毎年アリスでシリーズ人情喜劇をやり続けたい
渡辺熱(わたなべ・あつし、中央) |
―98年に始まった「民宿チャーチ」シリーズも本作で7作目です。おさらいになりますが、「1」ではデッドストックユニオン(以下DSU)が劇団だった時代。その後、4作目から「ニートニク」というDSUの若手ユニットでの制作、そして「6」からは「民宿チャーチ制作委員会」での制作という形ですね。
渡辺 そうですね。つけくわえますと、僕自身が棲み分けがあいまいになってるところもあるんですが、DSUはある程度、ベテランを中心とした芝居を作っていってます。「NUMBER2+1」は若手中心のユニット、ニートニクがリニューアルしたものです。そしてこの「チャーチ」と、年間3本は芝居を作っていく形をとっています。
―そうすると、プロデュース公演ということで、役者さんはオーディションであつめられてるのでしょうか?
渡辺 ええ、DSUが年間をとおして行っている「ワークショップ101」に参加している役者さんたちと、ふつうのオーディションで集まった役者さんたちとでキャストを組んでます。
―今回のオーディションはいつでしたか?
渡辺 今年は4月にやりました。その時点で、全部のキャストを決定しました。
―渡辺さんは、本の執筆にどのくらいかかるんですか?
渡辺 書き出してからは、3週間ぐらいです。
―もともと沖縄とはどうやって関係ができたんですか? 毎年のようにアリスのインタビューではいろいろな形でお伺いしてますが、今年もお願いします。 (アリスインタビュー2006、2008参照)
渡辺 「1」をやるころは深い関係はありませんでした。沖縄フェスティバルというの話が、YMCAの方からあって、歌や写真展などをやると。その中で沖縄の芝居をやってみませんか、というお話を頂いて、「面白そうですね」、なんていってたんです。具体的な話ではないと思っていたですが、先方の方がどんどん具体化していって、「お願いします」っていわれて(笑)、それでスタートしたんです。
それから沖縄について勉強し始めました。
―では特に最初に沖縄への熱意や愛があって始めたんではなくて…
渡辺 ええ、違うんです。けれど、一作目に書くときに、何回か沖縄に行って勉強するうちに、これはテーマとして奥行きがあって、面白いなぁ、とおもったんです。
それからどんどん沖縄に入っていくようになりました。沖縄を通していろんなものが見えるということに気づいたのが大きかったですね。
―民宿っていう設定が見事ですよね。内の人間と、外からやってくる人間と、外からやってきて去っていくだけでなく、そこで働き、いついてしまった中間の人と、登場人物だけでも、単純でない構成ができますものね。
渡辺 設定としては便利ですね。継続的にやるにはよかったと思ってます。最初は一作だけのつもりでしたから…(笑)。大当たりだったと思いますね。
お話したように、YMCAが企画者でしたので、会場が、劇場ではなく教会だったんです。ほんとの「チャーチ」だったんです。チャペルにセットを組んだんです。それ以外チョイスがなかったわけでして…。
―今日見せていただいた稽古の場面あたりで大体主要人物がでそろい、伏線がはりおわったところでしょうか。
渡辺 そうです。今回は沖縄に映画製作を誘致しようという話です。
―このあと、渡辺さんはどういう役ででてくるんですか?
渡辺 「竜太郎」という役です。今回は映画製作のプロデューサーという肩書きを外から来た人には名乗っているんですが、以前から見てる方にはおわかりなんですが、「アシバー」という沖縄のことばで「遊び人」というのに近い、正体がわからない、何をやってるかわからない人なんです。
渡具地興業というよくわからない会社をやっていて、毎回、物語があるたびに何らかの役割をするんですね。やくざものや政治家とのパイプ役を務めたり、いろんなところに顔をきかせて商売に結びつけている人なんですね。
今回は映画を誘致する島側の代表として、口ききをしてます。
―見せていただいたところまででも、非常に面白かったです。取材はどのようにおやりになるんでしょうか?
渡辺 今回重要な役の「ユタ」という占い師のような人が沖縄にはいます。私は実際にはあったことがないんですが、本をよんだり、映像をみたりして調べました。そうすると、特定の「ユタ像」というものはないのだ、ということがわかりました。沖縄の女性は基本的に誰もがユタになりうるんですね。専業にしてる人は少なくて、霊感の強い人が島の人間の運勢を見てあげるってことのようですので、そういう感じに描いてあります。
―この島は具体的にはどこなんですか
渡辺 沖縄本島の辺野古なんです。劇中できちんと説明はされてませんが、今までも具体的な地名がでてきたこともありますし、沖縄がわかる人にはすぐにわかります。
辺野古にV字滑走路ができそうになっているんですが、そのそばにある民宿という設定です。第5回にはその基地移転の話がメインになったこともありました。
―今回でてくるヘリコプターの墜落は沖縄大学の事件ですね。
渡辺 そうです。去年は出演者を連れて辺野古まで行って、現地を見学しました。(08年アリスインタビュー参照)
―シリーズ共通の世界観を役者さんたちにはどういう風に共有してもらっているのでしょうか?
