<白瀧尚子さん、大塚誠一郎さん> 東海大学演劇研究会「死んでもいい '06」(3月3日−5日)
「脱“ええかっこしい”のラブストーリーで飾る、4年間の集大成」
白瀧尚子さんと大塚誠一郎さん

【白瀧尚子】(しらたき・なおこ 写真左)1983年、静岡県生まれ。2002年4月東海大学入学。文学部日本史専攻で専門は演歌の歴史について。演劇研究会では音響、役者を歴任し、本公演では脚本と2度目の演出を務める。小学校と高校時代に校内で演劇経験がある。
【大塚誠一郎】(おおつか・せいいちろう 写真右)1983年、茨城県生まれ。2002年4月東海大学入学。文学部文明学科で専門は地球環境について。演劇研究会では役者、音響を歴任し、本公演では2度目の舞台監督を務める。中学・高校時代は乗馬をやっていて、演劇に関わったのは大学に入学してから。
東海大学演劇研究会:http://gekiken.shn.u-tokai.ac.jp/

−まず、演劇研究会の概要を教えてください。
大塚 歴史は今年で45年ほどになると思います。劇研が所属している「文化部連合会」というのが今年で創立47周年になるのですが、その創立からほどなくして劇研も発足したと聞いていますので。メンバーは現在40〜50名で、そのうち1〜3年生が中心になって活動しています。私たち2名を含む4年生は今回の卒業公演で最後になります。また、4月の新入生の勧誘に向けて、毎年今頃から準備を始めています。

−入ってくる人の演劇経験はどうなんでしょう。
大塚 だいたい3分の1くらいの人がなんらかの演劇経験者です。
白瀧 私は小学校と高校時代に学内で演劇をやっていましたが、なかには外部の劇団に入っていたというメンバーもいますね。

−卒業後の進路はどんな感じですか。
大塚 多くは普通に就職するのですが、演劇関係の仕事に就いたりフリーターをしながら芝居を続けるという人も若干いますね。
白瀧 声優を目指して、専門の道に進んだ人もいました。
大塚 自分たちで劇団を作ってしまう先輩もいます。タイニイアリスでも公演したことがある「激弾スペースノイド」とか・・・
白瀧 「スプリングマン」もそうですね。

−公演はどれくらいの頻度でやっているんですか。
大塚 年度で3〜4回です。まず6月に学内の講堂を借りて行い、11月には建学祭という学園祭で教室を使って公演をやります。そして3月に外部で卒業公演を行います。以上の3回が本公演という扱いで、それ以外に1〜2年生中心の新人公演をやる年もあります。

−卒業公演は外部の劇場を借りるわけですね。
大塚 ここ数年は「THEATER BRATS」「こまばアゴラ劇場」「東演パラータ」などで公演してきました。

−卒業公演ということは、今回の公演のメンバーは4年生だけなんですか。
大塚 いや、4年生は9名しかいませんので、残りのメンバーは後輩です。

−脚本はどのようにしているんですか。
大塚 今回は演出の白瀧の希望もあって、白瀧がオリジナルのものを書きました。普段は既成の脚本を用いるケースが大半ですね。

−キャストやスタッフはメンバーが固定されているわけではないんですか。
大塚 役者の希望者は多いので、公演ごとにオーディションを行って決めています。
白瀧 ただ、役者は舞台に立てば立つほど上達するという面がありますので、結果的にどの公演でも役者に選ばれるという人は結構いますね。
大塚 もちろん、はじめから照明や音響などのスタッフを希望する人もいますし。

−演出も特定の人が毎回担当するわけではないようですね。
大塚 公演ごとに演出の希望者を募ったうえで決めており、白瀧は今回が2度目になります。
白瀧 公演のたびに演出が違うというのは、一般的な劇団とは違う点ですね。
大塚 サークル組織であるため、基本的には学年主体の代替わりで運営しています。主宰者というのもおらず、3年生のなかから委員長を立てますが、委員長とは別に公演ごとに演出と舞台監督が選ばれます。一昨年の公演で白瀧が演出した際にも私が舞台監督だったため、このコンビは今回で2度目になります。

−舞台監督の守備範囲はどのような感じですか。
大塚 一般的な舞台監督とはちょっと違うかもしれませんが、基本的に芝居の中身にはタッチしません。学内・学外の会場の手配や、お金・スケジュールの管理、そのほか演出や各セクションからの要望を受けて対応するなど、公演責任者という位置づけですね。
白瀧 責任の所在という意味では、芝居自体がつまらなかったら演出の責任で、それ以外のことはすべて舞台監督の責任だよね(笑い)。
大塚 まあ、なにか問題があったら最終的に「舞台監督が悪いんだよ」といわれてしまう役どころです(笑い)。
白瀧 メンバーのなかには「芝居がやりたい」という人もいれば「サークルをやりたい」という人もいるので、舞台監督がそれをうまく調整するという面もありますね。

−「芝居がやりたい」「サークルがやりたい」というのは具体的には・・・
白瀧 芝居の目的は「お客さんをいかに楽しませるか」ということで、そのためには苦しい過程も経なければならないわけですが、一方では「サークルなんだから自分たちが楽しみたい」という考え方もあって・・・。うまく両者のバランスをとれればと思っているんですが、そのあたりはもっぱら大塚に任せてしまっている感じです。
大塚 逆に、芝居の中身については白瀧を全面的に信頼して任せていますので。二度目のコンビということもあり、二人の信頼関係でうまく進められていると思います。

−「名コンビ」なわけですね。
大塚 公演が終わったあとに、そういわれるといいですね。

−今回の公演は、話題の「メイド喫茶」を舞台にした話だそうですが、どのような芝居になるのでしょうか。
白瀧 私が前回演出した芝居に引き続いてシチュエーション・コメディで、一幕劇になります。一幕劇がわりと好きなので。

