<上野憲明さん> 劇団神馬第19回公演「12人の怒れる学校へ行こう!」(7月7日-10日)
「陪審で明るみに出る"鶏殺し"の真相は 高校生活をめぐる青春ファンタジー」
シバタテツユキさん(左)と齊藤了さん

上野憲明(うえの・のりあき)
1973年7月、東京都大田区生まれ。東京都立立川高校出身。劇団は93年結成。翌94年に初公演。2-3回の年もあり、今回は第19回公演。立川市を拠点に活動。劇団名はスワヒリ語で百獣の王ライオンを意味する「シンバ」に由来。作・演出、主宰。
・Webサイト http://www.asutoeito.co.jp/shimba/

−2004年夏の第18回公演前にお会いしましたが、2006年の今回の公演が第19回だそうです。昨年は本公演がなかったのですか。
上野 劇団神馬の中に「印宮派」という「派閥」が出来て、その第1回公演を開いただけです。

−上野さんはその公演に出演したのですか。
上野 一人の役者として参加しました。ぼくは印宮派内では末端構成員なので、かなりアゴで使われました(笑)。

−旗揚げメンバーで残っているのは?
上野 事実上ぼく一人になったのかなあ。休眠状態の人も多いし。

−前回のインタビューにはMr.Z さんも一緒でした。彼は最近どうしてますか。
上野 結婚しちゃって、仕事が終わるとすぐ家に帰っちゃう。一緒に旗揚げに参加した仲間で結婚していないのはぼくだけになってしまったんですよ。

−孤塁を守っているのか取り残されたのか、それともリーチがかかっていたり隠していたり…。実態はどうなんでしょう(笑)。みんなに言われませんか。
上野 ただ単に相手がいないだけですよ(笑)。ぼくも出来れば、向こう側に入りたい(笑)。

−前のインタビューで、台本執筆が遅いから、パソコンの前にカメラを設置して、メンバーが上野さんを監視すると聞きました。そのとき「独身かな」と思ったんですが、やはりそうでしたか(笑)。
上野 カメラで監視するなんて、人権侵害も甚だしいですよね(笑)。でも、ぼくがいけないんですけど。

−前回公演は断食セミナーを取り上げましたが、今回はどんな設定になるのでしょう。
上野 高校が舞台の、いわゆる学園ものです。日本で裁判員制度が間もなく導入されますが、実は陪審員が登場する舞台に一度取り組みたいと思っていました。既にいろいろ書かれているので同じことをやってもしょうがないし、どうしようかと考えて浮かんだのが高校なんです。ぼくが卒業した都立立川高校は戦前、府立二中でしたので歴史と伝統があり、自主自律の気風が強い学校でした。学校生活を生徒たちで運営していく校風やポリシーがありました。だから校内で起きた事件は、生徒が自分たちで解決してもおかしくない。そこで生徒自身が選んだ陪審員制度のある高校という発想が生まれました。立川高校がそうだというわけではありません、高校生陪審員がいたらおもしろいだろうと考えたわけです。

−サブタイトルは「恋愛 部活 いじめ バカ 青春」と学園生活のキーワードが続いて、最後に「陪審員」が来るのはそういうわけでしたか。なるほど。
上野 高校時代は授業が終わるのを待って遊びに出かけていたので、実は高校生活というか校内生活はあまり記憶にない。困りましたね(笑)。なのである意味、ぼくにとっての高校時代はファンタジーなんですね。記憶では補いきれない、想像の世界という意味で。役者の中には30代になった人もいるし、それが詰襟の学生服を着ることになるなら、いっそファンタジーっぽくした方がいいかなあと。でも高校生活を考えていると、とってもおもしろい。大人みたいであり子供みたいであり、何でも出来そうでありながら何にも出来ない。そんな高校生陪審員になりそうな予感がしますね。

−上野さんたちの高校生活が十数年前というと1990年前後だから、ちょうどバブル景気の真っ最中に当たり、いわゆる80年代の小劇場演劇の勢いがまだ続いている時期です。高校で演劇活動をされていたんですか。
上野 文化祭で公演をしましたが、部活動で演劇には参加してませんでした。運動部でバレーボールにちょっとさわったぐらいですね。

−劇団神馬の芝居はシチュエーション・コメディーだと聞いた覚えがありますが、終わりもきっちりと…。
上野 ええ、きっちり終わります。終わったか終わらないか分からないと、お客様も拍手していいかどうか迷ってしまう(笑)。そんな風にはしたくない。気持ち悪いんです。

