<塩見タ久也さん、小野真美さん> イケメニアン「ロンドン」(10月6日−10日)
「まるで登場人物全員が多重人格 わけがわからない状況を楽しむ」
佐々木智広さんと松崎史也さん
【塩見タ久也】(しおみ・たきゅや 写真左)1986年、東京生まれ。筑波大学付属中学・高校を経て2005年4月東京大学入学。高校時代から演劇活動を始め、現在は主宰の谷貴矢氏とともにイケメニアンの作・演出・俳優を担当。
【小野真美】(おの・まみ)1986年、東京生まれ。幼少時代を英・独で過ごす。中学・高校時代は部活で英語ミュージカルをやるかたわら、外部のオーディションを受けて舞台に立った経験もある。2005年4月早稲田大学入学。
劇団webサイト

―今回が旗揚げ公演ということですが、劇団を結成したいきさつを教えてください。
塩見 劇団を主宰している谷(貴矢氏)と、高校のときに知り合い、文化祭などで上演を始めたのがきっかけです。今年の春に大学に進学したのを機に、学内ではなく外へ出て公演をやろうということで正式にイケメニアンを旗揚げしました。

―劇団員はどのように集めたんですか。
塩見 ほとんどが高校のときから一緒にやっていたメンバーで、大学生です。現在17〜18名ほどで、そのうち役者が11名です。

―高校時代はどのような芝居をやっていたんですか。
塩見 高校では既存の作品に取り組んでいて、昨年は野田秀樹をやりました。もともと野田さんの母校(筑波大学付属駒場高校)ということもあって演劇に対する意識が高く、文化祭では全クラスが上演するんです。

―野田秀樹のほかに好きな劇団や作家などは・・・
塩見 脚本の書き方を勉強するという観点で、松尾スズキや宮藤官九郎などの作品を読んでいましたね。

―とりあえずは、大学のなかで上演していくということは考えなかったんですか。
塩見 やっぱり、タダでやっていると甘えが出てよくないと思って、初めから外部で公演することにしました。

―小野さんはどういった経緯でイケメニアンに参加されたんですか。
小野 私は主宰の谷の友人と一緒に中学・高校で英語ミュージカルをやっていて、そのつてで今回の旗揚げに参加しました。昨年は「国際連合活動支援クラシックライブ協会」というNPO法人が主催する「赤毛のアン」のミュージカルにも出演しました。そのため、日本語のストレートプレーの芝居というのは今回の公演がほとんど初めてなので、いろいろと苦労しています。

―「国連クラシックライブ協会」というのはどのような組織なんですか。
小野 ミュージカルなどを通じて国際交流やボランティア活動を行い、国連の広報活動の支援を行う団体です。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)やUNICEF(国連児童基金)を通じてチケット代から募金が行われる仕組みになっています。

―劇団のなかで、塩見さんと谷さんの役割分担はあるんですか。
塩見 基本的に二人とも作・演出・出演をこなすのですが、作・演出はセットで公演ごとに交代で担当するため、今回は私で、2作目は谷になります。

―みなさん大学生ということですが、諸費用は全員で分担するという感じですか。
塩見 みんな実家住まいなので、さほどお金がかかるわけではありません。稽古は区の施設などを利用していて、1回1,000円とかですね。

―では、旗揚げ公演の「ロンドン」ですが、稽古の進み具合はいかがでしょう。
塩見 脚本が仕上がったのが5月頃で、7月の初旬から稽古を始めました。現在ではひととおり演出がつけ終わったので、徐々に衣装や小道具をそろえて本番に近い形で進めていきます。

―話がいろいろと展開していくストーリーのようですね。
塩見 私は話の筋じたいにはあまり興味がなくて、とにかく非日常的な世界を作りり出したいという気持ちがあります。観客のみなさんには「変わった芝居を見たな」と思っていただければいいですね。

―たしかに、登場人物はみんな変わり者のようですが、役者のかたから「演じにくい」という声はないですか。
小野 演じにくいですよー(笑い)。
塩見 えっ、そうなの。初耳。
小野 演じにくいです。演出してて気づかないの?
一同 ハハハ。

―具体的にはどのあたりが・・・。
小野 とにかく支離滅裂なんです(笑い)。私の役は場面ごとに性格がコロコロと変わっていって、それぞれの場面ではなんとなく理解できるんですが、話の全体のなかで一人の人物としてつじつまが合うかというと・・・。
塩見 最初から最後までずっと同じ感じの人物だとつまらないじゃないですか。
小野 登場人物全員が多重人格みたいな感じなんですよ。
塩見 でも、先日あらためて台本をひととおり読み直してみたんですが、それなりに筋は通っているような気もするんですよね。いわれるほど、わけわかんなくはないかなと。3作目に向けて、新しい脚本を少し書いたりしているんですが、そちらのほうがもっとわかりづらい話になってきたので。
小野 ハァ〜・・・。
一同 ハハハハハ。

―作・演出・出演を担当されていて、塩見さんのなかでその比重の違いなどはありますか。
塩見 脚本を書いているときには、どういう演出にするのかというイメージはなくて、いざ演出を始めてみると、自分の書きたかったことがみえてきたりしています。そういう意味では、脚本は脚本、演出は演出というふうにわけて考えています。全体のなかでは、演出という作業が一番好きですね。

―2作目の準備はもう始めているんですか。
塩見 来年3月に公演予定で、いまは谷が脚本に取り掛かっていると思います。その後も、半年に1回程度のペースで公演をしていくつもりです。

