<橋口周公さん、原田シェフさん> ヲカシマシン第4回公演「街」(2010年8月27日-29日)
 出会い、すれ違い、去っていく場所の猥雑と怖さ

橋口周公さん、原田シェフさん

橋口周公(はしぐち・しゅうこう)
1989年(平成元年)神奈川県小田原市生まれ。明治大学文学部在学。桐蔭学園高校の演劇仲間と2008年にヲカシマシン結成。翌2009年に旗揚げ公演。
原田シェフ(はらだ・しぇふ)
1988年神奈川県川崎市生まれ。桐蔭学園高校で演劇活動を始める。ヲカシマシン結成に参加。以後、すべての公演に出演。
webサイト:http://www.wokashimachine.com/
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−みなさんの劇団は「ヲカシマシン」というちょっと珍しい名前です。「ヲカシ」は古語の「をかし」が由来ですか。どんな経緯で決まったのか、込めた意味合いも含めて話してもらえますか。
橋口 旗揚げの時、劇団員やそのときの座組の人たちが候補になったいくつかの名前から選びました。投票したらほとんどがこの名前に集中しましたね。おっしゃるとおり「をかし」を「マシン」に合わせてカタカナ書きにしました。いまの滑稽という意味より、奥ゆかしいとか優美とかいう感じも含めて複合的な意味合いを持たせてます。

−舞台の特色とも重なるんですか。
橋口 そうしようとねらったわけではありませんでしたが、第4回まで来て毎回違ったことをしてきて、結果的には一つの色に限らない、いろんなものが重なっている形になりました。

−どんな人たちで旗揚げしたんですか。
橋口 高校時代(桐蔭学園高校)の演劇仲間4人にぼくから「台本ができたから芝居をしよう」と一方的に声をかけたのがきっかけです。旗揚げは4本の短編を集めた公演で、4人が順繰りに違った組み合わせで2人ずつ同じ場所に登場して話が展開するという作品です。4つの別の芝居でありながら、役者間ではループしている構成でした。

−その仕掛けに気付いたお客さんはいましたか。
橋口 いやあ、あまり。それぞれの短編を楽しんでくれたみたいです。

−仕掛けが見え見えでみんなが分かってしまうのは興ざめですが、だれも気付いてくれないものちょっと寂しいのではないでしょうか(笑)。さて、橋口さんは作・演出となっていますが、戯曲を書くだけで演出を他に人に任せるとか、他の人が書いた作品を自分で演出するとか、戯曲と演出の分離を考えませんか。
橋口 台本を書くだけでなく、演出を考えることをふくめて全体がぼくの作品、表現だと思っていて、というか自然にそうなっていたんだと思います。演出はあまりうまくないんですけど(笑)。

−原田さん、自分で演出したいと思ったことはありませんか。
原田 エッ、ぼくですか? ない、ないです(笑)。
橋口 ぼくの作品は物語がきちんとあって喜怒哀楽がそのなかに折り込まれている、というわけではありません。そういう意味では他の人に演出を任せるとどうなるか興味がないわけではありませんが、やはりまだ自分で作・演出の方向を突き詰めてみたいと思います。

−劇団のwebサイトを見ると、橋口さんは最初、「主宰」だったのに、間もなく「原作者」になってますね。
橋口 ええ。主宰だと、1人がリーダーになってあとが従うといった上下関係が感じられるので、あえて原作者に切り替えました。ぼくが作った元であるだけで、あとはどんなに改変されてもかまわないという意味合いでもあります。

−今回の第4回公演「街」はどんな舞台になるのでしょう。
橋口 渋谷だったり新宿だったり大勢の人が集積する場所を対象にして「街」ととらえて、そこにどういう人たちがいて、どんな生き方をしてその街にやってきてまた去っていくのか。そういう街そのままをとらえてみたい。そう考えた作品です。

−人の集まるところが「街」だとすると、観客の視線が組織される空間が「劇場」だとしても構わないわけでしょう。いわゆる建物としての劇場だけでなく、野外や街頭など劇場以外の場所や空間で上演しようと考えたことはありませんか。「街」が主題だったら、渋谷や新宿の街頭でも可能ではありませんか。
橋口 ありはありですね、寺山修司的なやり方でもありますが。1年ほど前にそういう考えは自分の中にもあって、街を表現するときに、実際に街にぽっと存在する演者にやってもらうことも考えました。しかし劇場という限られた空間に自分の主張というか、自分の思っている想像を一つの具体的な形にして提示したい。こういう形でコミュニケーションをとれればいいといまは思っています。

−旗揚げの頃からそういうコンセプトはあったんですか。
橋口 野外や街頭でやるということは最初の頃は思いつき程度の話題にはなりましたが、理論が伴わなかったですね。でも自分の想像を形にしていくという方向は一貫してます。エンターテインメントとして上演してお客さんが楽しんでくれればいいというよりは、自分の想像を凝縮させて舞台化したいと考えていました。

