<松本淳一さん> 劇団猿男女(さるおめ(「ミイラ姫・恋地獄」 9月23-27日)

「混乱の極みの先に突き抜けたい 全体で一つのものを作る魅力」

中野真希、桶川雅代さん
【まつもと・じゅんいち】
1968年、埼玉県生まれ。AB型。新宿コメディーシアターに就職後、間もなく経営者交代を機に劇団「スタジオライフ」に入り「看板女優」として活躍。フリーになってからさまざなな舞台に出演する傍ら大道具制作や舞台装置の仕事に携わる。03年6月、劇団「猿男女」結成、代表。作・演出。今回が第2回公演。

−劇団の旗揚げは昨年6月なんですか。
松本 6月が旗揚げ公演です。「悪魔は夕焼けのバス停で待っている」という長たらしい名前です。

−不条理劇のようですが。
松本 「ゴドーを待ちながら」のふりをしつつ、全然違う状況に突入していくという芝居です。知り合いの言葉では、1980年代後半にあった小劇場ブームのころのアングラのにおいがするそうです。ちょうどそのころ芝居を始めましたから、影響があるのかもしれません。たしか大人計画やWAHAHA本舗が活動を始めたころかな。

−今度の芝居はどんな内容になるんでしょうか。
松本 「ミイラ姫・恋地獄」というタイトルです。ミイラにした女生徒を連れて逃亡する高校教師が追われながら、火の海と化した町から遥か南の島へ進んでいくというお話です。前回は自分の親を憎んでいる男が出てくるんですが、今回もそうですね。自分の生い立ちが影響しているのかもしれませんが、親というよりも、憎悪というか、憎しみというものが一番のテーマになっています。ですから登場人物でまともな人はだれもいない。みんな何か欠けている人たちばかりです。

−そういう憎悪の感情が登場人物にエネルギーを与えているのですか。
松本 そういう感情が人を動かす根本の原動力になっているし、憎悪の感情がぶつかり合って物語を紡いでいくようなつもりで台本を書いています。

−演出の場で、俳優の皆さんと一緒に考えていることはなんでしょう。
松本 混乱の極みの先に突き抜けたいとうことですね。カタルシスかもしれませんが、スペクタクル的な意味ではなくて、最終的にスコーンと抜けてしまうような感じ、精神的な浄化作用です。そういうものを求めているんだと思います。

−舞台は静かに進むんですか、それともにぎやかなんでしょうか。
松本 いつも手探りで作っていくんですが、いまは青年団に代表されるように淡々と進む芝居が若い人たちの間でも多いじゃないですか。ぼくらもそういうふりをして始めます。それからちょっとずつ崩していって、最後はハードな結末に突入していきますね(笑い)。

−「猿男女」(さるおめ)を結成するまで、どんか活動をされていたんですか。
松本 最初はいま人気劇団になっている「スタジオライフ」に入団しました。当時はばりばりのアングラ劇団で、あるとき座長が「女装させてみよう」と言い出して、ぼくが女役で登場しました。最初はたんなる女装でしたが、その後は評判がよくて「看板女優」になっちゃった(笑い)。6、7年活動してたかなあ。でもスカートをはくのに苦痛を覚えるようになってしまった(笑い)。そこを辞めてからフリーの活動であちこち舞台に立たせてもらって、それが今日につながっています。

−いつころですか。
松本 19歳でスタジオライフに入団して、いま36歳ですから17年前か。そんなに芝居をやってるんだ、ずうーっと地に潜ったまま(笑い)。セミのように飛べるかなあ(笑い)。いま子育て中ですが、文美香子という女優と2人で劇団を始めました。彼女は旗揚げ公演の前に妊娠して、いちおう妊婦役で出演したんですが、公演始まって2日目だったかなあ、お腹が痛いと言って入院したまま帰ってきませんでした(笑い)。3日目からは急いで舞台を変えました。

−みなさんの舞台のおもしろさはどんなところにあるんでしょう。ここを見てほしいという特徴、見どころはなんでしょうか。
松本 うーん。どうなんでしょう。考えたことがないなあ。
−顔を伏せていますねえ(笑い)。
松本 基本的には愛憎劇ですから、日常的な場所から人物を作って結びつけていくんですが、もうちょっと手を加えると神話チックになりそうではあるんです。しかしそこまではしたくないし行けない。もっと地上に止まりたい。業というんでしょうか。

−劇団の名前は?
松本 劇団を始めた2人が、2人とも申年だったからです。

−どんな役者さんが登場しますか。
松本 椿組の林栄次、流山児事務所の阿川竜一さん。あとはフリーの役者さんです。

−演劇の魅力はどんなところにあるんでしょう。
松本 役者としては舞台に立つ快感がありますよね。それが始まりでしたが、だんだん、全体で一つのものを作ってみたいと思うようになりました。だから舞台に手が届くくらいの距離で目の当たりにする魅力って芝居にありますよね。汗の滴が好きなんですよ。
(8月1日、新宿の喫茶店)

<ひとこと>   劇団の読み方(「さるおめ」)が難しいけれど、名前の由来は至って分かりやすい。公演も神話的になるすれすれのお話だそうです。「日常的な場所から人物を作って結びつけていく」舞台が待ち遠しくなりました。
(インタビュー・構成 北嶋孝@ノースアイランド舎)

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