<渡辺熱さん> 民宿チャーチの熱い夜制作委員会「民宿チャーチの熱い夜6」(7月17日-21日)
笑って泣いて楽しんで 沖縄から「平和」を考える
山崎ふらさん

渡辺熱(わたなべ・あつし)
  1962年、東京都生まれ。大学在学中にモデルにスカウトされ、その後商業演劇の舞台に立つ。88年から3年間米国ロサンゼルスに滞在、演技・演劇を学ぶ。帰国後、活動を再開。98年から若手俳優のプロデュース公演を続け、作・演出を務めてきた。
事務所web:http://dsu.lovepop.jp/
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―今度、第6作目ですよね。「民宿チャーチの熱い夜」シリーズ、と言っていいのかな、いきなりで失礼かもですが、こんなに沖縄≠烽フを書き続けられるのはなぜ?ってお聞きしていいですか。渡辺さんの舞台の惹句はつねに「人情喜劇」でしょ、ポップな、とつく。それと基地の島と……なんか意外な取り合わせみたいで。
渡辺 おっしゃる通り、ポップな人情喜劇と沖縄の基地問題は結びつかない感じがするかもしれません。私は、作品を創る時に、自分が「今、興味があること」をテーマにします。そして、そのテーマの出どころは、現代社会、つまり、今、自分が生きている世界です。日々のニュースや、気になる出来事、身の回りに起こる実体験というのが、作品の源になっています。沖縄の基地も、私の中でとても興味があることの一つです。「社会風刺」というものを作品に盛り込むのが好きと言うか、基地の場合、「平和」という事を考えていると、イメージが膨らみ、書きたい事が湧き出てきます。
  しかし、それをそのままストレートに訴えるようなやり方は、私のテイストではないので、それをコメディに仕上げたいのです。私はチャップリンの映画をみて、今の仕事を志しました。小学校2年のときでした。なんだか良くは分らないけど、面白くて、ちょっと悲しい。それが原点のような気がします。

―チャップリン! なるほど。社会の底辺からの目線で笑いありペーソスあり。でもちゃんと世界をみてるってとこ、共通点ありますね。渡辺さんのお生まれは沖縄じゃない、ですよね……沖縄はどんなところに魅かれるのですか。
渡辺 東京生まれの東京育ちです。沖縄の魅力は、やはり一番には沖縄の文化です。唄や踊り、それから、食べ物。そして、自然、時間の流れ方など・・・旅行会社のコピーのようですが。

―沖縄を、それも民宿を場にして書きたい、書こうとされたそもそもは? ご旅行?
渡辺 きっかけは、初めての沖縄旅行で行った民宿です。

―やっぱり。きっとそうだという気がしてましたア。
渡辺 夕食後、リビングに宿泊者たちが集められ、泡盛をご馳走になりました。もちろん見ず知らずの人達といっしょに。そして、そこで民宿の主人から、沖縄の歴史、そして沖縄戦の悲惨さを延々と聞きました。

―貴重なひとですね、そこのご主人。毎晩のお客さんに、フツー、そんなことしてられないじゃないですか。?
渡辺 他の場所の民宿では味わえない体験に驚き、「沖縄って、なんだかスゴイナァ」と感じたものです。それが大きなきっかけです。

―毎年行ってらっしゃる、とか?
渡辺 残念ながら、毎年は行っていません。今年、久しぶりに行きました。今回のメインキャスト達と行ったのですが、沖縄南部の戦跡は、思いっ切り重たくて、皆、急に口数が減り、基地移設で揺れる辺野古では、皆、座り込みのメンバーの話を真剣に聞き入っていました。しかし、旨いものを、大喜びで食べ、きれいな海で泳いだり、楽しむ事も充実しており、まさにこれが沖縄の現実だなぁと、改めて実感してきました。

―いっしょに行った俳優さんたち、素敵ですね。もちろん渡辺さんもなお素敵。創作へのエネルギー満タンですね。
渡辺 今回の作品は第6弾ですが、まだまだ書けそうな気がします。沖縄を通して様々なものが見えますし、「平和」というキーワードは、どんなテーマにもリンクしていて、私の中でも大きなキーワードの一つです。

