<杉林充章さん>くねくねし(「ドット職人くねくねくん」11月19日-23日)

「ウソとホントの境界線を渡る 固有名詞が出ない芝居づくり」

「くねくねし」の杉林充章さん

【【すぎばやし・みつあき】
北海道生まれ。明治大学文学部卒。某ゲームソフト会社勤務。90年の旗揚げから参加、ほとんどの脚本を担当。
webサイト:http://www.kunekuneshi.com/

−劇団の名前を何度か変えてますね。
杉林 1990年に作られた「劇団ノリのいい会社」が最初です。明治大学の演劇サークル「騒動舎」の16期生を母体に結成しました。就職情報誌をめくったら「僕たちの会社は、ノリのいい会社です」と書いてあったページがあって、インスピレーションで決めた名前でした。もうちょっと考えようということで「悪運ダイヤ」に改名したのは92年です。今の名前(「くねくねし」)になったのが去年の12月です。下北沢の駅前劇場で(現劇団名での)第1回公演を開きました。

−改名するには何か、事情があったんですか。
杉林 「悪運ダイヤ」は制作的にはいい名前でした。「あ」から始まりますから。それでなかなか変えなかったんですけれども、僕たちのやっている土くさい芝居と比べると「悪運ダイヤ」っていう響きがかっこよすぎたのと、「悪運」を祓うためにも「くねくねし」という名前に変えたんです。
  1999年に「くねくねし」というタイトルのお芝居をやったんですよ。響きとしてもおもしろいし、古語で「ひねくれてる」「ねじくれてる」といった意味があり、僕たちに非常に合っている言葉なのかな、と。僕たち自身が「ひねくれている」わけではないんですが(笑)。この「くねくねし」という名前は、1公演だけで使い捨てるのはもったいないとすぐに劇団公式サイト名を「くねくねし」に変え、徐々に違和感がなくなってきたところで劇団名も改名しようということになりました。僕たちの芝居をひとことで表すなら「悪運ダイヤ」よりは「くねくねし」だろう、と。
  強力なスタッフが参加して、クオリティの高いビジュアルをつくりだしてくれることも、改名するきっかけとしては非常に大きなものです。今まで脚本があって、これをどのようにお客さんに伝えていくかということに迷いがあったというか、弱かった。内容とビジュアルがアンバランスだったり…。でも、そこに創意溢れるビジュアルが加わることで、よりよく、よりシンプルに伝えることができた。相乗効果で芝居の内容も作り方も変わってきたんじゃないかなと思います。

−「オトナになることを否定しちゃっているような登場人物たちがくり広げる、これまた常識がまかりとおらない不思議世界…」というある方の推薦文がサイトに掲載されていますけど、こういうイメージが当たらずしも遠からず、ですか。
杉林 ひとことで説明するのは非常に難しいと思うんです。「ハッタリ」とよく言われますけど、どこまでがウソでどこまでがホントなんだか境界線がわからない。例えばぼくたちのお芝居は、いかに小さなものを馬鹿馬鹿しいくらい大きなものに見せるか、そういう芝居なんじゃないかなと思います。だから「ハッタリ芝居」。なので大爆笑よりは含み笑い、くすくす笑いをするような感じの芝居です。
  それと合わせて、この14年間で変わらないのは、お芝居の中に固有名詞が出てこない。これは珍しいと思います。富士山も出てこなければ、西田敏行もギター侍もでてこないんです。

−どうしてでしょう。
杉林 固有名詞使いすぎると、イメージが限定されてしまうのが嫌なんです。例えば「富士山」というだけでもう、それは富士山のある芝居になってしまう、話がどんどん小さくなってしまう(笑)。逆に、ひとつの単語がさまざまな意味を持つことによって、そこにスピード感が生まれるんだと思います。ひとつの単語は言葉としてたくさんの意味を持っていなくちゃ面白くないんです。いかに情報をつめこむか。だから、本当は単語もひとつひとつ作ってやらなければいけない。固有名詞を使うのは、僕らにとっては安易なのかな、と。固有名詞を使って舞台と現実世界が繋がってる、というのが見えちゃうと、そこでぼくはもう冷めちゃうんです。だからいっさいこういうものがない世界を作っているんです。

−今回はどういうステージになるのでしょうか。事前に話せる部分を教えてもらえますか。

杉林 ストーリーに関して現在お話できるのは、この2年間で4回のお芝居をやったんですが、新倉壮一郎が同じ役をずっとやってまして、今回は集大成ということで、何らかの区切りがつくんじゃないかと思います。彼は190センチですけど、ブーツとかはいてるんで210センチくらいに見えます。デカイ男が立っている…。

−つまり、存在感がある?
杉林 セリフを言わなければ(笑)。

−新倉さんが同じ役柄をやってきたというは、連作のような公演なんですか。
杉林 連作ではないです。キャラクターは同じなんだけれども、作中での役割は毎回違います。だから同一人物にみえるんだけども、役割からいうと別人、みたいな感じでしょうか。新倉演じる「綾織テグス」という役は、とにかくもう何もかも超越してしまっているので、うまい説明ができません。

−設定を変え役を変えても、共通する何かを訴えるとか強調するとか…。
杉林 うーん、どうなんでしょー。あるにはあるけど、「訴える」とか「強調する」といったレベルのものではないです。強いて言うなら「できれば聞いて欲しい」くらいのレベルでしょうか(笑)。基本的にぼくたちは伝えたいことをあまり表に出しません。だからこういったインタビューを受けても、どこまでがウソでどこまでホントかわからない、ということなんでしょうね。うさんくさい、ハッタリなどと言われてるゆえんだと思いますけど(笑)。

−これからは。
杉林 僕たちは実は結成時から30年計画で考えてます。つまり僕たちが今やってる試みは、1年や2年じゃ完成しない。固有名詞を使わない芝居づくりもそうだし、僕らが考えている芝居がどれくらいで完成するかと考えると、だいたい30年くらいかかりそうだな、と。で、やっと今半分くらいまでさしかかってきてるんじゃないか。最近おぼろげにそれが見え始めて、そういう意味でも名前を変えたんですね。改名前までは毎回が実験でしたから、とりあえずいろんなことをやって、これはアウト、これはセーフ、これはアウト…。ほとんどアウトなんですけども、そうやって徐々にたどり着くかたちだったのかな、今振り返れば。

−皆さん、お勤めなんですか。
杉林 基本的にサラリーマン劇団。半数くらいは勤め人です。

−そのままずっと…。
杉林 誰かが宝くじで1等当てるまでは(笑い)。どこの劇団もそうだと思うんですけども、宝くじ買うにもヒイヒイ言ってる状態ですけどね(笑い)。とりあえずはあと16年ありますので(笑)。
(2004年10月3日、新宿・喫茶店)
(インタビュー、構成 北嶋孝/山下千春)

<ひとこと> 背広にネクタイ姿の杉林さんは才気煥発。飛び出す言葉に、枠にはまらない魅力がありました。「くねくねし」のイメージそのものでしょうか。公式Webサイトのデザインも本格派。ステージのビジュアル面も乞うご期待です。 (北嶋孝@ノースアイランド舎)

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