どうでもいいプライドを笑い飛ばせ テーマパーク絡みの超娯楽大衆哀愁喜劇
本木香吏(もとき・かおり) 1978年秋田県生まれ、埼玉育ち。武蔵野美術大学油絵科入学後、無理やり入団させられた学生劇団で芝居を始め、習い始めたダンスでも頭角をあらわす。2002年5月、ショー出演していた大阪の某テーマパークで知り合った峰U子らと演劇ユニット仏団観音びらきを結成。翌年1月「宗教演劇〜完全版〜」(作・演出・出演)で旗揚げ。本公演のかたわら関西の小劇場への客演やTV、映像作品、ライブショー、コントなど各種のイベントにも多数出演。(写真左) |
本木 ありがとうございます。実際はすごくマイペースなんですけどね……。
−大阪は本拠地ですからもちろんわかる。東京も「女囚さちこ」から「女殺駄目男地獄(おんなごろしだめんずじごく)」「宗教演劇」と、毎年Alice Fesに来てくださってますから、今回もありがとうですが、福岡は? 初めてでは?
本木 福岡は今回、私が長崎県の某テーマパークでショーに出演していた際に演出に携わっていた方のご縁がありまして。その方は福岡の青年センターで「くうきプロジェクト」という色んな劇団の公演を実験的にする企画をしていらっしゃるんですが、飲みの席で「呼んでくださいよ〜」なんていってたら、ほんとにそれが実現することになったんです。
−素敵なご縁ですね(笑)。にしても、キャストだけでも13人?ですか。東京に加えて福岡へ持って行くの、大変じゃないですか?
本木 みんな大迷惑ですね。旅費は出しませんからね(笑)
−ワー、それでもみんな、いっしょに行ってくれる! 現代の奇蹟ですね。
峰 福岡の屋台で一緒に飲もうよみたいな。旅行感覚でお誘いしました(笑)
本木 みんな屋台で呑む方をメインに考えていらっしゃるようですね(笑)
−大阪は中津芸術文化村ピエロハーバーでしたね。そのなかの、劇場の名はシュガータウンでしたか。 何人ぐらい入る?
本木 MAX100人ですね。
−大阪公演では、「豪華絢爛!! いけメン日替わりゲスト!!」とありましたね。芝居の中にそういう、俳優が日替わりで出て即興的に演じることのできる役を設定なさったんですか?それとも幕間にゲスト・インタビューするとか?
本木 役は設定してあって、台本もちゃんとあるんですが、その中で遊べる分だけ遊んでくださいみたいなことになってました。さらっとやってはけてくる役者、いつまでも舞台にいたがる役者、即興でいろいろ始めちゃう役者、毎回たのしかったですよ、ふふ(苦笑)
−客演もいろんな劇団から、ですね。
本木 そうですね。人脈をフルにつかって、某テーマパークの人気者から関西・関東小劇場役者から吉本新喜劇団員までいろんな方に出ていただきました(笑)
−この前の「宗教演劇」でもつくづく私感心したんですけど、「仏団観音びらき」は主宰も主題も女性中心なのに、客演の男優さんたちが飛び切り巧い。あるいはイケメン、魅力的。どんなふうに選ぶんですか。客演を依頼するとき、なにか基準というか、こういう視点で、みたいなものがあるんですか?
本木 過去に私が絡んだことがあるというのが大前提なんですが、その中で面白いな、魅力的だな、頼れるなと思う人を口説き落としてるという感じです。
峰 男前という点ではかわいそうな見た目の女ばっかりしか出てこないんでやっぱり男優は男前じゃないとお客さんにお金出してきてもらってるので申し訳ないかなと……(笑)。話的にも男前が必要なストーリーが多いですし。
−なるほど、なるほど。大阪での反応はどうでした?
本木 びっくりするくらい大変好評でした。初日と千秋楽がMAX100の客席に150人くらい来ていただいて……。立ち見の方も大勢いらして申し訳なかったです。でも、ほんとありがたいですね。
−男のお客さんと女のお客さんと違います? 数がちがう、とか?