―戦争なんて大ッキライ。平和がいちばんですが、そろそろ自衛隊を海外に派遣しようとか憲法第9条変えようとか、キナクサイ匂いが立ちこめてきてますよね。基地の建設や移転でゼネコン儲けさせよう、仮想敵作って戦車や発射台や装備などなど要らぬもの作って大企業太らせようってのは、シホンシュギ爛熟期の必然コース、手口ですけど。
渡辺 沖縄旅行の最後の晩に「平和」をお題にしてオトーリ(宮古島のお酒の飲み方)をしました。皆が、「平和」についての考えを語り、とても良いラストの宴会となりました。
  「平和」を考えるきっかけが、沢山ある島です。私にとって、沖縄との出会いは、とても大きく、この作品が6回目を向かえ、それも、全て沖縄の力だと思います。

―民宿の名はいつも「チャーチ」ですよね。これは実在の民宿ですか? それとも創作? なにか救うところとか癒すところとかいったイメージですか?
渡辺 これは創作です。初演が、本物の教会にセットを組んでやったので、十字架があったために教会を舞台にしました。

―へーえ! そうっだったんですか。う〜んと前ですが私もニューヨークでそういう芝居みたことあります。教会やキリストを冒涜する芝居でした(笑)けどね。
  今度のチラシに「そこに住む島の人々と、都会からやって来る、チョット問題を抱えた人々との交流を描いた」とありますよね。ちゃんと分析したわけじゃなく、前にいくつか舞台を拝見した感じで言うので的外れだったらごめんなさいですが、渡辺さんは沖縄を描くというより、沖縄を一つの定点にして、本土の人間、つまり私たちの可笑しさや哀しさを描こうとなさってる……?
渡辺 おっしゃる通りです。この作品では「本土の人」は私たち自身に通ずる所があります。民宿にやってきて事件を起こす人達は、皆、現代社会の問題点を背負っています。それを、優しく解決してくれるのがチャーチです。

―優しいんだ、渡辺さんご自身が。
渡辺 ナンクルという言葉に象徴される沖縄の個性が、昨今の私達にとても必要なものだと思います。この個性は、もともとは私達の中にもあったものの筈なんですが、日々の生活に追われ、いつの間にかギスギスしてしまい、余裕の無い生活の中で、優しさを忘れかけているように思え、この作品の中で沖縄という場所を借りて、なにか考えて見たいとおもっています。

―いま執筆中、真っ盛りと伺いましたが、お書きになっていてご自分でニヤニヤとかクスッとか、気に入ってるところ、あります?
渡辺 登場人物でしょうか。今回も、濃い人達が多数登場します。お楽しみに。

―どんな人たちが出てくるか、期待してます。
  お書きになるとき、まずこれを書こうと題材とかテーマとかあるいは挿話とかが頭に浮かぶほうですか、それとも、出る俳優さんを先に、いわゆる当て書きをなさるんですか。
渡辺 両方です。テーマがまずありますが、キャラクターを作っていくときは当て書きです。セリフや設定は、役者を意識しながら書いて行きます。「この役者に、こんなことをさせてやろう」等と考えながら。

―話はポーンと飛ぶようですが、渡辺さんはプロダクションDEADSTOCKの社長さん、ですよね。
  私が渡辺さんのお名前をいちばん最初記憶したのは演劇ユニットDEADSTOCK UNIONの作・演として、でした。たとえば「メルティング ポット」。アジアからの出稼ぎ人たちを描いた、新宿2丁目仲通りに実にぴったりの。深刻に書こうとすればいくらでも書ける題材なのに、どっかスットボケていて可笑しくて可笑しくて。今でも、よく覚えてます。
  ついこの前も「旅に出ようよ」。小さなプロダクションを舞台にしてスターになりたい、けど到底なれっこない若者たちを描いてすごく面白かったので、誰の作・演?とパンフ見たら渡辺熱。でもそのユニット名を見たらNUMBER2+1でしょ。アレ?と思って。ほかに劇団The Neetnik。ガールズ・ユニットでも作・演出なさってますよね。今度は民宿チャーチの熱い夜制作委員会。いったいいくつのグループ?に作・演出なさってるんですか?
渡辺 作っては解散したり、名前を変えたり(笑)、今現在は、3つくらいでしょうか・・・?

