<川口典成+清末浩平さん> ピーチャムカンパニー「オペレッタ 黄金の雨」(2011年3月18日-3月28日)
 新宿の街に黄金の雨が降る! オペレッタで『アースダイバー』舞台化

Dr.エクアドルさん

川口典成(写真左) 1984年広島県生まれ。東京大学大学院宗教学宗教史学在籍。東大在学中に劇団地上3mmを旗揚げ。劇団サーカス劇場と出会い、2010年ピーチャムカンパニー旗揚げ。代表・演出家。
清末浩平(右) 1980年大分県生まれ。東京大学大学院国文学修士課程修了。東大在学中に劇団サーカス劇場を旗揚げ、代表。ほとんどの作品でオリジナル脚本・演出を務めてきたが、2009年より脚本担当に一本化。2010年ピーチャムカンパニー旗揚げに参加。脚本担当。
webサイト:http://peachum.com/
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−次回公演は、中沢新一さんの著書『アースダイバー』が原作だそうですね。この本はずいぶん前に出版された印象がありますが…。
川口 2005年6月に講談社から出てるので、そんなに「ずいぶん前」ではありませんよ(笑)。

ーそうか、時間感覚が怪しくなる年ごろになったんだ、申し訳ない(笑)。東京を時間旅行したらどういう風景が立ち上がってくるかというのがこの本のコンセプトだと思うけど、そこは中沢さんらしく明治や江戸ではなく、一挙に縄文時代に遡って、そこから東京の原風景と現風景を交錯させようとする試みでした。昨年、宮沢賢治の「ビヂテリアン大祭」を基にした作品を上演しているとはいえ、中沢さんの著作を演劇化するとは、ピーチャムカンパニーにいったい何が起きたのでしょう、どんなわけでこれを上演することになったのでしょう。まあ、ぼくでなくとも聞いてみたい質問ですよね(笑)。
川口 まず上演する劇場が新宿のタイニイアリスと決まってから、その劇場にふさわしい使い方、その場所にふさわしい演劇は何かと考えていたときに『アースダイバー』が浮かんできました。もともと海だったところと陸だったところの緊張と対立から町のダイナミズムが生まれているという中沢さんの見方から、新宿の新しいイメージが発見できるのではないかと考えました。『アースダイバー』を道連れにして、いまの新宿と異なる新宿とが演劇を通して出会えたら、タイニイアリスという劇場でうまく発熱できるのではないか、そのきっかけになるのではないかと思ったわけです。

−劇団のwebサイトにも、そのあたりの経緯が載っていましたね。ただそのとき思ったのは、なぜ明治や江戸ではなくて、縄文まで遡る必要があるのか、ということでした。新宿でも渋谷でも日比谷や銀座でも、近代化が進めば町はがらがら変貌していきます。むしろ新宿の現在を考えるなら、タイニイアリスのある新宿2丁目の現在のいかがわしいさ、まがまがしい雰囲気を吸い込んだ舞台を作る方向になるのが普通ではありませんか。
清末 もちろんそれは考えました(笑)。でもそれをもう一度ひねってみたかった。そういう現在の特色の強い作品を作れば、観客はいまあるイメージからあまり抜けられないし、そういうくくり方になってしまう。だから別のところから新宿という場所にアプローチしてみたかった。

−もうひとつ、今度はオペレッタに挑戦ですね。現代演劇でオペレッタというと、ぼくは、こんにゃく座や黒テントを思い出します。歌や音楽がふんだんに出てくる芝居は俳優に負荷もかかるし大変だと思うのですが、その難しい条件に川口さんがどんな方法と条件で切り込むか、勝算はあるのかとても興味がありますね。
川口 なんでオペレッタかというとまず、今回の上演に際して調べた資本主義や歴史という話を固くやるのは避けたかった。歌と踊りの入るオペレッタというファンキーな形式なら、その固い話を軽くぶっ飛ばして、お客さんに楽しんでもらえるのではないかと。それが最初ですね。勝算と言われれば、大変なのは分かってましたけど、ともかく突き進むしかない(笑)。音楽は前回公演でもオリジナル曲を使ったんですよ。今回なんで歌入りかというのは、清末さんにあるアイデアがあって…。
清末 それを事前に言っていいかどうか…。
川口 そうなんだよね(笑)。

−音楽のクレジットを見ると、演奏はアースダイバー・カルテットとなってます。クラシック系の音楽になるんですか。
清末 それも言っていいのかな、という感じがあるんですけど(笑)。
川口 うーん、クラシックの技法でするわけではなくて、かぶくということ、かぶく精神とはどういうことだったのかを、歴史的な背景もうまく使いつつ、作品でも音楽でも表現したいということなんです。

−それは楽しみですね。作曲するゴールドレイン楽団は?
川口 3人です。バンドで活躍するメンバーが集まりました。
清末 プロとしてレコードを出している人もいますね。