本木 男女比は最近女性が増えてきたかなと……。
峰 私的にはもともとたくさんの女性に見てもらいたいなと思っていましたのでとてもうれしいです。男性はひょっとしたらイタすぎて見たくない部分も多々あるかも。といつもヒヤヒヤしてます。
本木 女性も同じ女性としてキツい部分はあるかもしれませんが、女性がここまでやってるならとスカッとしていただけたら本望です。
−東京では、私が直接話したりできる人、そう広い範囲ではないですけれど、いちど「仏団観音びらき」を見ると、たいてい熱烈なファンになってくれる。もっと東京に来てくれないかなあ、友だちに声かけたいなんて。若い女性が多いですけど。反対にAlice Fesのなかでどれが面白い?なんて聞かれて、これどう?なんて勧めると、名を見ただけでエエ〜ッとかすかに身を引いた人も何人かいたな。男性が多かったですね。
峰 チラシで来てもらえなかったことも多々ありましてですね(笑)。「女囚さちこ」の時はホラーと間違えてきてもらえなかった人もいましたし、旗揚げ公演の宗教演劇は本当の宗教の勧誘だと思われましたし(笑)
本木 チラシがコピーで白黒だったからね。
峰 まあそれだけチラシだけでもインパクトはあるということなので……。劇団名にしても、一度聞いたら覚えてもらえる名前をつけたかったんで、付随する害についてはあまり考えてませんでした(笑)
−劇団のプロフィールに演劇の名を借りて世の中の煩悩と戦い続ける=u自虐的ナンセンスコメディ」とありますよね。今度のは「長年ショーに出演してきた座長モトキの自伝ともいえる」「超娯楽大衆哀愁喜劇」とありますが、そのとおり、自分自身をというか、女性を笑い飛ばそうと?
本木 今回は、女性男性関係なく、小さな社会の中で端から見たらどうでもいいプライドにしがみついている人達を笑い飛ばしたいなと。そのプライドの持ち方、しがみつき方を、女性と男性とで書き分けたつもりです。
私の実体験の痛々しい話もあるんですけど、私の長いテーマパーク人生でみてきた周りの痛々しい人たちもたくさんモデルにさせていただきました。実際、ネタにした人が周りにわんさかいましたのでDMを出すのにはとっても気をつかいました。いつも出してても今回はあの子には出せないなとか(笑)案外見に来てもみんな自分のことだとは気づいてないんですが(笑)
−書き出す前に、「過去の栄光にすがる平均引退年齢を優に超えているダンサー/借金まみれの役者/腰痛持ちのスタントマン/閉所恐怖症の着ぐるみアクター」……などなど「不安な将来に蓋をし」「極楽を求める」人たちが登場、「果たして彼らは、極楽浄土に辿り着くことが出来るのか?」と作品の大まかなプロットを送って下さいましたよね。構想の段階と、実際に書き出してから、あるいは稽古を始めてから、変わるということもあったんでしょうか?
本木 意外と今回は珍しくプロット通りに進んだんですよね。それぞれのキャラクター設定が私の中で割りとはっきりしていたんですが役者さんがそれにうまくのっかってくれた感じで
−台本は1字1句変えないタイプなんですか?
本木 ぜんぜん変えちゃいます。私は意味があってればあまり気にしない方です。稽古中に役者がだしてくれたネタも積極的に採用します。もちろん、それは役作りからきちんと派生したものに限りますが。
峰 確かに役者を割りと信頼して自由にさせますね。でも自分のこだわりの部分にはうるさくて「え?ココでこだわる?」と思うことは多々ありますが(笑)
−テーマパークが経営破たんするとか、温泉に温泉の素を入れたのが発覚するとか、マスコミを賑わす社会的なトピックにもアンテナが鋭いですね。感心するのは劇中にいつもTV・CMのパロディがさりげなく入っていて、大笑いすること。こういう発想はどこから?
本木 どこからかなぁ?
峰 かおりちゃんが日ごろ気になっていることをただ入れたいだけじゃないかな?
本木 マイブーム?
峰 すごく気になってることはストックしてるでしょ?
本木 うん、本書いている時と公演の時期は多少ズレがあるんで、鮮度が落ちるのはわかってるんですがネタはためてるかな。
峰 たぶん引越しババアとかも、めっちゃ気になってたと思う(笑)
本木 あまりにもな大事件は使わないんですが、気になる人はめっちゃ気になるようなおかしな時事ネタは常にストックしてます(笑)今回は北京五輪が近いのでそんなネタもちょっと入れてみました。お楽しみに!