―私のちっちゃな頭が混乱するぐらいはいいですけど。このシホンシュギシャカイ、少しでも名を売り込んだ方がいいんじゃないかと思われるプロダクションとしてはソン、じゃないんですかあ? DEADSTOCK・NUMBER2+1、DEADSTOCK・The Neetnik、DEADSTOCK・民宿チャーチの熱い夜制作委員会……とか、いつもDEADSTOCK UNIONをつけといたほうが?と思うんですけど、どうなんでしょう。
  だいたい、ユニット、劇団と制作委員会とプロダクションと、渡辺さんのなかではそれぞれどんなふうに区別なさってるんですか。使い分けてる?とお聞きしたほうがいいのかしら。
渡辺 私の中では、一応すみ分けはあります。
  DEAD STOCK UNION の作品としてやる時は、大人の役者が多いです。それぞれ、キャリアのある俳優を中心にやっています。それ以外のユニットは、若手がメインで行っています。今回の、民宿チャーチの熱い夜制作委員会は、この作品が好きで、この作品をずっとやって行きたいという思いのある役者が集まって作った集団です。ですので、この委員会のメンバーで、他の芝居をやる事はありません。そういう意味では、少々変わった集団かもしれませんね。

―少々じゃなく、すっごく変わってますよオ。いい役者さんたちに恵まれてられるんですね。もともとは演劇ユニットDEADSTOCK UNION。それが、2001年に同名のプロダクションに変わられたんですよね。フツー、その逆じゃないですか? プロダクションのなかから、それじゃ飽きたりないから、もっと自分自身を表現したいからってユニットや劇団を立ち上げたという例は聞いたことありますけど?
渡辺 これは単純な話で、ユニットとしてスタートして数年後に、メンバーの外部出演(マスコミ)が増えてきたため、テレビ局や広告代理店、制作会社なとと付き合っていくには会社組織の方が良いということで、法人化してプロダクションとしての機能を持ったという事です。

―話をわざと飛ばしたのは、会社の社長、それも、このシホンシュギ社会のなかでももっともシホンシュギ的なるものの一・プロダクションの社長さんなのに、その渡辺さんが「沖縄」にこだわっていられるのが不思議だったからです。沖縄にはアメリカの軍事基地、たくさんあるじゃないですか。いいんですかあ、反米(^o^)チックで。
渡辺 もしかしたら、今まで見た方の中にも気が付かない人も沢山いるかもしれませんが、このシリーズの大きなテーマは「戦争反対」です。もちろん、日本の政府(国)のやっていることにも大きな矛盾と憤りを感じます。私は、芝居はエンターテイメントであり、主義主張を発表する場だとは思っていません。もちろん、自分の考えはありますが、押し付けがましい作品は、私自身はあまり趣味ではないので、私なりの描き方をしていきたいと思います。「笑って泣ける、ポップな人情喜劇」――少々古臭い感じもするこのフレーズが、私のテイストだと思っています。

―なるほど。優しくて、でも内心頑固なんですね、きっと渡辺さんは(笑)。

ひとこと>「只今、台本も佳境に入り、エンディングの部分を」執筆中。「明日より、今回のメインキャストたちと沖縄へ行きます。本番前に沖縄の空気を皆で体感しようという旅行」――渡辺熱さんのメールから、その多忙と芝居に賭ける熱い情熱とがひしひしと伝わってきました。インタビューはその寸暇を縫っての荒業でした。でも、渡辺さんの多彩な作家の秘密はまだまだ私には解けたと言えません。当分追っかけなくちゃ、です。
〈インタビュー・構成 西村博子〉

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