<Dr. エクアドルさん> ゴキブリコンビナート公演「君のオリモノはレモンの匂い」(8月11-14日)
「木こりVS漁師の壮絶なバトル! 血で血を洗うバトルミュージカル! 君は生きて帰れるか!!」
山田能龍さん(左)と後藤隆征さん
【ドクター・エクアドル】
1966年の七夕生まれ。本名斎藤寿幸。東京外語大学仏語科卒。92年2月、神楽坂ディ・プラッツにて「タイトルなし」という、またいかにもDr.らしい旗 揚げをする。以来、年に1回か2回公演、必ず新作を発表。別に、「ライブ」と言ったり「イベント」と言ったり、ときに「大道芸」などネーミングはさまざま だが、「パフォーマンス」活動も精力的に行っている。かねがね野外公演が夢と聞く。手垢のついてないステキな場所をご存知の方はぜひご一報を!――と、こ れは三月兎からのお願いで〜す。(インタビュー・構成 ヒロコ)
◆ゴキブリコンビナートWebサイト:http://home.interlink.or.jp/~an-an/frameset.html
―去年に引き続いて今年も、ゴキコンさんでAlice Festivalの開幕! とっても嬉しいです。まず、かねがねの疑問、どうして今の名を付けられたんです?
Dr.  昔、ボボ・ブラジルというレスラーがいたんです。ボボというのは九州地方で女性の……。
―ええ、知ってます。佐藤信の「鼠小僧」にもそういう、性器の呼び方がそれぞれの名前としてつけられた3人の女性がでてきますね。
Dr.  東北ではそれを「ベッチョ」というんですが、はじめ、ベッチョ・エクアドルと言ってたんです。だんだんイヤになっていつの間にかそれは使わなくなった。

―エクアドルは?
Dr.  ブラジルの隣だから。
―ハハハハ。Dr.は?
Dr.  別に、意味ないです。エラソーだから。ただつけただけ。本名の「としゆき」が音読みならよかったんだけど、訓読みがどうも好きじゃなくて。
―ハハハハ、面白い。ステキステキ。
Dr.  実家は、室町時代から、だろうと自分で勝手にそう思ってるんですが、ずっと代々の百姓。ピュアな血筋なんです。自分のなかの本能に、百姓の血があるって感じてる。
―東京外語なんてすごいエリート。インテリじゃないですか。何をおっしゃる。
Dr.  ビンボーな親が私学は……と言うので行っただけ。東京へ出たかったですしね。それに外語大ではほんとうに尊敬できる、勉強してると思った学生に会ったのは2人だけ。あとは、インテリじゃなかったですよ。外国語がよくできるということと、知性、教養があるってこととはまるで違いますから。

―でも、ゴキブリコンビナートのHPを、とくに「Dr.エクアドルのJPOP大好き?」や「アンケートにお答えします」など、あなたのお書きになったものを拝見して、その感受性のフクザツ骨折! ワーすごい、怖くて話しかけられるかしらと心配してました。  話は飛ぶようですが、今回の「君のオリモノはレモンの匂い」。またいかにもDr.らしいタイトルですが、筋はあるんですか?
Dr.  ええ、パフォーマンスじゃないです。今までの作品でも筋のなかったことは一度もない。演劇のほかに好きなものといえばマンガだったり映画だったり、ですが、それだって原則としては筋のあるものを見る、それが好き、といったふうです。

―今の、これが演劇だという概念を根底からひっくり返そうとしていらっしゃる、と私は思ってるのですが、筋はちょっと意外、でした。
Dr.  それも、どんでん返しや意表をつくということはしない。こうなるだろうなとあらかじめ思ったとおりに進んでいく。

―なぜ?ですか。
Dr. たとえばお化け屋敷やジェットコースターなんかだってそうでしょう。入る前に、あるいは乗る前にもうこういうものだろうなあと分かってる。分かっててそのとおり、あるいはそれ以上に愉しめる、でしょう? もしさっきの、“頭の良さ”といったものがあるとしたら、ここで驚かそうとか、ここで落下速度以上の体感を味わわせようとか計算できる、そして設計し創り上げることができる。 そういうのを“頭の良さ”というんだと思うんです。

―なるほど。なるほど。なぜミュージカル、なんですか?
Dr. 自分のなかにバランスがあって。せりふにBGM入れてそれで表現に説得力を持たせるということはやってはいけない、というのがある。言葉そのものにリズムがあり音色があり音の高低がある。それがひとを惹きつける。声が、と言ってもいいですが。結局言葉は、(表現に)力を持たせるための契機だと思う。演劇の大多数の人たちとちがうのはここ、なんでしょうね。

―作曲は、どなたが?
Dr. 3名でやりました。70%ぐらいが僕です。コンピューターで作ります。
(2005年8月1日 都内某区稽古場の近くにて インタビュー・構成 ヒロコ)