−今度の作品は、室町時代の中野長者伝説を基にするそうですが、舞台の時代設定はいつでしょう。室町時代ですか、それとも現代になるのですか。
清末 江戸時代です。いろんな経緯があってそうなりました。現代にすると、説話の世界があまりにも遠く感じられるし、消費財にしかならない。ある共同体の中で説話が重く受け止められていたのが室町なら、現代は説話がネタとして消費される時代だと思います。ちょうどその中間点を探すと、それが江戸時代だったんです。その移り変わりを描くことによって現代にもつながることができると考えて江戸を選びました。
川口 新宿という宿場町をつくる過程にメスを入れる清末さんの台本なので、町をつくるエネルギーを芝居的にうまく利用してみようと思いました。

−宿場なら、流れ込んでくる人やものや情報と、出て行くものと、その両者の動きが描けると生き生きしますね。登場人物は多いですね。
川口 15人ですね。
清末 昨年「アルトゥロ・ウイの興隆」を上演したときは9人かな。今回はプロデューサー(森澤友一朗)とも話して、15人ぐらいが落としどころだろうということになりました。
川口 付け加えると、役者の年代も幅が広くて、スタッフはほとんどが20歳代ですけど、70歳間近の方から40歳代、50歳代も参加していただけるのは大変ありがたいです。

−劇場を選ぶ基準、理由はありますか。
川口 その時々の条件次第ですね。
清末 うちの劇団にはプロデューサーがいるので、彼と話し合って決まります。彼がいちばん劇団の将来、進路を考えているので、まず彼が提案して、それから場所が決まります。登場人物もどれぐらい、それならどんな作品にするか、と話が決まっていきます。

−十数人が登場する舞台は、台本が大変じゃないですか。
清末 そうですね。前回の「口笛を吹けば嵐」も十数人が登場するのでとても苦労しました。登場する一人一人にドラマがあるように書くのが大変で、結局上演時間3時間になってしまいましたが、今回は急激に進歩して、2時間半(笑)。すべて経験と勉強だと思いました。

−いま上演中の「浮標」(三好十郎作、長塚圭史演出)は休憩を2回挟んで計4時間、昨年は8時間かかる芝居もありましたね。
清末 上演時間が長いのも一概に悪いとはいえないと思います。2時間ぐらいだと、消費のパッケージに組み込まれやすいでしょう。

−中沢新一さんと話したんですよね。演劇化したいとお願いしたらどうでしたか。
川口 会った最初から、どうぞやってくださいと親切な言葉をもらいました。交渉という感じではありませんでした。ぼくがいま(東京大学)大学院宗教学科で勉強していると話したことからさらにうち解けた空気になって、こちらからいくつか質問させていただきました。たとえば蛇のことで言えば、中沢さんは一言で「蛇って流動体だから」と話してました。伝説の中で(中野長者の娘が)なぜ蛇になってしまったか、この作品のキーポイントになる大事な点でしたが、思わぬところから答えが返ってきた感じです。
清末 中沢さんの著書をそのあと読んでいったら、そう指摘した個所がありましたね。

−そのあたりをもう少し話してもらえますか。
清末 中野長者伝説は、あるとき富を得た男がそれを野原に埋め、作業した男たちも口封じのために殺してしまう。するとその後生まれた娘が沼に入って蛇に変わってしまう、というお話です。天罰が下ったということなんでしょうが、富を独占して隠したから天罰なのか、それとも証拠隠滅のため作業員を殺したから天罰なのかと中沢さんに尋ねました。答えはざっくり、両方でしょう、でした。というのは、富は社会の中を流れていなければならないものなのに、それを独占して隠してしまったために蛇につながったと言うのです。富が流れるのと蛇が動くのとは同じだから、というお話でした。

−財宝を隠し、作業した人も殺したため罰を受けるという説話はよくある説話ではありませんか。
川口 基本的には異人殺しによって動物になった話は各地にありますが、富の独占と隠蔽によって動物になったケースはあまり聞きません。人を殺してお金を奪ったので天罰が下ったという話は各地にあります。
清末 六部殺しなどの話がありますね。
川口 そうそう。
清末 中沢さんは、いろんな事柄に自分の定義をちゃんと用意していて、聞かれたらすぐに答えられる。さすがだと思いました。

−今回の公演は「urban theatre series」の第2弾だそうですね。このシリーズはどういう趣旨なんでしょう。
清末 それが大問題なんですよ(笑)。
川口 このシリーズは、うちのプロデューサーが設定したコンセプトに、われわれがどう(作品を)落としていくかという過程でもありますね。現代都市はあらかじめできあがったものではなくて、生成する場所、自分たちがそこにいて行動することによってできあがっていく街だと思います。そこでは視線を少しずらすことで見えてくる風景が違ってくる。ぼくが『アースダイバー』で教えられましたが、同時に同じことを考えてきたからこの著書に出会ったとも言えます。
清末 プロデューサーはできたばかりの劇団にある方向性を与えたい、とこういうことでコンセプトを考えたのではないでしょうか。脚本家と演出家がそれを受けて具体化しているわけです。川口は、ぼくらが立っている都市とはどんな場所なのかを探っています。脚本担当のぼくは、このシリーズは資本主義に関する演劇だと思っています。それぞれが考えていることが組み合わさって、このシリーズがあるということではないでしょうか。第3弾は、東京タワーを取り上げたいと思っています。今年スカイツリーが完成しますから、アーバンシリーズにはちょうどいいのではないでしょうか。

