<徳尾浩司さん>とくお組第8回公演「マンモス」(10月4日-9日)
「マンモス狩りの時代になったら 何ができるか現代人!」
西谷尚久さん

徳尾浩司(とくお・こうじ)
1979年福岡市生まれ、大阪育ち。慶応大学理工学部卒。某社のシステムエンジニア。2003年、慶応大学の劇団メンバーを中心に「とくお組」結成。「SFのような世界で、普通の人が紡ぎだす日常」を軸にした舞台が特徴。
とくお組webサイト:http://www.tokuo-gumi.com/

―とくお組は確か、慶応大学の演劇関係者が集まった団体でしたね。
徳尾 ええ。学内に主な演劇団体が二つあって、旗揚げ公演はぼくが所属する団体(演劇研究会)のメンバーと一緒にやったんですが、その公演が終わったらみんな就職して演劇活動をやめてしまった。でもぼくは続けたいと思っていたところ、もう一つの団体(創像造工房in front of)のメンバーが、じゃあ一緒にやろうかということになって活動続行になりました。所属団体のメンバーだった人も残ってますが、役者陣はほとんど別の団体のOBです。

―なるほど。みなさんのwebサイトのメンバー紹介を見ると、ほとんどが第2回公演から参加とあったのは、そういう事情なんですね。
徳尾 旗揚げ公演をしたメンバーとは学生時代に何度か一緒にやっています。でも別に仲違いしたわけではありませんが、そんな事情でメンバーがガラリと変わってしまいました。

―徳尾さんがずっと作・演出を続けてるのですか。
徳尾 大学2年の時からそうですね。舞台に立つことはあるんですけど、基本的には作・演出です。作風はSF的なコメディーかな。そう言うと分かってもらいやすいから言っている面があって、実は自分ではそれほど意識したり考えたりしたことはありません。書きたいこと、やりたいことを上演すれば、「色」は自然に付くものだと思っていますから。あまり漫画チックな話ではなくて、普通の20代の話題や話し方をするんですが、まずその人物のいる場所がおかしいとか、設定がずれているとかが笑いを誘うんじゃないでしょうか。

―学生時代と卒業してからとで、作品のカラーに変化はありませんか。
徳尾 作品の性格がガラリと変わったということはないですね。具体的なシチュエーションを設定したら、その場面は基本的に変わらない。光と音で世界を表すというような、抽象的なことはあまりしたことがないですね。

―あこがれたり影響を受けたりした作家や作品はありますか。
徳尾 小説や映画の影響されたと言う人が多いんですが、よく考えてみるとぼくの作品は漫画の影響があるかもしれないと思っています。藤子不二雄、エフ(F) の方ですね。でもそんなに好きなのかと言われると困ってしまう。ぼくはそれほど漫画を読んでないし知らないんです。小学生のころで、私の漫画歴がストップしている。だから、SFっぽい作品の影響は何かと聞かれると、そこらへんまでさかのぼらないと答えられない感じかな。

―「キン肉マン」や「ドラゴンボール」ではなく、(藤子・F・不二雄が描いた)「ドラえもん」や「パーマン 」というところがおもしろいですね。
徳尾 「キン肉マン」や「うる星やつら」は家で見せてもらえなかったんですよ(笑)。

―「キン肉マン」や「ドラゴンボール」には戦いがあって、勝者が次の章や巻に進みますよね。それに比べて「ドラえもん」や「パーマン 」は日常の世界で起きるちょっとSFチックなお話が一貫して続くような気がしますね。
徳尾 そのせいかどうか分かりませんが、自分の作ってきた舞台は最後の方で、それまで争ってきた人たちがなぜか仲良くなる傾向がある(笑)。若い男たちが作る、古い芝居かなあと思ったり。

―じゃあ、作品の素は日常生活ですか。
徳尾 そうですね。特定の作品に影響を受けると言うよりも、会社で開かれる会議の遣り取りや職場の上司と話しているときとか、コンビニで店員と言葉を交わしているような場面からヒントをもらう方が多いですね。書物と言っても、国語辞典や年鑑をめくっているときにアイデアが湧いたりします。本になったり物語になったりすると、ぼくも読者やお客さんとして読んだり楽しんだりしますから、そのとき作る側として、このシーンを生かそうなどとは考えません。

―人間関係や会話のずれがアイデアやヒントになるんですね。
徳尾 そういう基調は変わりませんが、ずれを感じる個所や、どこでどんな嫌味を感じるかは微妙に変わってきたかもしれません。だから、ここで間をおこうとか、この呼吸は違うぞとか、いろいろ考えるようになると、台本を書くのがだんだん遅くなる(笑)。台本がまだできてなくて遅い!と、怒られたばかりです(笑)。

ガーディアンガーデン演劇祭(2004年)に出場したときはコントでした。最近もコントライブを開いています。本公演との二人三脚はこれからも続けるんですか。
徳尾 私は短いものが苦手で、実は割に長めで、きっちり物語を作る作品の方が性に合っている。単発のギャグネタではなくて、ストーリーの展開の中に登場する人間を描いて、そこでおもしろがってもらえる方が自分の良さを発揮できるのではないかと思ってます。ただそういうことに甘えていてもいけませんから、短い中で刺激の強いものもきちんと描けたらいいなと思って、自分を訓練する意味合いもあってコントを書いてますね。

