回目。
【まゆこ】 昭和56年、東京都生まれ。NHKアクターズゼミナール本科卒。Run-Beat公演に2回とも出演。今回は「天皇を神と呼ぶ」主演の少女役。ビジュアル系バンドのトーク&パフォーマンスも担当。
【おにづか・としひで】 昭和57年、鹿児島県国分市生まれ。雑誌広告や舞台、映画に出演。現在フリーで活動。
Run-Beatサイト:http://nns.nobody.jp/runbeat/index.html

−旗揚げは昨年でしたか。
千葉 はい、昨年5月に旗揚げ公演をしました。「Run-Beat」は演劇ユニットですので、最初から知り合いを介してお願いした役者さんたちに出演してもらっています。
鬼塚、繭Co. ほとんど初対面でしたね。
千葉 私は当時、商業演劇の制作会社にいたんですが、趣味で小劇場の芝居を結構みていて、商業演劇と小劇場のコラボレーションを見たいと思い、上司へ小劇場の役者さんの商業演劇の舞台出演を勧めてきた。結果いろんな役者さんとお話しするうちに、自分でもできるかもしれないと思うようになったんです。

−学生時代に劇団活動を経験していたんですか。
千葉 いえ、経験はありません。演劇学科でしたが、中退してしまって…。現場で出会った役者さんやスタッフの方の伝手で、参加してくれる役者さんと知り合いました。

−商業演劇と小劇場はかなり違いがはっきりしてるんですか。
千葉 役者さんの演技が全然違う。小劇場の役者さんは即興に慣れている。ポンとせりふを振られたときに、返し方が違うんです。稽古を見てても、やっぱり小劇場の役者さんだって感じます。蜷川幸雄さん演出の「新・近松心中物語」公演の現場制作で入っていたときも、小劇場の役者さんに15人ほど出ていただいていた。蜷川さんも(役者さんたちに)「おまえはおもしろいなあ」といって、アドリブでいろんなことをやらせたりしていた。そしてオープニングの時、そのアドリブの動きがちゃんと組み込まれて、商業演劇として成立していた。すごいことだし、自分でも成立させてみたいと思った。

−自分で演劇ユニットを始めたいと思ったのは、それがきっかけになったんですか。
千葉 もともと本を書くのが好きだったので、上司のプロデューサーに読んでもらったら、割に評判がよかった。周りにいたスタッフさんの力を借りられるということもあって、始めようかと…。

−皆さんとの出会いは?
千葉 鬼塚さんとは、知り合いの舞台監督さんを通して知り合いました。
鬼塚 回りまわって、そうですよね(笑)。舞台監督さんの知り合いから話があり、台本をいただいて読みました。それで参加することにしました。
−繭Co.さんは?
繭Co. 実はですね、千葉さんとは中学高校の同級生なんです。彼女が学生時代に演劇プロデューサーになりたいと言っていたので、いつか一緒に芝居をしたいねと言っていたのですが、その後連絡が途絶えてしまった。結構、遮断するタイプなんですよね(笑)。あるとき「芝居やらないか」と誘われた。台本を読ませてもらったら結構おもしろかったので参加することにしました。
千葉 4年ぐらい音信不通でした(笑)。
繭Co. 失礼ですよね(笑)。
−高校時代に一緒に演劇活動していたんですか。
繭Co. いえ、私は学外で活動していたので。

−今回は第3回公演ですが、1回目、2回目と同じようなトーンが続くのですか。
千葉 私は特に変えた気持ちはないんですが、役者さんから今回はテイストが変わっていると言われます。
繭Co. これまでの千葉さんの作品は、「ええっ、そうなるの」というような個所がいくつもあって、分かりにくいっていうか、最後までついてこれる人が多くなかったような気がする。今回は「ええっ、そうなるの」という個所はあるけれども、とても伝わりやすくなっていると思う。
−どんでん返しに次ぐどんでん返しというようなお芝居なんですか。
繭Co. ラストでドンドンドンと行く感じ…。
千葉 前回のお客さんたちの感想でもそうでしたけど、最後にドンドンドンと行くので、今回はそれを散らしました。それで分かりやすいと言われるのかもしれない。でも自分で分かりにくい話を書いているつもりはない(笑)。
鬼塚 千葉さんの中では完結しているのかな(笑)。
千葉 かわいそうなひとの話を書くことが多いんですが、精神的に病んでいるような主人公がラストで、たった1人がその人を見ていたことによって救われるというようなことを毎回意識して書いてます。
繭Co. 役者たちも直接言っちゃうんだけど、千葉さんに病んでいるところがあるからじゃないかって(笑)。

