<長岡ゆりさん> Dance.Medium 「The Invisible Forest〜見えない森(リメイク版)」(12月4日-5日)
「妖精的デーモン的神話世界を作る ダンサーの個性を生かして」
長岡ゆりさん

長岡ゆり
東京生まれ。幼い頃からバレエのレッスンを受ける。10代後半に舞踏に出会い、その文学性と身体哲学、体の圧倒的な存在感、美術や音楽の新しさに興味を持ち、その後自身のバレエ的身体と舞踏の方法論の間で研鑽を続け、日本はもとよりアメリカ、ヨーロッパ等で作品を発表する。2004年、Dance.Medium を結成。

−長岡さんというと、最近、あるイベントでミュージシャンやボイスパフォーマーの方と即興セッションしているのを拝見しました。即興でやる事は多いのですか。

長岡ゆり 基本的に自分の作品では、振り付けして、構成して演出して、作り込んでやるというのが一つあります。それとは別にミュージシャンや他のジャンルのアーティストの方と共演するときに、即興という形をとるときもあります。一方だけでも欲求不満になるので、どちらもやりたいと思っているんです。

−12月にタイニイアリスで行われる公演はどういった内容ですか。

長岡 5月にタイニイアリスで上演した『The Invisible Forest〜見えない森』の再演になります。ところどころリメイクして、グレードアップしたものを再演するつもりです。作品の内容としては、私はずっと神話的なものをやりたいと思っていて、例えば人格を持った人間が出て来て何かの心理描写をするようなものではなく、人間ではない、妖精的なものとか、デーモン的なものが出てくるものがやりたいと思っているんですね。特に私はメキシコの呪術的なものに興味があって、向こうでワークショップや公演をやったりしたこともあるんですが、カルロス・カスタネダという人の書いたメキシコの呪術師の話を読んでインスパイアされたり、現地に行ったときの印象を色々モチーフにして、私が勝手に物語を作って、そこにダンサーを配置して作品を作るというのが多いですね。ただ、その中でもダンサーの持ち味を生かしたいというのがあって、ダンサーのイメージや資質からインスパイアされて作品を作って行くという感じです。

−今Dance.Mediumというユニットで活動されていますが、メンバーはどういった人たちなのですか。

長岡 基本的に私が以前からやっていたワークショップの受講生がメンバーとして参加しています。ワークショップ生の中のやる気のある人たちで組織したのがDance.Mediumですね。舞踏に限らず、色々なバックグラウンドをもっている人たちです。

−作品はどうやって作るのですか。ワークショップのようなことをしながら、メンバー全員で作って行くという感じなのですか。

長岡 いえ、私が振り付けや構成を作ってしまいます。その他にメンバーに正朔という人が居るんですが、彼は暗黒舞踏をずっとやって来た人なので、彼が細かい舞踏的な所を指導して行きますね。あとの3人のメンバーはダンサーとして振り付けられる、という感じです。3人とも若いので、自分で作品を作ったり、ということはしていませんね。

−長岡さん自身はずっと舞踏をやってこられたのですか。

長岡 私は10歳のころからバレエを習っていました。バレエをしていましたが、同時に文学や哲学にも興味があったんですね。その興味の中で色々な舞台や演劇などを見て行くうちに舞踏も観るようになったのです。その時から、バレエの人たちには文学性が感じられなくて、ただ踊るだけという感じがしていたので、自分のやりたいこととは違っていると感じていました。それに対して、舞踏家の人たちは、例えば演劇や美術の世界から来ていたりとか、バックグラウンドが豊かじゃないですか。作品自体もそういった豊かなバックグラウンドに裏付けられたものだと感じて、それで興味を持ったのです。その後、誰かについて舞踏をならったわけではないのですが、作品は沢山観ましたね。だけど、その世界に自分が入ろうとは思わなかったですね。影響を受けつつ、自分なりの作品を作っていったという感じです。正朔と二人で活動するようになってから舞踏って、こういうものだったのか、と分かりはじめたというのがあります。彼は土方巽のもとで舞踏を学んでやってきた人ですから、彼とやるようになってから、舞踏というのがそれまで私が観念的に考えていたのとは違って、もっとフィジカルな訓練に裏付けられたものなのだということが分かりましたね。

−なるほど、もとから舞踏でやってきたわけではないのですね。

長岡 自分が美しいと思えるものを舞台で表現したいというのが第一にあって、だからオリジナルのやり方でやってきました。ただバレエでは自分のやりたいことに限界があるなと思っていましたが。

−当時は舞踏の作品はどのようなものを観ていたのですか。

長岡 高校生ぐらいから観ていたのは、大駱駝艦やダンスラブマシーン、大野一雄、笠井叡、田中泯…。田中泯は実は私がモダンバレエの教室にいた時に一緒にいたんです。だからモダンダンスをやってるときからずっと観てましたね。それから私は大学が早稲田だったんですけれど、早稲田のキャンパスで彼が全裸で踊ってたりとか。そういうのを観てショックを受けましたね。あとは、今活動している人たちも一通り観たという感じです。同世代の舞踏家だとイシデタクヤがいます。その昔、フリーで舞踏をやりたい人が集まっている稽古場が東中野にあって、そこに行くようになってから彼とよく踊ったりしました。東中野の地域センターという所があって、「月空海」という集まりがあったんです。色々な人が勝手に音楽をかけて即興で踊るという会なんですが、ミュージシャンの人も来ていましたね。私も通っていたのですが、そこは即興の訓練には良かったのですが、じっくり腰をすえてものを作りたいと思ったので、それ以来行かなくなってしまいました。会自体はイシデさんを中心にまだ続いています。同世代の舞踏家では彼から一番影響を受けましたね。それ以降私はずっとソロをやっていて、2年前にDance.Mediumを作りました。

