<恒十絲さん、仁田原早苗、朱尾尚生さん> 劇団idiot savant 「黒縁のアテ」(1月25日-28日)
「演技演劇の水面をイメージ 重量感を意識した台本も」
長岡ゆりさん

恒十絲(こうとおし): 1970年千葉県生まれ。高校卒業。劇団プルキニエ・フェノメノンを経て2005年5月、劇団idiot savant(イディオ・サヴァン)結成、座長。今回が第2回公演。写真中央。
朱尾尚生(あかお・なお): 1976年群馬県生まれ。2002年、結成間もない劇団プルキニエ・フェノメノンに加わる。以後、全作品に出演。idiot savant 創立に参加。写真左。
仁田原早苗(にたばる・さなえ):1972年福岡県生まれ。2004年よりPlaying unit 4989に参加。写真右。
劇団webサイト:http://homepage2.nifty.com/is/

−稽古場のみなさんを見ると、前回より雰囲気が華やいでいますね。若い方が増えたのでしょうか。

恒十絲 はい。劇団のメンバーは替わっていませんが、客演が多いからでしょう。
朱尾尚生 出演者が変わると、出来上がってくるものが違うのが実感できますね。
恒十絲 そうね、それはすごく感じるね。スタンダードがないから、主演する役者によって舞台が変わっていくのはいいですね。

−客演の方ですか。
仁田原早苗 私は今回客演で初めて参加します。前の劇団プルキニエ・フェンメノン当時、雪山の映像だけに参加させてもらったことがあります。そのときは映像撮影がとっても過酷だったので、舞台はついて行けそうもないと思って降りたんです。今回も舞台は、と言ってたんですが…。
恒十絲 彼女はぼくの奥さんの古くからのお友達で、以前ナイロン100℃に在籍していたんです。
仁田原 いたといっても3年間だけですから。ジャンルも全然違う感じだし…。
恒十絲 ウチも将来的にはあんな風になるかもしれないし。
仁田原 エーッ!エーッ! 初耳です(笑)。
恒十絲 衝撃の…。
朱尾 エーッ!エーッ!(笑)。

−雪山の撮影はそんなに大変だったんですか。
仁田原 大変でしたよ。
恒十絲 下北半島まで行きましたから。マイナス8℃ぐらいまではまったく問題なし。これがマイナス20℃ぐらいになるとちょっと大変だけど。
仁田原 寒さがねえ。せりふを覚えたはずなのに、寒くて出て来ないんですよ。

−劇団のホームページはとてもよくできていますが、次回公演に関してはあまり内容の告知が載ってませんね。
恒十絲 意図的に出してないんです。

−前回の公演は「馴れ合う観客」でした。今度の公演は「黒縁のアテ」となっていますが、さて、どういう狙いと仕掛けを考えているのでしょうか。
恒十絲 ウチの子どもが最初に覚えた言葉が「アテ」なんです。
朱尾 「アーテ、アーテ…」
仁田原 「アテ」って、どういう意味があるんですか。
恒十絲 別にないって言うか、オレなりに意味はあるけれども、それを言っちゃうと、ね。

−どんな芝居になりそうなんですか。
恒十絲 前回は確か、(舞台は)おもしろくないというお話をしたと記憶していますが、実際は意外におもしろかったと言われたりしました。でも今回のほうがもっとおもしろくない(笑)。前回の芝居は一方方向だったんですが、今回は多重的な気がする。うん、ボク的にはおもしろいけど、お客的にはどうかな、と。

−前回はせりふなしだったような気がしますが、今回は…。
恒十絲 今回は台本を書きました。本意じゃないですけど(笑)。台本はあまり好きじゃなくて、ト書きなんて、役者をバカにしてんじゃないかと思えるようなものもあるでしょう。上手から役者が登場してライトが当たるなんて、そんなこと書くなよ、という気持ちになっちゃう。でも今回はト書きらしいのがちょっと入ったかな。
朱尾 初めてですね。

