<渡辺熱さん・江藤修平さん・里井ひさしさん・大貝充さん> 劇団ザ・ニートニク「民宿チャーチの熱い夜4」(7月14日−17日)
「しっかり笑える“人情喜劇” 現実的なテーマを軽やかに提示」
志賀政信さんと渡辺熱さん

渡辺熱(わたなべ・あつし 前列右)
1962年、東京都生まれ。大学在学中にモデルにスカウトされ、その後商業演劇の舞台に立つ。88年から3年間米国ロサンゼルスに滞在、演技・演劇を学ぶ。帰国後、活動を再開。98年から若手俳優のプロデュース公演を続け、作・演出を務めてきた。
江藤修平(えとう・しゅうへい 前列左)
1981年、大分県生まれ。電気通信大学に在学中からDSUのプロデュース公演で舞台に立ち、ザ・ニートニクに参加する。
里井ひさし(さとい・ひさし 後列右)
1974年、北海道生まれ。青森の大学を卒業して上京。通っていた声優の専門学校の掲示板で募集広告をみて、DSU、ザ・ニートニクに参加する。
大貝充(おおがい・みつる 後列左)
1975年、神奈川県生まれ。明治大学、俳優養成所を経て、舞台を通じて知り合いであった江藤氏の誘いを受けてザ・ニートニクに参加する。
劇団webサイト:http://dsu.lovepop.jp/

−今年3月の公演のインタビューでは、作・演出の渡辺さんと劇団ザ・ニートニク代表の志賀政信さんにお話を伺ったのですが、あらためてザ・ニートニクの概要を教えてください。
渡辺 演劇のプロデュースを行っているデッドストックユニオン(DSU)を母体に、そのなかの若手メンバーによる演劇ユニットとして誕生したのがザ・ニートニクです。ユニットとして昨年7月に「民宿チャーチの熱い夜3」を上演し、その後、劇団として組織をあらためて臨んだ公演が今年3月の「はこのゆくえ」です。DSUは大人向けの芝居を意識している一方、ザ・ニートニクは若いメンバーなのでポップでスピード感のある芝居を目指しているという棲み分けがあります。
江藤 ザ・ニートニクのメンバーは志賀・江藤・里井・大貝の4名で、それ以外の役者は客演になります。ただ、志賀は現在自宅療養中のため、今回の公演には出演しません。

−客演のなかには、すでにおなじみの役者さんもいるようですね。
渡辺 半分くらいが以前の公演にも出てもらったメンバーで、残りの半分が今回新たに出演してもらうメンバーです。「民宿チャーチの熱い夜」はシリーズものですので、主要なキャストについては今回も同じ人物設定になっており、客演を含めて前回と同じ役者が演じることになります。

−前回までの公演を見たことがない人のために、シリーズの基本部分をおさらいしていただくと・・・。
渡辺 牧師さんが亡くなってしまい、残された家族が教会を改装して始めたのが「民宿チャーチ」です。その「民宿チャーチ」を経営している家族、その隣の民宿の家族、その反対隣のペンションのオーナーなどがレギュラーのメンバーになります。「民宿チャーチ」は教会の造りを生かして、かつての礼拝堂がバーになっているため、そこにさまざまなお客さんがやってきて、いろいろと事件が繰り広げられるという設定です。

−劇団のメンバーは現在4名ということですが、今後は増やしていく予定ですか。
渡辺 増やしていきたいですね。できれば客演は1〜2名で、それ以外のキャストは劇団員で回していけるぐらいの人数が理想です。

−メンバーは女性でもかまわないのでしょうか。
渡辺 たまたま現在は男ばかり4名ですが、女性でもまったくかまいません。

−公演はどの程度の頻度で行っているんですか。
渡辺 ザ・ニートニクとして年2回の公演がありますが、その以外に年1回のDSUの公演にも彼らを出していますので、合計で年3回は舞台に立つことになります。

−稽古の進捗状況はどうでしょうか。
渡辺 (3人に向かって)どうなんですか?(笑い)
江藤 客演の役者さんのなかには、すでにザ・ニートニクの舞台を何度か経験している人もいれば、芝居の経験自体が少ない人もいます。そのため、稽古の段取りを含めて、時間をかけながら進めていっているという状況ですね。
里井 ザ・ニートニクとしての「民宿チャーチ」は昨年のパート3に続いて今回で2回目になります(注:パート1とパート2はDSUとしての上演)。昨年見てもらったお客さんが今回の作品をどう思うかということを考えると、いろいろな部分でパワーアップしていかなければいけないのですが・・・。
渡辺 パワーアップできてないの?
里井 うーん、昨年に比べて髪の毛の長さとかはパワーアップしているんですが(笑い)。
渡辺 そんなパワーアップじゃダメだろう。
一同 ハハハハ。

−大貝さんはどうでしょうか。
大貝 昨年のパート3では、個人的に沖縄ことばのセリフが初めてでしたし、沖縄らしさをどうやって演じるかというあたりが手探りでしたが、今回は少し慣れてきた感じですね。とはいえ、初めて客演で出てもらう役者さんは、ザ・ニートニクの芝居の展開の早さにとまどっているようです。このテンポにうまくついてきてもらえるようになれば、芝居としてまとまっていくと思います。

