<燈灯さん、狼さん> 「柔らかい、goth.」(2009年3月2日)
柔らかで繊細な「空間」を楽しんで ファッション、写真、ダンス、映像で作る
金哲義さん

燈灯(とうと)【写真右】
東京都八王子市生まれ。和光大学4年。写真を撮り続ける傍ら、イベント企画も。
(ろう)
東京都江戸川区生まれ。自由の森学園出身。トリマー。
webサイト:http://yawagoth.exblog.jp/
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−みなさんのwebサイトを見ると、今回は写真展ありファッションショーありダンスあり販売ありですね。いったいどんなイベントなんでしょう。
燈灯 まず最初にタイトルの「柔らかい、goth.」という面から入ると、みなさんが考えるgothというと、原宿界隈の「ゴスロリ」だとか、一般の人からちょっと抜けちゃったイメージだと思うんですが、そうではなくて、実はgothが本来持っている静かなイメージ、繊細なものがあるんじゃないか。でもそこはなかなか理解されにくいと思っていて、そこであえて、柔らかい部分、繊細な面をクローズアップして見てもらい、いままでgothを敬遠していた人や見たことのない人にも迎えてもらえないかと考えたところから始まった企画なんです。
  gothというと、ゴスロリとかゴスパンクとかファッションに関わるイメージが強いので、まずショーをしたいと思いました。あとファッションショーだと興味はないという人もいるかもしれないので、写真と映像を追加して、大勢の人に来てもらいたかった。知り合いのダンサーが、ダンスでもgothの世界を表現してみたいと言うので乗ってもらいました。

−燈灯さんはふだん、どんなお仕事をされているのですか。
燈灯 フツーの大学生です(笑)。いま4年ですが、もともと写真に興味があって、人物に関心を持って撮っているんですけど、その世界って、何と言えばいいだろう、うまく表現できませんが、例えばリストカットが美学であるかのような、一種独特の世界なんです。写真を撮ることによって、ホントにさまざまな人がいて、そのなかでgothの美しさに気が付きました。

−ゴスはゴシックの短縮形ですよね。もともと中世ヨーロッパの教会建築に代表される芸術様式が軸になって、現代ではファッションに展開されているのでしょうか。日本でゴスというと、どんなファッションなんですか。
  もともとのgoth、ゴシックというと中世の美術建築様式などなのでしょうが、そこからは別個の流れになってしまっているのかもしれません。原宿を歩くと、真っ黒なフリルの、格好だけで言うと貴婦人系の装いだったり、またロリとの比較で言うと色が違ったりしてますね。痛そうな真っ黒とか、目の周りを黒くしている女の子が結構いるんだけど、日本の場合は特殊な方に偏りすぎているかな。
燈灯 いまのゴスって、人間じゃないものにあこがれている。例えば死神だとか悪魔とか、ダウナーな世界に存在するものへのあこがれが強い。だからぼろぼろの着物をまとったり、白塗りに黒い目という異形なメークにしてみたりとか。日本に入ってきたゴスは、ちょっと逸脱したんじゃないかと思えるところがあったり、日本らしい繊細さと言うか、よりディテールにこだわったり、いいところもよくないところも兼ね備えている。海外から入ってきて日本で展開されたゴスの中から、今度のイベントでは繊細さを取りだしてみようと思いました。

−ゴシックというと、どうしても天にそそり立つ北ヨーロッパの教会など中世の建築様式や美術が思い出されます。現代だとゴシック・ホラーといった神秘・怪奇小説のイメージですね。いまおっしゃったファッションの「ゴシック」も、そういうまがまがしい要素や雰囲気があるのでしょうか。いつころ日本に入ってきたんですか。
燈灯 80年代にはファッションとしてありましたけど、その後、ビジュアル系のバンド、ゴス系の服装のバンドが流行りだした。有名なのはHYDEだとか。爆発的に広まったのはそれがきっかけだと思います。ロリータは映画「下妻物語」や、その原作者の嶽本野ばらの著作に注目が集まるようになって広まったと思います。

−ナボコフの「ロリータ」ではなくて、嶽本の「ロリヰタ。」なんですね。
  ファッションは海外から入ってきても、アレンジを繰り返してどんどん独自の展開を遂げてしまう。いい意味でも悪い意味でも変化するから、原作の意味は忘れられてしまうかもしれません。だから本来イメージにちょっと戻ってみようと考えたわけです。

−これまでも、こういうコンセプト主体のイベントを手掛けていたんですか。
燈灯 いえ。写真展やチャリティーコンサートを企画したことはありますが、今回のようなファッション主体の企画は初めてです。ですからデザイナーの方々には、「柔らかいgoth.」をイメージして作品を作ってくださいというアプローチをしました。「柔らかいgoth.」はこうだという定義が既にあるわけではなくて、これから形成途上のイメージです。ですから実験的な企画だと思います。私たちも事前に描くイメージはあっても、実際ショーが開かれるまでどんな内容になるか完全にはつかめない気がします。ともかく第1回ですから。

−次も予定しているのですか。
燈灯 今回成功すれば、次回も開きたいと思います。goth.のマイナスイメージを変えたいと思っているんです。一部ではgoth.が「中二病」と言われたりしますから。

−「中二病」?
燈灯 中学二年ぐらいでよくある、自意識過剰というか、思春期にちょっと暗い世界にあこがれてしまう症状を、ちまたではそう呼んだりしているんです。中二病のイメージを和らげて、単純に「ああいいな」と一般の人にも理解してもらうには、1回だけのイベントでは足りない。自己満足になってしまう。今回形になれば、これからいろんな展開を考えて、多くに人たちに見てもらいたいと思います。

