<川口華那穂、浜恵美さん>机上風景第13回公演「乾かせないもの」(8月23日-8月28日)
「一生懸命な気持ちを伝えたい 帰還を待つ兵士の妻たち」(Alice Festival 2006参加作品)
川口華那穂さん(右)と浜恵美さん

川口華那穂(かわぐち・かなほ=右)大阪府出身。大学卒業後上京、劇団昴附属演劇学校に入学。のち劇団昴に入団、昴サード公演『修道女』などに出演。退団後、机上風景の旗揚げメンバーとなり、以後全公演に参加。
浜恵美(はま・めぐみ)長野県出身。4年前ある養成所にて芝居を始める。そこで講師をしていた古川氏と出会う。その後黒テントアクターズワークショップを経て、机上風景第9回公演「Cafe Lowside 2」に客演。その後劇団員へ。
机上風景webサイト:http://kijoufuukei.org/

−もう稽古は始まってますか。
川口 6月から週1回始まってます。

−台本も出来ていたりして…。
川口、浜 ええ。

−ホントですか。公演は8月後半だから、2か月以上前に台本を手にして稽古が出来てるなんて幸せですね(笑)。お二人は今回、最後まで舞台に残るんですか。
川口、浜 途中で消えたりしません(笑)。

−「机上風景」には座付き作者の高木登さんと、演出も担当する主宰の古川大輔さんという二人の劇作家がいて、作風も違うと聞いています。このところ高木さんの作品が連続して上演されました。今回は久しぶりに古川さんの作品です。どんなところが違っていますか。

川口 今回の作品はちょっとカラーが違いますが、古川の作品はどちらかというとコメディーの要素が入っていると言っていいのかな。極端な人は登場しなくて、フツーの人たちの遣り取りからおかしさや切なさが滲んでくる。笑いもあって、見終わった後、気持ちが優しくなる。温かい感じが残るんです。

−高木さんの作品は?

川口 毎回殴られる役(笑)。

−高木さんに(前回のインタビューで)うかがったら、いつも宛書きするけど、その通りになったことがほとんどないとおっしゃってましたよ。

川口 エーッ。そうですか。高木作品は、状況設定がとても変わっているかな。でもいまは、現実の方が進んでると言うか、極端に歪んでいたりするから、そんなでもないか。

−旗揚げ公演は高木さんの作品ですね。

川口 そうなんです。彼と私がアルバイト職場が一緒で、彼は映像関係の仕事に進もうとしていたんだけれど、今度芝居をするから作品書いてみない、と言って出来たのが最初の作品「魔窟」です。初めに作品ありきで、作品に合わせて役者に集まってもらって公演ができた。終わってから、それじゃあ劇団の形にしようかということになったんです。

−古川さんと交互に書くという決まりになっていたんですか。

川口 うーん。第2作は古川が書いてますが、それもたまたま彼が演劇学校で教えていて、教え子のために書いた作品が評判がいいと言うので、それを書き直して上演したんです。私たち役者としては、毛並みの違う作品に出演できるのはとてもありがたかったので、二人が書くのは違和感なかったですね。

−俳優としては、違う役を演じてみたいという願いや欲求があるんですか?
 ありますね。いろんな役を演じてみたい。
川口 そうですよね。

−劇団の稽古風景を伝えるブログ(All About「乾かせないもの」)で、川口さんは演劇メソッドの本を何冊か読んだと書いていましたね。どんな本を読んだんですか。

川口 リー・ストラスバーグの弟子が書いた本です。五感の記憶とか感情の記憶とか。例えばコーヒーを飲んでみて、それを演技としてみせるんじゃなくて、まず臭いをかいで、それにまつわる記憶を思い出すというのが最初の段階。次は感情の記憶で、悲しかった記憶を呼び起こすんじゃなくて、悲しかったときの自分に持って行く。そんなことをするんです。自分ではやれてるつもりだったのが、その本を読んだら実際はやれてなかたっと気が付いて、今回の稽古には生かせるようにしてるんですが、なかなか。

−劇団養成所出身ですよね。いわゆる演技法として勉強していたように思えますが。

川口 学んだと思いますが、身に着いてなかった。出来ていると思ってたんでしょうね。

−作品の役を生きるとか、役になりきるのが演技の到達点とその本の中で考えられるんですか。

 同じ役でも私が演じるのと彼女が演じるのでは違いますよね。持っているものが違うから違う役が出来る。演じるときは結局、自分を使わなくちゃいけないから、着ぐるみを着て自分と違う役を演じるんじゃなくて、自分はこのとき笑わないけど登場人物はここで笑う。じゃあなぜ笑うのか。どんな感情を持って笑うのか。私が笑うときはどんなときだろう−。こんな感じで役と違うところや共通点を見つけて、だんだん近づいていく。ホントに役を演じることが出来たときは、目線が自分の中の役になっているんじゃないかな。難しいですけどね。

−演出からどんな注文が出るんですか。

 「演じないで」とよく言われる。まず自分の感情を使おうって。最初はそこから始まります。
川口 自分の目で見て、自分の耳で聞いて、まず自分だったらどうするか考える。そこから役としてみていきますね。

−台本が出来て、みんなで読み合わせはしますか。

川口 今回はしました。

−台本に関して質問や疑問が出たりしませんか。

川口 ここは理解できないという質問は出ます。

−その後、台本に反映されますか。

川口 高木は結構変えるけど、古川の場合は変わらないですね。あなたはそう思うかもしれないけど、役はそうは思わないのではないか、と言われます。
 高木さんも演じにくいセリフは変えてくれるけど、意味合いは変わらないですね。

