<小瀬幸一さん、にしむらゆみさん> PRAXIS公演Vol.4「Move!」(12月22日-23日)
不安に悩んでも動き出す 若いミュージシャンの群像劇
小瀬幸一さん、にしむらゆみさん

小瀬幸一(おせ・こういち)
1982年東京生まれ。白梅短大卒。学生時代からバンド活動を始め、現在、作編曲家、プロデューサー。プラクシスミュージック所属。
にしむら・ゆみ
埼玉県入間市生まれ。高校時代から演劇活動を始める。専門学校中退。2008年プラクシスと脚本の出版契約を結ぶ。今回の「Move!」はオリジナル作品。
劇団公式サイト:http://office-yamazaki.com/mobile/praxis_produce.htm
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−小瀬さんはいま、オフィスヤマザキのプロデューサーですね。名刺には「作編曲家、プロデューサー」となっています。どんな経緯でこの公演を手掛けることになったのですか。

小瀬 ぼくは基本的には音楽なんですが、所属している事務所が毎年舞台公演を開いていて、4回目の今年、ぼくが初めて演劇に取り組むことになりました。プラクシスというのはもともと音楽出版会社オフィスヤマザキを母体とする音楽レーベルの一つで、大文字(演劇集団PRAXIS)が演劇、小文字(Praxis Music)が音楽を扱います。いろんな人に「場」を提供して活動の機会を与えようと企画しています。

−演劇プロデューサーは具体的にどんな仕事なんですか。
小瀬 いわゆる制作の仕事ですね。公演の全体をみて、必要な手当をします。あとぼくは音楽担当も兼ねていて、サウンド、音響、人がいないのでオペレーターもやります(笑)。
  実は今回の芝居はミュージシャンを取り上げるんです。そこでミュージシャンの役は、実際のミュージシャンに演じてもらうことにしました。ですから音楽もそれなりの環境をそろえます。

−作・演出のにしむらさんはどういう経緯でこの公演に参加することになったのですか。
にしむら 高校時代の友達が、大学で小瀬さんがお世話になってた先生のゼミに入っていて、昨年その学祭で公演を行ったんです。それで先生に紹介して頂いて、その縁でプラクシスに加わるようになりました。
小瀬 彼女の友達が在学している大学というのがぼくの出身校なんです。そのつながりです。保育、幼児教育の専門の大学で、実はぼくは保育士の資格を取得しているんです(笑)。

−それは珍しい。舞台でその資格を生かせるといいですね(笑)。にしむらさんは高校時代から演劇活動を始めていたんですか。
にしむら 仲間と一緒に高田馬場のスタジオを借りて、芝居を作・演出したことがあります。そのほか脚本は何本か書いていますが、上演はまだですね。

−今回の公演「Move!」はどんなストーリーになるんですか。
にしむら ストリートミュージシャンのお話です。郊外に暮らす若い人たちが音楽を始めたり止めたり、簡単に言うと「溜まっている」状態なんですけど、そこから動き出す、前に進む、戦い続けるというあたりを描けたらいいなあと思っているんですが。

−登場人物は何人になりますか。
にしむら 全部で10人です。主な登場人物は6人です。
小瀬 最初に打ち合わせたとき、だれかが主役というのではなくて、それぞれの個性が輝くような芝居にしたい、ちょうど「シカゴ」というミュージカルもそうでしたが、そういう登場人物を描ければいいなあと話し合った。うちのミュージシャンも全員芝居は初体験だから、だれかを主役にするのではない芝居にしてもらいました。

−タイニイアリスでこの秋、「ジャニス・ジョプリンの生涯」という公演があって、ジャニスに扮した女優が強烈なボーカルを聴かせてくれました。登場したバンド演奏も長けていて、なかなかおもしろかった。みなさんも舞台で演奏するんですか。
にしむら ええ、歌も歌うし演奏もします。
小瀬 ミュージカルとは違いますが、歌を歌う部分はライブと同じ感覚でやろうと思っています。出演者がミュージシャンなので、登場人物がそのまま舞台で演奏します。