−なるほど、その集まりでは主に即興で踊っていたんですね。

長岡 そうです。だから即興は好きですよ。きちっと決めて振り付けた前回の公演でも、自分のパートだけは即興だったんです(笑)。他のメンバーの振り付けをしていると、作る時間がなかなか無くて。次回は自分のパートもちゃんと稽古してやりたいと思っているんですけれど。それに私はバレエやってる時から振りが覚えられないんです。必ず違うことをやっちゃうんですよ。皆と一緒にやる振り付けが苦手で、いつも私にはキャラクターものが振り当てられたりしてましたね(笑)。振りを間違えないようにする集中力よりも、即興的に一秒一秒を決めて行く集中力の方が私にはあっているんだと思います。そういう厳しさは私は持っているんです。だってそのときの自分の判断が良ければ、間違いというのはない訳じゃないですか。それで観る人が楽しんでくれるのだから、私はその方がいいかな、と思うんですよ。あと即興の時はお客さんを退屈させない、ということを心がけてます。踊りだけでなく、声も出しますし、手を変え品を変え、何でもやりますよ。

−ダンスのワークショップは随分やられているんですか。

長岡 そうですね。最初の頃はインプロビゼーション(即興)が出来るようになるためのワークショップだったのですが、正朔とやるようになってからは内容も舞踏を基礎からやるというものになってきました。最初はコンテンポラリー系の人が多く参加してましたが、最近では演劇の人も参加していますね。私は芝居とか、コンテンポラリーダンスとか、枠に縛られたくないんですよ。9月にやった『A ZOCALO〜広場にて』という作品では、台詞を入れたりしていたので演劇的だと言われましたね。もともと文学が好きですから、どうしても演劇的な構成になってしまうんですよ。早稲田に居たときに演劇のグループに参加していた時もあったんです。

−ストーリー性があるという感じですか。

長岡 ありますね。一見物語性が感じられなくても、背後には観ている人が色々想像出来る余地があるような、そういう作りになっています。私は抽象的なものが嫌いなんですよ。いわゆるコンテンポラリーダンスってとても抽象的じゃないですか。身体を記号のように扱っているでしょう。もっと身体というものを、周りの空間や人と関わりあっている一つのエネルギー体としてぼんと出したいというのがあって。だから何かを説明したり、意味性を付けていくということに対して私は否定的ですね。そういうのは面白くないと思います。

−今後はどのような活動を予定されていますか。

長岡 今年いっぱいは、Dance.Mediumで定期的に公演をやるということをメンバーと話してきました。来年からは自分のソロとやっていこうと考えています。来年はグループの新作は無いと思います。だから12月の公演は今までのDance.Mediumの活動の集大成になると思います。それから来年は海外公演も計画しています。10月からここ(阿佐ヶ谷の自宅兼診療所)で鍼灸院もやっているので、患者さんをほっておいてそんなに空けられないのですが…(笑)。15年ぐらい前に鍼の学校を卒業して、治療の仕事をしてきました。ようやく個人の診療所が出来たので、生活も安定するし、これで制作活動にも打ち込めるかなと思っています。

−最後に12月の公演の見所をお願いします。

長岡 出演するダンサーの個性が面白いと思います。小玉(陽子)さんは演劇出身で、顔の表情とかが豊かなんです。冷たい感じじゃなくて温かい表情を持っていて、そこが魅力ですね。宇田川(正治)君は元ジャグラーだったんです。彼は私のワークショップにほぼ最初から出ています。亀田(欣昌)君は即興的な切れの良い動きが魅力ですね。ダンスカンパニーNomade~s に参加してしごかれてきました。正朔は、そこに居るだけで空間が重くなるような迫力がありますね。バックグラウンドが全員違いますから、そこが面白いんじゃないでしょうか。その人の一番面白い所が出るように演出も考えています。
(2006年11月1日杉並区阿佐ヶ谷の自宅)

ひとこと> Dance.Mediumの公演写真等から勝手に「舞踏」のイメージが頭にあったのですが、お話を聞いてみると、舞踏やコンテンポラリーダンス、演劇といったジャンルに捕らわれず、自らの世界観で作品を作られているのだという印象を受けました。長岡さんもおっしゃっていたように、舞踏の魅力は、それが文学や哲学や美術など様々な領域に根を張り、養分を吸い上げて成長してきた、という所にあるのだと私も思います。舞台上で独自の世界がどのように花を咲かせるのか期待しています。また、長岡さんが出演した映画『朱霊たち』(岩名雅記監督作品)も来年の1月に公開されるとのこと。お話を聞くと、こちらも非常に幻惑的で不思議な映画のようで、公開が楽しみです。(インタビュー・構成 小笠原幸介/小劇場の新聞CUT IN編集)

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