<渡辺熱さん> デッドストックユニオン(DSU)(「メルティングポット」7月8日−12日)

渡辺熱さん
【わたなべ・あつし】
1962年東京都生まれ。大学在学中にモデルにスカウトされ、その後商業演劇の舞台に立つ。88年から3年間米国ロサンゼルスに滞在、演技・演劇を学ぶ。帰国後、活動を再開。98年から毎年プロデュース公演を続けている。今回は第14回目の公演。

 「泣いて笑えて楽しめる芝居 日本に根差した方法で」

−公演はどんな内容になるんでしょうか。
  タイトルは「メルティング・ポット」、舞台は新宿のあるボロアパートです。登場人物も多国籍で、それぞれ事情があって住んでいる人ばかり。これまでの作品に悪人はあまり登場しませんでしたが、今回も悪い人は出てきません。いろんな事件が起きて、日常の中に非日常が表れる、という構成です。

−日常と非日常の関係ですね。
  毎日会社へ通勤するとか学校へ行くとか、そういうリズムに乗った生活を日常というなら、堅気じゃない人にも、ある種の日常があるはずです。それぞれの日常の中で起きる非日常が人生で何度か起きて、転機になったりとんでもないことになったりしますよね。そういう人間同士の気持ちの行き来が描けたらいいな、と思います。

−どんな芝居を目指しているのですか。
  基本的にうちの公演は、泣いて笑えて楽しめる芝居を作っているつもりです。説明するときはわかりやすく「人情喜劇」と言いますが、ぼく自身は「寅さん」のような芝居ができたらいいなあと思っています。若い人たちが手がけているハイテンションな舞台やシュールな芝居は見る分にはおもしろいですが、作るとなると自分のタイプじゃないですね。

−考え方の変化があったのでしょうか。
  若いころ役者として商業演劇の舞台に立ってきました。商業演劇はこれでもかというほどわかりやすい芝居ですよね。そのときはとても嫌で、もっとリアリティーのある芝居をやりたいなんて考えたんですが、結局いまは、観客の立場というか、楽しめるということがすごく大事だと思うようになりました。小さな小屋でも、最低2000円ぐらいの入場料をいただく。映画より高かったりするわけです。主義主張をあまり前面に出しても、自分がお客の立場だったらどうかなあと、小劇場の芝居を見て回ってそんな印象を持つ思うケースがが多いですね。一定の質を保ち、安心して見られる芝居をしたいと思っています。

−米国での経験から来ているのでしょうか。
  向こうで見た芝居は、ハリウッドですからエンターテインメント系が多かったのは確かですが、演技ではスタニスラフスキーシステムを学びました。しかし理論的には分かるけど、欧米文化に培われたシステムではないかと感じて、やはり日本に根差した方法が必要ではないかと思いました。米国体験はそれに尽きますね。

−いつころから演出を手掛けるようになったんですか。
  作・演出を手掛けるようになったのは6、7年ほど前からでしょうか。書きたいというより、ほかにいなくて自分で書かざるを得なくなったというのが実情ですね。役者がメーンですけど、最近は年に何本かは自分のところでやる形になりました。作・演出だけで売れたらいいですけどね(笑い)。

−役者としてはどんな活動が…。
  商業演劇ではなくて、最近はマスコミというか、テレビドラマや映画、コマーシャルがほとんどです。自分の公演だとテーマから何から好きなことができる。それが一番のメリットです。マスコミのいいところは予算があって、役者やスタッフが一定のレベルに達しているところかな。そのギャップが埋められるといいんですけど、自分たちだけだと予算が限られて、一定のレベルの役者さんに集まってもらうのはそれなりに苦労が多い。うちはそれに劇団ではなくて、プロデュース公演なので、主要メンバー2、3人以外はほかから集まってもらいます。劇団というシステムは難しい。変な拘束があったり上下関係ができたり、むしろプロデュース公演という形式の方が危機感が生まれていいのではないかと思います。いい芝居を作らなければお客さんに来てもらえませんからね。

−名前の由来は?
  ウチの役者で、名前の売れている人はいません。いわばデッドストック(在庫)なんです。それでも時が来れば高く売れる。そういう期待を込めてます。

−アリスは初めてですか。
  今度が4回目です。この劇場が持っている空気みたいなのもがいいですね。ヘンにきれいでないところ…。小劇場らしい、お客さんとの距離感というか、ゆったりしてみるというより、この空間にふさわしい緊張感というか、そこで生まれるリアリティーがたまりませんね。
(2004年6月1日、タイニイアリス楽屋)

<ひとこと>  モデルから商業演劇の舞台、そして米国留学を経て小劇場のプロデュース公演へ。波乱の20年あまりを淀みない言葉と柔らかな物腰で語ってくれました。名刺は「代表取締役」。タレントを抱える事務所の社長さんでもあります。大人の雰囲気が漂っていたのはそのせいかもしれません。
(インタビュー・構成 北嶋孝@ノースアイランド舎)

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