<山本真さん> fake「リサイクル」(5月12日-15日)
「個性的な登場人物、作品が主役の舞台」
山本真さん

 山本真(やまもと・しん)
1975年9月千葉市生まれ。大学時代までサッカー一筋。いまはバイトしながら演劇修業中。自宅に稽古場を持つのが夢。

−みなさんのユニットは1996年結成だそうですが、途中で活動を長らく休止していたんですね。
山本 もともと作・演出の福島たちが始めた演劇ユニットですが、99年の第4回公演を最後に活動を休んでいました。結成10周年で再開となりますが、2年前から東京・田町のクラブに福島の脚本で何人かが集まって芝居をやってはいたんです。ぼくも3本ほど続けて俳優として舞台に立ってみて、fake として活動再開したらどうだろうと思って言いだしました。書き下ろしの3作に参加して、手応えがありましたから。

−そのときのメンバーが多いんですか。
山本 そうです。あと一緒に稽古している人とか。一般的なあて書きと違って、この人ならこんな役ができたらおもしろいだろうと考えて作品を書くみたいですね。基本的には作者の芝居を見たことのある人に参加してもらいました。

−福島さんは作・演出で、舞台には立たないんですか。
山本 最初のころは俳優としても活動していたようですが、いまはやりません。

−どんな作風なんでしょう。
山本 一幕一場形式で、暗転もあまりない。社会性もあるけれども、登場人物に死を与えるようなことはない。それに音楽もほとんどなくて、出のところに少しぐらいですか。役者さんに負担のかかる芝居ですね。他の人の芝居を好んで見に行くタイプの人ではないし、だれに影響を受けたということもない、独自の作風だと思います。

−今回の公演は…。
山本 タイニイアリスのwebページにも載せましたが、自殺サイトで知り合った男女が自殺を図るのですが、未遂に終わって病院に運ばれます。一命を取り留めた二人に、医師が意外な取引を持ちかける、という話です。あとは劇場でのお楽しみということで…。

−どんなタイプの芝居なんでしょうか。
山本 芝居の中に笑いがあったりしますが、笑いを取ろうとしてやっているわけではなくて、芝居の流れの中で生まれる笑いかなあ。約1時間半、手応えのあるテーマがあり、舞台に引きつけられると思います。

−今回に限らず、これまでも同じ傾向でしょうか。
山本 そうですね。主役がポンと突出しているわけではなくて、それぞれの性格が書き分けられて個性的なんです。強いていうと作品が主役かな。そこが好きなんです。珍しいタイプの作者じゃないでしょうか。観客をとても意識しているので、参加する役者はもちろん、足を運ぶ観客のみなさんも見て後悔しないと思います。ぼくは結成から関わっているわけではないですけど、少なくともぼくが参加した舞台はそういう印象でした。さっきお話しした田町のクラブのイベントは、何組かが入れ替わり登場するんですけど、おもしろくなければお客さんはさっさと引き揚げてしまう。照明や舞台装置も芝居するには十分ではなかったんですが、ぼくらが始めると明らかに会場の空気が集中していくのが分かりました。お笑いを狙う舞台じゃないのに、終わると歓声が上がりましたから。

−山本さんは学生時代から芝居に興味を持っていたんですか。
山本 小さいころから二十歳ぐらいまでサッカー一色でした。大学1年の時にブラジルに短期留学して、帰ってからいろんなクラブにアプローチしたけれどもだめだった。そのうちケガしてしまって。ブラジルには15,6歳の天才クラスがごろごろしていて、練習であっさり抜かれてしまった。そいつはいま海外で活躍してますよ。ホントにかなわないと思いましたね。だから演劇のキャリアは短いんです。友人と劇団を作って、古典と新劇の2作を上演しましたが、それも解散しました。ほかにいろんな芝居に顔を出したりしましたが、今回参加する役者の中ではいちばん活動歴の少ない一人だと思います。ただぼくは作品がよくなければ出たくないので、断ったケースもあります。

−チラシには、山本さんの所属がアトリエ・ポア・ソルチとなっていますが。
山本 事務所に所属したこともありますが、なかなか合わなくて。それはぼくが作った個人事務所みたいなものです。自宅で稽古場を始めたいと思ってるものですから。

−福島さんの演出はどうですか。それよりも作品が出来上がってから稽古に入るんですか。それとも稽古が始まるときは、一部しか出来てないとか…。
山本 それは出来上がってます。台本をみんなで読んで、感想を話し合うことから始まります。稽古は最初、俳優の考え通りにやらせますね。

−極端な不条理劇とか、その動作に意味や狙いがある場合はいいでしょうが、過剰だったり生硬だったり不自然な演技が目に付くと、肝心のセリフに集中できなくなる場合がありますよね。
山本 作者も言ってるんですが、fake の舞台は基本的にはセリフ劇なんで、芝居が成立しないような言い回しや動作にはやはりチェックが入ります。身振り手振りや顔芸はすればするほどじゃまになるし、すっきりしないと思います。

−山本さんは制作や宣伝の仕事までやっているんですか。
山本 ぼくが言い出したので、ほかに適任がいると思いますが、結局自分でやっちゃってるんです(笑)。

−fake という名前の由来は何ですか。偽物、まがい物という意味がありますが。
山本 創立メンバー4人の頭文字を組み合わせたそうですが、いまはみな抜けてしまいましたね。

−タイニイアリスでやるのは特に理由があったんですか。
山本 場所も便利だし、アリスでやると言えばほとんどの人が知っています。また空き日や料金の関係もありますが、きちんと座れるかどうかも大事ですよね。アリスには前に来たことがあるのでその辺も考えました。

−fake の今後はどうなりますか。
山本 ほかのメンバーは所属している活動や自分の仕事があったりするので、fake はぼくがやりたいと言って動くパターンが続くかもしれません。
(2006年4月27日、新宿の喫茶店)

ひとこと>「作品が主役」と聞いて、メモを取る手が一瞬止まりました。役者として、惚れ込んだ作者、作品に出会えているという確かな肉声を聞くのは久しぶりだったからです。演劇ユニットfake は途中で数年の活動休止期間があるとはいえ、結成10周年の久々の舞台に期待したいと思います。(インタビュー・構成 北嶋孝@ノースアイランド舎)

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