<みかんひろしさん、たなか一絵さん> 劇団あかしや第8回公演「タダ子の逆襲〜夕焼け小焼けのパピプペポ♪」(9月27日-10月1日)
「傍観者ではいられない 笑いで真実をつくポップ・アングラ劇」
みかんひろしさん(左)、たなか一絵さん

みかんひろし:1979年生まれ。福岡県出身。2000年に駒澤大学劇団突撃舞台に入団し、唐組研修生を経て2003年劇団あかしや創設。以降、番外公演も含め全ての作・演出を務める。(写真左)
たなか一絵:1978年生まれ。神奈川県横浜市出身。2001年、同劇団に照明プラン・役者として参加。2005年第5回公演より制作代表と照明を兼任。照明部あかりやん創設。以降、他劇団でも照明として活動中。(写真右)
劇団あかしやHP http://akashiya2002.hp.infoseek.co.jp/

―「あかしや」という劇団名の由来を教えてください。

みかん いま世の中で起きている事も自分の心情も全てが「グレー」だと感じられる中で、一つでも真実を「明かして」やろう。そんな思いから「あかしや」という名前が生まれました。
たなか 劇団員とお客様も含めて、人間そのものを「明かしていく」という意味も込めています。

―劇団名が平仮名であることには理由があるのでしょうか。

みかん 第1回公演では『紅しや』と表記していたんですが、なかなか「紅」を「あか」とは読んでもらえなくて。「べにしや」と呼ばれてしまうことが多かったんです。「紅」の文字は唐十郎さんの『紅テント』からきているんですが、それだと事前に芝居に対するイメージを強く持たれすぎてしまう面もあると思ったので、第2回公演からは平仮名にしました。みかんひろしという僕の名前も、劇団名が平仮名だからいいかなって思ったんです。

―みかんひろしは芸名ですよね。どうして「みかん」なんでしょう。

みかん 結局、人は「みかん」に戻ってくるのかなという気がするんです。というのは、お茶の間にコタツがあって、みかんがあって、庭があって…っていう、そういう日本の原風景みたいなものが自分の中にあるから。

―あかしやはコンセプトとして「ポップなアングラ」とキャッチを掲げていますが、詳細と、そんな作風の芝居を創っていこうと思ったきっかけを教えていただけますか。

みかん 僕は大学に入ってから初めてサークルで演劇活動を始めたんですが、その時にやっていたのが寺山修司さんや唐十郎さん方の芝居でした。だからまず、アングラ演劇や反社会的な芝居の精神が根底にあるんです。そして僕は「笑わせない芝居は駄目だろう!」と思っているぐらい、お笑いが好きなんですね。基本的に「アングラでお笑い」はあまり無いですよね。そこで「ポップなアングラ」と打ち出したら芝居の中で新しいジャンルが築けるんじゃないかと思ったんです。松尾スズキさんが創る作品がしいて言えば「ポップなアングラ」に近いんじゃないかと思っているんですが、自分自身も影響を受けている部分が大きいかと思います。

―第7回公演「爪が黒い」に関しては、佐賀弁が物語に郷愁と深みを与えているという印象を受けました。「ポップなアングラ」のコンセプトには、方言も重要な要素の一つなのでしょうか。

みかん 方言は好きです。佐賀弁だけでなく関西弁とか東北弁とか北海道弁とかを使ったりします。方言に限らず、台本を書く際には全体的な台詞の流れや音のリズムにこだわっているんですが、それを役者に伝えるのが大変ですね。長台詞にしても掛け合いにしても、音のリズムは僕の中でとても大事にしているところです。

―「爪が黒い」では、公演の途中で観客が物語に入り込みそうになった瞬間に肩すかしのような茶化した台詞が出てきたりしていましたが、それも笑いを意識して作られているんですか?

みかん そうですね。それは…いつも怒られるんです。大学の頃からずっと観続けてくださっている40代の方に「お前はいつもけなす」と。けなさなくていいんだと。俺はあそこで感情移入が出来るんだと。だけどお前はけなす。シャイなんだと(笑)僕の中ではそのままでいくのが、どこか恥ずかしいっていうのがあって。だけど、お客様をあえて感情移入させないでおきたい意図もあります。物事を一色にしたくない、一つのところに収めたくないんです。
たなか 本の題材は、アングラということもあって社会問題を扱っているものが多いです。旗揚げ公演ではホームレス、第2回公演では近親相姦、他には現在で言うニートなどですね。それを軽いタッチで描いているので、みかんひろしの照れ隠しだと言われることもあるんですけど(笑)、前回公演「爪が黒い」は人間愛、親子愛などを扱ったものでテイストが少々、違ったものになっています。