−昨年旗揚げして3作連続上演に続いて本公演と、すごい勢いで走ってますね。
川口 ともかく劇団になりたかった。上演を次々に続けていけば、ぼくらが抱えている課題も問題も浮き上がってくる。それだけ集中してやったら精神状態も当然おかしくなるでしょう(笑)。それを洗いざらい話し合い、問題を出し切って先に進みたいと思いました。
清末 走ったおかげで劇団員も増えたし、仲間もネットワークも広がったのが最大の収穫です。いま役者が4人になりました。

−脚本担当としてはどうですか。
清末 勉強の連続でした。教えられましたね。

−でも清末さんは前の劇団(サーカス劇場)で10年近く作・演出を務めていたわけでしょう。それでも台本を書く上で新しい発見があったのですか。
清末 はい。作・演出時代とは全然別の視点が要求されます。書いている途中で、こういうことをこういう視点から書いていると話すと、その時点からいろんな意見や注文が入ってくるわけですから。それに応えていく作業はこれまで経験したことがありませんでした。演出の川口は、脚本にある種の古典的な完成度を求めてくるので、なるほどこういうことを書けばこういうことが達成されると分かった。前作のように脚色していたときは原作者の胸を借りていた面がありましたが、いまは書き方をゼロから教えてもらって勉強中です。

−劇団員が増えてますが、これからも募集しますか。
川口 いま募集してないですが、これから募集しないということでもありません。ただむやみに団員を増やすのではなく、いまの団員たちとどういう作品をつくっていくか、どういう関係性を構築していくか、が大事ではないかと思います。

−団員は現在、俳優もスタッフも、ともに全員男性です。これはなにか理由があるのでしょうか。
清末 そこは問題があると思っています(笑)。

−小劇団は主宰と主演俳優の仲、つまり男女関係が壊れると崩壊する話をよく聞きますね。
清末 そうならないという意味では、平和です(笑)。

−しかしオペレッタに挑むとは、大胆ですね。
清末 オペレッタもカギ括弧付きの「オペレッタ」と思っていただければ…。
川口 オペレッタもカルテットも、正面からクラシック音楽に挑戦するというのではなく、むしろそういう枠組みのパロディーと考えていただいて構わないと思います。台本にも、別の作品の引用が仕込まれたりして、なるほど舞台を江戸時代にしたわけが分かるようになっています。

−まさかチェーホフではないでしょうね。
清末 当たり! チェーホフです。湖と芝居、といったらチェーホフでしょう(笑)。

−そうか、なるほど。公演、期待しています。
(2011年2月9日、新宿の喫茶店 インタビュー・構成=北嶋孝)

【上演記録】
ピーチャム・カンパニー「オペレッタ 黄金の雨」(urban theatre series #2)
新宿・タイニイアリス(2011年3月18日-28日)
原作 : 中沢新一『アースダイバー』(講談社)
脚本 : 清末浩平
演出 : 川口典成
音楽 : ゴールドレイン楽団
出演
堂下勝気 八重柏泰士 岩崎雄大、平川直大 (以上、ピーチャム・カンパニー) 松隈量 日ヶ久保香 湯舟すぴか(市ヶ谷アウトレットスクウェア) 太田鷹史 浅倉洋介 久我真希人(ヒンドゥー五千回) ワダ タワー(クロカミショウネン18) 金崎敬江(miel) 小野千鶴 本多菊雄 磯秀明
演奏:アースダイバー・カルテット
スタッフ
脚本:清末浩平
演出:川口典成
美術:水谷雄司(王様美術)
照明:須賀谷沙木子(colore)
音響:池田野歩
音楽:ゴールドレイン楽団
衣裳:竹内陽子
小道具:辻本直樹(Nichecraft)
演出助手:松下有宇
舞台監督:島洋三郎(πプロジェクト)
宣伝美術:中居義勝(中居でざいん企画制作室)
制作:岩間麻衣子
プロデューサー:森澤友一朗
主催:ピーチャム・カンパニー
協力:クロカミショウネン18、ヒンドゥー五千回、市ヶ谷アウトレットスクウェア、miel、サムライプロモーション、ダブルフォックス、スターダス21
生バンド演奏者

キーボード:名村徹真、吉田能(花掘レ、PLAT-formance)
ギター:内野宏則、西依翔太(チーナ)
ベース:小島尚人(worst taste)、佐藤鷹(Sad Paradise Obsession)、富樫亮
ドラム:鳥越弾(ダニースミス・プロジェクト)、村木昂大
入場料金

前売券(事前入金) 3300円  当日精算券・当日券 3600円
早期観劇割引(18〜21日の公演)/前売(事前入金):3000円
早期観劇割引(18〜21日の公演)/当日精算券・当日券:3300円
☆学生割引・新宿区民割引(新宿区在住・在勤):上記前売料金より500円割引(前売のみ)
☆リピーター割引:本公演に2度目以後の来場は一律で2000円に割引(他の割引との併用不可、チケットの半券持参)

 

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