<広瀬格さん> 遊牧管理人 (「ヒマワリ−鰐を飼う人 '05」4月21日-24日)

広瀬格さん
【ひろせ・かく】
1978年5月、横浜市生まれ。高校時代に演劇に出会い、卒業後もOB劇団で活躍。2002年5月「遊牧管理人」旗揚げ。主宰。全公演の作・演出を担当。
webサイト:http://www.you-boku.com/

 「少ない余命を遊ぶ超能力者の夢 シンプルな流れに立ち戻る」

―前回公演「空想中毒」の手ごたえはどうでしたか。
広瀬 僕の手ごたえと、お客さんや出演者の方の手ごたえがややずれていましたね。作家として書くものと、出演者として舞台で演じる手ごたえは当然違うでしょう。お客さんにとっては見て面白いかということでしょうし、役者さんは役や演技に満足しているのか、というところも探っています。役者さんは、全体の印象として前回公演はよかったと言っています。確かに、前回は主人公の持っている長所や、物語の伝えたいことを描くのに時間をかけられたという気持ちがあり、そこに役者さんもついて来てくれたと思います。でも観客の方からは「分かりやすいものが面白い」という意見を聞きます。そういう意味では分かりにくい、面白みが足りないというところもあるかもしれませんが、でも分かりやすいものとは何だろうとも思いますね。僕の中には「分からないでもいい」というような気持ちもあるし、僕個人としては劇団の作品が難しいという印象はないんです。

―メンバー内での反省会や打ち上げで、今後どうしていこうという話や、共演した芝居について意見のやりとりはするんですか。
広瀬 必ずいろいろな人に意見を聞いて回っていますし、お芝居についての意見も出ますね。ただ劇団の特徴なのかどうかは分からないんですけど、みんな僕の好きにやらせてくれているところがあって(笑い)。むしろスタッフさんにお話をうかがいに行った方が、辛らつな意見を聞けたりします。

―前回にもうかがったのですが、できるだけ役者には自由に動いてもらうけれども、節目節目で広瀬さんが指示しているということですかね。
広瀬 やはりプロフェッショナルな役者さんだけというわけではないですから、良さを出すとしたら自由にやってもらうのが一番かなと思います。もちろんよい意味でです。ある程度の制約を設けた上で、その人なりにやれるようにするというのが一番じゃないかと思います。

―今度の物語は、「他人の心が分かってしまう人」が登場するそうですね。どういう内容になるんですか。
広瀬 旗揚げして2回目にやったものの焼き直しなんです。結構中身をいじってしまったので、再演というほどではなくなってしまったんですけどね。題材にしているものだけ残って、他の部分は変えてしまいました。初演当時は、「人の気持ちが分かってしまう」という超能力を持っている人が、普通の社会では生きられないので、同じ能力者同士で集まるという話でした。当時の劇団は、シリアスな部分がありつつ、自由な発想の突飛なシーンを作るのも好きだったので、そのどちらも普通の物語の中に盛り込んだ作品を作っていました。超能力のある人が集まったら何をするだろうと思ったんです。若干哲学的になるんですが、登場人物は自分たちの共通意識として「他人のことが分かる」という思いを持っています。だから頭の中だけでつながった人々が、社会生活ではできなかったことをして遊んでいるという状態を作りました。それをそのまま舞台上でやるといった感じですね。

―今度は余命幾ばくもない方々が登場するということですが…。
広瀬 そうです。初演時は、超能力者たちは社会に戻りたいのに戻れないので遊んでいるというシチュエーションでした。今回はその超能力は人間の進化だという設定で、そうやって人とつながっていくと、個人としての概念がなくなることになります。その上で余命が幾ばくもなく、残り少ない時間を遊び続けているという内容にしました。

―病院の世界がそのまま舞台になるんですか。それとも自宅という設定ですか。
広瀬 病人というわけではないんですが、隔離されたところに集まっている形ですね。

―サナトリウムのようなものをイメージすればよいのでしょうか。
広瀬 台本上では、使われなくなった元工場、大きな廃工場という設定にしています。いくつか構想していた中には、そのようなサナトリウムもありました。

―人の心が分かる何人かが集まっている…。
広瀬 そうですね。僕が芝居を作るときには、必ず伏線や設定をすごく細かくしてしまうんです。ですからそれを消化するような話の流れになります。今回はそういう細かさを一度、シンプルにした流れに戻してみようと思ったんです。ちょうど1年前、タイニイアリスで上演した「MOVE」という芝居は、精神世界を扱ったものでした。主人公の記憶と無意識を行ったり来たりする内容です。それを終えて、12月公演「空想中毒」のときは、若干分かりやすい流れの物語を作りました。精神世界などではない設定で分かりやすくしてみたんです。しかし作品を書くときには、僕の中では精神世界というものがどうしても絡んできてしまうところがあるようなので、今回の4月公演ではそれ再び扱うことにしました。また、僕は物語を書いている中で、設定や人物像を前面に出したり、伏線をがんじがらめにしてすごく細かく決めるのが楽にやれてしまう。今回は、そういった書き方が楽であるがゆえに考え直してみた部分があって、いったん伏線などを減らした上で、違う形の表現を織り込んでやってみたいと考えています。書きながら話が難しく重なってきら、一度立ち戻ってシンプルな流れに直してみる、といった作業の繰り返しをしています。でもそうしてみると、結局書きあがったものは、そんなに時間をかけて作っていないものに見えてしまうんです(笑い)。こんなに時間をかけて悩んで悩んで書いたのに、何でこんなに普通の流れになってるんだろう?なんて思ったりするんですけど(笑い)。今回はそういうやり方を試してみます。いろいろな表現方法を試していった上で、自分の最もやりたい作品を描くときに、うまくペース配分ができるようになっていたいと考えています。

