ベテランでも新しいやりたいことを見つけて行くのが大人の証
吹上タツヒロ(ふきあげ たつひろ):1976年6月1日生、栃木県出身。中津留章仁とともにlast creators production創立メンバー。 |
11月2日に稽古場へお邪魔して、稽古の合間にインタビューをしました。集団の立ち上げということで情報がないまま、見にいったのですが、主宰お二人の経歴を見ていただいてわかるとおり、ベテランの厚い取り組みがみっちりと絡みあう稽古場でした。
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−集団の形態はどのようなものでしょうか。
吹上 ユニットです。鬼頭理三、吹上タツヒロの2人ユニットです。演出家と俳優という組み合わせです。
−ベテランにお見受けしましたが。
鬼頭 ぼくは基本、映像の人間なんで、普段は映画、ドラマの演出をしてます。映像に関しては何でもやってきました。舞台に関しては7本目です。3年前ですかね、初めてやったのは。プロデュース公演に呼ばれてするんで。バラバラなところでやっています。笹塚ファクトリー、シアターグリーンBOX in BOXもやりましたし、東京芸術劇場の小ホールとかWoodyTheatre中目黒もあります。ただ下北沢には縁がないんですけれど…(笑)
吹上 ぼくは舞台をやって、12、3年目ですね。学校出てからずっとですね。
−お二人はどちらでお知り合いになったんですか?
鬼頭 吹上くんが狛江でやってるお店で…(笑)。
吹上 ぼくはもともと小劇場でやってまして、ながくTRASHMASTERSという劇団に所属してます。もともと鬼頭さんがその劇団をよく見にきてくれてたんです。うちの店で鬼頭さんと話しまして、こんなことやったら面白いかもね、と二人で話し合ったことをやってみようというのが、ことのはじめでした。それが2年前くらいです。それから準備を始めて、今回立ち上げになりました。
−今回、タイニイアリスを選ばれたのは何か理由があったんでしょうか。
吹上 劇場探しをしている時に、アリスさんがあいていました。そもそもぼくが所属している、TRASHMASTERSの旗揚げが、アリスだったんです。もう10何年前のことですが。アリスが改装する前で、お風呂とかないころでした(笑)。
−今回のお芝居は。
吹上 「4(シ)の話」と言います。脚本を内田春菊さん、佃典彦さん、葛木英さん3名が脚本を担当してくれました。
−それはどのような形態なんでしょう。
鬼頭 オムニバスなんです。1本が、30〜40分くらいのものです。ただ、オムニバスはオムニバスですけど、同じバーという設定で、ファーストシーンが全く一緒なんですよ。始まりの、頭2ページくらいが全く一緒で、そっから先は好きにしてくれ、という形で脚本を依頼しました。
−では一つ一つの話は完結しているんですね。
鬼頭 そうです。一つの話が終わると、また最初に戻って全く違う話が続くという趣向です。登場人物の設定も全く同じにしてあります。
吹上 すべての話が、「死」をみせる、ということです。
−原案は主催のお二人で考えられたんですか。
鬼頭 そうです。
とりあえず、誰かが死ぬ話にしようと。で、その死にいたる過程であるとか、死んだあとにみんながどんな影響を受けるのかをみせようというのが、今回の狙いですね。
吹上 二人で設定、キャラクターを決めた上で、性格、背景もこんな感じ、という具合に作りました。その上でだれに書いてもらったら面白いかと、いろいろ考えました。それから、作家さんに個々に当たって、結果この3人にお願いしました。
鬼頭 例えば春菊さんに関しては、ぼくが以前2回ほど仕事をしたことがあって、更に…。
吹上 今回の制作さんがお知り合いだということがあって(笑)。
鬼頭 二人が一緒にやりたい人にお願いするっていうのが、作家さんも役者さんも基本なんです。佃さんに関しては直談判でくどきおとしたんですよ(笑)。
−それでは、1本ごとに、誰が死ぬというのは指定なんでしょうか。
吹上 そうです。作家さん毎に指定しました。春菊さんには、この人を。佃さんにはこの人、葛木さんにはこの人を、という具合にお願いしました。
鬼頭 キャラも設定も全部決めた上で、後は自由にという風にお願いしたんです。
−競作というのとも違いますね。
吹上 ええ。それぞれ、お互いが何を書いているかは、やりとりはありませんので。
−本は稽古開始に間に合いましたか。
鬼頭 最終的にはギリギリでした(笑)。完成台本といいつつ、ぼくが現場で、変えていってます(笑)。
ぼくが映像の人間なんで、現場で変えるのがふつうになってます。聞いていて、ひっかかるところはどんどん変えていくという感じですね。
吹上 ふだんの劇団と違うことがやりたかったんで、いろんな作家さんもそうですが、役者さんも、この人とやったら面白いだろうな人からオファーしていきました。
−今のところどんな芝居になりそうですか。
吹上 とりあえず、今回は、当初ぼくが企画の段階で抱いていたイメージは、もちょっとファンキーな感じの芝居になると思ってたんです。
人が死ぬということに関して、重い死もあれば、軽い死もあるし、笑えちゃうような死もあるかな、ってイメージでした。やはり結果として、全部気持ち悪くなりましたね(笑)。それはそれで面白いです。見てる人の後味が結構気持ち悪い作品になるだろうな、と思います。
鬼頭 全くすがすがしさのかけらもない終わり方をします。基本、ぼくがドロドロ、ぐちゃぐちゃした話の方が好きなもので(笑)。
吹上 ある意味、それだからこそ客観的な部分もあると思ってます。
今回、お客さんには、あえてひとつひとつの話を誰が書いたか、提示しないつもりなんです。それも推理していただくという趣向です。次回公演とか、後になって実は…、とフォローしようかと思ってます。そういうしかけも楽しんでもらいたいんです。
