<石井飛鳥さん> 虚飾集団 廻天百眼「エロスグロテッサアッパーグラウンドオペレッタ」(7月26日-28日)
「科学」と「神秘」を気持ち悪く融合 「エログロオペラ」全開
山崎ふらさん

石井飛鳥(いしい・あすか)
  1985年、東京生まれ。高校時代は演劇部で活動。詩作の朗読活動が契機となって劇団旗揚げ。主宰。すべての公演の作・演出。日本写真芸術専門学校卒。日本劇作家協会会員。劇団はアングラでもネオアングラでもなく、アッパーグラウンドを目指す。
web:http://kaitenhyakume.com/
(shiftキーを押しながらクリックしてください)

−「虚飾集団廻天百眼」と名乗ってますが、劇団なんですか、演劇ユニットなんですか。
石井 劇団です。メーンの劇団員が5名。そのほか毎回、外部から客演してくれる人やスタッフさんがいます。

−「カイテンヒャクメ」と読ませるのですか。どんな意味なんでしょう。
石井 読み方はその通りです。「廻天」に二重の意味がかかっていて、「天」にすると「革命」という意味、「転」にすると普通の廻転で進化するとか運営するとか言う意味になります。「レボリューション」「エボリューション」を掛け合わせた意味を「廻天」に持たせてます。この世をひっくり返して乗っ取れ!

−「百眼」は?
石井 それは・・・語幹がなんか気持ち悪かったから(笑)。

−普通は気持ちいいから名付けるんでしょう。
石井 まあ、それは同義語ですよね(笑)。

−「廻天百眼」の特色はどんなところにありますか。
石井 うちが一番やりたいのは「わけがわからないのに感動した」と言ってもらうことなんです。ストーリーを見せるだけの芝居なら脚本を配れば良い。劇場で見て、鳥肌が立つというのが良い芝居だと考えています。

−これまでみた舞台体験が基になっているのですか。
石井 感動したり涙が出てきたんだけど、どうしてそうなったかわからないという体験が、やっぱりあるんですよね。そういう芝居が僕は一番見たい。だから自分もそういう芝居をつくっていきたい。

−たとえば…。
石井 映画ですと鈴木清順監督作品が大好きです。「ツィゴイネルワイゼン」なんか、ばかばかしさが残るのに、すごくきれいでおもしろい。あと、セリフの振り方とか、意味のわからないセリフが意味のわからないところにはいって、なぜかそれで感動してしまったりします。そういう感じを出していけたらいいなあと思っています。

−舞台はどうですか。
石井 舞台は、最近みた中ではそういう体験をしていませんね。慣れてきてしまっているような気もします・・・。

−ぼくの唐組(状況劇場)体験などは、分けがわからないんだけど、気がついたら幕が下りてテントの外という感じでしたけど。
石井 薄暗い、湿度と熱の空間があるとき開けて光と空気が入ってくる。あれって誕生の瞬間の再現だと思うんですよ。そういう、根源的な部分で人間を感動させる要素を僕も取り入れていきたいです。実は唐組の芝居を見た事ないんですけどね(笑)。

−過去の作品に「詩吟オペラ」とありますが、どういう公演なんですか。
石井 詩みたいな台詞を音響に乗せて朗読しつつ、踊ったり、殺陣をしたり、SMしたりします。言葉遊びと身体的な遊びを音に乗せて同時進行で行う、といった感じでしょうか。説明するのが大変なので見に来てほしいです(笑)。

−全編それで通すんですか。
石井 要所要所です。ミュージカルみたいな構成ですね。

−結成はいつでしょう。
石井 2005年なので丸3年経ちました。

−どういう人たちと始めたんですか。
石井 もともとは個人で詩の朗読をしてました。やっていくうちにどんどん大掛かりになっていったんです。ダンサーが入ったり、音楽隊が入ったり、朗読も役者をやってる人に任せたりし始めて。ちょうどそのころに自主映画を撮る話が出てきて、そこに集まったのが演劇畑の人が多かったんです。で、その人たちも仲間に入れて、もう朗読じゃなくて芝居をしようじゃないかとなってできたのが、1本目の「御霊祭御祭騒」です。

−3年経って、劇団の特徴は変わってきましたか?
石井 方向としては変わっていません。ただ、装置や照明や音楽など、裏側の手数が非常に増えました。

−舞台上にいろいろな美術品が所狭しと並ぶようですね。
石井 4本目の公演『夢屋』で、ラストに2メートルの眼球がセンターに、3メートルの腕2本が上下の壁を突き破って登場しました。
5本目(前回)公演『赤闇少女 〜私と私の人形劇〜』では、劇場全体に666個の歯車を配置。人形作家さんからお借りした球体関節人形13体が舞台を見下ろす、といったことをやりました。