−今度の第3回公演はどんな粗筋でしょうか。
千葉 終戦から5年後の昭和日本…(笑)つまり昭和25年の日本なんですが、当時日本を支配していたGHQ(連合国軍総司令部)のやり方に納得できない日本人がいたんじゃないかと私は思っているんです。おばあちゃんなんかに話を聞くと、生きることに精一杯だったというんだけど、そういう人たちは絶対いたと思う。そういう人たちを一掃するためにGHQが考えたのは、天皇を神と呼ぶ女の子を、これまでの日本の考え方が間違いだったと教えるために育てる。少女を育てる役が鬼塚さんで、任務と愛情の葛藤から最後は…というストーリーですね。そこに現代日本を織り交ぜていってラストで合致するというお話です。

−日本の戦後という、ある意味で生々しい過去を持ち込んだのは今回が初めてですか。
千葉 はい、初めてです。これまでは割に軽いお話でした。
繭Co. 祖母に戦後、(戦前戦中と)考え方を変えられたのかって聞いたら、結構みんな受け入れていたよ、っていう答でしたね(笑)。マッカーサーが言ってたからね、って(笑)。それが当たり前なんだって言われて、ああそうなんだあって思った。
千葉 さすが繭Co.さんのおばあさん(笑)。

−演出が毎回変わっているようですね。今回も新しい方ですが。
千葉 台本を書き上げたときに、この作品の演出を託せる方に毎回お願いしています。私は演出をしないので。

−作品の性格を考えて、演出家に頼むのですか。
千葉 ポップだったり今回のように重いテーマだったり、作品のテイストや世界観を出せる演出家さんにお願いしています。

−演出家が毎回変わるのは、役者さんにはどうでしょう、やりにくくありませんか(笑)。
鬼塚 まだ2回ですからね。ただ演出家のやり方と、役者がこうしたいと思う方向と、最終的には折り合いの問題になると思います。前回はとてもよく知っている方が演出だったので、よく話し合えてとてもやりやすかった。台本が一緒でも、演出家が違うとカラーが違いますね。1回目と2回目も違ったし、現場の雰囲気も変わります。
繭Co. 役者も各回とも同じわけじゃないんで、演出の方も含めてみんな変わるから、また新しい現場という感じになります。楽しくやってますよ。

−千葉さんは演出を担当しないんですか。
千葉 やりません。私が仕事してきた商業演劇の世界で、作と演出を兼ねるケースがほとんどないので、作者の私が演出するという意識がないんです。それに役者さんがAとBの2通りの演技を見せてくれたとき、それぞれによさがあったとしたら私は選べないタイプなので、演出はできないと思っています。
鬼塚 千葉さんの台本はト書きに、私はこう考えているという書き込みがとても多い。声のトーンや動き方もト書きから見えるように書かれている。そういう意味では、演出もおもしろいかもしれない。
千葉 私の台本では、登場人物は建て前で会話していることが多い。だから本当の気持ちを(台本で)指定しないと、お客さんに分かってもらいないと思うんです。だから演出を担当した方と密に打ち合わせしないと1本にならない。結構そのあたりが大変といえば大変ですね。
−独りで(作・演出)する方が早いかも(笑)。粗筋は先ほどうかがいましたが、どの辺りが見どころになるのでしょうか。
千葉 現代(の場面)かな。芝居の中に、現代がバツン、バツンと出てくる。その現代が、登場人物の存在理由を示したりしている。現代の場面のせりふを注意深く聴いてほしいと思います。

−繭Co.さんと鬼塚さんは初回からずっと出演して今回も登場します。どんな役になるのですか。
繭Co. これまでは、軸となる人物の周りをキャンキャン動き回るにぎやかしのポジションというか、お笑い担当でした(笑)。今回は主演だよって言われて、エッ。やったことないんで、プレッシャーですね。
千葉 彼女は舞台上で、笑っていても泣いているように思えるときがあり、泣いているときでも笑っているように見えるときがある。それが今度の主役のキャラクターにぴったりなので、繭Co.ならできると思って書きました。
鬼塚 ぼくは彼女の先生役と言っていいんでしょうか。一緒に暮らす中で、彼女の役目を意識させていく役柄ですが、自分の目的が定まらなくて、ずうっと迷っているという設定ですね。

−他の役者さんは。
千葉 前々から出演していただいている役者さんがあと3人。あと芝居をみて、その場でお願いしてました。
繭Co. ときどき強硬手段に出るんですよ。終演後にその場で役者さんに企画書渡して、その演技がほしい(笑)。
−ますます演出の香りがしてきましたね(笑)
(2005年5月17日、新宿・タイニイアリス楽屋)

ひとこと>楽しいインタビューでした。3人のことばと笑いから、舞台に賭けるそれぞれの気持ちが強く伝わってくる1時間でした。千葉さんは写真を遠慮したいというので、後ろ姿になってしまいました。繭Co.さんのステキな笑顔で、ご容赦ください。(インタビュー・構成 北嶋孝@ノースアイランド舎)

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