−作・演出とプロデューサーの関係だと、ストーリー展開に注文をだしたり台本を挟んで具体的な遣り取りがあるんですか。
小瀬 遣り取りしますが、彼女が書いた台本を事務所がとても気に入って、作家として契約できたんです。

−月給制とか…
小瀬 いやあ、いきなりそこまでは(笑)。今回の公演を終わって、また来年いくつかの仕事をして先が見えてくれば新しい展開が開けてくると思います。

−いま劇場ではさまざまなスタイルの舞台が次々に登場しています。自分の芝居も特色はどこにあると思います。どんなスタイルの芝居をしたいと考えていますか。
にしむら うーん。人間のくだらないところが好き(笑)。それがものすごく愛おしく思うんです。人間のごちゃごちゃしたところを描いてみたい。SFとかは余り好きじゃないし、同じ世代のことを書きたい。

−シリアス系なんですか。それともコメディー…
にしむら わりにシリアスなんだけど、結構笑えるところもあるかな。笑わせたいんです。

−今回の公演に参加するのはどんな方ですか。
小瀬 ミュージシャンはうちのオフィスの人間と、ぼくがプロデュースしている女性、役者はオーディションだったりまた別ですけど。

−稽古が進んで形になってきましたか。
にしむら いやあ、まだまだ。

−力強く否定してますね(笑)。
にしむら 俳優さんはいろんなところから集まったので慣れない面があっても、稽古を重ねていけばだんだんまとまってくるとは思います。

−作品を書くとき、自分の体験、経験を題材に生かしたりすることもあると思いますが、過去にみた劇団の影響を強く受けたりしますよね。どんな劇団、公演が印象に残っていますか。
にしむら ジョビジョバ(明治大の演劇サークル「騒動舎」出身メンバーで結成)が好きでした。数年前に活動を停止しちゃいましたけど。よかったのは、思いっきりくだらないところ。物語もあって、笑いもあってみたいな・・・あとラーメンズ。笑いというか、いろんな人間をとらえて描いていて、衝撃的でした。大好きで、本当に尊敬してます。あまり語りたくないです。好きすぎて・・・

−小瀬さんは舞台に立った経験は?
小瀬 学生時代、NHKホールや新国立劇場の舞台に立ちました。オペラの助演なので、セリフなしでしたけど。

−そういう体験と音楽プロデューサーはどこでつながるのでしょう。
小瀬 学生時代ずっとバンド活動をしていました。自分ではアーチストとして活動したかったんですけど、まあ、どっかでギターを弾き続けられればいいと思っていまの事務所に来たら、「おまえは何をしたいんだ。アーチストじゃないのか」と突っ込まれた。そこでギターを続けることにしたんですが、ぼくは歌ができないので、できるだれかを探さなくちゃいけない。でもなかなかうまくいかない。そうこうしているうちに、プロデューサーとしていろんなアーチストを見つけ出したら、かえって自分がやりたい音楽が実現できるのではないかと思えるようになって、それがおもしろくなってきたんです。

−そのおもしろさをもっと具体的に教えてください。
小瀬 世の中には、プロになろうとしている若い人がたくさんいる。でもみんな、考えが甘い(笑)。明らかにだまされているのに平気で過ごしたり。何が売れるかわかりませんから、お金だけ取られてお終いという話もいっぱいあります。いますぐプロとしてデビューさせることはできなくても、それはダメとかこっちがいいのではというアドバイスはできる。いまの音楽の流れをみた上で、それを実現しようという人と一緒に仕事ができるんですね。そこが魅力です。

−なるほど。若い人たちのエネルギーをうまくまとめて、発揮できるといいですね。公演を期待しています。ありがとうございました。
(2008年11月26日、東京・吉祥寺の喫茶店)

ひとこと> プロデューサーという仕事を自覚的に担う人が出てくるのは頼もしい限りです。事務所が新人劇作家と契約するというのもあまり聞いたことがありません。それぞれ力を発揮して、充実した舞台をみせてほしいと思います。「期待、大」ですね。(インタビュー・構成 北嶋孝@ワンダーランド)

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