−演劇学校に通っていないんですか。
石井 高校のときは演劇部でしたけど、演劇学校には行ってません。顧問が厳しい方で、別役実さん、竹内銃一郎さん、北村想さん、あたりの作品をやっていました。

−1980年代の小劇場を彷彿とさせますね。
石井 そうですね。そこがスタートなので結構かたい本が好きなんですよ。清水邦夫さんですとか。

−それがどういう経緯で現在の作風になったんですか。
石井 どうしてでしょうね?(笑)。

−今回の作品は「エロスグロテッサアッパーグラウンドオペレッタ」ですが、どんな内容でしょうか。
石井 タイトルは長いので「エログロオペラ」とでも呼んでください(笑)。
2039年のお話で、戦争とか環境破壊で地球がひどいことになっている。その環境で生き残れる新人類の研究中に旧人類が絶滅。生き残った未完成の新人類の子供達が完成した新人類をつくるために実験を繰り返す。世紀末での創世記のやりなおし。を「エログロアッパー」な感じにバカバカしくかつ神秘的にやりたい。
  科学と魔術は似てるんですよ。例えば人間の性決定遺伝子を除いた遺伝子の数は22対。二重螺旋だから44。タロットカードの大アルカナの数は22枚、正位置と逆位置があるから44。そういう怪しいリンクを色々使っていきます。ただの科学一辺倒のSFにはしたくない。科学なのか魔術なのか、世紀末なのか創世記なのか、未来なのか過去なのか現代なのか。あんまり言うとネタばれになってしまうのでこのへんで・・・(笑)。

−80年代の北村想作品は核戦争後の世界が想定されていましたが、石井さんだと「核」とはいっても遺伝子の世界なんですね。これからどんな活動を続けていくのですか。
石井 『シェルター』は名作ですよね。赤とんぼが核の灰だなんて。
  これからですか。僕は自分では「アングラ」をしてるつもりないんですけど、でもなんか違うという自覚はあるので(笑)、そういうのが本当は好きではない人たちがだまされて、「エーこれすごい」と言うようなものをつくりたいですね。

−やっぱり「気持ち悪い」ことが魅力的なんですか。
石井 本当の「気持ち悪い」とは違うと思うんですけどね。なんでしょう?「キモカッコイイ」ものが好きですね。まさにグロテッスコ美術みたいな。

−最初みたときは寺山修司とデビット・ボウイの雰囲気で舞台ができてるのかなぁと思ってました。イギリスのグラムロックとかビジュアル系の影響もあるかなと。
石井 ビジュアル系詳しくないんですよ(笑)。でも『ロッキーホラーショー』みたいなのは大好きです。聴く音楽はジャンルに縛られず、雑食ですね。今回は「アムの解散」というバンドが協力してくれています。彼らも、見た目はビジュアル系になるのかもしれませんけど、音楽性としては分類できない。自称「東響サントラノイズポップバンド」らしいです。うちもアングラって言われますけど実はなんでもやってみたいんですよね。彼らも同じで、なかなか面白い事ができそうです。

−熱狂的なファンがつきそうな感じがありますね。
石井 ありがとうございます。全ステージをご覧になって頂ける方とか結構いて、支えてもらっています。

−動員は…。
石井 今回は5ステージなので、めざせ500人!

−肩書に「虚飾集団」と付いていますが。
石井 舞台だけでなく、展示イベントとかダンスショーとかライブでのショーもやっているので、劇団でないくくりにしたくて「虚飾集団」って付けました。あと、本当はまじめにやっているんだけど、そこにちょっと余裕があると言うか、ばかばかしさとか、ふざけている雰囲気をもたせたかった。

−まがまがしくて、偽物っぽくて、派手なんだけど、構成も美術もしっかり考えて舞台をつくりあげていくという感じですか。
石井 「芸術」集団と言うのは恥ずかしい。意味があるとか、世の中を変えるとか、メッセージがとか、そういうのはあるんですけど、前面に出しちゃいけないと思うんです。基本は愉しんでもらうことかなと。でもその中で意味に気付くと、うちはスゴイものが出てきますけどね(笑)。
  ぼくがやりたいのは、アングラではなく「アッパーグラウンド」です。静態ではなく動態です。暗黒のモグラが地中深く掘っていったら、地中の太陽に辿り着いてしまった。どうしよう?お祭りしよう!

ひとこと> 「廻天百眼」のwebサイトを開いたら、全員が濃厚にメークした写真が大きく掲載されていました。インタビューの当日、どんな姿で現れるかとこわごわ待っていたら、写真のような素顔でやって来て、自分たちの活動をしっかり語ってくれました。なるほど、なるほど。公演が楽しみになりました。
〈インタビュー・構成 北嶋孝@ワンダーランド〉

>>戻る