−台本を書いたと言うことはせりふがあり、物語的な展開になるということなんですか。
恒十絲 ぼくの中にはありますけど。でもこれまでの作品の中ではもっとも筋のある芝居かもしれない。それをぼくがきちんと出せるかどうかなんですけど。物語だよね?
朱尾・仁田原 そう、物語ですよ。
恒十絲 ナイロン出身がそう言うんだから間違いない(笑)。

−もう少し時代とか筋書きとか公演を見るときの手がかりになるお話をしていただけませんか。
恒十絲 最初に思い浮かべたのは、水面辺りを沈んでは浮かび浮遊し続けること。そんなイメージですかね。そんな芝居の持つ重量感を最大の命題にしています。

−重量感ですか。
恒十絲 ええ。半年ほど前にヤン・ファーブルの振り付け、演出のダンス(「主役の男が女であるとき」彩の国さいたま芸術劇場)を見て、これって単なるストリップだろう、って気がしたんですね。でも、それを見ているおばさんが「やっぱりシンプル・イズ・ベストよね」なんて言ってたけど、そりゃあ違うだろう。ストリップだろう(笑)。
朱尾・仁田原 エーーーっ!

−録音を止めましょうか(笑)。
恒十絲 たまに重量感を表そうとして笑いを取ったりしていたけど、中途半端なんだよね。なんというのかなあ。チラシは主演がヨーロッパの女性だったのに、行ってみたら韓国のダンサーだったりしてさ、あれはないよね。ただね、1時間以上、独りで踊っていられるってすごいことだと思うんだ。だけど、それも二次的な理由になっちゃう。お客さんがどういう見方をするのかと思いましたね。あと、ピナ・バウシュのパフォーマンスをテレビで見たとき、特に「カフェ・ミラー」を見たとき、重量感をいちばん考えたかな。これが物語です、これが物語です、感じてー、みたいな。あーっ、お腹いっぱい。そういうの、もういいよ。そんな感じがするんです。あっ、また乱反射しちゃったけどね(笑)。
朱尾 言葉の連関、言葉の連関(笑)。

−はい、はい。ではまた、物語に立ち返りましょうか(笑)。
恒十絲 今回は自分にとっての演劇を考えたんですよ。さっき言った重量感を含めて、芝居って何なんだろうかって。新劇もアングラも、小劇場も不条理演劇も、それって何なんだろうかって。あと演劇をやっている同胞へのメッセージもあって、「アタック25」というテレビのクイズ番組で、パネルに(青年団の)平田オリザの写真が出てきたんだけど、出場している解答者がだれも答えられない。それを見ていたウチの奥さんが「やっぱりこんなもんよね」って言ったときに思いましたね。おれたちにとって平田オリザがどんなにすごくても、一般の人にはただのヒトなんだよなあ、って。演劇そのものを、自分のフレームから変えていかないといけないんじゃないか。黒縁のような存在を自分の中で変えていかないとしょうがないんじゃないか。ものすごくそう思ったんですよ。あとは、評論家、批評家と言われる人たちに芝居を見ていただきたいなあと思いますね。批評家ならだれでもいいって言うんじゃなくて、読んでじんとくる文章を書いている人がいて、そう言う人に見て、書いてもらいたいと思いますね。それで、エーと、芝居の話ですよね(笑)。まあ前回もそうですけど、新劇っぽかったり不条理演劇っぽかったり、いろんなことを舞台の上でやってみたい。その上で、芝居って何、俳優って何、という謎かけや禅問答みたいなものを次から次へと繰り出していきたい。そういうイメージはあるんですけどね。伝わるかなあ、と思ったりもするんですがねえ。

−舞台に立つみなさんはいかがですか。
仁田原 一緒にやってる側は、説明を聞いたりすると分かった気になっているんだけど。
朱尾 これまではお客さんに、よく分からないと言われたりすることもありましたね。

