<難波善明さん> 劇団じゃけん (ゴーゴリ作「結婚」7月15日−19日)

難波善明さん
【なんば・よしあき】
1967年広島市生まれ。高校時代から地元劇団で活躍。88年上京、劇団パーライトシアター参加。91年以降、プロデュース公演を始める。同時に「ゼン・ヒラノ アクティングゼミナール」でメソード演技を学ぶ。99年劇団じゃけん旗揚げ、現在に至る。

 「物語性を大事に ゴーゴリはおもしろい」

−今回の公演はロシアの作家ゴーゴリの作品を取り上げています。どうしていま、ゴーゴリなんでしょう。
 これまで私のオリジナルを上演してきましたが、一度リセットしてありものをやってみたいと思いました。メンバーがいろんな戯曲を持ち寄って検討しました。たまたま私が書店で見つけ、帯に井上ひさしさんの推薦文も載っているので読んでみると、これがおもしろい。訳者の堀江新二先生にお願いしたところ、快く承諾していただきたました。(先生の訳での)上演は珍しいと聞いています。

−どんなお話なんですか。全部は無理でしょうから出入り口というか、さわりの部分だけでも教えてもらえませんか。
 それが簡単な筋書きで、入り口も出口もないような作品なんです(笑い)。役所の地位もそれなりで、独身生活を楽しんできた中年男が周りから結婚を迫られるようになり、結婚仲介業のおばさんやお節介な友人が花嫁候補を引き合わせようとして騒ぎになるというお話です。

−ゴーゴリは百数十年前、帝政ロシア時代の作家です。どの辺に魅力を感じてこの作品に取り組むことになったのでしょう。
  作品の結婚観がいまの日本の風俗に通じるものがあり、メッセージ性もあります。訳文が分かりやすく楽しめるし、登場人物のキャラクターも明確で、各シーンが挿絵のように浮かんでくる作品でした。

−取り組んでみていかがですか。
  作品の時代背景など勉強するほど難しい。帝政ロシアの貴族と商人、役人の階級差など奥が深い社会だと思いました。私たちが持ち込んでくる現代的な情報社会とか、小利口な人物像とは違って、作品の登場人物はほとんどが欲望に忠実です。だから作品中の場面から直に受け取った感覚が正しい、それが信頼できるのではないか、と演出家も指摘していました。稽古が進むにつれて、そんなところがおもしろくなってきましたが、またその分、腰も引けてきたり(笑い)。

−作品の奥行きが見えてきたということなんでしょうか。
  そうですね。本を書くと、どうしても1対1の会話になりがちです。しかしこの作品は、あることばや会話にそれぞれの登場人物がどう感じ、どう反応しているかが見えるように書き込まれていています。人間の理解が深くないと、なかなかこうできないような気がします。

−演出は今回、難波さんではないですね。
  松尾浩之さんにお願いしました。私が上京したとき、松尾さんの劇団にお世話になって鍛えられました。つまりボコボコにされたんですけど(笑い)。物語性というかドラマ全体を大事にしたいという私たちの考え方を理解して演出していただいているので、とても安心できますし信頼しています。

−劇団の特徴というか、どんな作品を上演してきたのでしょう。
  結構幅が広いんです。やりたいことをいっぱい詰め込んだ作品を上演してきましたが、いまは人間関係を大事に、人と人とつながり合いや思いやりを主題にして、多くの人に見てもらえる芝居をやりたいと思っています。大好きなつかこうへいさんの作品で「人はだれでも幸せになるために生まれてきた」というせりふがありますが、私なりに理解すると「自分でやりたいこと、選んだことを、自分でやる」のが一番だと思っています。

−最近「静かな舞台」が多くなりましたが…。
  個人的には、劇場に自分たちの「日常」を見に行ってもなあと思ってしまいます。ナチュラルなものとリアルなものは違うんじゃないでしょうか。リアルなものは存在感があって、実はあまり静かじゃない。普段は日常生活の中に埋もれて見えないだけではないでしょうか。自分たちのことを棚に上げてしまいますが、静かに淡々というスタイルだけを引き継いだ芝居は、当初始めた人たちの考えとは違うような気がします。
(2004年5月31日 新宿タイニイアリス楽屋で)

<ひとこと>   広島時代の話から最近の「静かな舞台」、ゼン・ヒラノによるメソッド演劇の可能性などなど、話題は尽きません。演劇に対するひたむきな情熱を感じる1時間でした。劇団名の由来は? お察しの通り、広島出身だからだそうです。
(インタビュー・構成 北嶋孝@ノースアイランド舎)

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