<後藤優也さん>劇団 夢幻堂第2回公演「瞬きの都」(2010年4月9日-11日)
 ふつうの演劇にも不条理性はある。身近なことから「不条理劇」をつくっていきたい

後藤優也さん

後藤優也(ごとう・ゆうや)
  1977年7月8日生まれ。1994年5月游劇社入団。2001年5月むげん堂旗揚げ公演。
以後「劇団在」を軸に客演活動を経て、今回、名前を「夢幻堂」と改め活動再開。『親しみやすいお茶の間不条理』を旗印に鋭意活動中。劇団の基本は鳳いく太氏の戯曲をベースに新宿タイニイアリスを拠点として活動予定。

−むげん堂(当時は平仮名)は2001年5月に立ち上げということですが、どういう経緯で設立したのでしょうか。
後藤 鳳いく太さん主宰の「游劇社」(※1)の若手3人で結成しました。当時劇団員の中で、若手の比率が低かったもので、若手だけで何かできないかということになりました。鳳さんに頼みこんで、しぶしぶ作・演出を引き受けていただきました(笑)。せっかくだから、別のユニット名をつけたということです。今回と同じように3日間で5ステージの公演でした。かじゅよ、という女優と志同波(シドハ)と3人でしたが、志同波がその公演で游劇社を辞めることが決まってたので、一度かぎりのつもりでした。その後游劇社の解散があったので、各々フリーで活動していました。
−それで、今回2回目の公演になるわけですね。第1回と同じ「瞬きの都」を再演するのですね。
後藤 そうです。
−脚本は9年前と同じなんでしょうか
後藤 私自身が演出家として手をいれ、かなり変えるつもりだったんですが、結果的には多少の手直しという感じになりました。

−出演者が3人ということですが、後藤さん自身もでられるんですね。
後藤 そうです。現在、「夢幻堂」は後藤の一人ユニットという形ですが、今後劇団化するつもりですので、そうすると自分は主宰としてでられなくなるだろうから、今回くらいしか出演の機会はないかなと思いまして(笑)、継続の意思の表れということです。他の二人、大竹浩平、熾田リカはフリーの人たちで、過去に共演した知り合いに声をかけました。大竹くんは高校演劇からつづけている社会人劇団をもっています。20代半ばの色気のある役者で、華があって動きにキレがあります。熾田は30代前半です、唐組にいて、その後劇団劇団にいって、羽衣にでて、その後フリーになったという人です。力のある人たちなんで、原作では私のやる田中が主役なんですが、今回は周りの比重をあげて、私の田中という役が主役というわけでもなくなってます。

−後先になりましたが、後藤さんの演劇的な経歴はどのようなものですか。
後藤 昭和52年(1977年)生まれです。演劇的な専門教育は受けてませんが、従姉妹に女優をやっているのがいたので、ものごころついた時から、シアターアプルとかで従姉妹を見ていました。まぁ、今やってるものとは全く真逆でしたが(笑)、でまぁ、自分も好きなことをやろうと、19歳の時に游劇社に入りました。解散するまで5、6年くらい在籍していました。劇団がお休みになってからは、私自身も休んでいた期間もあるんですが、声をかけてもらったところに出演するという形でやっていました。年間3本程度でしょうか。劇団「在」さんとか、自分と同年代の劇団への出演が多かったです。游劇社のころは、若手が少なかったせいか、ふつうの青年という役所が多かったですね。平凡な、何かが起こるとびっくりしちゃって、その出来事に巻き込まれていくという感じでした。最近は巻き込む側ですね(笑)。周りからは「クセが強い役者」といわれてます。自分じゃわかんないですけど(笑)。

−9年ぶりにユニットを始動したのにはどんな思いがあるんでしょうか。
後藤 役者としては今後もフリーでやっていくつもりですが、舞台を「作る側」として、別にやりたい、やってみたいことがあったんです。それをやろうとすると、どうしてもカンパニー的な「器」が必要だという事がありました。「むげん堂」は解散せずに、活動停止という形にしてあったので、昔の仲間のかじゅよに確認をとって、了承をえて再開ということになりました。
−ユニットとしては、今後どのような展開を考えていらっしゃるんでしょうか。
後藤 今後は年1回くらいのペースで自分の好きな「不条理劇」をやって行きたいと思ってます。 今後も鳳さんの脚本を使わせてもらいたいと思っているんですが、私のやりたいことと、游劇社でやってたことは、全く一緒というわけではなかったので、夢幻堂では若干演出上で手直しをいれながらやって行きたいです。鳳さんの脚本を、その都度話をさせてもらって使わせてもらおうという考えです(笑)。

