<小山一羊さん、藻瑚さん>unit-IF 第1回公演「S.A.S.−遠い水平線」(7月29日-30日)
「カフカ的世界のその先へ 感覚をずらし、可能性を大切に」
小山一羊さんと藻瑚さん

小山一羊(こやま・いちよう) 1981年10月東京都江戸川区生まれ。東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻修士課程在学中。宇宙生物学が専門。unit-IF代表、演出。
藻瑚(もこ) 横浜市生まれ。東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻修士課程在学中。俳優名は愛称に由来。舞台監督、渉外担当。。
・Webサイト http://unit-if.com/

−今回はunit-IFの第1回、旗揚げ公演になります。どういうメンバーで構成されているのですか。
小山 横浜市立大学演劇研究部の「劇団海星館」出身者が大半を占めていて、12人全員が同じ大学のOBか現役学生です。在学中に演劇活動をしていても、就職するとやめてしまうことが多いので、なんとか活動の場を確保して、演劇を続けられるようにしたいと考え、ぼくが声を掛けました。プロの役者になるということにこだわらず、演劇活動を続けながらなんとかいい芝居を作りたいと考えてます。
  ぼくが卒業した直後ですから2005年5月に結成したんですが、当時はまだ現役学生が多くて海星館の活動が優先していました。それで準備期間を設けて、今度旗揚げ公演になったわけです。

−こんな作品を作りたいと話し合いを持ったりしたんですか。
小山 海星館時代に3回ほど演出したので、先輩も後輩もぼくの作風は知っていたと思うし、ぼくもその上でメンバーに声を掛けましたので、その辺は分かっていると思います。
  とりあえず舞台をみたお客さんが楽しめるのも大事ですから、動きもセリフもおもしろくと考えてますが、深く考えたいと思うお客さんにも届くようなネタはちゃんと置いておくという感じで作っています。今回の「S.A.S.」も基本的な方向は変わりません。

−webサイトの「あいさつ」で小山さんは「自分たちの可能性を大切にしたい」と書いていますね。
小山 だれでも自分がやりたいと思うことをやりたい。そう考えていると思いますが、ただやりたいと思い込んでいるだけの人もいるのではないでしょうか。だから演劇に関して実際にやれるような、やり続けられるような、そう応援できるようにしたいですね。

−目指す演劇のスタイルはどういうものでしょうか。影響を受けた劇作家はいますか。
小山 高校で出会った鴻上尚史の影響は強かったと思いますが、大学4年間でなんとか消化できて、自分のスタイルになってきたのではないかと思います。お客さんがぼくの舞台をみて、鴻上系だと分からないぐらいにはなっているかな(笑)。技術的にはストップモーションを使うのが好きで、舞台上で止まるともう存在しないという約束事も可能ですから、ぼくらの錯覚を微妙に使った舞台システムにしてみたい。舞台上に存在しないことを表現するのにわざわざ衝立の陰に隠れたりする必要はなくて、光が当たらないとか動かないということで十分表現可能だと思います。どう続くか分からないところもありますが、脳は生きていく上で都合のいいように、錯覚できるように作られているそうです。ですから、錯覚だと気が付いた瞬間は、芝居をみて感動した瞬間に重なるところがあるんじゃないでしょうか。なんとかお客さんの脳に錯覚を与えて感覚をずらしたい。そう思いますね。あまり演劇スタイルの話になっていないんですけど。

−今度の舞台は、男女5人が目覚めると薄暗い部屋にいた、という始まりのようですね。
小山 ええ。階上階下が4つの階段でつながっていて、閉ざされた扉には「S.A.S.」と書かれていた、という設定です。ぼくの最初の作品を作り直しました。当時はあまり出来がよくなかったので、よい作品にしたいと思ってかなり手を入れました。
藻瑚 今回の作品のテーマが、同時にunit-IF のテーマでもあると思います。つまり思い込みが主題で、でも自分の可能性を広げていこうということです。

−閉鎖的な空間に閉じこめられるというと、カフカ的な世界を思い出しますが。
小山 カフカに影響を受けたことは言えると思います。カフカの話は残酷に終わって、世の中の厳しさが分かるという感じだと思いますが、ぼくらの舞台は、その現実を前にして、逆にヘンな前向きさで終わります。ですからカフカ的世界を示すだけでなく、その先に踏み込んでみたいとは思っています。

−「デ・ズッパ」という演劇スタイルを打ち出していますね。
  ブランドと言っていいかもしれませんが、役者全員が出はけもなく、舞台に最初から最後までいて物語を進行させます。今度の舞台上でも登場する5人が出ずっぱりで、しかも均衡を保ってだれが主人公か分からないはずです。テーマに沿って感情を変えていくという主人公がぼくの中でいることはいるんですが、ぼく自身があまり感情を表に出さないタイプのせいか、どうしても自分に似てきて、主人公の影が薄くなってしまう(笑)。

−小山さんはどんな作品作りをするんですか。
藻瑚 彼が最初に手掛けた作品をみて、私は海星館に参加しようと思ったんです。中に入って分かったんですが、演出はかなりわがまま(笑)。要求に合わないと(稽古を)止めるし、求めるものが大きいので役者は困る。結構大変です。でもそれだけ演劇に対する考え方も貪欲なんだと思います。とても広い演劇観を持っているのですごいなあと思っています。

−稽古は始まっていますか。
小山 ええ、週1回が基本なので、結構長いことやってます。台本は半年前に出来ました。
藻瑚 毎週日曜日に6時間から9時間、集中して稽古をしています。
小山 ぼくを含めてメンバーが週1のスケジュールにまだ慣れていないので時間がかかっている面もあります。でも1回公演を体験すれば、ペースがつかめると思います。

−都内にいろんな劇場がありますが、タイニイアリスを選んだのはどうしてですか。
小山 今回の舞台が閉じこめられた閉鎖空間という設定なので、そのイメージからすると使いやすい感じがしました。客席数もこれまでより多いし、ぼくたちはこれまで横浜で活動していたので、都内で公演するとき横浜在住の人たちも来やすい場所がほしかった。
藻瑚 前に来たことがあって、小劇場という雰囲気のあるのがよかった。

−次は…。
小山 現役のメンバーが来年卒業、就職ですので、また1年経って仕事が落ち着いたころに出来ないかと考えています。状況をみながら、2年で3回ぐらい出来たらいいなあと思ってるんですけど。

−勉強と演劇は両立できますか。将来はどう考えていますか。
小山 これからということで言うと、専攻が宇宙生物学という企業向けではない分野なので研究職はまず無理。就職活動中です。できれば両立できそうな仕事を検討しています。
藻瑚 いま「藻瑚」と名乗っていますが、本名は別です。私は俳優と大学の研究と分けて考えたかった。だから平日は研究活動をして、土日は気持ちを切り替えて演劇活動に集中する生活ですね。演劇は自分の元気と脱力の源です。
(2006年6月22日、新宿の喫茶店)

ひとこと>今回会った2人は、東大大学院で勉強しながら演劇活動も続けています。ともに落ち着いた口調で演劇や研究についてフランクに話してくれました。unit-IF は作品も演出も独自の雰囲気を持っているようです。状況に合わせ自分たちの可能性を着実に実現していこうとする姿勢も明確です。今回が旗揚げ。これからの軌跡が楽しみです。(インタビュー・構成 北嶋孝@ノースアイランド舎)

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