―小野さんは早稲田に在学中ということで、学内にもたくさん劇団があるかと思いますが・・・
小野 当初は学内の劇団に入るつもりでいて、いくつか回ってみたんですが、ちょうどその頃にイケメニアンに誘われて、こっちのほうがおもしろそうかなと思ったんです。

―お二人とも大学に入学されたばかりですが、もう卒業後のことも視野に入れているんですか。
塩見 まだ考えてないですね。

―劇団を続けていきたいという気持ちもある?
塩見 それはあります。
小野 私もまだ具体的には考えていませんが、学業でも表現・芸術を専攻しているので、その方面の道には進みたいと思っています。

―今回の芝居の見どころはどのあたりでしょうか。
小野 みんな体を張って芝居にぶつかっているところですかね。メンバーの多くがまだ10代でピチピチですし(笑い)。
塩見 それが見どころでいいのかなー?

―劇団名からの連想で、やっぱりメンバーはイケメンぞろいなんですか。
小野 それは企業秘密ですね(笑い)。
塩見 公演を見てのお楽しみということで。

―秘書役の男性がどんどん服を脱いでいく場面もあるとか。
塩見 そうですね。本人にはまだ確認していませんが、パンツ一丁くらいまでは脱いでもらおうかと思ってます。

―いっそのこと全部脱いじゃっても、捕まることはないような気がしますが。
小野 でも、私がイヤだからやめてね。
一同 ハハハハハハハハ。

―シーンが20以上あるようですが、暗転でつなげていくんですか?
塩見 たとえば、ある人物に照明をあてている間に、暗くなっている反対側でセットを入れ替えたり、音響の変化でシーンの転換を表現したりします。完全な暗転は4回くらいですね。

―たとえば野田秀樹の芝居だと、とにかく役者が舞台狭しと動き回るわけですが、イケメニアンの演出はどのような感じですか。
塩見 劇場が広くないという事情もあって、派手に動くということはありません。ただ、まったく動かないわけでもなく、一つひとつの構図じたいは制止させたいんですが、構図をパンパンパンと入れ替えていくというイメージですね。

―その一方で、セリフ劇として成立させようという感じでもないですよね。
塩見 そうですね。個人的に北野武の映画がすごく好きなんですが、ああいった手法で多くのシーンを重ねていって、全体として一つのイメージを構築することを考えています。反対に、一幕ものの芝居などは見ていられないんです。シーンが変わらないので。

―そうすると、平田オリザの芝居などはダメそうですね。
塩見 いや、平田さんの芝居はやはりすばらしいんだとは思いますが、自分でやるとなると・・・(苦笑)。

―小野さんは、演劇に興味を持ったきっかけがなにかあったんですか。
小野 小学校の高学年までイギリスで育ったんですが、そのときに地域や学校の児童演劇をやっていて人前で歌ったり演技したりすることが好きだったんです。そもそもは4〜5歳のときに見た「CATS」が私の原点ですね。祖父がとてもミュージカルが好きで、家でもしょっちゅうレコードがかかっていたんです。私にとってはミュージカルが童謡がわりでしたね。それで、日本の中学に進んでからも迷わずに続けたという感じです。

―塩見さんは、そういった体験はどうですか。
塩見 私は高校に入るまで、芝居に限らずなにごとにもあまり興味がなかったんです。マンガすらほとんど読みませんでしたし。ただ、漠然と“人を笑わせたい”という気持ちはあったんですが、高校1年のときに谷と組んで初めてやった芝居がみんなに結構うけたんです。その味が忘れられずに、いまでもやっているという感じですね。

―いまでは、芝居はどんな位置づけでしょうか。
塩見 中毒みたいな感じですかね。やっていてすごく楽しいというほどでもないんですが、気がつくとまた関わっている、というような。それに、演技を通じてなにかを表現したいというときに、わりと手軽に取り組めるのが演劇だと思うんです。映画だったら、お金をかけて人や設備を充実させないとみすぼらしいものしか作れませんが、演劇の場合は、ある程度の人数さえ集まればなんとかなるという面がありますから。

―最後に、初公演にあたってのアピールをお願いします。
小野 わけがわからないという前提で、わけがわからない状況を楽しんでもらえればいいと思います。理解しようとしないほうがいいかもしれません。なにも考えないで見てください。
塩見 いまの時代、メッセージ性とか政治性というのはそんなに必要とされてないと思うんですよね。理路整然としていることは、論文にでもすればいいし、社会問題に関心があるならドキュメンタリーを作ればいいと思うんです。

―タイトルの「ロンドン」というのも特に意味はないんですか。
塩見 ないですね。
小野 私が昔イギリスにいたことは?
塩見 全然関係ないね(笑い)。
(新宿の喫茶店、2005年9月3日)

ひとこと>インタビュアーの質問を読むと、「芝居の内容をすべて知っているかのような口ぶりだな」と思われたかたもいるでしょう。実は、まだ劇団の資料がほとんどないということで、今回の公演の脚本を事前にそっくり送ってきてくれました(ワードファイルで84ページ!)。インタビューでも触れていますが、筑波大学(旧・東京教育大学)付属駒場高校から東京大学という塩見さん・谷さんの進路は、あの野田秀樹や宮城聰と同じです。演劇界の新たなエースの誕生か、はたまた休日に舞台に立つ高級官僚の登場か。とても楽しみです。
(インタビュー・構成 吉田ユタカ)

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