―「爪が黒い」を拝見して、一人一人のキャラクターに意味を持たせているなと思いました。

たなか そういう印象を持たれたのには、台本が大体、当て書きであるという要素が含まれていると思います。みかんひろしの中で「芝居は人間がやっているものなんだから、人間の個性を使わないでどうするんだ」という気持ちがあるみたいで。全然違う役をやるのは役者としては楽しいと思うんですが、結局、不自然に見えてしまってはもったいないと私も思っています。

―劇団あかしやが持っている魅力や可能性はどんなところだと捉えていますか。

たなか 魅力的なポイントは、言葉が詩的で綺麗である点と、芝居に温度が感じられる点だと思っています。私は照明として他の劇団さんに伺うこともあるんですが、決して否定をするわけではないんですけれども、普段着で稽古されている風景を目にしたりすると「汗をかくほどの情熱がなくて人に物を伝えられるのか」という気持ちが湧いてくるんです。あかしやの劇団員は、ワークショップでは腹筋500回とか腕立て伏せ300回とかやって、ひたすら汗かいて汗かいて芝居を作っていきます。

みかん 基本的に汗が好きなんですよね。温度が低い芝居は好みではないんです。人間臭さが伝わってこない。役者もお客さんもサラッと流せるようなクールな関係は求めているものと違っている。衝動やチャレンジ、「舞台で死ね」というくらいの気持ちが欲しいんですよね(笑)
たなか あと、これは劇団員全員が共通して持っていることだと思うんですが「日常から離れてほしい」という気持ちがあります。劇団あかしやの芝居を観ることで一瞬でも、芝居の感想なりを持ち帰って一人で考える時間を持って欲しい。仕事や家庭からいったん離れて日常から脱却して「自分のまわりを見て欲しい」と思っています。私個人の意見ですが、日常それ自体を切り取るのは映画やドラマで充分ではないかと思うんです。生のものを見るんだったら、日常から離れた部分からのアプローチで人間の奥深いところを見せたいです。
  あとは、みかんひろしがたまに「あかしやはコメディですから」ってさらっと言うんですけど、基本的にエンターテイメントなので毎回、舞台装置には「小劇場でそこまでやるか!?」というような仕掛けを作り込んでいます。前回公演「爪が黒い」では舞台上に実際に泥沼を作りましたし、第6回公演「四畳半より愛を込めて…」ではラストで舞台セットを毎回崩し、公演ごとに建て直しました。

―それは、すごいですね。「タダ子の逆襲」の仕掛けも楽しみです。みかんさんが芝居を作っていく際の演出のスタイルはどんな感じなんですか。

たなか みかんは、テンションが高いところから入ってくれって言うんです。役者に「とにかくもっと動いてくれ」と言います。ですが、すべてに演出をつけていく訳ではなくて役者の自主性から創り上げていく部分があります。役者に遊ばせていいところと演出をしっかりつけるところの基準を自分でしっかり持っています。

みかん 僕の性格的にもそうなんですが「決められるのが嫌」なんです。色んな意味で束縛されるのが嫌いなんですね。毎回、同じ気持ちの流れの中で芝居をやるのは、あまり好きではありません。稽古ではあまりやらなかった動きも、本番で湧いてきたものがあったら動いてもいいよって、信頼している役者には言いますね。

―生の感情や湧き上がってきたものを大事にしているんですね。

みかん そうです。猥雑なものが好きなんです。細かいところにまで演出が行き届いているものではなくて、どこか雑然としていて何が起こるかわからないものが好きです。お客様が「あ、殺られる!」って思うような芝居。お客様は大体、傍観者として存在していて舞台と客席の間に壁がある。あかしやでは、その壁を打ち壊そうとしているんです。ワハハ本舗とか毛皮族とかもそうだと思いますが、あかしやでもお客様を傍観者には絶対させたくない。観ていて他人事ではいられない「はっ」としてしまう瞬間を作りたいんです。だから、それほど細かく演出をつけることはしないですね。

―演出面では今まで8回公演を重ねてきている中で、変わってきていること、変わらないことはありますか。

みかん 設立当初から変わらないのは「何かを壊してやろう」っていう気持ちです。僕は、どちらかというと体育会系なので、動き回ってパッションを振りまいている芝居の方が好きなんです。「何かお客さんをはっとさせてやろう」ということは常に考えています。
  変わってきたことは、ある程度しっかりと芝居のベースを創った上で役者を遊ばせようと考えるようになったことです。今まではひたすら勢いで押すような芝居を創ってきたんですが、これからの事を考えると芝居の根本を学ぶことは必要だと思うようになりました。どちらかというと、初めから変わらない気持ちの部分が、さらに強くなってきているというのが変わってきたところかなと思います。

―もともとは勢いと勢いのぶつかりあいのような舞台を作っていたんですか?