−吹上さんに伺いますが、今までの劇団での芝居と今回のユニットとがどういう点で違うか、具体的に教えてください。
吹上 今回、ユニットを立ち上げるに当たって、初心に返るというわけでもないんですけれど、新しいことやりたいと思いました。なかなか劇団にいても、その中でぐーっといくのももちろんいいんですが、それだけじゃ少し面白くないかな、と思ったんです。
TRASHMASTERSは作演出家がきちんといます。劇団では役者だけなんです。もちろんその劇団での行為自体は面白いと思ってやってます。ただ劇団は本公演として、年に1度しかやってないんですよ。
それで、自分としてやりたいことをいろいろ考えまして、いずれは演出もしてみたいと思いました。そういう意味で勉強として、企画をたてるところから、意識的にやってみたいとユニットを立ち上げました。
−お二人は知り合いになって長いようですが、お互い組んで仕事をするのは初めてですか。
二人 全く初めてです。
−どうですか、お互いは、想像通りでしたか。
吹上 やっぱりというか、ほぼ想像通りでした(笑)。
鬼頭 まぁ、ぼくも想像通りかな、舞台で見ていたとおりというか。TRASHMASTERSで5、6本、それ以外も彼の舞台は5〜6年みてますから。わかってるからやりやすいということはあります。だから、逆に今はTRASHMASTERS芝居を壊すのに、注意してます。すぐそっちいこうとするので(笑)。
−気が早いですが、今後のユニットの展開についてはどう構想されてますか。
吹上 鬼頭さんと二人ユニットという形になったんで、この二人がやりたいことをやっていきたいと考えてます。
今回はこういう企画、座組になりましたけれど、劇団とかで方向性をしっかりきめて突き進むんじゃなく、こういう人とやりたいねとか、フリーな感じで、その都度やっていきたいと話しあっています。1年に1回くらいの間隔で続けていこうと思ってます。
もともとFRAMEPLOTSというのも「悪巧み」という意味なので、大人の遊びというような感じで行きたいです。
−勢い込んだ若者劇団じゃなく、ということですね。
吹上 そうですね。
ただもちろん、プロデュース公演の難しさを今後どう乗り越えていくか、というのは考えてます。座組は1回限りですから。
鬼頭 それに関しては、ぼくは慣れているというか。ぼくは基本劇団に所属したことがないんで、毎回必ずプロデュース公演でしたから。
吹上 だから次は全く違う話をするかもしれないし、すべて二人の話し合いで決めます。ただ今後も原案は二人で固めて、それから、依頼するという形をとりたいと思ってます。
鬼頭 全く投げっぱなしにするのも、意味ないな、と思いますし。
吹上 企画には、絡むことは絡んでいきたいわけです。演出と役者と、制作さんもいますからね。
問題は収支だけですね(笑)。
でも、絶対続けようとか、そんなに勢いこんでないんで、お互いの様子を見ながらですね。ゆるくとはいいませんが、こんなこともできるというのを提示できれば、いいと思いますし、
鬼頭 方向性がばらばらな作品になるとは思いますけれどね(笑)。
−鬼頭さんは、映画と演劇と両方おやりになって、違いとか、気をつけていることとかありますか。
鬼頭 基本的には映像の方も、舞台の方も演出家としての「芝居付け」は自分としては同じ感覚でやってるんですよ。
単純に映像だと撮った後に編集という作業があって、その編集でごまかせたり、うまくやったりすることができるんですけど、芝居はその編集作業も稽古でやるという違いくらいで、基本的には一緒です。同じ感覚です。
「映像っぽい」っていわれることがありますが、同じ感覚でやってますからねぇ(笑)。
見た人にたまにいわれるんですけど、「後ろ向いて役者がしゃべることが多い」って、それはあんまり前みなくちゃいけない、と思ってやってないんでね(笑)。基本的には同じスタンスでやっているわけです。
毎回舞台をやるときに思っているのは、どうせ映像の人間がやるんだから、映像を使うとかそういうことではなくて、芝居を見終わった後の感覚が、映像を見終わったときの感覚に近ければいいかな、と思っているんです。そいうところを舞台で試していきたいですね。
吹上 行為としてはどうやったって、演劇になりますもんね。みんなの前でやってるわけですから。
鬼頭 映像を撮って、映像を流すんだったら、ふつうに自主映画撮って上映会をすればいいじゃないですか。だから映像というふだんやり慣れているものに頼らずに、演劇として動きとか、ライティングとか考えていきたい。そして見終わった後に、「何か映像っぽい作品だったよね」とお客さんにいわれるのがいいかなと思ってます。
吹上 今後作品の中で、ここは演劇的要素でやったらおもしろいな、とかそういうものを付け加える可能性はあるだろうなと思います。
−最後に、お客さんへ今回のアピールをもう一度まとめてください。
吹上 作家陣が同じテーマで書いているということですね。こういう企画は、まずないと思いますんで、これが一つのウリです。一本で3回おいしいです(笑)。結構無茶だと思うんです。どれも1本で90分持つような内容がありますので。
鬼頭 同じ役者、同じ演出家で違うものを見せられるということをいいたいです。単純なオムニバス作品ではないということです。
−本日はありがとうございました。
TRASHMASTERS:2000年に中津留章仁率いるlast creators productionが立ち上げた2つ目の演劇ユニット。
<ひとこと>ベテラン役者と実績ある映像作家とのユニットでお互いが好きなことをやろうあつまったという大人なテイストのユニットです。それぞれの主戦場と異なるところでやりたいことをやって、またそれを自らのホームグラウンドに持ち帰るという、良い循環が期待されます。(インタビュー・構成 カトリヒデトシ)