<金光仁三さん> 激団リジョロ「アルケー//テロス」(2011年10月6日-10日)
 「感情の向こう側」を模索して 「ハードコア」で演劇復興

Dr.エクアドルさん

金光仁三(1974年生まれ。
 大阪市出身。関西学院大学の演劇サークルを経て、上京。劇団オルガンヴィトーへ入団し、アングラ演劇を学ぶ。その後TV・映画出演を経験し、『劇団リジョロ』を旗揚げ。2007年より『激団リジョロ』へと改称、ハードコア演劇を立ち上げる。圧倒的な存在感とリアル。"暴力"と称された爆発力のある演技に定評がある。俳優・脚本・演出…舞台にまつわることはなんでもこなす生粋の演劇人。シアターシャイン下半期演劇奨励賞・優秀作品賞を三連続受賞。2011年からはアドリブ芝居イベント『II-Bass』をプロデュースしている。激団リジョロ団長。
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−劇団名の由来を教えてください。

金光仁三(以下金光) フランス語の「RIGOLO(リゴロ)」で笑われ者という意味なんですけど、僕が「リジョロ」と読み間違えて、そのままつけてしまったんです。人を笑っているより、笑われている方が幸せかなと(笑)。笑われていることを受け入れるという器って大事だと思うんです。メンバーが変わり、僕が書いているハードコアというものを昔からやりたかったので、それを前面に出したくて3年半ほど前に「激団」をつけました。

−劇団のスタイルやコンセプトはどのようなものですか。

金光 ひとことでいうと「ハードコア」です。「叫ぶ」「動く」といったものを全部「ハードコア」というひとことで表現しています。ライブ性も重視していますね。俗にいう演劇の会話や手法にあまりこだわらないというのがコンセプトです。小劇場のように、会話劇や発声などの見せ方でストーリーを運ぶというわけでもないですし、メソッドといった表現を用いるわけでもないので、人が持っているものだけで芝居をどんどん作っていくというやり方です。

−「ハードコア」をやりたいというのは、影響を受けた人物や作風というのがあるんですか。

金光 作風は唐組の芝居のような感じです。僕はアングラが好きなんですよ。26、7歳の時、状況劇場から唐組へと在籍されていた不二稿京(元・藤原京)さんのオルガンヴィトーという劇団に2年ほど所属していたので、圧倒的にそこでの影響を受けていますね。芝居のスタイルじたいはアングラでは全くないんですけど、共通項的には、今の現代劇や会話劇よりはアングラに近いといわれることが多いです。

−「ハードコア」というと、音楽にもこだわりがありますか。

金光 音楽はメタルが多いです。ただ、劇中は曲を流すよりは、役者のセリフで勝負するので、他の劇団よりは音楽が流れていることじたいは少ないんじゃないですかね。バンドやミュージシャンなどのライブ性に、セリフだけで近づけるようなもの。結局、めざしているのは、そういうところかもしれませんね。

−音楽効果よりも、役者のセリフで勝負するということですね。
金光 SEはもちろん入れますが、曲じたいはほとんど流れません。選曲は僕と音響スタッフで選びますが、オリジナル曲を入れることもあります。劇団内でバンドやっていたので、昔、僕がボーカルでライブハウスにバンドとして出たこともあります。「激団」を加えた1回目の公演「PROTO」の時は音響を使わずに、ステージの中に自分たちのバンドを入れて、メタル音楽を生演奏しながら、芝居をしました。

−生演奏しながら、芝居をするとはすごいですね。

アダチマミ×無所属ペルリ公演から
【写真は、激団リジョロ公演から。提供=激団リジョロ 禁無断転載】

金光 その「PROTO」のお芝居をタイニイアリスや小劇場用として構成を作り変えたのが「アルケー/テロス」です。「PROTO」にはなかった僕が生まれた大阪市生野区のお話を入れて、少し在日の色を入れたお芝居です。ただ、芝居を観て、在日っぽく見えないと思います。今回の作品も役柄は在日韓国人という言葉は出てきますが、ほとんど韓国のお話は出てきません。学校もずっと日本の学校でしたし、僕自身が在日意識って、それほどないんです。日本で生活して、日本らしいけど、肩書きは在日というのをそのまま作品に落としてみたんです。

