<中津留章仁さん>Trashmasters(「Trashtandard」10月21日-27日)

「群像劇を散文的構成で 『普通』を疑う人間ドラマ」

中野真希、桶川雅代さん
【なかつる・あきひと】
1973年大分県生まれ。明大理工学部建築学科卒。2000年1月「恋人を家族に紹介する時の2.3の事情」公演で旗揚げ。以後、全公演の作・演出。2回目以降Trashシリーズが続く。今度が第9回公演。
Webサイト:http://www.lcp.jp/trash/

−もう、台本は仕上げの段階ですか。
中津留 いやー、もう全然。まったくもってこれからです。いつも1週間ぐらい前に上がるかなというペースで、みなさんにご迷惑をかけています(笑い)。

−今回の芝居はどんな特徴があるんでしょうか。
中津留 人間の常識というか、普通だと思っているもの、共通認識だと思っているものを扱おうかなと思っています。判断基準が曖昧な上、ひとは無意識に判断を下しているあたりを考えてみたいというのが大きな動機です。基本的には人間ドラマを描くのが私たちの持ち味というか、人間ドラマを成立させつつ、いま言ったようなテーマが見え隠れする作風が多いですね。

−もう少し話していただけますか。
中津留 ひとはたいてい、自分が変わらないと思っているし、変わらないのが普通だと思っているじゃないですか。仕事に失敗したり、恋人に振られたりするときは、いま普通じゃない、自分がへこんだり他人に八つ当たりしたりするときは危険信号だと考えていると思うんです。それが「負のオーラ」だとしたら、つらいから忘れよう、元に戻っていかなければいけないと思うでしょう。でもぼくは、普通じゃない状態のときもたくさんあるし、そんなに元に戻らなくてもいいと思うんですよ。そこが負なら負のままだっていいんじゃないでしょうか。それを「病的」と考える人もいるんでしょうが、ぼくはその方に興味がありますね。マイノリティーには違いないですけど、そういう人たちが確実にいるし、どう認めていくかではないでしょうか。

−マイナスこそ美しいというか、逆に輝くという主張とも共鳴するんでしょうか。
中津留 そこまで行き着けるといいですが…。どちらかというとぼくにマイノリティーの気があるんですかね。どっちだって変わらないというのがぼくの持論ですけど。

−設計事務所が舞台になって、いろんな人が登場するらしいですが…。
中津留 今度の芝居は、登場人物のエピソードを積み重ねる群像劇と言ってもいいかもしれません。うまくいくかどうか分かりませんが、小さな章に分けて描いてみようかなあと考えているんです。いままでは最後に自分の主張を強引にねじ込むやり方でしたが、それが評価の分かれるところでした。それはそれでいいんですけど、今回は散文詩的でいいかなあと思っています。ちょっと引っかかるようなところでとめるぐらいがいいのかなあと…。

−これまでは、最後にメッセージを発信するような感じだったんですか。
中津留 うーん、そういうわけではなくて、最後に誰かが狂ってしまうんです。その人に対して感情移入するようなポジションを取る芝居なので、見る人はちょっと痛かったり怖かったりするようですね。公演のたびに毎回、自分の中で課題を決めていますが、カンパニーとしては今回9回目の公演で、まだまだ駆け出しですから、以前と同じことをするのは嫌なんです。それで自分で少しずつハードルを設定して、芝居を変えていく。毎回変えていく中で、今回はこういう小さな章に分けた散文的な構成がいいかなあと思っています。

−ほかの劇団と交流があったり、影響を受けたりすることはありますか。
中津留 おもしろい劇団はできるだけ見に行くようにしていますが、うちの劇団と似たところは余り見かけない。ほかの劇団とは、そんなにかぶりませんね。ぼくらのステージを見た方も、だれに影響を受けたのか分からないと言います。それだけ変わった感じではあります。ただぼく自身はたくさん影響を受けているし、演劇畑で活動しているつもりですが、なかなか受け止めにくいのかもしれませんね。

−作・演出を兼ねていて、しかも自分でステージに立つ人も少なくありませんが、中津留さんは?
中津留 以前は出てましたけど、邪魔なんでやめました(笑い)。代役立てて稽古して、またぼくが入ってやったときに印象が違ったりすると役者が混乱するでしょう。無駄は省きましょうということで…(笑い)。

−劇団の名前はちょっと変わっていますね。
中津留 Trash にはゴミとかくずとか言う意味がありますが、ほかに駄作という意味もありますよね。そこで、ちょっと駄作を作ってみようかな、という感じで、駄作のマスター…。ぼくらが成功したら、駄作ということばも少しはカッコよくなるかもしれませんよね。
(9月17日、東京・狛江のスタジオ)

<ひとこと>  表情豊かに動く手。組み替えるのも不自由そうな長い足。目鼻立ちのくっきりした中津留さんに視線を向けられると、なぜか引き込まれてしまいます。影響を受けた劇作家の話や劇場のあり方など話は尽きません。動員数も注目度も上昇中の劇団主宰者だけあって、演劇にかける熱さを身近に感じた1時間でした。
(インタビュー・構成 北嶋孝@ノースアイランド舎)

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