「持ってなくても幸せ」な人びとを描きたい
加茂克(かも・かつ)写真左 |
−発条ロールシアターは昨年の公演に続き2度目になるようですが、主宰の加茂さんの経歴を教えてください。
加茂 もともとは今アリスの小屋付きにいらっしゃる鳳いく太さんの劇団の游劇社で役者をやっていました。そこで5年ぐらいやりまして、やめた後はいろんなところで芝居をやってました。いろんな劇団にでているうちに、なんかやってみようということで、「発条」をはじめたんです。
−則末さんとはどこで出会いましたか。
加茂 「脱線劇団PAGE・ONEパートU」というコメディの劇団がありまして、そこに出た時にしりあいました。彼女は前に「オフィス★怪人社」というところで脚本を書いていて、それでこういう話はどうかなとアイディアをもちかけて、台本にしてもらったのが、前回の「パソドブレ」(08年9月中野スタジオあくとれ)という芝居です。
−出会った時はお二人とも役者として出演していたんですね。
加茂・則末 そうですね。
−それで自分のカンパニーを立ち上げるときに彼女に声をかけられたんですね。
加茂 そうです。
−「パソドブレ」はどんな感じのお話だったのですか。
則末 風呂なしのアパートに住んでる無気力な青年の部屋に隣人や嫌な先輩、見も知らない女の人とかが勝手に入ってきて、そのうちに2.26事件の将校さんと2.26事件にからんでいるおまわりさんとが、タイムスリップなのか幽霊なのかわからないけれどもやってきてしまい、主人公が巻き込まれていくという話でした。
20代の彼がなんとなく「自分は成長したなぁ」と最後に思うんだけど、冷静に考えると周りのみんなは成長したけど、自分はしていなかったと気づくという風に終わります。「成長もの」と思いきや「成長しなかったもの」だったという話です。
−題名とはどのように関係するんですか。
則末 「パソドブレ」は闘牛を元にした踊りです。
無益に牛を殺すなんて、とも思うんですが、スペインでものすごく誇りのある仕事である闘牛士というものを考えると、2.26事件の将校さんたちも、後の時代でいろいろ言われていますけれど、本人たちの誇りとか志というものはすごく尊いものであったというところに共通したものを感じるんです。「そんな、動物と闘ってどうするの」とか、「計画が甘かったんじゃないの」とか、傍から見てる人間が馬鹿にしたり批判したりすることがあろうとも、当事者達の熱い思いを汚すことは決してできないんだという気持ちを込めて「パソドブレ」というタイトルにしました。「本気の闘い」の物語なんです。
本気で闘っている彼らのさまに比べて、主人公は本気で闘っていません。主人公は闘牛を遠目で眺めてるだけの人なんですね。
−ありがとうございます。興味深い話ですね。今回は脚本は固まっているんですか。
則末 だいたいですね(笑)
−稽古をしながら直していくのですか。
則末 そうですね、「どうだ」というような完成した脚本を私は最初には書けません。役者の持っている、なんでしょう、本人そのものじゃないんだけど、「本人の抱えているもの」を脚本に投影させてやってもらうのが好きなので稽古の中で作りあげていきます。
−今回も原案は加茂さんからですか。
則末 ええ。
加茂 今回は設定を公園で集う人たちっていうのにしようと思いました。
浪人生とか、なぜか立ちんぼがいてお客をとっているとか、そういう事を考えたんです。で、まあ、明確な形ではないんですが、自分の思った感じを断片的ですが彼女に伝えて、彼女に物語を作ってもらいました。
−どれくらいで脚本が書けるもんなんですか。
則末 いやぁ、すごい時間かかります(笑)。
最初に案をもらったのは、2、3月くらいでしたか。これならかなり早い段階で脚本ができあがるんじゃないかって思ったんですが、結局7月ぐらいになってしまいました。
−キャスティングはどうなさったんですか。
加茂 ある程度話が決まらないと、登場人物がきまらないので、できないわけです(笑)。
則末 逆に私の方は、どんな人がでるかきまらないと、登場人物もきまらないということがあって(笑)、相談しながらすすめましたね。
−今回のキャストは、どうやって選んだんですか。
加茂 前に一緒にやったことがある、知っている役者さんを中心に声をかけました。
−お二人ともお笑いの演劇をやってらっしゃったようですが。
加茂 游劇社の芝居を見に来てくれた、「PAGE・ONE」の主宰の西谷さんという方に誘われて、そこに出させてもらったんです。それも大分前のことなんですが、その劇団がしばらく活動をしてなくて(95年〜05年)、10数年ぶりにやるというので06年に再び参加して、そこで若い人と知り合いになって、それから、まぁ、そういう人たちとやるようになりました。
−則末さんのどこがよかったんですか。
加茂 いや、まあ、脚本が書けるというので、そこが魅力でした。
則末 それだけ?
