<伊東香穂里さん、櫻木バビさん、古瀬木日華さん> Jules † ジュール(「砂城のビショップ」2月11日−13日)

片寄直樹さん
写真は右から、伊東香穂里さん(「Jules †ジュール」代表)、櫻木バビさん(作・演出、「三日月少年」主宰)。古瀬木日華さん(「Jules †ジュール」「三日月少年」所属)の3人=東京・新宿の喫茶店
webサイト:http://homepage1.nifty.com/shounen-tenshi/Jules/kikaku3.htm

 「有限でも終わらない愛 少年たちの透明な世界を描く」

 −今度の公演は「砂城の…」
櫻木バビ 「砂城のビショップ」です。公演するのは「三日月少年」から出てきた別働隊で、「Jules †ジュール」といいます。「三日月…」じゃあないんですよ。
−そうなんですか。
櫻木 メンバーが重なりますので、やっている本人たちも紛らわしいでしょうね(笑い)。
「三日月少年」と「ジュール」では求めるものが違うので、じゃあ名前を変えて集団も別にしてみようということになりました。

−「三日月…」は1997年の旗揚げですか。
櫻木 そうです。内容的には堅いものを狙っていますが、堅いままやったのではあまり美しくないのでファンタジーっぽく仕上げています。自分の中で気になること、例えば自然環境とか少年問題とか、その都度自分の中のテーマを、胸に届く形で物語にしたいと考えてやってきました。

−伊東さんは旗揚げの時からのメンバーなんですか。
櫻木 団員募集のお知らせが載った「演劇ぶっく」を見て来ました。「顔を見た瞬間、あっ、きた」と思いましたね(笑い)。
−捕まえたというか、捕まったというか(笑い)。
櫻木 旗揚げ公演の芝居は、1人の女の子と想像上のもう1人の女の子が登場することになっていまして、そのヒロイン役を募集していたんですが、伊東は劇団員の募集できました
伊東香穂里 そのときまだ半分ほどしか出来ていなかった台本を読ませてもらったんです。
そしたらそこに書かれている言葉が気に入って、芝居の世界観が私の好きなものだったので、早く先を読ませてほしいとせがんで…。
櫻木 その日から今日に至るまでずうっと、早く読ませろ、早く書けと背中を押されてきました(笑い)。
古瀬木日華 私は3年前に「三日月…」に入って、初めは裏に回っていたんです が、2年ぐらい前から舞台に出るようになりました。上京して、養成所に入ろうかと 思っていたんですが、こんなにいっぱいあるとは思わなかった。小劇場もたくさん あって驚きました。ネットで探して「三日月少年」の稽古見学に来て興味を持ち、そ れで入りました。
櫻木 最初はとっても引っ込み思案でしたが、今回はヒロイン役をやります。少年同 士ですけど(笑い)。一度ステージに経ったら、引っ込み思案はなくなりました(笑 い)。

−これまで何作品を上演してきたのでしょう。
櫻木 「三日月少年」は本公演が6回、あとは番外公演があります。ちょっとした縁で、漫画家の藤原カムイさんが「三日月少年」の劇団ロゴマークを作ってくれて、3作目から5作目までチラシも制作してくださいました。公演のあと「ぼくの作品を舞台化してくれないか」と言われて取り組んだ番外公演があります。あと「東京夢華録」といって、ギャラリーやジャズバーなど劇場以外で、短い物語やポエトリー・リーディングをしたりするなどの実験公演というか企画もあります。

−今度は「ジュール」の初公演なんですか。
櫻木 舞台公演は初めてです。ただ一昨年、ギャラリー公演を開きましたので、「ジュール」発足は2003年12月です。「ジュール」は女性キャストだけで少年ものを上演する集団なんです。なぜ始めたかというと、「三日月少年」の公演をみた人たちの間で、少年ものをやってくださいとう声がとっても多かった。中には具体的に、萩尾望都の「トーマの心臓」を原案とした映画「1999年の夏休み」を舞台化してほしいという人もいました。この映画は、岸田理生さんの脚本で、少年たちが登場する物語です。まだ十代前半のころの深津絵里さんら女性たちが少年を演じていました。劇団のなかの話し合いで、こういう感じの作品を書いてくれないかと言うことになりましたが、「三日月少年」では役柄を限定したスタンスで舞台は作りたくない、役者は1回1回違う役柄に挑戦してほしいと思っていたので、少年ものしかやらないというのは「三日月少年」のコンセプトとは違うと思っていました。しかし見たいと言ってくださる方がこれだけいるのなら、彼女たちのやる気もある事ですし、プラスになると思い、別の集団としてやるのなら作品の世界感には興味を持ったので書いてみようと思いました。
伊東 最初はギャラリー公演で終わりにするかも、といった感じでしたね。
櫻木 舞台上演してほしいというリクエストが50通以上来たら舞台化しようと言ってたんですが、平気で来ちゃった。じゃあ、やろうということになった。チラシなどでVOL.3となっているのは、昨年作った映像作品「アルカディア」が2本目になるからです。「ジュール」の劇場での公演は初めてです。

