<長堀博士さん> R+ Working☆Shopping「風景を風と景に分ける…」(6月28日-29日)
新しい俳優たちとの出会いで未知の表現を目指す
長堀博士さん

長堀博士(ながほり ひろし)
  1991年に「楽園王」を旗揚げ。執筆した脚本は約40本。現在は演出がメイン。15周年を機に「RAKUENOH+」と改名。2002、05年に「Shizuoka春の芸術祭」に招聘。04年「利賀演出家コンクール」でイヨネスコ作「授業」により「優秀演出家賞」を受賞。(財)舞台芸術財団演劇人会議、会員。
web:http://www.rakuenoh-plus.net/
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−最初に長堀さんとRAKUENOH+の経歴・経緯を簡単にご紹介ください。
長堀 RAKUENOH+は今年で17年目です。もともと他の劇団に脚本を提供していたんですが、自分の脚本を、自分で演出するために旗揚げしました。劇団員というのはおらず、公演毎に俳優も制作・裏方を集めるやりかたです。同じメンバーが集まることが多いのですが、一応主催者ひとりの劇団です。
  最初の10年までは作・演出という形でずっとやってきたんですが、今は自分のホンを必ずやるわけではなくなりました。自分が演出家として仕事をしていく中で、既成戯曲でも、文学作品でも、演出家としての立場で関わることでも、「自分の作品」にすることができるようになってきた、ということがあるからです。

−それは利賀フェスに参加したということが大きいのでしょうか。
長堀 そうです、そこで別役の「マッチ売りの少女」をやったのがはじめでした。
  僕は「利賀演出家コンクール」には、第1回から6年連続出場という記録を持ってます(笑)。しかも3回失格という記録ももってます(笑) 。

−輝かしい経歴ですね(笑)。
長堀 あれやっちゃダメ、これもダメ、ルール違反といわれ続けまして、最後には「長堀くんがやることは全部失格じゃないの」と言われるようになりました(笑)。第5回に優秀演出家賞をいただき、その他にも静岡によばれたり活動がひろがりました。去年までは2年間審査員もやらせてもらいました。

−そもそも演劇をはじめられたのは。
長堀 高校の演劇部でした。たいへん盛り上がった代で、いまだに演劇関係に携わっている仲間がいます。脚本は高校時代から書いてました。
  卒業後、友人が作った劇団に脚本を提供したり、そこから関係がひろがっていったりしました。スパイラルムーンの秋葉さんとか、みんな仲間です。
  大道具の会社に入って、業界の仕事を続けていたんですが、その時の仕事仲間にゴキブリ・コンビナートのエクアドルさんがいます。今会うと、お互いに恥ずかしくって、まったく会話しません(笑)。

−現在の長堀さんが力をいれていることはなんですか。
長堀 RAKUENOH+という名前に変えてからですが、最近は特に俳優育成の意識を強くしています。
  というのは、ぼくが必ずしも脚本を書かなくなったということが関係してます。
  前は僕の脚本を楽しみに来てくださる方も多かったんですが、古典戯曲などをやって、演出だけすると、お客さんが安定してつかなかったりするんですね。僕は演出だけでも、自分の作品を作っているという自負はあるんですけれども、なかなかそれでは安定したお客さんがつかない。
  だから、俳優に力があって、その俳優が観たいというお客さんを引き出していく形に自分の劇団をしたいということがあります。
  また、現在の演劇界がプロデュースばやりで、劇団がきちんと俳優を育てていないんじゃないかという思いがあります。すでに力のある役者さんならいくらでも声がかかり、いい舞台にでるチャンスがいっぱい与えられますが、しかしチャンスをまだ得てない人はそういうよいチャンスを得る機会がすくないんです。だからうちの劇団なんかで、機会を手に入れてもらい、活躍してくれる俳優さんがでてきてくれればいいなと思っているんです。長くやっているので、うち独自のやりかたではありますが、育成するシステムがありますので、うちの劇団が育てて、発信していけるようになりたいのです。うちの劇団に残らなくてもいいですからね。
  今は俳優育成を積極的にやる必要があるんじゃないかと思ってます。新しい役者さんとどんどん知り合いになりたいと思ってます。