−今回は登場人物も多いですよね。
上野 必ず12人以上になります。今回は客演も多くてにぎやかだし、おもしろい舞台になると思います。

−書きながら苦労したことは…。
上野 大人の陪審員に比べて高校生の場合は制約が多い。大人だと職業や年齢もさまざまで幅がありますが、高校生だと年齢も十代後半の3年間に限られるし、仕事を持っているわけでもない。学園ものにしてしまったけれど、登場人物をそれぞれどんな風にバラエティーに富んだ性格にするか難しいとあらためて気付きました。もう一つ、小中学校だと地域のいろんな子供たちが集まりますよね。でも高校だと試験を通って入学する生徒に限られてしまう。登場人物の幅をどう作るか考えさせられました。でも、客演の役者さんの協力で、それぞれのキャラクターも出来て、おもしろくなりそうです。

−作品作りで、物語の筋書きで俳優の意見を取り入れたりするんですか。
上野 いや、筋書きはぼくが考えます。全部書き上げてから稽古に入るわけではないので、稽古中の遣り取りの影響を受けたりはしますが。この作品は基本的には12人が出ずっぱりなのでなかなか大変ではありますね。

−今回も上野さんが出演するんですか。
上野 今回は出るつもりはなかったんですが、一人どうしても出られなくなってしまって、代わりの役者を探すのも大変だし、じゃあ出ますよ、ということで。あと、ぼくが出ないと寂しいという声も聞こえてきたので、じゃあ出ようか(笑)。

−Webサイトで「ラジオドラマ」を始めましたね。
上野 昨年から始めて、今春第2弾を載せました。第17回本公演「スペース☆ファイト」の続編というか番外編です。

−キャラメルボックスの中村恵子さんが出演していますね。
上野 縁があって知り合いだったんですが、たまたま会ったとき、暇が出来たと言うのでパッと。4話完結で、1話5分ぐらいです。

−台本を販売するなど劇団の宣伝や収入の道を考えたりしないのですか。
上野 うちの制作の関谷からもさんざん言われてます。今回宣伝媒体がCD-R という変わった手段を使います。内容はパソコンで見ますが、パソコンがない方はケースに挟み込まれた折り込みのカバーがチラシになるという趣向です。いろいろ考えてやってます。

−前回のインタビューで、東京壱組の芝居が好きだとおっしゃってましたが、影響はありますか。
上野 壱組はいいですね。解散してしまいましたけど。原田宗典作、大谷亮介演出のコンビが大好きです。自分でも取り入れてみたいけど、出来ませんね。ことばがすごい。楽しくて、おもしろい。ニュアンスをちょっとずらしただけで雰囲気が違ってくる。いいですね。ぼくもシチュエーションを作り上げてそのおもしろさを見せるという方向でしたけど、最近はことばをおもしろくしていきたいという方向になってきました。今回の登場人物はなにしろ話の遣り取りが多い陪審員なので、遣り取りしやすいことばを考えました。ことばに乗っかるというか、ことばを純化するというか、ちょっと大仰ですが、そんなことを考えて書いています。いま頭の中が将棋のようになっているんです。相手がそう打ってきたらこう打ち返すというのが将棋ですが、稽古で相手がこう返してきたら、じゃあこうしようとか考えながらことばを作っていくわけです。そうすると、最初に考えたプランが変わったりしますよね。最終的にはそれをお客さんが楽しんでくれればいいと思います。
(2006年6月16日、新宿のコーヒーラウンジ)

【関連インタビュー】
・「追いつめられて生み出す笑いと感動 シチュエーション・コメディーの10年余」(<上野憲明さん+Mr.Z> 劇団神馬「ソウシン」 2004年8月27日-30日)

ひとこと>劇団神馬は結成13年で19公演ですから、作・演出を続けてきた上野さんはもうさまざまな演劇経験を積んできたと言っていいでしょう。インタビューの受け答えも、ちょっといなして笑いを生むなど懐の深い印象を受けました。ことばに関心が向いてきたという話に、劇団のこれからが見えているのかもしれません。既婚組も未婚組も再び結集して、味わい深い舞台を見せてほしいと思います。(インタビュー・構成 北嶋孝@ノースアイランド舎)

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