−台詞が重要な役割を果たすような作品なんですか。
橋口 ぼくの場合は絵のイメージもありますが、台詞先行です。よい台詞が書けるかどうかが問題ですね。

−台本の進行は?
橋口 まだ半分ぐらいかな。最初はこんなんじゃなかったけど(笑)。だんだん遅くなってきました。
原田 できあがった部分を読むだけでもかなり舞台が見えてきますね。
橋口 それでもぼくの書くものは、最後までいかないとやはり方向が見えてこないかもしれません。それまでは演出の際に言葉を重ねていくんですが、役者の思うこととそれが重なればおもしろくなっていくでしょうね。

−前回公演と今回の違いは?
橋口 前回の第3回公演「背馳〜そうして最後に残るもの〜」はスピード感覚を大事にして、上演時間1時間を駆け抜けてみたいと思って作りました。人生80年の時間をどんどん飛ばして進んだり戻ったり、場所も変えたりしてみました。今回は物というか舞台装置もかなり入れる予定です。前回が時間という縦軸の流れを急速に行きつ戻りつしたのに対して、今回は場所という横軸でとらえます。街という同じ場所、同じ空間で起きていることを取り上げて、実際に人が行き交う街を舞台にしていますが、そこは猥雑だし無秩序に加えて、そこで行き交う人たちが何をしたくて来たのか何を考えているか分かりません。その怖さを感じてもらえたらと思います。

−タイニイアリスで上演することになったのは?
橋口 自分たちのサイズから選びました。前回はコンパクトな芝居だったので渋谷のギャラリー・ルデコにしましたが、今回はぼくらにしてはちょっと大きめのサイズで広がりのある作品を上演したいと思ってタイニイアリスにしました。

−今回登場するのは…。
橋口 一応7人ですが、1人で何役もやったり、エキストラ的な人物もあります。女性は2人です。

−女性の登場は今回初めて?
橋口 いえ、そんなことはありません。女性が出演しなかった旗揚げ公演でも、会話の中で女性を話題にしましたし、いつも舞台には登場させたいと思っています。
原田 いやあ、男だけだと限界があると思いますよ(笑)。いろんな役者が居ていろんな個性があった方がぼくらの芝居はおもしろい。それは確かです。

−原田さんは旗揚げメンバーですか。
原田 そうです。

−今度が第4回公演ですが、この間の舞台は作風がかなり変わってきてますか。それともある方向を突き詰めて進んでいるんでしょうか。
原田 そうですね。正直言って毎回変わっていますね。やりたいことが毎回違っていると思うので、イメージがその都度変わります。でもその中で橋口の色がにじみ出ていると思います。

−影響を受けた舞台や小説、音楽にはどんなものがあるでしょう。
橋口 影響を受けたといえば、さまざまなものが挙げられますが、演劇に関してだと第三舞台や夢の遊眠社、大人計画もそうですね。現代に飛ぶとチェルフィッチュとか。あとはアングラ系もいろいろ。映画も結構見ているし、大学に入ってから見たゴダールは衝撃でしたね。野田秀樹作品で時空を飛んでいく感じよりも、ゴダール作品のカット割りでシーンが飛んでいく方がぼくはしっくり来ますし、ぼくの舞台はゴダールの影響の方が強い。小説では坂口安吾や稲垣足穂かな。空想のなかに飛び立てる人たちが好きなので、ぼくにそういう傾向があるのかなと思います。

−公演のアンケートは書いてもらってますか。
橋口 ええ。第2回「奈落に落ちゆく君を愛す〜」は、長い! と怒られました。上演時間が2時間半でしたから(笑)。第3回の「背馳」は、すごく飛びまくったので「分からない」という内容が多かった。でもお客さんへのテーマが「混乱させる」でしたから、その通り混乱したという意見もありました。ぼくらが意図した以上のことを受け取ってくれる方もいるし、ということはぼくらが自分たちの作品の可能性に気付いていないということでもあったりしますね。アンケートや演劇情報サイトCoRich での感想はぼくらが思った以上の鏡になっていると思います。
原田 自分が考えていないことを、お客さんが考えているんだなと思って、新しい発見でした。
橋口 旗揚げから公演を3回、今度が4回目になりますが、だんだん自分が純粋にやりたいことが分かってきたような気がします。ある作品を提示して、お客さんがその場で楽しんで拍手してあとは忘れ去られるよりは、いつか忘れられるかもしれませんが、お客さんと対話したり挑発したりすることを自分たちがやりたいのだなと分かってきたんです。今度の第4回公演は、他の人生に接触したり接続したりしてみたいと思います。
(2010年7月23日、新宿の喫茶店)

ひとこと> インタビューのあと、演劇情報サイトCoRich で前回公演の感想ページをみたら、満点の五つ星が並んでいました。なるほど、手応えがあるはずです。 雅やかな古語を劇団名に持ってくるのは「いとをかし」。チラシのデザインやwebサイトのスタイルもひときわ優美です。経験則では、こういうセンスは作品内容と案外相関関係が高いんですよね。出来不出来はあるかもしれませんが、クオリティの高い舞台を願って、ちょっとワクワクしてきました。(インタビュー・構成:北嶋孝@ワンダーランド)

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