―旗揚げの時から今回の作品までに、共通している流れや考え方はありますか。
広瀬 最初は何も考えないで作っていたんです。そんなものはないんだと思っていて(笑い)。僕はこれを書かなきゃとか、僕たちはこれをしなきゃとか思うのも嫌でした。でもやっぱり好きなものとか、どうしても描いてしまうものはあるみたいですね。特に想像の世界や精神的なものが出てきます。時間がない中で作っていると、そういうテーマが楽というか、スムーズに出てくるんです。どの作品にも一貫して同じようなところがあると思います。想像力を具体化してしまうときに「舞台」というジャンルは一番適していると感じます。シリアスな、自分の言ってほしくないことが一度に入ってきてしまうような作品から、日常を送っていたらそれが突然冗談のようになってしまうコント的な作品まで、両方やれるのがうちの劇団だと思います。

―物語のアイディアがひらめくきっかけや瞬間というのは、どういうときですか。何か刺激を受けるような機会ですか。それともボーっとしているときに自ずと出てくるものなんでしょうか。
広瀬 何だかんだ言っても、ボーっとしてるときなんですけどね(笑い)。本を読むのは好きですが、やっぱり本は本です。お芝居を見に行くときは、単純なお客さんとして行きます。どんな芝居を見ても、「よし、元は取ったぞ」なんて思ったり(笑い)「何でこんな芝居でお金を取るんだ」なんて言ったりする係者は多いんですけど、僕は全然違うタイプみたいです。自分なりに「ああ、こうなんだ」と楽しんでしまいます。そこで僕も何か作ろうと思ったりはするんですけど、直接的なアイディアをもらってくるわけではないですね。作りたいと思うところから始めています。個人的に面白いと思ったり、感動するのが好きなんです。じゃあ、それを自分が作るとしたらどういうものがやりたいだろう。そんなことを頭の片隅に置きながらボーっとしたり、音楽を聴いたりすると、何となくひらめくといった感じです。僕は当て書きもするので、集まった役者さんや、どこの劇場でどのくらいの予算でやるのかといったこと頭に入れつつ、一番よい形でできるようにと考えます。

―今度の公演は何日間でしたっけ。
広瀬 4日ですね。前回の公演までは11人−12人でやっていて、人数を増やしぎみでした。今回は8人とちょっとシンプルにしました。客席は埋まるか怖いんですけどね(笑い)。制作さんから、役者さんには見せ場とまでは行かなくても、しっかりした役としてのポジションで楽しくできるようにしてほしいという要望は常にもらっているんです。そうした場合にきちんとできるのは8人ぐらいかなと以前から考えていたし、また書きやすい人数で書いてみたいという思いがあったので、制作さんにワガママを言いまして、今回は8人になりました。

―制作側からすると、8人よりもっと増やしてほしいということなんですか。
広瀬 うちみたいな集客手段を取っているところはそうでしょうね。身内の劇団員にあまり負担をかけたくないと思ってはいます。ただし、宣伝もしなければならないし、一緒にやっていくうちに手放したくないスタッフが出てきたら、お給料をお支払いしていつもやってもらえるようにしておきたいという気持ちもあるんです。旗揚げの頃はその辺は全く分かりませんでしたから(笑い)。音響さんなんかは稽古に何回か来てくれれば、後は知らなくていいですなんて言いながらやってもらってました(笑い)。でもちゃんとした音響さんに担当してもらってから、もう他の人には頼めないという気持ちになってしまったんですね。でもバランスを考えると、8人だと苦しいところはありますね。

―やっぱり一週間ぐらいは公演を続けたいのではないですか。
広瀬 やりたいですね。ただ、お芝居を見るのが好きな人は必ずいると思うんですが、そういう人たちに直接アプローチできていないのが、今の僕らの難しいところです。制作側には、お芝居が好きな方に来てもらえるようになってからがスタートだという思いがあるみたいです。そうなるまではなんとか客席を埋めてでも、金銭的バランスが取れるようにしたい。

―劇団が外に出るきっかけには、劇場の興行者が考えたイベントなどがあります。ガーディアンガーデン演劇フェスティバルや、パルテノン多摩小劇場フェスティバルなどですね。そういったものには参加はされないんですか。
広瀬 興味はありますね。いつもチェックはしているんですけど、なかなかタイミングが合わなかったんです。同じ時期に知り合いの公演へ演出チームで手伝いに行ったり、自分が役者で客演したり、劇団員が客演に行ってしまったりすることがよくありました。近場の横のつながりで忙しくなってしまいがちなんです。でも、やってみたいとは思っています。
(2005年3月22日、タイニイアリス楽屋)
【参考】
・前回インタビュー「役者は自由に、物語はきちんと 信頼感支えに演出活動」(2004年11月2日)

<ひとこと> このアリスインタビューシリーズを始めてから、2度目のインタビューは広瀬さんが初めてです。聞くことも演出内容や創作過程、劇団制作の現場に降りてきました。答えにくい質問に快く胸の内を語っていただいた気がします。公演が楽しみです。(インタビュー・構成 北嶋孝@ノースアイランド舎、青木理恵)

 

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