−沖縄ことばのセリフはどのような感じなんですか。
渡辺 いまの沖縄の若い人が話しているようなことばになります。いわゆる“やまとんちゅう”が聞いても理解できる程度の沖縄のことばですね。脚本を執筆する段階では、私がイメージできる範囲でセリフを組み立てて、そのあとで専門のかたにチェックしてもらいました。

−渡辺さんの演出ぶりについて、役者のみなさんはどう思われますか。
大貝 普段は優しいかたですが、稽古のなかで、あたりまえのことができていない場合には厳しくいわれますね。

−「あたりまえのこと」というと具体的には・・・。
大貝 稽古の前に(ウォーミング)アップをやらなかったり、おしゃべりをしながらやっていたりというような本当に基本的な部分です。ほかにも、お菓子を食べたりするなど稽古場の雰囲気がぬるくなるようなことに対しては厳しいですね。
江藤 渡辺さんの演出の強みは、演技のなかの不自然な動作や違和感のある動きを徹底的につぶしていくところだと思っています。芝居がおもしろくなるように演出していく前の段階で、役者の動きに対してお客さんに違和感を抱かせないということにとても神経を使われていますね。それぞれの役者の技量に応じてうまく演技をまとめていく演出力はすごいと思います。
大貝 お客さんには笑って泣いて楽しんで帰ってもらえるように、ということを第一に考えて演出されているので、私も自信を持って知人を公演に呼んでいます。

−役者のかたの評を聞いて、渡辺さんはいかがですか。
渡辺 結局、自分の芝居に責任を持つということだと思うんです。責任を持てば、おのずと各人がやるべきことも明確になるはずです。お客さんにはチケット代と交通費と時間を割いて見に来ていただくわけで、それ以上の舞台をつくるという意識をメンバー全員が持たなければいけないと思っています。とはいえ、厳しさのさじ加減というのはむずかしいもので、初めて舞台に立つような若い女の子にあまりきつく言いすぎると「明日から稽古に来なくなっちゃうんじゃないか」という心配もあります。そうかと思えば、里井のようにいくら怒られても平気で、ときには喜んでいるような役者もいるので、それはそれで困りものですが(笑い)。
一同 ハハハハハハ。

−実際に、これまでの公演でお客さんの反応はいかがですか。
里井 渡辺さんの芝居は舞台のあちこちでいろいろな事件が起こるので、「ちょっと首が疲れたんだけど、おもしろかった」という感想がよく聞かれます。まさにポップでスピード感のある芝居が実現されているということではないでしょうか。
大貝 お客さんのアンケートを見ても、「上演時間が長かった」という感想はなくて、むしろ「あっという間だった」という声が多いんです。実際の上演は2時間近いので、決して短くはないんですが。

−今回の「民宿チャーチ」は、どのような芝居になるんでしょうか。
渡辺 いま現実の沖縄で起きていることと、だいたい同じ流れになっています。基地の島であるということを前提に、住民がなんとか基地に依存せずに自立の道を模索していく物語です。もちろん、まったく現実と同じだとドキュメントのようになってしまうため架空の設定になってはいますが、見ていただければ「ああ、あの話か」とわかる内容です。
大貝 テーマとしては「小さな暴力」と「大きな暴力」でしょうか。
渡辺 といっても、決して堅苦しい政治的な芝居ではありません。
江藤 お客さんに「あの場面は笑えたよね」といってもらえるような、いい意味で軽さのあるエンターテイメント、しっかりとしたコメディーに仕上がっていると思います。

−以前から、「人情喜劇」というキーワードを掲げていらっしゃいますが・・・。
渡辺 たとえばコントと喜劇(コメディー)を比べてみると、コントにおいては人物の背景などはさほど重要ではなくて、ネタとしておもしろいかどうかの勝負になるでしょう。一方、喜劇の場合はしっかりとした人物設定がないと成立しません。人が人として存在していないと喜劇にならないわけです。ポップでスピード感のある舞台というと、そうしたリアリティーが欠けてしまいがちなので、役者がいかに真剣に演じられるかということが大きなポイントになります。喜劇ほどまじめに演じなければおもしろくないものはありませんので。

−この「民宿チャーチ」シリーズは、今後もパート5、パート6と続いていくわけですね。
渡辺 そうですね。「寅さん」のように長く続けていければと思っています(笑い)。
(2006年7月1日、東京都目黒区の稽古場)

ひとこと>インタビュー前の雑談でヒゲの話が出ました。沖縄の現地の人になりきるための役作りです。冒頭の写真にあるとおり、大貝さんはすでにいい感じで伸びているようですが、里井さんはアルバイトの関係で本番間近にならないと伸ばせないのだとか。また、褐色の肌になるためにドーランや日焼けサロンも検討されているようで、隠れた苦労が忍ばれます。もっとも、単に外見だけでなく中身もしっかりと充実した芝居になるであろうことは、インタビューから推察されるとおり間違いないでしょう。(インタビュー・構成 吉田ユタカ)

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