−今回の作品は銃後の家族、家庭が舞台です。作者の古川さんは昨年のアリスフェスティバルでイラクの作品のリーディング公演に出演されました。そんな事情があって新作の舞台が戦争に関連するようになったんですか。

川口 どうでしょうか。あまり関係ないと思いますが、リーディング公演に出演したのはとてもいい経験だったと言ってました。そんなことがなければ、イラクの人と話す機会はないわけですから。

−イラクのリーディング公演のときは年配の俳優が出演していて、リアリズム系の劇団で鍛えられた演技を見ることが出来ました。いわゆる新劇系の演技と言っていいかもしれません。川口さんは劇団昴の演劇学校出身で、昴はもともと文学座の流れをくむ新劇系の劇団です。時代も変わっていますが、みなさんがあの舞台を含めて、新劇系の演技と違っていると思いますか。と言うか、どういう演技を日ごろ心がけ、目指しているんでしょう。

川口 昴の演劇学校を卒業してしばらく、準劇団員として舞台の裏方をしていました。みなさん、セリフも上手だし、間の取り方も絶妙でした。ただ怒ったり泣いたりしたとき、すごくうまいけれども泣き真似だったり、怒っているんだけど本気ではない。そんな姿が見えてしまう。裏にいるから当たり前かもしれませんが。外から、客席から見ているときは全然気が付かなくて、舞台裏から見たためにそう思ったのかもしれませんが、お芝居ってこうなのかなあ、とちょっと納得がいかなかった。自分がやりたいのとは違うかもしれないと感じました。

−いわゆる小劇場の元気のいい芝居や、静かな舞台とも違いますか。

川口 平田オリザさんの芝居は高木も好きなんだけれども、日常的な風景とはちょっと違った形を描きたいと考えているんじゃないでしょうか。平田さんの舞台は会話が自然に流れて、私たちの日常をかいま見ている雰囲気はあります。すごく評価されているし、人気もありますが、見ていて舞台に引きつけられる、見終わってグッとくるような体験はない。

−ぼくもよく分かりませんが、平田さんの舞台は元気が出たり目頭が熱くなることを狙っているわけではなくて、世界を描写する、一片を切り取るという方法論から出来上がっているように思います。ことばと自分を離すと言うか、自分のセリフに意識を向けないという趣旨のことを著書で読んだ記憶もありますね。
 自分をあまり意識しないで、相手を意識しよう、ということでしょうか。相手のことばを聞いているうちに、自然に自分のセリフが出てくる。古川さんが稽古場で目指しているのは、そんな状態ではないかと思います。そこを外れて自分にこだわると、いかにも、という感じになってくるんじゃないかな。

−今回の作品は、稽古してみてどうでしょう。いままでと違う味わいの芝居になりそうですか。

川口 いつもの古川作品に、高木作品の味わいが入っているのかな。やや高木寄りになったかもしれません。役作りの上でも、ちょっと違った感じです。いつも私はぼけキャラなのに、今回は気が強くてダークな面も持っている役です。
 私は幸せでみんな大好き、という役かな。

−劇団のwebサイトによると、「兵士の帰還を待つ女性たちの話」。戦争が終わり、一人の兵士が帰ってくるところから物語が始まるそうですね。

川口 ものすごいことが起きるわけではないけれど、いろんなことが起きる。そういう物語かな。笑えるところもあるし、見て損はない(笑)。
 みんな一生懸命なんです。一生懸命に生きている人たちの姿が描かれている。その人たちの気持ちが伝わればいいなあと思います。

−今回登場人物は10人です。いつもはこんなに多くないですよね。

川口 劇団員は5人ですから、客演はいますよ。

−劇団は結成からもう7年。これからどういう方向を目指すんでしょう。そんな話はしませんか。
川口 もう、やるのみ(笑)。座長も、自分で役者をしたいという気持ちがあるので、自分が表現したいことをするということになるのでは。みんなもそう考えているのではないでしょうか。
 役者一人一人もいま、何かが生まれかけている、出かかっているような気がするんです。なんかもぞもぞしているような…。

−今回は客演が多いので、自分たちと違ったものに出会える体験はありますか。客演の役者さんから劇団の特色を逆に指摘されることもあるんですか。

川口 今回は若い人が多いので、ホントに自由に、のびのび楽しんでやっていると感じます。自分たちだけだと狭くなったり固くなったりしますから。その点はいいですね。ウチの劇団は稽古が終わっても、そう度々飲みに行くことはなかったけれど、今回は若い女性が多くなったせいか、よく飲む(笑)。雰囲気がちょっと変わりました。

−よくアリスで公演しますね。

川口 使いやすいから。普通は、あれをしてはいけない、これをしてはだめ、という制限がきつい。役者の動きが激しくて壁にぶつかりそうになると、傷が付くからやめてくれと劇場側から注文が入ったこともありました。アリスはその点、表現者サイドに立って考えてくれるからありがたいですね。
(新宿区住吉町社会教育会館)

【関連情報】
・机上風景第13回公演「乾かせないもの」 http://kijoufuukei.org/kawakasenaimono/
・All About「乾かせないもの」 http://blog.livedoor.jp/kawakasenaimono/
・高木登(机上風景座付き作家)インタビュー http://www.tinyalice.net/interview/0506kijofukei.html

ひとこと>「机上風景」はもっと注目されていい劇団だと思ってきました。最初に見たのが「昆虫系」。その後「複雑な愛の記録」「グランデリニア」と、いずれも特異な劇世界を、奥行きのある舞台に仕立て上げてきました。その演出と演技がどこから生まれてくるのか知りたいと思っていましたが、インタビューでその源が少し見えたような気がします。今回は古川作品の初体験。期待しています。(インタビュー・構成 北嶋孝@ノースアイランド舎)

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