<高田由里絵さん> 快楽のまばたき「星の王子さま」(寺山修司作)(4月23日-26日)
 演劇への思いに共振 「現実」と「夢世界」が闘う
高田由里絵さん

高田由里絵(たかた・ゆりえ)
1985年東京都生まれ。高校卒業後、映画学校で学び、ミュージカル劇団を経て2007年、c-side旗揚げに参加。本公演は演劇ユニット「快楽のまばたき」第1回作品。企画制作・出演。
webサイト:http://mabataki09.net/
(shiftキーを押しながらクリックしてください)

−演劇ユニットの名前が「快楽のまばたき」なんですか。
高田 そうです。寺山修司の「星の王子さま」を上演したいというだけの気持ちで作ったユニットです。やってみなければ分かりませんが、立ち上げのときは、最初で最後になるかもしれないと思っていました。戯曲の中に「快楽のまばたき」という美少女が一個所だけ出てきます。そこから名前を付けました。語呂がいいし、まばたきは演劇に一番不要な動作だと言う人がいて、役者に不要なものと快楽を結びつけたら結構素敵なんじゃないかと思って(笑)。快楽も演劇も、あっという間に消えてしまうでしょう。そこが好き。寺山さんの奥さんにうかがってOKをもらいました。

−(夫人の)九条さんは何かおっしゃっていましたか。
高田 「寺山の作品上演は何回目?」と聞くので「初めてです」とか答えたら「がんばってね」とかいろいろ優しい言葉をかけてもらいました。電話でしたけど、とっても親切でいい方でした。

−最近、寺山作品はよく上演されますね。
高田 そうですね。昨年、タイニイアリスでも大阪の劇団が「花札伝綺」「レミング〜世界の涯まで連れてって」を上演しました(注1)。あと、池の下が「狂人教育」を取り上げましたね。今年はたまたま同じ「星の王子さま」を取り上げた劇団があって、私たちの公演チラシを折り込みさせてもらいました(注2)。

−そういえば池の下の「疫病流行記」公演(注3)をみましたが、とても印象に残る舞台でしたね。高田さんはこの寺山作品をどうして取り上げることになったんですか。
高田 私は寺山ファンというわけではないんです。たまたま今回の共同企画者の若井響子さんがこの本を持っていて、おもしろいよと勧めてくれたのがきっかけです。読んでみたら、私の演劇への思いと共振する部分があって、いまやらなければいけないと思いました。

−どんな点に惹かれましたか。
高田 見えるものを見ないふりすると幸せになる人と、そんなことをすると見えるものも見えなくなるという人が闘う戯曲だ、と思ったんです。台本の冒頭に「私は復讐したいと思った。『星の王子さま』にではなく、『星の王子さま』を愛読した自分自身の少年時代に、である」と書いてあります。でも多分、復讐しきれなかったんじゃないか。「星の王子さま」を愛読した少年時代を自分の中に持っていて、でもそれに復讐したい自分もいて、その二つが作品の中で闘っている気がします。
  何て言うのかなあ、うまくたどり着かないんですけど、いまの演劇界にも、見えるものを見ない人がすっごく多いと思うんです。それに腹を立てたりしてましたけど、いまは見えるものをキチンと見ている人がいても、それが正しいかどうか分からない。どっちでも幸せになれるかもしれないでしょう。私自身、この戯曲を取り上げて、この二つを闘わせてみたいと思ったんです。

−二つの考え方の対立がモチーフなんですね。
高田 直接そう描かれているわけではないですが、作者の言いたかったのはそういうことではないかと思いました。(作品に登場する)点子ちゃんとパパが現実的な人で、ホテルにいるのが夢の世界の人たちなんです。おばあさん(ウワバミ)なんか、夢の世界が正しいと思いこんでるから、現実の二人を取り込もうと必死になりますよね。しかも点子ちゃんが星の王子さまにふさわしと思っちゃうから、何が何でも取り込もうとがんばる。この戯曲では、現実的な人がホテルの夢世界を崩壊させて、一瞬勝ったように見えるんだけど、結局は決着が付いていない。ということはつまり、客さんがどっちを取ったかで決まる。
  夢のような人たちって結構、笑われるように見えちゃうけど、でもそれを悪者とは描きたくなくて、夢のようなことを言ってても、それが心に刺さるお客さんもいる。そうだ、心の目で見ることを忘れていたと思って帰るお客さんもいれば、自分の都合のいいようにしか見ていなかった私、と思って帰る人もいる。どっちが正しいか分からなくって混乱して、あらためて考えはじめるお客さんもいる。そういうことを考えるきっかけ、そういうことを考えはじめる公演になったらいいなあと思いますね。

−出演者とそういう話をするんですか。
高田 ええ。出演者には恵まれていて、戯曲の解釈の話をしたり、共犯意識を高めています。公演を面白くしようと真摯に演劇している人ばかり。でも、実はキャスティングの際ひとりひとりとお話したとき、わりと全員が昨今の演劇界に不満や悲しみを感じていると言っていて…! だから復讐心がグルーヴしている現場です(笑)

