<木村昭仁さん> 東京ポトラッチダンディーズ第4回公演「黄金時代と優しい奴ら」(2009年7月30日〜8月2日)
「演劇界のファミリーレストラン」が、観客にコメディでおもてなし
鮒田直也さん、タイソン大屋さん

木村昭仁(きむらあきひと)
埼玉県出身。日本映画学校卒。高校在学中より、演劇活動を始め、08年に東京ポトラッチダンディーズを旗揚げ。主宰・作/演出。
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−ポトラッチという名前が気になります。劇団名の由来を聞いてもいいですか。
木村 ポトラッチ(北アメリカ太平洋岸の北米インディアン社会に広くみられる、威信と名誉をかけた贈答慣行。チヌーク語の「贈る」「贈り物」を表す言葉に由来する)という言葉は確か「威信をかけて、もてなす」という意味です。そして、語呂がかわいい。それから僕、「東京」という単語が好きなんです。まず、日本人だし、東京は日本の首都だから格好良いだろうっていう単純なことと、「東」と「京」という漢字はきれいですよね。最初は東京ポトラッチボーイズにしようと考えたんですが、そうすると東京サンシャインボーイズ(三谷幸喜を中心に旗揚げされた劇団)とやる内容も名前も似てしまうってことに気付いて、それでダンディーズにしました。

−劇団のスタイルやコンセプトを簡単に教えてください。
木村 高校の頃、抽象演劇とか難しいお芝居を勉強して、かなり観に行ったんですけど、さっぱりわからなくて、平田オリザ先生のお芝居を初めて観た時はちょっと難しいなと思ってしまいました。逆にわかっていけば、面白いお芝居というのがどんどん広がっていきました。テレビドラマや映画は誰でも観る機会がありますが、演劇という世界はすごく広くて面白い世界がいっぱいあるのに、なかなか入っていく入口が困難だと感じました。僕もそこを見つけるのにかなり苦労したというか、たまたま出会ったのがケラリーノ・サンドロヴィッチさんのお芝居で、コメディじゃないですか。ああいった入りやすい入口に当たる前に(演劇を)嫌だなって思ってしまう人が僕の周りにもいて、そうならないような、もっともっと面白いものがあるんだよというのをやっていけないのかなと思い、この団体を立ち上げました。できるだけ、子供から大人までというのをコンセプトとして、やっていきたいと思っています。

−去年、劇団を立ち上げましたよね。大学では劇研やサークルなどで活動していたのですか。
木村 去年の6月に劇団を立ち上げました。高校は演劇部で活動していて、劇団員の塚田智大とは同じ高校で、彼との出会いから演劇が楽しくなりました。演劇部にも地区大会から始まって、全国大会まで行われるコンクールがあり、その地区大会で今回の舞台にも出演する平岩久資という魅力的な役者と出会いました。平岩とは違う学校でしたが、声をかけて高校時代に一緒にお芝居をやったことがあるんです。その後、僕はケラリーノ・サンドロヴィッチさんに憧れて、ケラさんと同じ勉強をしたいなと思い、大学ではなく、日本映画学校というところに進んで、3年間、映画の勉強していました。その時に平岩が桜美林大学にいて、ぜひ劇団を立ち上げたい。作家を探しているので、僕にお願いできないかと声をかけてきました。それがきっかけで桜美林大学の方とつながりができて、学生時代は主にそちらでやっていました。

−ケラさんに憧れてということですが、どのような影響を受けていますか。
木村 ケラさんの作品を最初に観たのはテレビで放送していた「フローズン・ビーチ」という作品で、ものすごく影響を受けました。演劇にあまりたずさわってなかった頃に観たんですけど、インパクトが強くてとても面白かったです。一番好きな作品は「すべての犬は天国へ行く」ですね。「フローズン・ビーチ」もそうですけど、(登場人物が)女性ばっかりじゃないですか。僕のお芝居(の出演者)が男性ばっかりなんですけど、女性ってやっぱり笑いをとりに行くと、どうしても(観客に)引かれてしまう部分があって、その線引きが難しいじゃないですか。ケラさんは笑いをとりながら、女性をきれいに見せるというか、かわいく見せている。そういった理由から(出演者が)男ばっかりっていうのがあると思います。