加茂 いや、それで、書いてもらいたいと思いました。
−則末さんは脚本はずっと書いてこられたんですか。
則末 高校卒業後に入ったコント系劇団がお笑いの事務所もやっていて、お笑いの芸人をやりながら、お芝居をやっていました。芝居公演を年に2回やっていたんですが、その時には演出チームとして共同脚本、共同演出をしていました。なので一人でちゃんと作・演出をしたのは2回くらいですね。発条ロールの第1回目の時がようやく3回目くらいでした。
−今回はどんな話ですか。稽古場日記(http://hatsujoroll.jugem.jp/?pid=1)に舞台となった公演の写真が載っていますが、これはどこですか。
則末 新宿中央公園です。そこがモデルです。中央公園はいつ行っても、ここは本当にこの世に存在しているんだろうかと感じます。うっそうとした中にいろんな人たちが集っていて、そうかと思えば急に人影が見当たらなくなったりする。
加茂 うん。
則末 面白いなぁ、と。なのにすぐ近くには近代的なビル群があって、不思議だなぁ、と。当初、浮浪者を出したいという話を加茂克から聞いたときに、「そんな現実的な話、私書けないよ」と思っていたんですが、「伝説の浮浪者」ということばを思いついて、その伝説の浮浪者を探すという話はどうだろうと発展していったのです。
−今は一ヶ月前くらいですが(インタビューは8/8)、稽古はどのくらい進んでますか。
則末 毎日稽古してます、役者たちを見ながら脚本に手をいれてという段階です。
−稽古場はどんなところですか。
加茂 公共施設ですね。借りる場所を探しながらが大変です。
則末 毎日稽古場がかわるので、道に迷って役者が遅れてくるという事態が、起こりますね(笑)。
−それでは、芝居の中で一番見せたいものはなんですか。
則末 魂ですね。
− 役者のですか? それとも作家のですか?
則末 関わっている人間たちの魂です。一人一人の魂がこもっていれば良いものになると思うんです。もちろんお話が面白いことも大事だし、できあがりがキレイなことも大事だし、お客さんが過ごしやすい会場になっていることも大事だし、いろいろ在ります。けれど、何気ないところでも、ものすごい汗をかいているテンションの高さ、すごく静かなシーンでも、終わってからぶっ倒れてしまうんじゃないかというぐらいの熱量がないと、いかんと思うんです。それだけは絶対にないといかんと思ってやっています。
−それを演出家として役者に要求していくんですか。
則末 そうですねぇ…でも、自分から出てきてくれないことには!って思いがあって、言いたくないんです。「感じてくれ」、って。
−次に役者さんの話をお聞かせください。前回と連続で出演されている方はいらっしゃいますか?
則末 前回主役をやった宮本くんと将校をやった江戸川さんがいます。
−お二人はどんな役者さんですか。
則末 二人には惚れ込んでいて、今回もぜひにと出てもらいました。宮本くんは26歳。江戸川さんは加茂さんの游劇社の先輩で45歳です。
加茂 いろんな年齢層がいたほうがいいかなと思っているんで。
則末 ベテランさんが舞台上にいると、「目が落ち着く」、見るところがキチンとあって安心できると言われますね。
宮本くんは、第一印象は今時の若者で薄い感じなんですが、内に秘めたる熱さがすごくって。ストイックだし、勘もいいし、読解力もある。誉めすぎですね(笑)芝居に対する関わり方もいい意味で真面目で、私も見習わなきゃなぁと思います。
江戸川さんは普段ボサッとして見えるんですが、眼光の鋭い人です。
加茂 雰囲気があるよね。
則末 本人が言うにはなんにも考えてないそうなんですが、考えている風に見えるという、得なタイプです。前回に引き続き今回も現実味のない役をやってもらうんですが、なにか在るんじゃないかなと思わせてくれるという。ただそこに居るだけでみんなの指針になるというか。全然稽古場でしゃべらないんですけど。みんなは怖くて遠巻きにしてます。
加茂 古いつきあいのぼくともあまりしゃべりません(笑)。
則末 あと、谷合りえ子さんという人は、「AchiTION!」というコメディの劇団の所属で、おもしろいことをしてくれそうに見えて、実際おもしろいという役者さんです。彼女は真面目な芝居を普段あまりしないのですが、今回は本気で「女の業」をみせる役をしてもらってます。笑いは封じてもらっています、もったいないですけど。
−若い方はどうですか。
則末 そうですね。一番若い子はネット募集で来た21歳。この子もよく考えて芝居をする。
加茂 ぼくは42ですね(笑)。鳳さんのところにいたのはずっと前です(笑)。
−演出家から見ると加茂さんはどんな役者ですか。