―ガーディアンガーデン演劇祭のコントは流れが自然で、その自然な流れの中に笑いが配置されている。しゃれていて軽く見えるけれども、かなり鋭い視線を笑いに潜ませて、ちょっとシニカルな都市的感性が感じられました。審査委員だった天野天街さん(「少年王者舘」主宰)らはとても高く評価していましたね。むしろうますぎて損をしたかもしれません。
徳尾 あそこで見せたコントは割に好きなものなんです。いじめに見えなくても、実はいじめだったりする動作がところどころに仕組まれていました。本公演でもそれと同じ仕掛けをしているつもりですが、若い男たちがドタバタやっているというようにどうしても見えてしまう。役者もぼくもドタバタは嫌いではないけれど、自分たちのセールスポイントはゼロコンマ何秒という間やずれから生み出される表情や笑いだと考えている。そこが好きなんです。

―客演を呼んだり、メンバーがほかの劇団の舞台に出たりする機会は?
徳尾 自分たちだけでやっていこうとしているわけではないのですが、それがまだないんです。自分たちだけだと、心地いいというかやりやすいことは事実ですけど、人数は少ないし運営は苦しいですね(笑)。

―ワークショップから新人が入ってくるケースが多いようですが。
徳尾 以前ワークショップを1度だけ開いたことがあります。身内が3人来て、和やかに終わりました(笑)。

―そろそろ新しい展開を図る段階に来ているような気がしませんか。
徳尾 劇団の成長速度や広がりはそれぞれでしょうけど、学外で活動し始めて3年目。お客さんを含めていろんな方々に舞台を見てもらえるようになってきました。でも年はとりますから、みんな25-26歳かな。まだ結婚したメンバーはいませんが、そのうち家族と生活するようになるだろうし、仕事も忙しくなる。年齢だけは確実に上がっていきますよね。メンバーもテレビや映画のオーディションを受けて新しいきっかけを作ろうとしたり、ネットワークを広げて自分たちの舞台を大勢に見てもらうようにしています。

―徳尾さんも職場ではそろそろ仕事を任されて忙しくなるころではありませんか。
徳尾 いまシステムエンジニアのような仕事ですが、そこはなんとか遅くまで残らなくてもいいようにやり繰りしています。

―匿名にしているわけでもないので、職場で演劇活動が知れ渡ったりしませんか。
徳尾 言いふらしてはいませんから、いまのところはまだバレてないようですね。そのうちどうなるか分かりませんけど(笑)。

―徳尾さんは、とくお組以外の仕事を手掛けませんでしたか?
徳尾 9月10日-11日に大人計画フェスティバルが開かれました。多摩市の廃校になった中学校の校舎を使って大人計画のメンバーが総出でそれぞれいろんなイベントをしたり出し物を考えたりする企画です。そのなかでぼくは正名僕蔵さんの一人芝居の作・演出を担当しました。教室を会場にして、運動会グッズを使った10分ほどのコントを3本組み合わせました。大玉を地球に、正名さんをガリレオに見立てた1本はいちばんSF風でしたね。ともかくたくさん人が来て、正名さんたち大人計画の人気はすごいと思いました。

―劇作家としての登竜門は岸田戯曲賞ですが。
徳尾 いやあ。受からないんじゃないですか。今回初めて劇団メンバー以外に台本を書き、演出をやらせてもらって思ったんですが、これまではこう書けばこう演じてくれると思い込んでいたことに気付かされた。作者として傲慢になっていたのかもしれません。最初に正名さんに台本を読んでもらったとき、ぼくが書いた狙いとはかなり違って受け取られていた。自分で演出をさせてもらっていたのでそれぞれの場面で説明しましたが、台本だけだと確かにちっともおもしろくない。ぼくがこれまで書いてきた台本は、メンバーとの呼吸や間の取り方に比重が相当かかっていたんです。そう気付いたときはショックでした。これから台本を書くときは、広くおもしろいと思えるように書く必要があるでしょうね。甘えをなくさないといけないと思いました。会話の中の「えっ」とか「あっ」とかは、ただそれだけではおもしろさを伝えられない。ストーリーにもそれなりの比重をかけなければならないとか、いろいろ考えさせられました。

―戯曲はもともと舞台化されて、俳優の身体を通して言葉や動きが客席に届いたり届かなかったりする構造になってますから、読むだけのテキストとはかなり違いますよね。読むためのテキストでぎっしり台本空間が埋まっているよりは、読んでもおもしろいうえに、舞台に乗せるとき演出がさまざまに介入できる構造になっている台本の方が、余計にそそられるんじゃないでしょうか。その議論はさておき、次回公演「マンモス」はどんな芝居でしょう。
徳尾 マンモス狩りをして食料を確保する時代のお話です。基本的にはマンモス狩りのできない人が集まっていて、そこにたまたま現代人が紛れ込んでしまった。現代人は科学技術の発達した時代に生活しているけれども、マンモス狩りにもそこの超原始生活にもちっとも役立つことができない、という設定から始まります。今回は私が久しぶりに舞台出演します。それで台本が書きにくいんですけど(笑)。
(2006年9月17日、24日世田谷区の下北沢、奥沢の区民集会所)

ひとこと>ガーディアンガーデン演劇祭(2004年)に出場したとくお組は、都市的感性を生かしたしゃれたコントの演技・演出で、ずば抜けた洗練度を印象づけました。当時の公開第二次審査報告を読んでもらえば分かると思いますが、本公演に出場して当然の劇団だったと、現場に居合わせたぼくはいまでも信じています。その後の公演は、意表を突くシチュエーションから作り込んだ展開で勝負するスタイルを続けていましたが、今年はコントライブも交えてパフォーマンスの幅を広げています。赤丸上昇劇団の一つ。慶応ボーイズのこれからに注目です。(インタビュー・構成 北嶋孝@マガジン・ワンダーランド)

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