−「誰でも気軽に観られる」をモットーにウェルメイドな喜劇を創作する団体と劇団を紹介されていたのですが、ケラさんはどちらかというとナンセンスコメディと呼ばれ、現在の日本の演劇界の喜劇、ウェルメイドというとポピュラーなのは三谷幸喜さんなのかなって思ったりしたのですが。
木村 幼い頃からコメディに興味があって、自分もコメディアンや喜劇役者になりたいという願望もありました。お話を作るということに強い興味がありますし、稽古場にたずさわっていたいというか、演出をやっていたいという気持ちも強いですね。「古畑任三郎」も大好きでしたし、初めて名前を覚えたのが三谷幸喜さんでした。三谷さんはもちろん大好きなんですけど、三谷幸喜さんと関連付ける前に、三谷さんが敬愛している映画監督のビリー・ワイルダーを好きになって、後から三谷さんとリンクしたということもあります。一番影響を受けているのは、ビリー・ワイルダーやフランク・キャプラなどの映画肌の方が強いかもしれないですね。

−普段から喜劇について考えたり、何か勉強したりしていますか。
木村 悪癖があって(笑)。友達と話していても、ちょっと話がこじれたりすると、仲直りしなければならない時でも、ちょっとこういう風に言ったら怒るのかなっていう好奇心がわいてしまい、それでトラブルが起きてしまうということはたまにあります。それで実際にお芝居に使っちゃったこともあります(笑)。僕は親戚を公演に招待することがあるんですが、仲の良い親戚なんかだと、この前のお正月に私達と話した話をさりげなく使っていて、やめてくれと言われることもありますね(笑)。

−劇団のHPを拝見したのですが、「演劇界のファミリーレストラン」というキャッチコピーがありましたよね。
木村 どんなに値段が安く、美味しい料理でも外装がおしゃれだったりすると、田舎者って入りにくいじゃないですか(笑)。劇場でもライブハウスでもそういうところが結構あって、劇場が地下で暗いといったイメージがあるんで…。

−アリスなんかまさにそうですよね。
木村 そうですよね。入ってみるとすごく魅力的な世界なんですけど、その入口をできるだけ簡単にできないかなというのがコンセプトです。

−タイニイアリスという劇場で公演することについて、なぜタイニイアリスで公演を行うのですか。
木村 これは演出家っぽくなくて恥ずかしいんですが、僕と塚田智大が初めて外で芝居を観たのがタイニイアリスで、ジャムジャムプレイヤーズの「あばらやジャンボリー」というお芝居でした。たまたま観に行って、ジャムジャムさんもコメディをやっていらっしゃいました。小劇場演劇を観たのは初めてで、ハマったきっかけみたいなものあって、タイニイアリスが好きっていうのも大きいんですよ。タイニイアリスさんは劇場の手前の部分にハリが出ていて、あのハリが紙芝居みたいで、かわいいというか…。入口の部分も照明が消えかかっていますけど、かわいいんですよね(笑)。僕はかわいらしさって大事だと思うんです。プーク人形劇場でもやってみたい。「始まり、始まり〜」って言って始まりたい。

−そういう意味ではタイニイアリスという劇場って、どこか紙芝居っぽいところを感じますよね。
木村 そうなんです。たまたまかもしれませんけど、僕が観に行っている所も、海外の作品も何回か観ていますが「えー、そんなことすんの?」みたいなことをしているイメージがあって、僕はそこが結構好きで。僕の芝居はわりと、おとなしいっていうか、すかしているとは思うんですけど。でも、タイニイアリスさんは特殊な空間ではあると思います。劇場の名前もかわいいし(笑)。そこが結構好きっていうのもありますね。やっぱりどこか、童話っぽさがあるんですよ。