渡辺 まず、ぼくがしゃべって説明します。そして、ビデオやニュース映像を見たり、沖縄の地元紙を読んでもらったりしてます。かなり勉強してもらってます。
―キャストは入れ替わっているんでしょうが、基本的な登場キャラクターは…?
渡辺 一貫してます。同じ人たちが島で年をとっていく話です。
いい役者がみつかりませんと、空いちゃう役もありますので、それは旅行中だとか、病気だとか(笑)、今回も栄子ネーネーの夫はテレビ作りにいってることになってます。
沖縄では「季節」というんですが、派遣として工場に住み込みで働きにいってる人のことです。ま、苦肉の策なんですが、また適任な役者がいる年には復活させたいと思ってます(笑)。
シリーズ作品なので、前作、前々作を観た人にしかわからないようなネタもあります。
お客さんも続けてみてくださる方もいますので、そういう楽しみがあってもいいかな、と思ってます。
―方言指導はどうされているんですか?
渡辺 女優の三崎のお母さんが沖縄の方なんで指導してもらってます。
―丁寧な演出をつけてらっしゃったのが、印象的でした。
渡辺 若い役者が多いので、仕方がないところもあるんですが、もともとぼく自身、小劇場出身ではありませんので、いわゆる小劇場的な素人芝居はいやなんですね。
プロとしてお金をいただける芝居を見せたいと思ってます。だからできるだけ丁寧につくっていきたい。稽古期間もかなりとっています。
ぼくは、タイニイアリスのあの空間でこういう芝居を掛けたいんですね。
―アリスの「小劇場的な空間」はお好きだと…
渡辺 そうなんです。大劇場で掛けられるような芝居をアリスで見せたいんです。
―セットもきちんと立て込みたいと
渡辺 そうです。
―今回の最大のテーマはどこらへんにあるのでしょうか?
渡辺 今年は沖縄に話題性のある「事件」が少ないんです(笑)。余りいい言い方じゃないですけど…(笑)。
もちろん失業率は高いし、景気は悪いしということはあるんですが、そこに焦点をあてるというほどでもないだろうと。
しかし、「生きていくということ」についてはいつもどおり考えていきたい。
「生きるということ」と「死ぬということ」、死ぬは「戦争」ですが、「平和」とかの問題を毎回大事にしています。
だから、戦争反対、平和というのをいつもベースにして、今の世相と絡めて表現していけたらいいなぁと、いつも思っています。
様々な理由で自らの命を絶つ自殺者の数が、交通事故で亡くなる方の数を越えています。生きずらい世の中になっているのか、理由は様々でしょうが、命という事をあらためて考えたいと思い、今回の作品を書きました。かつて沖縄では、自らの意志に反して、強制的に自決しなくてはならなかった歴史があります。今回ちょっとそのあたりを強く意識して作っています。
―いわゆる「軍人さん」は登場しないんですか?
渡辺 かつて一度もでてきたことがないんです。基地の周りの人しかでてきません。
それは、コメディという線を崩したくないということと、勉強すればしていくほど、一番大きな私の印象では、沖縄の人は必ずしも基地反対ばかりではありません。と思うからなんです。
ヤマトの人間が「反対!」とシュプレヒコールをあげるのはどうか、と思ったりもします。余計なお世話だと、いう部分もあると思うんです。
だから、自分が見て感じたもの以上には立ち入らず、おいとこうと思ってます。あとはみた方に考えてもらえばいいかなと。
だから米軍も自衛隊もでてこないんです。
去年チベット問題を取り上げたときに、少し批判もあったんですね。
確かに去年は立ち入りすぎたかな、と感じまして、自分の作風としてそこまで立ち入らないのがいいのかな、と今年は思っています。人情喜劇の枠組みの中でやっていきたいですので。
<ここから役者の三崎千香さん、柿元周太郎さんが話に加わりました。二人とも「4」から連続4作連続出演のベテランキャスト>
―では柿元さんからご自分の紹介をお願いします。
柿元 役者としての経験は10年になります。「40カラット」という劇団に所属しています。ふだんは小劇場に主にでています。
―今回の柿元さんの役所とみてほしいところはどこでしょうか?