−劇中劇の『極楽ミュージカル・蜘蛛の糸』もあるようですが、これは? 芥川の「蜘蛛の糸」と? 中学生のときの教科書に入っていたような記憶ですが、よくまたこんな昔の小説を覚えてたんですね。
本木 偶然なんですけどね。某オーディションで渡された台本が「蜘蛛の糸」だったんですね。そういえばこんなんあったな〜って思って
峰 これも一種のストックでしょうね(笑)
−天国へ昇りたくて必死にすがりつくのに、蜘蛛の糸はぷっつん切れちゃうんですよね(^o^)。ほかに、こんどの「蓮池極楽ランド」のここは見どころというのは? これまでの作品とここを変えたとか、こういうところに苦心したというようなことでもあったら……。
本木 今回は、登場人物たちを全員主役だという気持ちで書きました。もちろん話をひっぱる役目の人は何人かいますが、ここまで登場人物の裏設定を考えたことはなかったなあ。映画の「love actually」みたいな構成を目指しました。実際全然違いますけど(笑)
峰 とにかく登場人物みんな面白いんで、「私この人が好き!」みたいなツボの人を見つけてもらえればうれしいなと。一応キャラクターはいろいろ網羅してると思いますんで一人くらいはみつけていただけるかと(笑)
本木 さらにそのキャラが抱えている悩みだったり劣等感だったり、どれかみなさんに当てはまるものがあるかと思いますので、それを見て一緒に笑い飛ばしていただいて、スッキリして帰って頂ければなと
−「仏団」のいいところの一つは、芝居は装置なんかじゃない、役者だ!という姿勢が徹底しているところですよね、と私は思ってるんですが? だいたい装置を作るのは近代に入ってから。資本主義の分業の成立過程と対応してますよね。古典は舞台装置なしというのがあったり前。だから私は、本木さんを阿国の再来かも?と期待しているんですが……。阿国の芝居も彼女のしたいこと、できることを基礎に、そこからシチューションを設定していったわけですから。
本木 ありがとうございます。もったいなきお言葉、なんまいだ。。。
峰 かおりちゃん自身が役者なので、彼女の書く台本自体が役者の力に大いにまかせているところがあって、他の劇団の作演に比べて、その役者自身の魅力を最大限に生かしたいと思ってやっている部分は強いと思います。
本木 もともと素舞台と裸電球でもいいと思ってるタイプですね。
峰 簡素な舞台と簡素な予算で最大限に頑張ってくれるスタッフさんにも感謝だよね。
本木 はい。感謝してます。仏団の裏方陣は技術的にも人格的にも超ハイレベルですよ。役者も頑張って追いつかないとね。
峰 ある劇団の座長から、仏団は舞台装置にお金をかければ絶対売れるからみんなで貯金して作れ!って言われたこともあります(笑)。私は舞台装置が豪華な芝居はあんまり好きじゃないんですが。でもこの意味は総合的にもっと力を入れろという意味なんでしょうね。
−私も、装置にお金かけた芝居、演劇としての意味ないのにゴチャゴチャ飾った芝居はあんまり好きじゃない。芝居ツマンなくなると装置見てるんですよね、私。はっと気づくとジロジロ見てる。
本木 おそらく!あの座長京都人やからな!なんでもハッキリいわず、オブラードにくるむねん!(笑)
−本木さんと峰さんは、ほんとにテーマパークで働いていらっしゃったんですよね。他の方も?
本木 と峰はもう働いてないんですが、メンバーには現役のものもいます。今回のお話はずっと書きたかったんですけど現役時代は書けなかったんですよね。周りの目が怖くて。辞めてからやっとさあ書くぞ〜みたいな(笑)モーニング娘引退してから暴露本出すような気持ち(笑)。ネタはもちろんずっとストックしてたものです。
−このごろのテーマパークはどうなんでしょう、事故もよく報道されるようですが……。
峰 テーマパークも会社ですよね。結局今の日本の普通の企業で起こっていることがそのまま起こっているような気がします。事故等はやはりずさんな経営体制であったり、上に不満をもった社員から内部告発があったり……。でも「夢」を売っている企業ですからイメージダウンの損害は計り知れないですよね……なんまいだ……。
−テーマパークのお仕事ってどんな感じですか?