−今回はどうですか。
朱尾 今回はお客さんが割と息抜きできるシーンがあるのではないかと思います。

−押したり引いたり、揺らしたりという感じでもあるんですか。
恒十絲 そうですね。ぼくの中で物語性はあるけれども、起承転結のような感じではない。前回出演してくれた俳優が急死して、それもあって存在するって何なんだろうかということもとっても考えさせられましたね。演出家と言っても、出演者やスタッフの中の1人、その何分の一に過ぎない、それを絶対忘れちゃいけない、って考えるんです。ボクは稽古のとき最初に、みんなでまず作ってもらう。台本はボクが書くんですけど、あとは全部俳優に作ってもらう。ノー演出からとりあえず入っていくことが多い。今回も、こうやって自分たちでシーンを作っているところです。

−仁田原さんはどうですか。
仁田原 私がよく参加しているのは演劇ユニットで活動しているんですけど、そこではコメディーをやるんです。その舞台を二人が見に来ると、「こんな演技じゃ、だめだよ」って毎回言われる。自分の中にもそういう自覚がちょっとあるから反論できない。それで「一緒にやろうよ」と言われて、コメディーとは全然違う舞台だし演技だし、それも経験してみようかと思って参加することにしました。さっきノー演出と言ってましたが、いまのところは好きにやらせてもらっています。これまではコメディー芝居のせいか、テンポとか間とか割にバランスを取ろうという意識に縛られている部分があった。そうじゃなくていまは、自分の中のエネルギーというか熱みたいなものを、割に素直に出させてもらっているかなという気がします。自分のエネルギーを自分の出番やせりふにどう具体化するかは、私たちに任されていて、それがどうなっていくか楽しみではありますね。

−自分の出番と言いましたが、各シーンは場所や時間が指定されているんですか。
仁田原 せりふはあって空間は一緒だけど時間軸は違うとか、おおまかな決まりはありますけどね。
恒十絲 バックスクリーンを作るのは、君だ!
仁田原 そうそう、そう言う感じでよく言うんですよ(笑)。

−これまでの芝居と違いますよね。
仁田原 シチュエーションコメディーはともかくシチュエーションがあるわけですから、その設定でどうできるか、どこまで役になりきるかが課題になっていましたが、ここでは「男1」「女1」の世界ですから、違うんですよ。

−広い体育館で、手近に壁のある隅か、それとも手がかりのない真ん中か。たとえて言うと、立つ場所はそんな違いだと思えばいいのでしょうか。
仁田原 うまーい(笑)。そうそう、そうかも。真ん中で演技するとき、何も触れなくて怖いと思うか、何もないから気持ちいいと思うか。横に別の役者がいたらまた違ってくる。そういうことなんですよね。いままではシチュエーションがあれば自分で考えて、当てはめて演技していたけれど、壁のないところに立って、触れるのが人間だけだったら、その距離とか配置とかを考えざるを得ない。そういうことに気付いたというか、気付かされたのかな。いましゃべっていて、そんな気がします。
恒十絲 ほとんど当たってる。分かっちゃったじゃないのかなあ。
朱尾 ギクリとする。
仁田原 そう、当たった? 本日の飲み会で全部説明します(笑)。よく演劇をやっている人に見てもらいたいと言ってますね。
恒十絲 前回の舞台も、一般のお客さんはいいと言ってくれるかもしれないけど、演劇をやっている人は必ずしもうんと言わないよ、と言ってたら、案の定その通りでした。明るい芝居、暗い芝居というくくりがあったとしても、お客さんは音楽を聴くときと似ていて、芝居をカテゴライズして見ているわけではない。カテゴリーに分ければ済む話ではないと思いますね。芝居に注ぐ情熱の量だったり、熱気だったり、その辺に反応するんじゃないですか。いまの演劇は早く早く早く、テンポテンポテンポ。その振り子を逆に振りすぎると「いまを切り取りました」みたいなセミ・ドキュメンタリーが登場するようになっている。いまはどっちかに偏っているような気がして、その間だっていいんだよね。それはそれでおもしろじゃない。唐さんや野田さんの芝居は自分たちが楽しそうにやっているところがすごい。野田さんって、言葉が早すぎて何言ってるかよく分からない。唐さんも同じで、何やってるかよく分からないところがある。でも、唐さんの芝居を見て泣いちゃった。感動した。唐さんの芝居は新宿梁山泊に行き、桟敷童子に流れて行くにつれて、どんどんまとまりが出てくるもんですよね。でもホントのダイナミズムは唐さんの芝居にあると思う。