−不条理劇にこだわっているということですが、翻訳ものとかは考えていないんですか。
後藤 そうですね…。身近に感じるものがいいんですね。と言っても今回の「瞬きの都」は、鳳さんに注文をだして書いてもらったもので、ちょっと日常から離れた設定ですけれど…。 今後はもっと自分の身近な生活感あふれるものから、不条理に近づいていくという世界が描きたいと思ってます。不条理劇を見る人にやさしくしていきたいんですよ(笑)。鳳さんには新作も頼めればという願いももっています。
−9年前との違いや、今回の見所はどんなところでしょう。
後藤 この作品は「えひめ丸」(※2)の事故を題材にしたものです。今回手直しした中でも、その設定は残っているんですが、それを前面にださない形にしてあります。田中という人物が事故後、生死をさまよっているんですが、その意識の中に昔の若いころの記憶が現れてくる。そこに現れた人々との会話の中で徐々に現在の状況に気づき始めるという話です。そこでのやりとりをより前面にだそうかなと考えました。時代とかに左右されるのではなく、自分の世界に引き寄せたものにしたいと思っています。
−後藤さんが考える「不条理劇」の大切なところは何でしょうか。
後藤 不条理劇というのは、どんなに色が強くても、やってる側では成立しています。ただ余りにもいろいろなことが羅列されてしまうと、見る人にとっては消化不良を起こしてしまうと思うんですよ。だから初めて「不条理劇」を見た人が、わけのわからない設定だと感じても、もう少し消化不良をおこしづらいものにしたいです。見てる人に「これは何だろう」と考えてもらいたい。そういうことがあってこそ、面白いものになるだろうと、考えています。夢幻堂ではそういうことをやって行きたいです。お客さんには、不条理って面白いもんだなと思ってもらえて、鳳さんにおもしろくねぇよと言ってもらえれば、成功かなと思ってます。その辺は好き勝手手直しするからね、と断ってあります。「あげたもんだから好きにすればいいじゃないか」と言われてます(笑)。 ふつうのお芝居でも、不条理的な部分というのは結構あるはずですしね。
−その思いを表現するために後藤さんはどこに一番こだわるんでしょうか。
後藤 ふだん当たり前に生活している日常でも、ちょっとこうボタンを掛け間違えると、どえらいことになってしまう、という発想ですか。そういうことが起こることに着目するのが面白いと思っているんです。ふつうに「面白い」だけなら芝居にしなくてもいいんじゃないでしょうか。せっかく舞台でやるんだとしたら、生で見て面白いものにしたい。
そのために「仕掛け」には強くこだわりをもっています。「装置」とかですね。 だから舞台上にセットを立て込むというよりは、立て込む予算があるなら「仕掛け」を作りたいと思っちゃうんです。今回も舞台上で仕掛けを含め、いろいろむちゃをしてます。驚きをちりばめてありますよ。タイニイアリスを素舞台で使うんですが、極めて小劇場的な世界を作って仕掛けを豊富にしてあります(笑)。
−演劇的な楽しさにみちていそうですね。ありがとうございました。

※1:游劇社:http://homepage2.nifty.com/ootorigekidan/yuugekisya.htm
※2:「えひめ丸」事件とは、2001年2月ハワイ・オアフ島沖で、愛媛県立宇和島水産高等学校の練習船「えひめ丸」が浮上してきたアメリカ海軍の原子力潜水艦「グリーンビル」に衝突され沈没した事件。

ひとこと> 小劇場は新作の上演が多い。力のある作者の作品でも再演されることは少ない。ほんとうにもったいないことである。劇団が休止した後でも、元の劇団員が上演したいと思う作品があり、劇団員のつながりがある。「游劇社」は本当に素敵な劇団だったのだと思う。(インタビュー・構成 カトリヒデトシ)

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