−「ジュール」という名前は?
伊東 「八十日間世界一周」や「月世界旅行」を書いた19世紀フランスの小説家ジュール・ベルヌから取りました。最初はフランス語だけだったんですが、それだけでは目立たないので、いまは短剣マークをつけて「Jules †ジュール」です。十字架に見えますが、短剣ですよ。

−どんな活動をされるんでしょう。
伊東 ビジュアル展開を含めて「砂城のビショップ」の作品世界をさまざまな形で表現していきたいと思っています。同時上映した「少年飛行」もこの作品からイメージをもらって別次元で作っている映画です。舞台だけでなく、ラジオドラマや写真集などいろいろな形で展開していきたい。ただ中心はあくまでも舞台なので、大事に、ここから広く物語が派生していけばいいと思います。
櫻木 「砂城のビショップ」は学園ものなので、世代が違う学園ものとか。「ジュール」に関しては彼女たちが主体なので、こういうものを書いてくれという形で話が来ます。「三日月少年」に関しては、私が書きたいものを書くという感じです。

−さてそこで「砂城のビショップ」はどんなお話で、どんな公演になるのでしょう。
伊東 うーん、このお話はからくりがあるので、あまり話したらネタばれしちゃうかも…。どうしよう。
櫻木 少し古い時代の寄宿舎で…。
−「古い時代」ですか?
櫻木 時代も場所もあえて特定していないんです。決めてしまうと、途中で政治的に不安定になっているなどという言葉が出てきて、どこだとなってしまうので、それはやめて意識的に曖昧にしています。その代わり、感情的な部分はしっかり書き込んでいるつもりです。

−寄宿舎というと、中学ですか高校ですか。
櫻木 中高一貫の学校と思っていただければ…。12歳から16、17歳くらいまでが一緒に生活しているという想定です。少年役を全員女性たちが演じます。見に来てください。この子たちは変わりますよ(笑い)。クリスマス休暇に自宅に帰らず、7人の少年が寄宿舎に残っている。なぜかというと、空を飛びたいと考えてこっそり飛行機を作っているからです。少年たちにもいろいろ愛憎劇がありまして。その少年たちの間に戦争の影が差してきます。
 「マザーグース」に「ソロモングランディ」という詩があって、それをモチーフにしています。もう一つ、砂時計のテーマと言うんでしょうか、砂時計自体は有限なのだけれど、忘れずにひっくり返し続けることができれば無限の、終わらない愛情。しかしどちらかが忘れてしまうとそこで終わってしまう儚さ…。少年期の切ない恋をどうにか守り続けていく決意…。なかなか簡単に説明できないんですが、言葉よりもお互いの感情のやりとりや温もりでの交流がメーンの芝居です。

−「ジュール」の演出も櫻木さんですか。
櫻木 ハイ、私です。彼女(伊東)に頼まれたのは、少年の恋愛ものをやりたいということと、透明なものにしてほしい、でした。「三日月少年」ではあまり恋愛ものを書かないので、じゃあ今回は恋愛ものを力一杯書いてみようかと。
伊東 これまで私には、少年性の強い少女役が多かった。それでお客さんから、少年役をやってほしい、みてみたいという声がけっこう強かった。私は演じる側として、少女でも少年でもそれほど気にしなかったんですが、みたいとおっしゃるお客様がいる以上、やっぱりやってみようかなと思いましたね。

−先ほど「ジュール」では透明な感じにしてほしいと注文を出されたようですが、「三日月少年」はどろどろした芝居が多いんですか。
伊東 いえいえいえ、そんなことないですよお(笑い)。
櫻木 「三日月少年」もテーマはどろどろでも、きれいに作ってますよ(笑い)。テーマをぽんと言っちゃうと重くてどろどろになっちゃうんですが、演出やスタッフ・キャスト一丸で美しい物語に作り上げていくのがウチのやり方ですから。

−舞台は映画と同じ筋書きなんですか。
櫻木 寄宿舎とか少年ものとか骨格は残してほしいといわれましたが、物語は完全にオリジナルです。

−お客さんは女性が多いんでしょうか。
伊東 ギャラリー公演の時は半分以上が男性でした。20代30代が多かったですね。客層はけっこうばらけています。
櫻木 リピーターの方も男性が多いですねえ。ただウチはお色気が全員ないんですよ(笑い)。それだけはハッキリしてます(笑い)。子供らしい一生懸命さを出していけたら、今回は少し色っぽく見えるシーンがあるかも…。
(2005年1月8日、東京・新宿の喫茶店)

<ひとこと>  「ジュール」代表の伊東さんはインタビューの場でも華のある雰囲気を漂わせていました。舞台に立ったら周りの空気をいっぺんに変えるのではないかと思います。作・演出の櫻木さんは母体となった劇団の主宰者で、かつ作・演出も担当しています。古瀬木さんらかわいい妹たち(?)のお姉さん役を買って出ているような気がしました。どんなステージになるか、公演が楽しみです。 (インタビュー・構成 北嶋孝@ノースアイランド舎)

>>戻る