峰 私はかおりちゃんよりはだいぶ早く引退しましたが、テーマパークのいいところはやはり毎日老若男女さまざまなお客さんに接することができることですかね。一年に何回か公演するのとは訳が違いますからね。私なんか、始めたてのころなんか自分がカスカスになってきた気がして怖かったんです。もう出すもんないよ〜みたいな……(笑)。 でも普通に月給で報酬という形でお給料がもらえましたし、毎日自分のコンディションと向かい合う癖はここでつきました。腐っても「プロ」というやつですかね。
本木 ホント強くなりますよね。今回、修学旅行生にキャラクターが乳を揉まれるシーンがあるんですが、これは実話で私も似たようなことをよくやられました。昔「原住民の女」という役でココナッツの乳をつけて腰ミノつけてお客様の中に放り込まれていたので(笑)
ヤンキーにビールかけられたり、酔っ払いに拉致られたり、いろんな意味でもまれましたよ。お陰で強くなりました。今となっては笑い話ですけどね。公演のお話の中の出来事はテーマパークで日常茶飯事に起きていることが多いですので、そういった目で見ていただいてもまた楽しんで頂けるのではないかと思います。
−テーマパーク働いていたということと、芝居を創らずにはいられないってこととの、関係は?
本木 綺麗な面しか見せられないんですよ。テーマパークですから。NGワードも多いし、守るものが多すぎて、気を使いながら芝居してました。その鬱憤を「仏団」で晴らす……というのはなかなかバランスのとれた行為だったのかもしれません。
−最後に何だかいやに散文的な質問で恐縮ですが、東京へ来ればどんなにお客さんが多くても回数からいって必ず赤字でしょ。客演の方たちへは劇団員と同じというわけにはいかないでしょうし。こんど3都市公演といえば交通費や宿泊も含めてなおさら、と思うんですが。いったいそれをどうしていらっしゃるのか教えてくれませんか。本木さんたちが個人的に負担する? 先の質問と同じですが、そんなにまでして何故芝居しちゃうのか、なぜ財形投資でもして老後に備えようなんて思わないのか(^O^)が不思議でしょうがなくて……。
峰 うちは劇団員が少ないので客演さんといえどもチケットノルマはあるわ、交通費は負担しなきゃいけないわ……でほんとに皆さんよく出てくださってると思いますm(_ _)m そのご協力がなければやはりアウェイの公演はできません。ですので赤字が出たらもちろん劇団員で割って負担をしますが、そんなに目が飛び出るほどの額にはならないんですよ。それよりみなさんが仕事を休んで公演に参加したりする方の損害の方が大きいと思います。
なぜそこまでしちゃうんですかねぇ……。私に限って言えば、やはり何の制限もかからない自分達の表現の場があるというのはこの上ない幸せだからではないでしょうか……。決して儲からないんですが(笑)
本木 もう、芝居は麻薬ですね。一度味わってしまったら地獄ゆき、、、ずぶずぶずぶ、、。
鑑別所でも入らないとやめられませんね、、、なんまいだー。。。
<ひとこと>去る10月7日。芸術創造館にコ・ヨンオク作/パク・クニョン演出の「One Week」(劇団ペウセサン・俳優世界)を見ようと大阪へ飛んだ。演出のパクさんが、オ・テソク、イ・ユンテク以後、もっとも嘱望されている演劇第三世代のホープと聞いたからだった。牢獄に閉じ込められた3人の青年が、ついに自分を殺人者と認めるまでという情宣も私の心を惹いた。−−が、結果はがっかりだった。いま詳しくは省略するが、所詮は他の人の書いた戯曲。いくら演出、演技うまく立ち上げても、技術は技術にすぎないから、と思う。心に響いてこない。
それと比べると、そのあと大阪で会った仏団観音びらきや劇団May。今ここに、女性として、あるいは在日朝鮮人として生きている自分を (ついつい赤字のことも忘れちゃって!)表現せずにいられない人たちの芝居はやっぱり私には面白い。あとはそれを、どれだけ演劇の魅力として立ち上げていってくれるかだけだ。当分、追っかけしなくちゃと思っている。(インタビュー・構成 西村博子)