−確かに唐さんの芝居は無理筋だと思っていてもいつの間にか引き込まれてしまう。気がつくとテントの外で身体の火照りを冷やしている。そんな圧倒的なダイナミズムに魅了されますね。
恒十絲 台本を書く唐さんがいて、演出する唐さんがその台本を壊し出すんじゃないかなあ。ぼくも台本書いて、結構いい文章だと思ったりするわけ。でも、いやあ、やっちゃてるんじゃないかと思う。(タイニイアリス・プロデューサーの)西村(博子)さんに、言葉に頼りすぎちゃ駄目と前回言われた。それでね、言葉に頼らなくて判り易いのは、西村さんの名前を入れることじゃないかって思って、今回はホントに台本に入れちゃった(笑)。昔(演歌歌手の)北島三郎が作曲家の船村徹のところでレッスンしていて、いくら歌ってもOKが出ない。そこでひらめいて、船村徹の真似をして歌ってみたら、「それだよ、サブちゃん」と言って褒められた(笑)。そのエピソードを思い出して、西村さんの名前を入れたんだ(笑)。西村さんはホントに演劇を愛している、その思いが伝わってくるんだよね。そんな西村さんがぼくは好きなんだ。たださ、ちょっと斜めに身体をかがめたときはやばいんだよね。ニコニコしながら、きつい言葉が出てくる(笑)。いいんですよ、前回は未完成を目指していると言ったけれども、今度は駄作を目指してるから(笑)。

−タイニイアリスのオープンは1983年ですから2007年で25周年。毎年アリスフェスティバルを続けてきた希有な劇場です。最初の年は「彗星'86」などが出演して、北村想さんが記念講演。翌年は唐十郎・蜷川幸雄対談が組まれましたからね。南河内万歳一座、青い鳥、少年王者館、遊◎機械/全自動シアターや青年団も出場したし、宮城聡、自転車キンクリート、新宿梁山泊などなど、小劇場を代表するような劇団はアリスフェスティバルにほとんど参加した経験があるんじゃないかなあ。すごい小屋ですよ。
朱尾・仁田原 そうなんですか。
恒十絲 そうなんだよね。当時の小劇場の活動が紹介された記録を読むと、タイニイアリスのことがいっぱい出てくる。

−ところで宣伝活動はどうしているんですか。
恒十絲 「シアターガイド」や「ぴあ」に行ったりしてます。以前、白タイツ姿で出版社へ行ったことがあるんだけど、「企画書は?」と言われて「そうか、企画書を持って来なきゃいけないんだ」と思ったけど、「ぼくが生きた企画書です」と言って、しゃべりまくって帰って来たりしました(笑)。
朱尾 一緒に行きましたが、一応笑って聞いてくれましたよ(笑)。エーと、あと何でしたっけ。
恒十絲 今度の芝居は…(笑)。
(2006年12月28日新宿区の稽古場)

ひとこと>  前回はおもしろさ抜群のインタビューでしたが、今回も笑いの渦に包まれた1時間でした。枠外で展開された形態模写入り人物論を収録できなかったのは残念ですが、それでもインタビューを読み進むにつれて、「乱反射」する言葉の群れから演劇の根幹に注ぐ眼差しを見いだすことができるでしょう。華やいだ稽古場からどんな舞台が立ち上がってくるか、今度の公演が楽しみになりました。ご興味があれば前回インタビュー「未熟は困るが未完成でありたい 映像 音楽 パフォーマンスが織りなす舞台」(2006年4月)もご一読ください。(北嶋孝@マガジン・ワンダーランド)

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