−生野区は韓国人が多いんですか。

金光 生野区の小中学校は、クラスに日本人と韓国人が半分ずつぐらいいるので、どちらも特に意識がないんです。たとえば、韓国人の家に行ってご飯を食べる時、食卓にキムチとかチヂミが出てきても違和感はありません。韓国料理と日本料理の境目すらないぐらい(笑)。生野区はすごく変わっていますが、それが理想だと思っていたので、高校に入ってから、目に見えない差別というものを経験しました。でも、小中学校のあり方こそ、当たり前なんだと気付きました。

−演劇活動をするにあたって、そういった少年時代というのは影響がありますよね。

金光 あります。特に子供の頃のフラットなスタンスや高校の間に芽生えたドロドロしたものというのは、やはり作品には随所に出ますね。

−今回の作品「アルケー//テロス」は、前作の「アルケー/テロス」と、どのように違うのですか。

金光 ひとことでいうと、在日のウェイトが少なくなりました。前作は在日であることを前面に押し出していたんですけど、今回の作品は名前とか人物には出てきますが、在日ならではの言葉がいっさい出てきません。本当の自分における在日の現状は、あくまで日本ナイズされすぎているというところが面白いかなと思います。在日と名乗っている人たちが普通に日本語を使って芝居が進んでいく、言葉もハングルが出ないというのは、その方が現状を示しているんじゃないかなと。それが在日三世の僕から見てきた率直な感想ですね。

−作品のストーリーやキャラクターを見た時に、韓国映画の『友へ チング』を思い出しました。

金光 大好きな映画なので、多少インスパイアされているところはあります。『友へ チング』を作品に落としたというよりは『友へ チング』を観た時に、生野区に近いなと感じました。友達にヤクザの息子もいましたし、勉強ができる賢い子もいましたし、分け隔てなかったので、あの映画を観ていると、すごくわかるんです。『友へ チング』は韓国映画では一番好きな映画です。ストーリーは全然違うんですけど、オマージュを込めて登場人物を4人にしたというのはあります。今は彼らとは交流がないんですが、だからこそ、故郷に対するノスタルジーは強いんです。

−作品の登場人物にモデルはいますか。

金光 主演が4人で、生野の男友達の話です。帰化する予定の金持ちの在日韓国人、完全な日本人、在日韓国人が2人といった実際の僕の中学時代の人間関係です。ストーリーはまったくのフィクションです。

−今回の作品には、登場人物に在日韓国人や帰化人や日本人と様々な境遇の人が出てきますね。

金光 はっきりいってしまうと、差別ありきじゃないですか。僕は自分自身のことでは悩んだことはありますが、差別されてもあまり悩まないので、在日だからといって悩んだことはそんなにないですね。それで生まれたんだから、しょうがないというようなことをいわれたので、両親のおかげというのが大きいです。

−そういった様々な経験をして、現在に至っているということですね。

金光 自分のいろんなことを表現するのに、ひょっとしたら演劇が一番適していたのかもしれないですね。だから、俳優一本で映画の世界に行くことよりも、脚本や演出をやったり、アングラをやったり、演劇が好きになってしまって(笑)。演劇のコンテンツじたいに魅力を感じていますね。

−今回の作品について、もう少し詳しく教えてください。

金光 「アルケー//テロス」はストーリー軸が3、4本あるので、観客が観ていて、わからなくなるぐらい展開が早いんです。演劇はだいたい基軸が1本なんですが、今回の芝居は基軸が3、4本あって、混じりながら進みます。前回はジェットコースター的演劇という評価をもらいましたけど、圧倒的なスピードとか、それもハードコアの一部なのかなと。そのため、今回の公演は休憩を入れて、2時間40分ぐらいなんです。

−今回の作品で、特に力を入れているところはどこですか。

金光 ハードコアです(笑)。感情をどれだけ出してくるのかという。演劇ではよく開放というんですが、開放とは違った表現です。うちの演劇の仲間からすると「感情の向こう側」とよくいっています。たとえば、人が泣くと、それだけでは終わらないじゃないですか。涙も出ないとか、それを通り越して笑い始めたりする場合もありますよね。そういったことをうちの劇団はよく模索しています。前回の「アルケー/テロス」を公演した時に、タイニイアリスの代表である西村博子さんには「昔の劇団の匂いがするけど、今の演劇界にこういったスタイルはないよね」といわれました。

−タイニイアリスで公演するのは、どんなお気持ちですか。

金光 「アルケー/テロス」からタイニイアリスを使っているんですけど、僕は大阪にいる時から知っていて、タイニイアリスというところでいつかやりたいなと思っていました。演劇雑誌を見ていると、よくアリスフェスティバルとか書いてありました。大阪にいると、東京の劇場は下北沢以外ではあまり聞かないんですが、新宿タイニイアリスって聞くと、新宿だし、アリスだし、老舗だし、知っている劇団が公演していたりして、けっこう憧れていたんです。だから、思い入れはありますね。

