<シバタテツユキさん、齊藤了さん> SPIN-OFF THEATER「フォボス」(6月2日-4日)
「ぶつかり合うから公演が生まれる 広い世界観と繊細な描写で」
シバタテツユキさん(左)と齊藤了さん

シバタ テツユキ(写真左)1977年11月北海道生まれ。高校演劇部時代に全国演劇大会で文化庁長官賞を受賞。宮城教育大中退。ENBUゼミ卒。昨年4月にSPIN-OFF THEATERを結成、主宰。演出担当。「フォボス」が第2回公演。
齊藤了(さいとう・りょう)1980年9月茨城県生まれ。宮城教育大卒。SPIN-OFF THEATERで脚本担当、役者。
劇団webサイト:http://www.spin-off.jp/

−劇団のwebサイトをみると、結成は昨年4月ですね。どんな方々が集まったんですか。
シバタ ぼくと齊藤了と佐藤和徳の3人は同じ大学出身(宮城教育大)です。それぞれ東京で演劇の勉強をしたりアルバイト生活をしてましたが、ぼくが演劇の学校を修了したのを機会に活動しようと集まったのが昨年4月でした。あとはそれぞれ周りに声を掛けて集まったのがいまのメンバーです。

−学生時代の活動は。大学は仙台ですが、学生演劇は活発なんですか。
シバタ 仙台は「劇都」と言われて、演劇活動が盛んで、演劇サークルが100ぐらいあると言われています。でも実際は活動休止状態もかなりあるようですが。ぼくが在学していたころは、大学では東北大と宮城教育大が割と盛んで、ほかの大学とも交流がありました。

−学生演劇はオリジナルが主流ですか。
シバタ 基本的には既成の作品ですね。ぼくが入学したころは第三舞台の鴻上尚史さんや劇団ショーマの高橋いさをさんの作品を上演していました。あとはキャラメルボックスかな。ぼくと齊藤は学年が違いますが、私が3年の時に2人で1本書いたんです。それでオリジナルは大変だということが分かりまして、既成の作品に戻りました。その後、野田秀樹さんの「半神」を取り上げたりもしました。
齊藤 夢の遊民社時代の初期作品に「小指の思い出」があって、自分はそれもやりました。
シバタ 野田さんの作品は難しくて、なんとなく手を付けてはいけないような雰囲気がありましたが、実際に上演してみたらおもしろくて、それから何本か野田作品が続きました。もうぼくが卒業した後ですけどね。

−シバタさんは卒業した後も芝居を続けるつもりだったんですか。
シバタ 大学4年間芝居を続けて、自分の作品がどんどん嫌いになっていったんです。おもしろいと言ってくれる人もいたけれど、自分が満足できなくなった。この先芝居を続けるかとても迷って、けじめを付ける意味でも、一度きちんと芝居の勉強をしようと考えました。そこで東京で学校に通って、なぜ自分の作品が嫌いになっていったのか自分なりに納得できたんで、これを機に一区切り付けて芝居はやめにしようと思っていたんです。こっちにはツテもないので、やりたいことがやり切れず中途半端な作品を垂れ流すぐらいなら、いっそやめようと。でも、そのころ齊藤や佐藤と3人で会う機会があって、こいつらとだったらもう一回やれるかなと。
齊藤 ぼくらの出身校は教育大で、先生の養成がメーンになっていて学生も割に常識的というか逸脱しないんです。ぼくはそれまでの芝居のつくり方に疑問を持っていて、こんなものだろうかとは思っていた。それで仙台を飛び出したんですが、久しぶりに会ってみると、演劇の勉強をしたはずなのに、あまり積極的にも楽観的にもなってない。そんな話を聞いているうちにフラストレーションを感じて、だったらやってみろと勢いで言ってしまった。

−そうやって始めてみて、どんな演劇集団になりつつありますか。
シバタ 私たちは、ある世界観やビジョンを持った人が引っ張っていくタイプではないと思っています。しかしだれもがお客さんになってしまって芝居を作るんじゃ、意味がない。おもしろいと思っていることをことばにしてぶつけ合おう、それぞれがこだわり抜き、それをひとつの作品にまとめあげることを目標にしています。
齊藤 ぼくはちょっと考えが違います。やっぱり芝居は表現だから、だれかの感性が強烈に出る。集団ですから人間関係も求められるけれど、やっぱりだれかの経験や感性が軸になって成立すると思うんです。昔の考え方かもしれないですけど。
シバタ 要は踏み込めるかどうかだと思うんです。ぼくが「個性を尊重したい」と口にするだけではきれいごとになってしまう。演出としてどっちの個性を選ぶかという話にもなりかねない。考えがぶつかると遠慮して、思ったことを口に出来ないまま終わることってよくあるじゃないですか。結果妥協する。でもそこで、一歩踏み込んでぶつかり合えれば、それは妥協ではなく尊重した結果だと言える。だからこそ、ぼくらは絶対に踏み込める関係でなければいけない。初めに公演があってものごとが動くわけではなくて、メンバーが本気でぶつかり合うから公演が生まれる劇団でありたいと思ってます。

