<高木登さん> 机上風景「幻戯」(5月23日-28日)
「初演出でスタッフや仕掛けにこだわり」
谷口有さんとあおきけいこさん

高木登(たかぎ・のぼる】
1968年7月東京都生まれ。放送大学卒。バイト先で出会ったメンバーの縁で旗揚げから座付き作家に。劇団「机上風景」の命名者。今回の「幻戯」が第14回公演。劇団Webサイトにこれまでの公演台本が掲載されている。
劇団webサイト:http://kijoufuukei.org/
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−今回、初めての演出を担当されているそうですが、どんな経緯でそうなったのですか。
高木 僕の中で舞台作りに関する色んな希望が湧いてきたので、やってみようかなと思いました。いままでも何度かそういう話は上がってたんですが、あくまでも自分は脚本家だと思っていたので、のらりくらりと話をかわしていました。

−机上風景以外の場所で演出をされたことはありますか。
 ありません。外でやるなんてとんでもない(笑)。

−古川さんと高木さんの演出の違いはあるのでしょうか。
高木 基本的には今までのやり方を踏襲しているので、劇的に変わるといったことはないです。ただ古川は役者で自分は書き手ですから、おのずとちがいが現れてくるとは思います。こだわったのはスタッフワークです。美術・制作を今回、初めて外注しました。

−きっかけは?
高木 第12回公演「グランデリニア」の時に、舞台が貧しく見えてしまった。劇場の空間性も活かしきれなかったし、興行的にも上手くいかなかった。なんとかしなきゃならんと思いました。

−実際にお客様からも、そのような意見があったのでしょうか。
高木 ある方がブログに「机上風景の芝居は現代人の心の闇とかを描いていて好みだけど、舞台芸術としてはどうなんだろう」と書かれていました。別の方はある役者に「海辺のテラスという設定にリノはないだろう」と言ったそうです。今回は、そういったご批判に応えてみようと思ったのが、演出をするうえでのモチベーションのひとつになっています。

−外注されてみて、いかがでしたか。
高木 袴田長武さんに舞台美術をお願いしましたが、2時間ほど打ち合わせをしただけで、僕よりも作品の本質をつかんでいるようなデザインがあがってきました。お願いして良かったです。やっぱり「違うな」と思いました。

−制作も外注されたんですよね。
高木 J-Stage Naviにお願いしたんですが、ここぞとばかりにノウハウを教わってます。何でも根掘り葉掘り聞いて、チラシや企画書にもダメを出していただいて。

−それは良いですね。制作業務の幅が広がりますね。
高木 うちの劇団は役者の準備を大切にするんです。古川は本番一カ月前から役者にチラシの折り込みなども絶対にやらせない。最低限バイトだけで、それ以外は芝居に専念する。その分、どうしても制作が弱くなるんですよ。

−なるほど。変わったことと言えば、劇団員さんの入れ替わりもありましたよね。態勢や雰囲気なども変わりましたか。
高木 態勢は変わってませんが、雰囲気は変わりました。女性が多くなった。今まで男しかいないような劇団だったんです。今回、台本の題材を売春にしようと思ったのも女性が多いからという単純な理由です。

−他に、題材を選んだ決め手はありますか。
高木 要するに、アンダーグラウンドな世界が好きなんです。一般社会からは見えない世界、ないことにされている世界。いつか売春を取り上げたいとは思っていました。

−作品の見どころは何でしょうか。
高木 ある仕掛けがあります。賛否両論だと思います。劇団内でも議論があったんですが、あえてそのままやることにしました。

−作・演出ならではですね。
高木 役者は混乱してますよ(笑)。一応、説明はしているんですが難しそうですね。

−大きな仕掛けゆえの大変さ、ということでしょうか。
高木 今回、演出をやってみて思うことなんですが「純粋」っていう言葉をひとつとってみても僕とその他の人々とじゃ意味が違うわけです。今回の台本を書いて、演出してみて、セックスを描くのは難しいということがあらためて分かりました。

−具体的にはどういうことでしょうか。
高木 セックスというものの意義とか、人生に占める割合は十人十色なんです。思考でも感情でもなく本能に根ざすものだからです。台本は僕の感覚で書いているので、当然役者が持っているニュアンスとの間にズレが出てきます。なんでここでこうしないんだろうとか、なんでこんなこと言うんだとか、とにかく先に進まない(笑)。演出していて一回セックスを忘れろと言ったくらいです。セックスというものは心と心がつながっていなくても身体をつなげてしまうし、それで生命まで生まれてしまう。なんともグロテスクな、気持ち悪い行為なんだなと。そんなことを考えながら書いたら、こんなお芝居になったという(笑)。

−以前のインタビューでは、古川さんの作品は後味が良く高木さんの作品は後味が悪いとおっしゃってましたが、今回も…。
 悪いです(笑)。特に女性の後味は悪いと思います。こんなこと言って女性が来なくなっちゃうと困る(笑)。

−今回のチラシのイメージだと後味悪いっていうのは…出てないような気が。
高木 そうですよね。さわやかな芝居なんじゃないかと思いますよね(笑)。

−高木さんが、後味が悪いまま作品を終わらせる意図は何でしょうか。
高木 結論を出さないからだと思います。

−結論を出したくないということですか。
高木 以前、シナリオ作家協会の新人シナリオコンクールに応募して、準佳作をいただいたことがあります。その時の選評で田中陽造という大先輩から「作品の器が大きくもなければ高くもない」って書かれたんですね。

−ええ?
高木 それってどういう意味なんだろうってずっと考えていて。ある日、気づいたんです。僕はセリフで結論やテーマを語ってたんですよ。それを書いてしまうと、しょせんそれだけの作品になってしまうんですよね。

−なるほど。結論がないと、受け取り方の幅も広がりますよね。
高木 「こうだ」って言う人がいたら、「そうじゃないんじゃないの」っていう人を登場させて、どちらのキャラクターにも説得力を持たせれば、ドラマには奥行きが生まれ、重層的な展開になっていきます。そういうなかで、愉快であれ不快であれ、観客がなんらかのエモーションを受け取ることができればそれでいいと思うんです。

−お客様に、今回の公演を通してどういうことが伝わったらと考えていますか。
高木 セックスは私たちの生活の一部に何気なく存在しているものです。けど、その何気ない行為が実はものすごく気持ち悪い行為なのかもしれない。目の前にいる人はほんとうは自分の思っている通りの人じゃないのかもしれない。理解できてると思ってたものが、ほんとうは理解できてないのかもしれない。そんな風にご自分の生活や環境を相対化して見ていただくきっかけにこの作品がなってくれればうれしいと思っています。
(2007.5.2 新宿の喫茶店にて)

ひとこと>  高木作品は後味が悪いとのことですが、たたずまいや会話からは高木さんの人柄の良さが伝わってきました。今回の公演「幻戯」の特設サイトには役者さんのインタビューが動画でアップされています。視覚的にも内容的にも見所があるという今回の舞台。どんな展開を見せてくれるのか楽しみです。(インタビュー・構成/葛西李奈)

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