−すばらしいですね。
長堀 ただ必ずしもまだうまくいってるわけではありません。前回公演の「銀細工とシャドー」は17年前の作品の再演でした。若い役者さんに声をかけて出てもらいました。けれどそれなりの評価を受けていた作品だったので、それなりのレベルを作りたいと思うんですよね。その中で考えたのは、「作家としての仕事」をちゃんとやらなきゃいけないということでした。
  今月のスパイラルムーン公演に書き下ろした「日射し」もわりと好評だったこともあって、再び脚本家としてもがんばらなきゃいけない時期に戻ってきたような気もしてます。
  俳優育成と作家活動。この二つに力をいれてしばらく模索していきたいと思ってます。

−17年間で40作を越える作品を書いてらっしゃいます。多作だと思うんですが、そんなに作品がかけるのは何か秘訣がありますか。
長堀 高校時代から脚本を書いていて、芝居のことをずっと考えているのが普通なんです。いつもアイディアを浮かべています。
  書くと言うことは取材力が一番だと思ってるんで、「読む」ことが大切だと思ってます。新聞は読まないですが、必ず買うのは「アエラ」です。「プレジデント」も時々買います。ネタもととして読んでます(笑)。
  本は読む時間がなくても、買っておきます。小説とビジネス書が多いんですが、人気のあるものは読むので、今は伊坂幸太郎、いしいしんじなんかを読んでますね。いしいしんじはこの間、成井さんがキャラメルボックスで舞台化しましたね。
  「日射し」は演出家が家族ドラマの部分を強調して舞台にしたんですが、作者の意図と違うというほどのことはないですが、ぼくの中では生きていない人をもっと不思議な感じでイメージしてました。
  ぼくの作品では、SFとかファンタジーとかがわりと近しいもので、リアルな現実というのはほとんど書いたことがない。どこかで不思議なことがあるという作品がほとんどです。
  虚構としての物語をきちんとお客さんに観てもらいたいのがまずあります。それを観て考えてもらい、自分の現実になにかをフィードバックしてもらい、自分の問題がクローズアップされるようでありたい。
  そういうことを意識して書いています。
  心を動かしたいと思ってます。
  ですから、作者のメッセージは必ず込められてます。もしかしたらすべての作品で同じメッセージを発しつづけてると言えるかもしれません。

− ハイペースで書き続けていくことに不安はないですか?
長堀 アイディアは20も30も絶えずあるので、時間さえ与えてもらって、資料をそろえられたら、いつでもかけると思います。もちろん悩んじゃって止まっちゃうこともありますけれど。「日射し」は一カ所ですべての問題を一挙に解決させるところに苦しみました。

−最後にこれからの劇団、長堀さんの予定、計画を教えてください。
長堀 まだわからないことが多いんですが、利賀が今年から「演劇人コンクール」と模様替えをするので、応募してます。出過ぎなので、通るかどうかわかりませんが、去年までは審査員もやってましたし(笑)。
  ただ、一流の演劇人に揃って観てもらって、いろいろいってもらえる機会というのはものすごく貴重ですばらしいですから。
  10月渋谷のルデコで小さな演劇祭を主催します。3つぐらいの劇団でまとまって発表する機会を作って、新しいお客さんを開拓したいともってます。
  来年は自分にとって大きな作品を書く予定です。代表作の再演もまたやりたいと思ってます。

−ありがとうございました。

ひとこと>見事に作り込まれていて、単なるウェルメイドではない、「美しい」「いいはなし」の世界をつむぐ長堀的世界は、そのクオリティを保つのは、難行だと思っていたのだが、長堀さん自身にあうとその静かな中に深く秘められた大きな世界に感動する。これからの作品群を刮目して待ちたい。
(インタビュー・構成 香取英敏)

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