則末 すごくおもしろいです。全然へたくそなんですけれど(笑)、赤塚不二夫先生のマンガのような、想像付かないような芝居をしてくれるおもしろい役者です。演技プランを立てているのかどうかわからない、なんでこうなるんだろう、この人はという演技をします。よくも悪くもビックリさせてくれる役者です。私自身は筋道たてて、理屈で、きちんと考えていくタイプなので、ビックリすることをしでかしてくれる役者とやるのはすごくおもしろいです。
−加茂さんにお聞きします、則末さんはどんな女優さんなんですか。
加茂 なんでもできる、器用な人ですね。年齢も演じわけられますし、演技プランをたくさんもってます。
則末 5分ぐらいしかもちませんよ(笑)。コントの長さが大体5分だったので。
劇団にいる時には、作・演出もやっていたので、「女王さま」とか、好き放題やるポジションが多かったです。タイムボカンのマージョさまみたいな君臨する役とか、後は少年役とかオバサン役とか、七変化です(笑)。でも今回はすごいまじめな役をやらなくてはならなくて。あ、でも偉そうな役もやります。久しぶりに。
−則末さんがお笑いをやっていたときはどんな感じだったんですか。
則末 コンビで、コントをやってました。座長が書いたネタを役者として演じていたという感じです。内容は昼間はちょっといえないような「おとなの性教育番組」というのをやってました(笑)。
−お笑いのテイストは今回の芝居では低いのですか。
加茂 そんなことはないです。前回の「パソドブレ」もそうだったんですが、暗い話題をあつかってるので、とっかかりはできるだけ軽い感じにしたいなと思ってます。「ポップなアングラ芝居」と言われたことがありますが(笑)。
則末 それで次第にまじめな世界へと展開していく。でも、なんていうか、身についた「笑わせたい」欲がでてしまって、すごく真面目なシーンなのに崩したくなってしまうという、ま、それもいいかなと思ってます(笑)。
−追求しているのはどんな世界なんですか。
則末 今回ホームレスや浮浪者を出したいということになった時に、真っ先に浮かんだのは、「派遣切り」とか現在の社会情勢でした。でも、ちょっと違うな、と。
これは一般的ではないのかもしれないんですが、私は浮浪者という存在が好きなんです。
加茂 ファンタジーにとらえているんだよね(笑)。
則末 なんていうかモノを持っているから「幸せ」ってわけでもないと思うんです。
私自身は月に8万ぐらい稼げば暮らしていけるので、何も持って無くてもそんなに悲壮感漂わずに生きていけるんじゃないかなと。まぁ、芝居がやりたいのでその資金のために今はもう少し稼ぎますけど。
「持っている=幸せ」「持っていない=不幸せ」ではなくて、「持ってなくても幸せ」という象徴としてホームレスをだしたいな、と思ったんです。
今回、社会からはみ出しているホームレスなどの人々が、とても幸せそうにしています。それも皮肉な幸せではなく、心からの幸せです。逆に社会の中でちゃんと生きている人たちがなぜか居場所や帰るところがなく、その両者がたまたま公園で出会うという話になりました。結局、「派遣切り」は、まったく出てきません。
−加茂さんは当然、ホームレス役ですか。
加茂 そうです。
−当然といういい方も、失礼でしたね(爆笑)。まぁ、うまい人がやらなければならないということでご理解ください。
加茂 いえいえ(笑)。
則末 結局、持つ持たないはどちらでも良くて、どちらにせよ楽しく生きていられることが幸せにつながるんじゃないですかね。
実際、ホームレス暮らしをせざるを得ない人たちがたいへんだということは分かった上で、「でも」、社会に見下されている感だけはなくしたいと思ってます。それが、作品に流れている世界観でしょうかね。
加茂 まあ、テーマは別にあるんですけどね。
(2009年8月8日)
お問い合わせ・ご予約 03-3336-1602 (村上)
hatsujoroll@yahoo.co.jp (お名前と日時、枚数をご明記ください)
http://cnfti.com:80/met1551/ (セブンイレブン発券)
<ひとこと> 長く演劇界で活動しているベテラン役者が、年下の演劇人に惚れ込み、一緒に芝居を作る。それをプロデューサー・システムのような一度限りの座組にせずに、継続的な集団としてカンパニー化していく。すばらしい取り組み、活動だと思う。自分たちのペースを崩さずに長く継続していってほしいと心から思う。
幸せのあり方を考えるという普遍的なテーマを現代性を持たせ作品化しようと試みる則末脚本にも大いに期待したい。(インタビュー・構成 カトリヒデトシ)