−旗揚げ公演も今回も、齊藤作、シバタ演出ですが、作品は齊藤さんがあらかじめ書き上げてから提出するんですか、それとも話し合いで生まれるんですか。
齊藤 あらかじめ書く人が決まっているわけじゃなくて、みんながそれぞれ話を持ち寄って、自分はこんな話を考えてきたなど、いろんなことを出してみる。その上で前回はぼくが書くことになりました。もちろん、書いていくうちにあらすじは変わることもあります。今回のフォボスは自分で書くと言いました。

−webサイトの紹介ページによると、旗揚げ公演は「時は戦乱、陰謀渦巻く中を謎の女を連れ一人と一匹が駆け抜ける!」となっていましたが、時代活劇風だったんですか。
齊藤 時代劇ではあるんですが、時代小説に詳しいわけではないので、時代冒険活劇といって、ちょっと山田風太郎風にしてみました(笑)。チャンバラ的な要素は入ってます。

−山田風太郎の時代小説というと、奇想天外とエロスがないまぜになった話が多いような気がしますが…。
齊藤 まじめな時代物というより、妖怪変化の世界でしょうか。妖怪が出る話は好きなので。

−今度は未来の話のようですね。「人が地球を捨てた時代、宇宙を飛び回る運び屋の男は、とある宇宙船にたどり着く」と載っていましたが、宇宙活劇風のお話ですか。
シバタ まだ劇団の色を決める段階ではないと思ったので、あえて前回とまったく違うジャンルでぼくたちの良さを追求できたらと思ったんです。それに齊藤が乗った形です。

−齊藤さんの台本の特徴は?
齊藤 自分でもよく分かんねえというか(笑)。前回よく言われたのは、時代物なのにつげ義春のマンガの話とか出てきたり、わけが分からないと。
−今回の特徴は?
齊藤 登場するのが人間だけっていうのは好きじゃないんです。アイザック・アシモフのロボットとの論理的付き合いとか、レイ・ブラッドベリの作品にみられるような叙情的な面が好きで、ブラッドベリの作品に、宇宙空間に投げ出される話があって、それがいいなあと。
シバタ ぼくは壮大な長編物が好きなんですが、ぼくが考える世界は壮大すぎなんだと齊藤によく言われます。齊藤は、例え設定が壮大であっても人間が直面するドラマは単純で、崇高な理由なんて嘘くさいだけだと言うんです。今回の作品も世界観は広いけれど、描いているのはすごく繊細な部分ですね。

−シバタさんの演出はどうですか。
齊藤 基本的に受け身的というか、役者を追いつめたりしませんね。
シバタ 昔は細かに演出を付けていたんです。舞台に入るときは右足から出るか左足からか。舞台に入って何歩目で振り返ったらお客さんの方を向いて演技が出来るか。そんなことを考えていたんですが、でも突き詰めれば突き詰めるほどおもしろくなくなったんですよね。それでどんどん捨てるものは捨ててきた。

−関心のある劇作家や劇団はどんなとこでしょう。
シバタ ぼくはG2さんの作品が最初好きで、学生時代に手がけたことがあります。その後、ブラックユーモアが入ってくるケラさんに流れ、カムカムミニキーナの松村さんのぐいぐい引き回される感覚に惹かれました。自分に何が欠けているかと考えたときに、松村武先生の下で学んだら何か得られると思って、松村さんが講師をしているクラスで勉強しました。
齊藤 ぼくは大人計画と野田さんですね。わけが分からないけどおもしろいところかな。わけが分かっておもしろいのもありですけど、わけが分からなくてもエネルギッシュな芝居が好きなんです。野田さんは作・演出しているにもかかわらず、役者だなあと思います。

−タイニイアリスを選んだのは?
シバタ たまたまキャンセルがあったので使わせてもらうことになりました。あまり深く知らないまま決めたのですが、周りに話すとみんな知ってるし、歴史のある有名な劇場だと分かってちょっと驚きでした。ぼくらは仙台だったので、その辺の事情を知らなかったんです。

−タイニイアリスは小劇場演劇とともに歩んできた劇場ですね。どうもありがとうございました。
(2006年4月29日、新宿の喫茶店)

ひとこと>長身痩躯ということばがぴったりの二人。それぞれ自分の考えをしっかり主張して、学生時代から遠慮なく議論をたたかわせてきた仲ではないかと思いました。でもことばのぶつかり合いから生まれるのは、ちょっとはじけた楽しい芝居のようです。期待しています。(インタビュー・構成 北嶋孝@ノースアイランド舎)

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