−木村さんの作品を拝見して受けた印象なのですが、何だか箱っぽいですよね。
木村 そうなんです。レオナール・フジタ(藤田嗣治)という画家の作品で「小さな職人たち」という絵があって、色々な職業の絵なんですが、登場人物が全部、子供なんですよ。例えば、床屋とか、洋品店などが一枚の絵の中に、人間を中心にそえて床屋だったら床屋の小道具が描かれているんですけど、20センチぐらいの小さな絵なんです。それがバチっとキマっていて、「あ、ホントに床屋だ」って言えるようなところがあって、あの完成度というか、箱庭感というのがものすごく好きなんですよ。演劇って結局、リアリティを追及しなくてはいけない部分と省略しなくてはいけない部分との、その折衷する部分というか、どれだけ集約できるかというのは作っていて楽しい部分ではあります。僕がやりたいのは枠組みの中で見せる、一枚の絵の中が動いているという紙芝居の世界です。なんだかんだ言って、ディズニーとか児童文学のような一つの作品として見せるものが好きなんですよね。別に道徳をうたいたいわけではないんですが、やっぱり人に勇気とか冒険とか愛とか涙とか、そういったくさいものでも、ドキドキさせながら見せてくれる。あれって、やっぱりおとぎ話の世界のお話ではあると思うんです。そこが逆にフィクションということになってしまうんですけど。フィクションだからやれる優しさもあると思いますし。

−優しさですか…。そういう意味ではタイニイアリスってピッタリな場所ですよね。
木村 なので、僕はタイニイアリスさんはまだ二回目ですけど、ちょうど旗揚げして一周年なので、旗揚げと一周年の公演はタイニイアリスさんでやりたいという気持ちがありました。

−なるほど。それでは、最新作「黄金時代と優しい奴ら」についてお聞かせください。
木村 舞台は漫画家の2人の男が新しい職場兼住居として引っ越してくるところから始まります。その引っ越し先で出会う人やトラブルなど、色々とありながら、何か得ることがあるんじゃないかというお話です。今までの作品もそうなんですが、(出演者が)男ばっかりなんですよ。僕はどういう人間関係なのかということをすごく書きたいと思っていて、今までは兄弟だったり、友達だったり、仕事のパートナーだったりというのがあったんですが、今回は縦の関係というかお父さんを書けないものかと考えまして。僕のお芝居は今まで年齢層が近い設定が多かったので、今まで父親、母親というのは話には出てきても登場はしないというのが多かったんですが、今回は今までとは違います。毎回、何か挑戦はしたいなと思っています。ただ、やりたいことは、あまりぶれていないというか、笑いって、すごく元気が得られるものじゃないですか。僕は単純に、僕のお芝居を観に来てくれた方は娯楽性を感じてくれたらいいなと思います。

−大人から子供まで、幅広い観客に観てほしいとおっしゃっていられますが、今回の作品に関しては、特にどのようなお客さんに観てほしいですか。
木村 そうですね。今回の作品は親にあてている部分もあるので、もしかしたら僕達ぐらいの年代の子供を持っている方、お父さん、お母さんが観て何か感じてくれたら嬉しいものがあるかもしれません。

−それでは最後になりますが、メッセージをどうぞ。
木村 ハズレはないんで、お願いしますということで(笑)。将来的には、お仕事で疲れたお父さんが「今日はポトラッチダンディーズでも観て、ちょっと疲れをとっていくか」って思ってくれると嬉しいですよね。好きなテレビ番組とかにはあるじゃないですか。今日はあの番組があるから頑張って働こうとか、子供もあると思うんです。「今日は体育が嫌だけど、夜、ドラえもんだからな」といった、そんなふうに演劇もなれたらいいなとは思いますね。

ひとこと> 若く、みずみずしい果実が太陽の光をいっぱいに浴びている姿を見ると、そのきらめきをまぶしく感じる時があります。芝居に対する希望や熱意をあたたかくも冷静に、そして知的に語っている木村さんの姿が印象的でした。それは劇団名にも作品にも、もちろん表れています。取材日は平日の新宿、快晴。多くの人が行き交う午後の陽ざしの中、木村さんはひと際、まばゆい光を放っていました。その光は夏の盛りと共に、これからの公演に向けて、いっそう輝きを増すことでしょう。
(インタビュー・構成 宋莉淑)

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