<稽古場見学記> こんな体験、生まれて初めて。ひょっとして稽古見せて下さいま せんか?とおそるおそるしたTelに、即座に快いOK。ドキドキしながら拝見。帰ろうとして「ちょっとお喋りしたほうが……?」
  親切に問われてドッキン。見学させていただければそれで十分、そ、そ、そんな厚かましいことが……と恐縮しながらなぜか体はイソイソでした。した私であった。2時間に及ぶインタビュー、こんなに短くしちゃってごめんなさい。想像通り礼儀正しい、知的な方でした。もっとDr.を知りたい方はエッヘン、ご連絡を!
  そっと入り込んだつもりでいつの間にか歩き回り撮りまくっていた稽古場は、ちょうど三人の男優たちが、私の大好きなセロトニン瘍子ちゃんを入れ替わり立ち替わりいたぶっているところ。ブスがあの事故?のせいでもっとブスになった、こんなものくれてやろうなんて男性優位の言いたい放題、ふつうならユルセンところだが、いちばん美しいセロトニンちゃんをわざとブス役にした演出の意図は汲めたのでまあイッカ、大目に見ることにした。ほかに、♪オ〜リモノください どうぞ どうぞください」と、歌詞とは真反対の、まるで七夕のお星様を見上げるように美しいメロディで歌いあげるところ。「木こりVS漁師の壮絶なバトル!」の場かな? 「なんかキノコの匂い」「キノコ寄こせ」「これは渡せねえ」と、本イキの乱舞乱闘。見たのはこの3つのシーンでした。
  Dr.は、プレーヤーを操作したり、ア、そこは何秒? 測って。 うーん17秒か。この動きとこの動きと続けて、。しかもでも体のリズムを変えるのは難しいから、瞬間、スに戻って、それから次の動作に移るようにしたらどう?等々指示したり、結構忙しい。の指示を出したり、それも、つい声が歌になり、体が動き出し、中に割って入ってオットト、「まかすよ」とまた所定位置に戻ったり、見てると身体だけでなく心の動きもかなり大きそう。の自己規制。「じゃ、お願いします」「ごめん、あ、加藤〜」「大丈夫すか?」「ここは千鳥ちゃんに振付まかそう。させるんだ。冗談冗談。でも(まかせるかも)分かんないよ〜」などなど、その言葉から、も、口には出さない心の動きまで相手への思いやりと創り手としてこうしたいという内心との揺れ動きがそのまま伝わってくるよきそうでした。
  ボボジョ貴族、オメス吉祥寺、OJC、スピロ平太、スガ死顔……失礼、お名前と顔とまだ私の中でうまく一致してない方もある役者さんたち、みんなで10人ほども、その熱心なこと、礼儀正しいこと!他のシーンの間に一人で柔軟する人、逆立ちする人、何人かで揉みあい稽古する人、Dr.がちょっと詰まったとき、じゃ、僕のリズムでやってみましょうか?即座に手を上げそのシーンを主導する人。見ててほんとに気 持ちのいい、集中でした。
  ひょいと見た床の上。今日配布されたらしいコピー紙がある。覗いてみたらたとえば、「地面をふん!とその右手でおもい知ったか 押す首を上げてもう一回 拳を握りしめ2小節に一回グッとダウン→つまり一小節に一回「大事なの『だ』」→「『だ』と『な』」 その両手の反動で胴体を起こしていく 左手で右手の手首をつかみ右手で動きまくる  宍加菅  うわぐつを持っている手を∞形にふる  ジャンプを伴って  大事なもの:「な、も、の」は一拍一回 〈略〉聞いてくれ身体反転 →久美子」などとあるった。その一つ一つに(台本の)何ページのどこどことあったから、ドクターが今日稽古するはずのシーンの、動きとリズムを、あらかじめ思い浮かべたものとピンと来た。台本とは別の音符のようなもの、いうなら「体符」みたいなものにちがいない。稽古はそれを実際に立ち上げて検証してみる場なのだでした。そして想い描いてきたリズム、動きは現場で完膚なきまでに変更される――。
  さらに。インタビューでDr.は、言葉はリズムや音色、高低でなければと言っていた。が、実はそれだけではなかったのだ! 「宍加菅」とはそれぞれの役者の頭文字。固有名詞を持った個々の役者の、それぞれの身体もまた、違ったリズム、高低、音色。それらの奏でる音楽が観るものを惹きつけなければならない、ということでもあったのだ。それがDr.エクアドルの、あるべきミュージカル!なのでした。
  Dr.はいまお化け屋敷やジェットコースターの、あ、ちがう、「君のオリモノはレモンの匂い」の設計図を引き、ああかこうか実物を試作しているところであった。それがどんな線=筋で描かれるか、あと旬日の、期待は大きい。(ヒロコ)

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