みかん 僕が駄目出しをする言葉の中で一番、多いのは「もっと声を張ってください」だったんですが、お客様から「声が大きすぎて逆に引いてしまう」という意見をいただいたんです。けれど、こちらとしては自分達のテンションやエネルギーにお客様にも乗ってほしいなという思いがある。
  そしてやっと気付きました。結局、役者の気持ちがまったくその状況になっていないのに声をはっていても、それは雑音でしかない(笑)声を張る、というのは張る気持ちがあるかどうかなだということが、やっと分かったんですね。その気持ちが入ったときの声は、たとえ声が大きくても雑音には聞こえないんです。それが分かるようになってから役者に指摘することが出来るようになりました。

たなか 私は第3回目の公演から関わっているんですが、みかんが客演をしてから後、稽古がガラッと変わったなという印象がありました。「声をしっかり出すこと」と「気持ちを作りこんでいくこと」を中心とした演出が融合したのが前回の「爪が黒い」だったと思います。

―今までの経験が積み重ねられた結果が出た舞台だったんですね。劇団を運営する中で浮かんできた今のあかしやの強みと問題点は何でしょうか。

みかん 問題点は僕達が大学からの付き合いだということです。なあなあになってしまうことがチラホラあるので、しっかりプロ意識を持ってやっていかないと、この先、行き詰まってしまうかなという気がしています。強みは、その裏返しで一つになったら強いということですね。何でも言い合える。全員とケンカ出来る。僕もたなかには何度も「やめろ」って言ってます。
たなか 怒られますね。
みかん だけど、たなかも僕に意見を言えるんですよ。そういう関係性なんです。プロ意識と仲間意識のバランスをとっていくことがこれからの課題ですね。
たなか 私は今はまだ一人で制作の仕事をやりきれていないんですが、出来ればみかんには演出に専念してもらいたいです。役者にも役者に専念してもらえたら幸せですね。あとは役者にはどんどん外で勉強してほしいと思っています。私は照明をやっているので他の劇団さんに伺うことがあるんですが、やっぱりすごく勉強になるので客演を積極的にして欲しいという思いがあります。知名度を上げることにも繋がるのでワークショップだけでもいいから出て欲しいですね。

―では第8回公演「タダ子の逆襲」のお薦めの点を教えてください。

みかん 先ほど話した通り、演出面でも「何かを壊してやろう」という気持ちが強くなってきているので、何かお客をはっとさせる仕掛けをやりたいと思っています。あと今までに引き続き舞台美術も、音響しかり、総合的にイマジネーションをかきたてるものになると思います。今回は「タダ子の逆襲」というタイトルですが、お客様には一体タダ子が誰に逆襲しているのかという点に気付いてもらいたいですね。それを感じてもらえれば成功なんじゃないかと思います。

―今回の作品で目標にしていること、今後の展望などをお聞かせ願えますか。

みかん とにかく自分がどこまでチャレンジ出来るかですね。壁や限界を取り外して、どこまで挑戦できるのか。今までも、稽古の前半は「あれもやろう」「これもやろう」と良いアイディアがたくさん出ていたんですが、本番が近づいてくると、どんどんまとまってしまう。「ある程度、しっかりしたものを作らなければならない」という意識が働いてくる。今回は、ある程度のところでまとまってしまうのが嫌なので、最後までチャレンジしたいです。どこまでいけるかっていうのが今回の課題です。
  あとは、どうやって役者を「やりたい」という気持ちに持っていき可能性を引き出していくかですね。普段は大人しくしている役者でも稽古を続けていると「あ、とんだ!」って思う瞬間があるんです。役者を全員、そういう状態にもっていきたいです。また照明、音響含むスタッフにも既成の枠にとらわれずにやってほしいと思います。僕達はやっぱり、まだまだ小さい劇団なので何も恐れるものがない。妙に大人にならず「やりたいからやってるんだ」という気持ちを持って求めるもの、湧いてきたものを大事にしてほしいですね。
  最終的にはテント芝居に持っていきたいんです。今は僕達の世代では、どこもあまりやっていないじゃないですか。まだ20代の僕達が、新たな境地を開いていきたいなと。そこはチャレンジしたいなと思っています。

―このページをご覧になっている皆さんに一言お願いします。

みかん スリリングな時間をお届け出来ると思います。役者が大汗かいて裸になって舞台で叫んでいる姿を観て「俺もがんばろう」とか思ってもらえたらいいですね。ぜひ前面に座って観てください(笑)。

ひとこと>迫力あるチラシに一瞬『ギョッ』としますが、作り手の皆さんは非常に紳士的です。上記の内容にも出てきていますが言葉の端々に強い仲間意識を感じます。身綺麗でハキハキとした受け答えが魅力的な、たなかさん。独特の身体の動きと瞳に力強さが宿る、みかんさん。稽古場ものぞかせてもらいましたが、役者の皆さんも礼儀正しく、まさしく「汗だく」になりながら一生懸命に舞台を作り上げている様子がうかがえました。本番ではどんな迫力ある舞台をみせてくれるのか、楽しみです。 (インタビュー・構成 葛西李奈)

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