−今回はユニットでの上演ですが、高田さんが所属している劇団(c-side)の芝居はどんな特色があるんですか。
高田 これまで4回公演していますが、寺山作品と通じるところがあるかな。割とダークメルヘンっぽいですね。主宰のチェリー木下の台本がおもしろくて、日本一好きな作家なんです。男性じゃなくて、主婦ですけど(笑)。

−好きな劇団、作家はいますか。好きな作品から演劇に踏み込む人が少なくありませんが、高田さんがこの道に入るきっかけは何だったんでしょう。
高田 あまりのめり込むほど好きな作家・集団はいないのですが、寺山さん、岸田理生さんの世界…。おどろおどろしいイメージ、アングラの雰囲気には惹かれます。でも実は高校時代、演劇がいやだったんです。新劇なんでしょうか、あの独特のせりふ回し、しゃべり方がいやだった。それで高校出たあと、1年ほど映画の学校に入ったんですが、入ってみてつくづく合わない、やっていけないと分かった。よほどの美人か、顔のおもしろさに自身のある人じゃないとだめなんですよ(笑)。酷な世界だと思ってあきらめて、師匠の薦めもあってミュージカルの世界に飛び込みました。根性をたたき直そうと思って(笑)。あるミュージカル劇団でバレー、タップ、アクロバットをたたき込まれましたね。そのあと運良く出会ったのがチェリー木下でした。彼女は舞台経験も制作のノーハウもなーんにもないけど、身一つで作品を書き続けるロックな精神にビビッと来たんです。

−c-side とは別に、今回寺山作品を取り上げようと思ったのは。
高田 c-side で実現できないものもあるし、どこかでつながっているとは思うけれど、カウンターの意味もあるかな。

−出演するのはどんな方々ですか。
高田 ホントに運がいいんです。60歳の女優さんから30代後半の方、それから舞台を見て何とうまい男の子だと思った二人(笑)。ものすごく若く見える女優さんとか。

−いろんな分野を体験して、いま演劇の世界、小劇場の舞台に出てますよね。そのほかの分野と違う点、小劇場の特色ってなんだと思いますか。
高田 小劇場の芝居は趣味的になりやすいんじゃないかと思います。映画やミュージカルは鍛えるところを鍛えないと、自分でも出られないと分かるんです。でも小劇場はすぐに舞台に立てるし、その素人っぽいところがいいなんて言われる。だから自分がプロだと勘違いしやすいんじゃないでしょうか。その意味で、自分がどこまで来ているか判断の付きづらい世界だと思います。劇団の旗揚げに参加して2年経ちますが、芝居がだんだんつまらなくなってきている、やっている意味が感じられなくなってきているんですよ。映画だと、観客は想像で京都にも行けるし、イタリアにもブラジルにも火星にも行ける。ミュージカルならお話がつまらなくても歌で楽しめるとか、何か一つ、売りを入れてくる。料金が高いですから。でも舞台の世界は、私たちがんばったからお金出してよ、という人たちが多い気がする…。この野菜はおいしいからいくらいくらとか、出来栄えに自信を持って値段を付けるのがいいんじゃないかなあ。お客さんの中に生まれるものをきちんと考えたい。どういう思いで帰るのか、見終えて何を思うのか。そこを考えたいですね。

−芝居は役者や演出家が作る舞台だけで完結するわけではなくて、高田さんが指摘したようにお客さんが見て、感じて、考えてはじめて成立するわけだから、もっと客席を含んだ舞台、劇場を考えた方が芝居は豊になるような気がしますね。さて、これからの高田さんの活動はどうなるのか、聞かせてもらえますか。
高田 実は、この公演が成功したら引退するとか言ってたんです(笑)。成功したらなにかしら生きやすくなると思うんです。こういう演劇もあるじゃない!って。そうなったら演劇の世界で私の役目は終わりかな、そう思っていたけれど、「このお芝居は完璧!最高!満足!」ってことはまずないし、まだ義務が残っている。公演関係者に小川未明の「赤い蝋燭と人魚」を取り上げたいという人がいて、それを見届けないといけない。あとc-side の本公演が1本残っている。そうやって義務を果たしているうちにまた演劇を続けたいと思うようになるかもしれませんが、日本では演劇をやっても儲からないでしょう。生活できない。これは大きな問題ですね。

ひとこと> 小劇場のおもしろさも落とし穴も、見えてしまうとなかなか動きにくいのですが、そこを突破しようとする人たちのセンスとエネルギーにいつも期待しています。寺山作品に焦点を絞り、「快楽のまばたき」と名乗る感性にはちょっとドキドキしますね。「引退」などはひとまず先延ばしにして、演劇の「快楽」を貪欲に追求してほしいと思います。(インタビュー・構成 北嶋孝@ワンダーランド)

>>戻る