−具体的にどんな展示やショーが用意されているんですか。
  広告を手掛けている方のフライヤー・デザインや、写真家の作品、ブランドを持っている方々の洋服などさまざまな作品が登場します。
燈灯 ファッションがメーンですが、ほかにいろんなものを展示します。
  バンドという形ではありませんが、音響と映像も流れます。出入り自由だから、15分、20分間隔で、さまざまな出し物が繰り返し見られます。一度会場に入って途中で退場しても、また1時間2時間後に来てくれればそれでも楽しめるようにしたい。ダンスなどのショーをもちろん楽しんでもらいたいと思いますが、それだけではなくて、柔らかな雰囲気を身にまとってそこに一緒にいる空間、その空間自体を楽しんでもらいたいと思います。
燈灯 お客さんにも、もしよければ、あなたが考える「柔らかいgoth.」を着ていらしてくださいと呼びかけています。美術作品や写真の展示、ファッションショー、ダンス、音楽と映像を楽しんでもらいたいと思いますが、その上で、お客さんの立っている空間が一つの作品になるようにめざしているので、見てるだけというより、自分で楽しんでほしい。
  自分たちの場所を体験して、好きになってほしいし楽しんでほしいと思っています。

−燈灯さんの写真はどういうものになりますか。
燈灯 ふだんからストーリー性のある写真を撮ってきたので、今回も「柔らかいgoth.」をテーマにして、これから撮ります。

−狼さんは…。
  時分は最初、被写体だったんです。撮られる側。2年前ぐらいかな。それからイベントの度に小道具を作ったりヘアメークをしたりして関わるようになりました。今回は広報担当とパフォーマーです。

−こういうコンセプトのイベントはほかにもあるんですか。
  コンセプト・イベントも多いし、ゴス系のイベントもあるんですが、ほとんどはビジュアル系のバンドが出て、クラブ形式に音楽が流れて、という形ですね。でもこういう「空間を作る」というゴス系のイベントはあまりないのではないでしょうか。調べてみましたが、大々的にやったというケースは見あたりませんでした。

−お二人のお話をうかがって、とても興味深かったのですが、ファッション色の強いイベントだったら、渋谷や代官山あたりのおしゃれな場所がふさわしいと思えます。新宿の、しかも小劇場のタイニイアリスで開くのはどんなわけがあるのでしょう。
燈灯 新宿はやはり交通が集中して集まりやすいでしょう。でも直接のきっかけは、以前「ジャニス・ジョプリンの生涯」という公演に友人が出演していて、たまたま見る機会がありました。その雰囲気がとてもよかったんです。舞台でお酒も飲んでたし、たばこも吸っていたし、とても自由にやれそうな空間だと思いました。イベントで飲み物を出したいと思っていたので、話を聞いたらできそうだし、あと名前がタイニイアリスでしょう。アリスっていったら、ロリータやゴスでよく使われるモチーフなんです。だからぴったり(笑)。
  地下へ降りてくる両側の壁の様子とか、フロアの使いやすさとか、何か私たちとつながりがあるような気がします。
燈灯 モデルさんがフロアを歩き回れるようになっていて、場所がとっても使いやすい。ギャラリーやクラブにも行ってみたけど意外に規制がきついんですよね。

−出演者側の参加料ってあるんですか。
燈灯 今回は初めてのイベントで、宣伝も遅れがちでした。集客をそれほど見込めないし、広告も取れてないので、最低限赤字にならない程度に参加料をお願いしています。参加料を出してもらうことで、イベント参加への責任や自覚を持ってもらう意味もあります。ホントはスポンサーさんがいてくれたらいいと思いますが。
  赤字にならないようイベントを企画すると、参加者の(チケット販売の)ノルマがものすごいんです。ノルマで強引に集客するより、好きな人に集まってもらいたいので、そのため(に赤字を出さないため)の参加料でもあります。

−ゴス系のファッションは雑誌の特集で取り上げられたりしてますか。
  一般誌ではないかもしれません。ファッション誌では取り上げたこともあるかな。あとゴスの子たちは自分で作ることが多いので、型紙雑誌には載ってますね。こういう型紙でこういうものが作れます、という雑誌です。手芸店にも置いてあるんですよ。
燈灯 ストリート・ファッション誌の原宿特集なんかでもゴシック&ロリータが取り上げられますね。

−ゴシックのイメージを広げたり、変えたりしたいというお気持ちは分かりますが、だれに頼まれたわけでもないのに、手間暇かけたイベントを開くエネルギーがどこから出てきたのか、もう少し話していただきたいのですが。
  ゴシック系の世界は好きだけれども、いまのゴスロリはちょっと、という人が多いのではないか。だから…。
燈灯 (いまのゴスロリだと)入りにくいんだと思います。

−個人的には、どうですか。
燈灯 高校時代、gothに興味を持ちました。私自身は似合うと思わなかったので、友人に勧めてみたら、周りにゴスやゴスロリの子たちが増えた。ブランドが低価格でゴスロリやゴスパンクの製品を売り出したら、そのほかも類似の製品も出回ってゴス系が街にあふれ元の形が崩れてしまった。そこで私は引いてしまったんです。ゴスって、そんなに安っぽかったのかな、という感じですね。手軽で安値にすることによって、どんどん大雑把になってしまった。一つのジャンルとして「あり」だとは思いますが、崇高で繊細で、ディテールにこだわった感じが私は好きです。これがイベントを開くことにつながっていると思います。

ひとこと> 街のゴス・ファッションにちょっと違和感がある。だったらサッと企画を立ち上げ、自分たちなりの「ゴス」を見てもらおう。知恵を絞って、来た人にも楽しんでもらおう。そんな平場の発想がにじみ出ているイベントではないでしょうか。小劇場が「柔らかな空間」に変わる1日を体験してみたいと思います。(インタビュー・構成 北嶋孝@ワンダーランド)

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