柿元 「4」の時は、旅行プランをもってきた社長の役だったんです。次の「5」では沖縄に左遷になり、さらには去年の「6」ではリストラにあってしまい、今年にいたってます。今では退職金代わりにもらったペンションを経営しているという役ですね(笑)。
そうなんですが、ぼくは「動きが変」と」よくいわれますので、今回もそのあたりを楽しんでもらえたらと(笑)。
―では三崎さんに同じ質問です。自己紹介と役所を。
三崎 私は10代から芸能活動はしていましたが、芝居は渡辺さんのところが初めてでした。それが、04年のDSNの「主役」(第15回公演)でした。
今でも芸能活動はしていますが、舞台が多くなりましたね。商業演劇の方で明治座にでて全国回ったり、テレビドラマにでたりしてます。
役所は、チャーチの「4」の時は、DV夫から逃れて内地から沖縄に逃げてきた女性でした。チャーチの民宿にバイトで雇われ、周りのみんなに守られながら、すごしていて、ずっといまだにバイトを続けているという役です。
でも、今回も「チャーチ」の色ははっきり、濃くでています。勘違いがどんどん進んでいくって、たいへんなことになっていくとか…。
渡辺 民宿の主は別にいまして、その経営者の娘がインド人と駆け落ちをしてムンバイにいっちゃってることになっているんです。またその娘のナミエは今はインドに遊びにいっている、ということになってます(笑)。今回は二人とも登場しません。だから彼女はその主の留守を守って民宿を切り盛りしているんですね。主もナミエも大切な役ですので、いい役者がいたらそういう役もまた復活させたいと考えてます。
―「チャーチ」に対する思い入れは、強いでしょうね。
三崎 ええ。この先も「チャーチ」は、役と一緒に自分も「おばあ」になるまで、続けたいと思ってます。
渡辺 映画と違ってシリーズものは芝居では大変難しいわけです。けれど、芝居という制約の多いものでも、このアリスというサイズだと、自分たちで切り開いていけると感じています。
―渡辺さんはどんな方なんですか。
三崎 10本ぐらいださせていただいてるんですけど、とにかく渡辺さんの脚本がすきなんです。
―演出はどうでしょうか?
三崎 目の前にしてはっきりいえません(笑)。ずっと芝居を教わっていますから。出していただいる側ですし(笑)。
―柿元さんは「チャーチ」についてはどのような思いをお持ちですか
柿元 毎年「チャーチ」の話をいただくと、「この季節がきたなぁ」って感じになります
毎回でている人には、毎回課題が与えられてるんですね。そこに挑戦して、越えていかなければならないというハードルがあるんです。その課題を達成しハードルを越えると、自分でも役者として大きくなれたような気がします(笑)。
渡辺 偉そうな言い方になっちゃいますけど、ずっとでてくれる役者たちが、毎年どんどんうまくなっていくのが見られるのがうれしいですね。育ってく感じがたのしい。
最初の頃はこの二人は「駄目なグループ」だったはずなのに(一同笑)、今では周りを教えてたりしてますね(一同更に笑)。そういう中に自分も一緒にいられて、一緒に伸びていけるのが、自分にとって本当に大事なことだと思っています。
そういう場所に僕も役者として、ずっといたいとおもうんです。
―今回の公演前にお聞きするのもちょっとかもしれませんが、シリーズものということで今後「チャーチ」にはどんな展開があるのでしょうか?
三崎 「1」から「10」までを連続で公演なんてしてみたいです。
渡辺 ぼくの夢はアリスで一か月貸し切りで日替わり公演とかですね。
現在でも、「チャーチ」を愛してくださるお客さんと、「ゆんたく」っていいますが、終演後に一緒にサンシンで歌ったりのんだりしてます。そういう交流も楽しいですし、何よりも大切にしていきたいと思ってます。
―本日はありがとうございました。
<ひとこと> 今回、立ち稽古が始まって1週間というタイミングの稽古を2時間ほど、見学させていただき、その後、休憩時間を使ってのインタビューという形をとらせていただきました。渡辺さんの演出は静かに役者たちに語りかけながら、時に基本的な身体のさばき方や、ではけの指示にいたるまで、とても丁寧なものであった。役者たちは、演出家というよりも、渡辺熱という人間に惹かれて、その人のことばを聞くのが楽しくてしょうがないという雰囲気を醸していた。だから、厳しい演出のことばでも、一身に受け止めている。作品同様、暖かい稽古場であった。(インタビュー・構成 カトリヒデトシ)