−すると、暗転をうまく使うという感じですか。
白瀧 暗転はあまり好きではないんですが、今回は結構使っています。
大塚 前回は暗転もほとんどなくて、照明が「つまんない」といっていました(笑い)。

−メイド喫茶という舞台のなかで、どのような人間関係が描き出されるんでしょう。
白瀧 男女間のギャップ、特に男が女に抱く幻想みたいなものを描きたいなと思いました。今回は私は舞台に立たないため、「私が演じられないような女」「私があこがれる女」をあえて4人の女性キャストに割り振っています。でも、たぶん男の子はこの話に出てくるような女は嫌いだと思います。役者の男の子が「この台本ムカツク。女性上位だ」って(笑い)。
大塚 ハハハハ。確かにそういってたね。
白瀧 それと、私は直球勝負というか“くさい”芝居が好きではないんですが、後輩たちは結構そういう芝居が好きなんですよ。だから、違うものをやらせてみたいという考えもありました。台本自体には、くさいセリフもあるんですが、稽古ではそれをいかにくさく表現しないかというのが演出のテーマの一つですね。
大塚 主人公役の役者が、それでだいぶ悩んでます。

−メイドや女王様やオタクといった人物設定で、役者はとまどいませんでしたか。
大塚 実は先日、役者や音響などのセクションごとに分かれて、実際に秋葉原のメイド喫茶に行ってみたんですよ。白瀧を含めた役者チームは3軒ほどハシゴしたようです。
白瀧 メイドの女の子たちは、衣装やちょっとした仕草に至るまで「かわいく見せる」というコンセプトが徹底されていて、とても参考になりました。出された飲食物は値段が高いわりにまずくて、げんなりしましたが(苦笑)。
大塚 でも、巷でいわれているような特殊で閉鎖的な空間というわけではなかったですね。女性のお客さんも結構いたし。
白瀧 私はもともと“ええかっこしい”みたいなのも嫌いなんです。といっても、私自身ええかっこしいの部分があるし、それは誰しも多かれ少なかれ同じではないでしょうか。実はオタクっぽい一面を持っていても「自分はオタクじゃない」とかたくなに認めなかったりして。メディアで「萌えバブル」みたいに奇異な視線で取り上げられていることにも違和感があるんです。私を含めてそういったすべての人たちに「あんたたちも、そんなに変わらないんだよ」「かっこつけて、体裁ばっかり気にしてんじゃないよ」ということを、この芝居で突きつけてみたいんです。

−たしかに、オタクといわれる人たちこそ、自分に素直に人間らしく生きているといえるのかもしれませんね。
白瀧 ただ、もともとは純粋なラブストーリーを書きたいという気持ちがあって、実際にラブストーリーの脚本になっていると思うんですが、だれも認めてくれないんですよ(笑い)。
大塚 うーん、30%ぐらいはラブストーリーも入っているんじゃない?
白瀧 私は100パーのつもりなんだけどなあ〜。
一同 ハハハハハハハハ。

−前回演出した作品と今回の作品とで、なにか違いはありますか。
白瀧 前回は既成の脚本を使いましたが今回はオリジナルですので、演出も手探りのようなところがありますね。もちろん、おもしろい脚本を書いたぞという自信はあるんですが、やはりお客さんに見せる以上は多少不安もあります。だからその分、演出の私だけでなくみんなで創っていくという意識を持ってもらえるといいなと思っています。脚本に書いてあるとおり、演出のいうとおりに動くのではなく、役者のほうからも「ここはこうしたほうが、もっとおもしろくなるんじゃないか」というようなやりとりが出てくれば、この芝居を通じて劇研全体として成長していけると思うんです。

−そのあたりは、サークル組織ゆえの特徴かもしれませんね。
大塚 スタッフを含めて舞台を全員で創り上げていくというのが実感できるのは、サークルのよさだと思います。普通の劇団だとかなり役割が分業的になっているのかもしれませんが、私たちの場合は音響だから音響だけ、装置なら装置だけという意識はないですね。
白瀧 単純に、大学のサークルだから施設利用などの面で恵まれているというのも大きいよね。
大塚 外部の劇団に移っていった知り合いも何人かいますが、やっぱりチケットノルマがあったり、稽古場もあっちへ行ったりこっちへ行ったりで、苦労しているようです。劇研はそういった負担がない分だけ、よりいい芝居を創ることに集中していくべきだし、一人ひとりがそういった意識をもって前向きに活動していかないと、組織も先細りになってしまうと思うんです。私たちは4年生として、最後にそういう心意気を残していきたいですね。

−ところで、今回の公演のチケットは当日券も前売券も同額で、前売券には「素敵な特典が付きます」となっていますが・・・
大塚 特典の中身は秘密です。当日のお楽しみということで。

−ヒントでもあれば、このインタビューを読んだ人で前売券の購入者が増えるかも・・・
大塚 本当に素敵な特典なので、ご期待ください(笑い)。
(2006年2月3日、東海大学湘南キャンパスの部室)

 

ひとこと>インタビュー後にちょこっと稽古場にお邪魔したところ、お二人と同様に他のメンバーも挨拶がしっかりしていて、かつ、和気あいあいの部分もあり、「サークルのよさ」の一端を垣間見た気がしました。キャンパスは新宿から急行で1時間ほどのところにあり、軽い出張気分で出向いたのですが、構内を歩いていると10年前の自分の学生時代が懐かしく思い出されました。なお、謎の「前売り特典」をチラッと拝見しましたが、本当に素敵な「垂涎の品」でしたよ。(インタビュー・構成 吉田ユタカ)

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