<中野真希、桶川雅代さん> 女体道場(「芝浦食肉センター」 9月17-20日)

「さわやかに、テンポよい悲劇を 見終わったときが始まり」

中野真希、桶川雅代さん
【なかの・まき】(写真左)東京都生まれ。OL勤めの傍ら演劇ワークショップに通い、修了後に劇団を旗揚げ。作・演出。役名「めすぶた」。
【おけがわ・まさよ】(写真右)新潟県生まれ。ミュージカル志望だったが、小劇場の芝居がおもしろくてワークショップを受講。劇団旗揚げに参加。制作担当。役名「コシヒカリ」。
今回が第6回公演。

−結成は1998年なんですね。
桶川 ええ。でも途中、3年ほど空いているんです。

−どうしてでしょう。
中野 私が作・演出を担当しているんですが、契約社員に没頭しちゃったんです(笑い)。脚本がすらすら書けるタイプじゃなくて、おまけに病気になっちゃって。そのとき書きたかったのは父と娘の性虐待の話で、どうしたら明るく書けるか悩んで答えが見つからなかったけど、やっとめどがつき、なんとかまとまりました。

−結成時は何人だったんですか。
中野 最初は3人。これだけで公演するわけではなくて、男の子なんかを客演で呼んでやりました。あとから2人が入っていま5人になりました。団員は女性だけです。

−どこで知り合ったんですか。
中野 ある演劇のワークショップで一緒でした。修了するとき相談したら、大きな劇団には看板俳優がいるから入っても2番にしかなれない。やるんだったら、自分たちでやったほうが楽しいよと言われて、それで劇団を始めました。

−作風は旗揚げのときから変わりませんか。
中野 同じですね。さわやかな悲劇…。
桶川 内容的には重いんですが、それを暗く見せない。
中野 笑いを取りながら、楽しく、悲劇を見せる、かな。笑いを取れてるかどうか分からないけど、気持ち的には取りにいってる。
桶川 最終的には笑える話ではないけれど、でもなるべくなるべくテンポよく見せて、お客さんが楽しめる空間を作りたいと思ってやっています。
中野 悪趣味にならないように、汚くならないように、ものすごく気を付けています。悲劇って言ったら、舞台で人を殺して、ちょっと気持ち悪いものを見せれば多分、成立してしまう。そうじゃなくて、小学生でも理解できる、そういう感じ。
桶川 終わったときにお客さんに分かってもらえればいいかなあ。

−最初、劇団の名前を聞いたとき、ちょっと引いたんだけど(笑い)。
中野・桶川 ハハハハハ。
中野 ワークショップの主宰者に劇団名を聞かれたとき、「女体道場」にするって言ったら笑ってくれたので、じゃあそうしようかと。目立てばいいと思って…。たまにここに来れば裸を見られるんじゃないかって勘違いして、前列で見てるおじさんはいますね。ニコニコしながら期待して。申し訳ないよね(笑い)。
桶川 うん、うん。1人か2人かな。

−劇団名は目立つように付けても、選ぶテーマはシリアスですよね。どういうことを訴えたいんでしょう。
中野 お笑いは好きですけど、笑いだけでというのは嫌なんです。演劇は、舞台がおもしろくても見終わったときが最高潮だと思うんです。あとは忘れていくじゃないですか。私たちが目指しているのは、見終わったときが始まりで、それから劇を思い出して考える芝居なんです。私は本当に気に入った映画なんかを見たときは、見終わったときから「あの映画は何だったんだろうか」と盛り上がっていく。そういう感じになればいいなあと思います。だからお笑いだけじゃなくて、ストーリーを組み立てるんです。

−なるほど。で、今回は?
中野 小学生たちがどこへ行くか、みんなで投票して大討論するという話です。

−みなさん、お勤めですか。
中野 ええ、みんな勤めてます。バイトしたり…。合い言葉は、命懸け(笑い)。これ載せてくださいね。あと「低価格、高品質」って言葉も載せてほしいんです。ほんとにチケットを安くして、いいものを見てもらいたい。小劇場だと普通2500円ぐらいするんだけど、気持ち安くしている。200円引いて2300円ですから(笑い)。やっぱ、映画より高いと難しいと思いますよね。

−フェスティバルが各地でありますが、参加したりしないんですか。
桶川 パルテノン多摩小劇場フェスティバルに今年初めて申し込みました。
中野 倍率は高いけど、通ったら注目度が大きいですから。

−なるほど。あと劇団の活動で必要だと思うことは何でしょう。
中野 うちは営業面が弱い(笑い)。
桶川 これまでどうやっていいか分からずにやってきて、活動休止期間にいろいろ考えて、パルテノンにも応募することになったんです。

−何年も活動していますが、ご家族の反応はいかがですか。
中野 最初は2階に部屋があったんですが、公演が終わるたびに玄関に近くなってきた(笑い)。いま玄関の横だから、あと一歩(笑い)。
−ずいぶんいくつも部屋があるお宅なんですね(笑い)。
中野 いえいえ、お兄ちゃんの部屋と入れ替えとか(笑い)。

−役者さんの名前もずいぶん変わってますねえ。
中野 ワークショップで互いにあだ名で呼び合ってたんです。私は「めすぶた」、彼女は新潟出身だから「コシヒカリ」(笑い)。作・演出もこれまで「女体道場」とか「めすぶた」でやってきたんだけど、もう変えたい。だって「女体道場」の「めすぶた」って言うと、イメージが決まっちゃうじゃないですか。エロいやつしかやらないと見られたり女の子劇団って取られるもの悔しい。だから名前なしの姓だけ、「中野」にします。
桶川 私も「コシヒカリ」をやめようかなあ(笑い)。制作なんかは本名を載せてます。でもさあ、電車の中で「めすぶた」って呼ぶと彼女、無視するんですよ(笑い)。聞こえてないのかと思うと「やめてよ!」(笑い)。
中野 最初は目立ちたい一心だったけど、いまになって後悔している(笑い)。
(2004年8月8日、東京・世田谷の船橋地区会館)

<ひとこと>  劇団名が「女体道場」、役者さんは「めすぶた」「コシヒカリ」…と聞いて、会う前はやや腰が引けました。しかし会ってみると、ご覧のようにてきぱきと打てば響き、ユーモアを交えた応答ぶりに感心しました。いっそうの活躍を願っています。
(インタビュー・構成 北嶋孝@ノースアイランド舎)

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