<広瀬格さん> 遊牧管理人 (「空想中毒」12月16日-19日)

「役者は自由に、物語はきちんと 信頼感支えに演出活動」

遊牧管理人の広瀬格さん

【ひろせ・かく】
1978年5月、横浜市生まれ。高校時代に演劇に出会い、卒業後もOB劇団で活躍。2002年5月「遊牧管理人」旗揚げ。主宰として全公演の作・演出を担当。
webサイト:http://www.you-boku.com/

−珍しい劇団の名前ではありませんか。
広瀬 一見自由そうなものが、実は管理されているという矛盾したところがおもしろいと思って付けました。僕らの芝居は、できるだけ役者に自由に動いてもうけれども、最後はまとめさせてもらうという形になるからでしょうか。

−劇団の特徴、芝居の特色はどんなところにありますか。
広瀬 メジャー志向なところがあるかなあ。笑いの部分があったり、役者が好きなんでエチュードで自由に演じてみたことをそのまま出したりします、基本には、ショー的部分の笑いと対になるストーリーはわりにシリアスですね。テーマが精神的なものになったり、人間の悲しさを出したかったりするので、笑いが多いわりには登場人物や主人公をどん底にたたき落として、最後にちょっとだけ救ったりして終わる。そういうことが多い。その「ちょっとだけ」を作りたくて活動しているようなところがあります。

−これまでうかがったのは、旗揚げ以降の活動で変わらない部分だったと思いますが、公演を重ねるにつれ変わってきた点はありますか。あるとしたら、どんなところでしょう。
広瀬 旗揚げのときはともかく言いたいこと、やりたいことをいっぱいに詰め込みました。失敗したくないという気持ちもありましたし、伝えたいという思いに縛られた面がありました。1時間半とか2時間のステージに収まりきれない情報量だと言われたこともあります。しかし公演を重ねてきて、よい意味で、力の抜き加減が分かるようになってきました。力を入れすぎると押し付けっぽくなりますしね。

−最初から作・演出を担当してきたんですか。
広瀬 作・演出にこだわりがあるわけではないんですが。年に3本も4本も書いている作家の方がいますが、よく続くと思います。感心しますね。ぼくはそこまではとても…。映画が好きで、監督になれたらいいと思ってましたので、もともと演出に興味がありました。役者もおもしろいし、舞台美術にも興味があるし、大道具小道具を作り上げのも好きだし、そういうものが全部集まったのが芝居の魅力だと思ったんですが、旗揚げしてからプレッシャーが随分あって、捨てられるもの、捨てられないものがおのずから分かれてきたような気がします。役者はやめられました。演出はよその劇団に頼まれたりしますし、最近は演出がメーンですね。

−テレビや映画に進出しようという気持ちはありますか。
広瀬 いまはないですね。自分の能力や才能に懐疑的なところがあって、友人たちに批判されたりすると、やはりすごく萎縮したりしますから(笑い)。やりたいことはたくさんあるんですけど、まず一つの分野で結果を残さなくてはいけないのではないかと考えています。それがとりあえずは、作であり演出なのかなと思います。

−演出の楽しさ、怖さはどんなところにあるのでしょう。
広瀬 最近は演出で声を掛けられるケースが増えました。旗揚げから間もなく、ちょうど2回目の公演前後でしょうか。三人芝居の演出を手掛けることになって、出演者がみなぼくより年上でした。40歳近い方もいましたし、力のある俳優さんたちでしたね。だめ出しすると、次の日は全部直してくる。あと何を言ったらいいか分からないぐらいの場面もあったのですが、あるとき出演者の方から遠慮しないでくれと言われて、それでギアが入ったような気がします。感情の流れを細かいレベルまで把握して、こちらの意図を伝えられるようになりました。そのときの舞台を見た人から、登場人物がすごく自由に動いているけれど、押さえるところはちゃんと押さえていると評価してもらいました。うれしかったですね。役者が魅力的に輝いている舞台が一番ですが、その上で物語の流れがきちんとまとまっているという評価を得たのが自信になりまし、それ以降いろんな方から声が掛かるようになりました。世界が広がったというか、楽しくなりました。

−なかなか出来ない体験だし、転機でしたね。
広瀬 こいつの言うことを聞いたら自分の魅力が発揮できると、役者さんに信頼してもらえるかどうかがカギだと思いますね。そういう関係が作り出せれば、一つの動きを指示しただけで、役者さんはその先のことまで理解して動いてくれる。芝居というか、演出のおもしろさですね。

−さまざまな体験をされたようですが、30歳代ですか。
広瀬 いやあ、まだ20歳代ですよ(笑い)。

−これまでインタビューした演劇関係者は30歳代が多いですよ。
広瀬 10年後の自分を考えるのが怖い(笑い)。どうなっているんでしょう(笑い)。

−背広にネクタイできめてるかもしれませんよ。
広瀬 会社でこき使われているかもしれませんよね(笑い)。

−今度の6回目はどんなステージになるんでしょう。
広瀬 今回は書けない小説家が主人公です。本人はなぜ書くか分からなくなったんだけど、周りは書かせようとする。そのやりとりの中で舞台が進んでいくというストーリーです。

−何人ぐらい登場するんですか。
広瀬 11人です。出番が少なくても、その人に価値観や感情の流れが分かるようにしたいと思って構成に四苦八苦しています。

−アリス公演は2度目ですが、ここをを選んだ理由は?
広瀬 公演を重ねるごとに少しずつ、客席の多い、広い劇場に変わってきました。タイニイアリスは今年の春に初めて使わせてもらいました。知名度もあるし、地下にある劇場としては天井が高くて、しかもかなり好きに使わせてもらっている。小劇場っぽさが好きだし、性に合っているんです。
(2004年11月2日、新宿の喫茶店)

<ひとこと> 柔軟なやりとりを身近で聞くと、年齢を間違えるほどの雰囲気を感じました。同時に、演出にかける思いと意欲も痛いほど伝わってきます。これからも演劇体験を重ね、活躍の場を広げてほしいと思います。(インタビュー、構成 北嶋孝@ノースアイランド舎)

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