−今後の目標やめざしているもの、やりたいことはありますか。

金光 やっぱりライブっぽい芝居がしたいですよね。自分の生き様を役者として吐露した時に、言葉とか感情表現とか演劇表現というものは、僕のいっているハードコアに化け始めるんです。今、僕は公演のほかにアドリブ芝居をやっているんですが、アドリブで芝居を全部作れればいいなと思っています。そこから出てくる、パッと本人自身が役の中で思いついた言葉って、新しいんですよ。そういう言葉が結局お客さんも一番感動するんじゃないかと思っているので、そこはめざしたいですね。

−これから公演してみたい場所はありますか。

金光 新しい劇場は次々にできていますけど、老舗の古い匂いがしないんです。下北沢ザ・スズナリは古い匂いがするので、いつか公演したいですね。あとはライブハウスの赤坂BLITZとかでやりたいなと思います。演劇のジャンルを増やすのであれば、他のジャンルのところに打って出ないと、演劇は勝てないと思います。

−演劇界に身を置き、劇団を運営していく団長として、運営システムについてお聞かせください。

金光 演劇だけで食べていけるビジネスモデルはあると、よくいっているんですが、それは、スタッフをどこまで自前で持てるかということです。今はうちの劇団もきちんとお客さんを呼ぶことと、自分のファンを増やしなさいという意味でノルマをつけました。数公演前まで役者にはギャラは出ていませんでしたが、ノルマはありませんでした。劇団員だけはベンチャー思想なので、月謝という形で投資して、そのお金の使い方を決めてやっていきます。うちの劇団はスタッフも雇わず、事務所もありますし、倉庫も車もあります。前回の公演までは2000円とか2500円でしたが、それでも利益が出て、赤字は出ません。その浮いた利益で、次の小屋を押さえ、維持費を払い、劇団員にちょっと分配すると、ちょうどいいんです。利益を上げていくと、劇団だけで食えるシステムにおそらくなります。

−最後にメッセージをお願いします。

金光 演劇復興は高らかにいつもいっています。今の演劇は嫌いではないんですが、映像にした方がいい演劇があまりにも多いなと思います。否定はしませんし、ジャンルが盛り上がればそれでいいですけど。韓国の映画や演劇もよく観ますけど、明らかに日本の演劇はパワーがないなと思います。それから、演劇の評論家がオタク化しちゃって、それが悲しいかぎりです。全員がそうではないんですが、評論家が演劇を評論して食べていくのではなくて、演劇をやっている面白かった劇団を食べさせるために広げてほしいと思います。それを自分たちだけのためにしているのが残念です。劇場と劇団が組んで、そこ主導で運んでいかないといけないなと。演劇界に入って長いので、ちょっと辛口になってしまいますね(笑)。

【公演情報】
激団リジョロ『アルケー//テロス』
会場 新宿タイニイアリス
作・演出=JIN
出演=金光仁三、こんどうひろこ、斉藤このむ、コージ、鈴木桜花、前田圭一、東浩輝、久住ヒデト、サンコン、たじり貴史、小中ブンタ、小池桃子
☆日程
10/6 (木)19:00〜
10/7 (金)19:00〜
10/8 (土)13:30〜&19:00〜
10/9 (日)13:30〜&19:00〜
10/10(月)13:30〜
☆料金(全席指定)
前売2,800円 当日3,300円 学割2,000円(大学・専門学生まで可)
公式HP予約割引 2,500円
☆問い合せ
Tel&Fax:03-5318-4144 (携帯)  080-6598-0056
E−mail:gekidan.rigolo@gmail.com
Web:http://www.rigolock-hitman.com/

 

【ひとこと】
 劇団の団長であり、脚本家、演出家、役者を担っている金光仁三さん。飄々とした風貌で、淡々とした語り口調の中、演劇界を深く見つめ、演劇復興を高らかに語る金光さんの姿が印象的でした。芝居を愛し、劇団員たちを家族のように思う金光さんを取材して、在日は日本ナイズされているとお話していても、血は韓国人なんだなと熱いソウル(soul)を感じました。取材日は公演の10日前。未完成の稽古場を訪れ、お話をうかがった際、「まだまだこれからなんです」と話していた金光さん。公演当日が楽しみです。(インタビュー・構成 宋莉淑)

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