〈山田能龍さん〉山田ジャパン 「八つ当たりに丁度いい顔」(2009年10月30日-11月3日)
小劇場で「笑い」を追求する演劇を

山田能龍さん

山田能龍(やまだ よしたつ
山田ジャパン主宰。全ての作品の脚本・演出を手掛ける。俳優としてこれまで数多くの舞台に出演する傍ら、話題の映画にも多数出演。俳優、作家、演出家として、多方面から注目を集めている。
【主な出演作品】
●映画
『リアル鬼ごっこ』 監督:柴田一成
『七人の弔』 監督:ダンカン
『ランデブー!』 監督:尾崎将也 ※2010年春公開予定
【主な遍歴】
2006年:日本演出家協会主催「若手演出家コンクール」にて優秀賞受賞。
2009年:「第1回笹塚演劇王決定戦」にて決勝戦特別賞受賞。
劇団サイト http://www.yamadajapan.com/
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−山田さんは出身はどちらですか。
山田 大阪府のニュータウン、千里の出身です。

−お笑いを7年やってらしたとか。
山田 そうです。お笑いの才能がなかったことが、7年かけてようやくわかりましたんで(笑)。
  ま、これ負け犬の遠ぼえになりますけど、だんだん芸人的なものと、違うことを求められるように変わってきまして、たまたま演劇に触れる機会があって、それで演劇にはまったんです。もともと作り込んだお笑いが好きだったということもありました。
  演劇の世界にきてからは、8年たってますね。入ったのは「東京サギまがい」(97年ダンカン、グレート義太夫、須間一彌、ガラかつとし等を中心に結成された)という劇団です。
  お笑いをやっている時にダンカンさんの作っている芝居に出る機会があって、その時に面白いなと思ってました。で、ぼくがお笑い止めたというのを聞いたダンカンさんが、「じゃあ、何もやってないんだったら、手伝ってよ」と言ってくださって、その劇団に入ったという経緯です。
  ダンカンさんは作家さんなので、いろいろ教えていただきました。
  ぼくは映画の舞台版の「生きない'99」(99年)が初舞台でした。何かいきなり結構メインでやらせてもらったので、それにまた気をよくしまして、はまっていったわけです(笑)。
  05年の若手公演の「お化け屋敷の中〜断髪したライオン達〜」で初めて作演出をしました。

−最初から、作家指向だったのですか。
山田 いや、それが最初は必要に迫られてやったんですね。
  当時劇団に文芸部というのがあって、作家も劇団員として雇っていました。その作家がやっぱり、自分の作品を世に出したいんだけれど、本公演だとチャンスがないから、やらしてくれと、ダンカンさんに頼んだんです。その時演出家がいなくて、ぼくはその時、劇団で演出補みたいなことをやってましたんで、ぼくが演出をやるようになったんです。
それが、作り手として初めて、やれたという感じがした舞台です。
  それが、なんかコンクールがあって(日本演出者協会主催「若手演出家コンクール2006」のこと)、たまたま劇団員の一人が応募しようと言い出したんです。そんな由緒正しいところにという気がして、そんな高尚なもの作ってないから、「そんなもんだすかい」っていったんですが、「じゃ。私が出しとく」と、勝手に出したんですよね(笑)。そうしたら、通ってしまって。なんか知らないうちに、最終選考まで残りまして、「あれ、面白いものが作れるんじゃないか、自分は」と、自信と励みになりました。

−それが2007年の3月のことですね。「サギまがい」では、3作おやりになったんですね。
山田 そうです、その時のメンバーが現在まで結構かぶってます。
  その後、劇団を独立しました。
  自分の作品でやりたいという思いが強くなり、母体の劇団の中で同じ気持ちを持った若い連中と独立しました。もちろん円満に退団したんですが「独立」ということについて、細かく言いたいこともあるんですが、どんな風にいって伝わらないことがあると思いますし、また外からみたとおりのことも事実としてしょうがないことだとは思ってます。

−稽古を拝見して、メンバーのみなさん、なかなか実力を感じました。
山田 ありがとうございます。

−今回のキャストはどういうメンバーなんでしょうか。
山田 一応劇団という形をとってますので、大体キャストは重なってます。
劇団化する時に、そのメンツで集まったら、必ず面白いことができるんではないかというメンバーと立ち上げました。
  いとうあさこ、大野泰広を始め、ただの、千葉、羽鳥、松本、昔野、横内が正式な劇団員です。
  劇団には15人ぐらい役者がいて、スケジュール的にでられるものが12人ぐらいでやるという感じです。尾形さん、松永さん、岡田さんが客演ですが、吉本のTHEフォービーズの岡田さんは初参加です。

−最近、吉本興業さんも、演劇に熱心ですものね。
山田 今、小劇場界も、いろんな方が参入してきてまして、どこまでを「演劇」と呼ぶか難しい時代にはなってきたかなという感じがします。「小劇場」というものとは作っている種類が変わってきているようにも感じられる部分がありますね。
  グチみたいになっちゃうんですけど、ぼくは「小劇場をやるんだ」というこだわりはありますね。

−ご自分が作っているのはどんな「笑い」だと思われてますか。
山田 もともとコントというものが好きでしたから、ベースにはコントに対する憧れというのがあります。

−コントよりも、更に作り込んでいるように感じられましたが。
山田 そうですね。コントをもう少し先まで伸ばしてというか、コントだとワンセンテンスの「振り」で持って行くことが多いと思いますが、その「振り」をもう少し情景をこまやかに、描いていきたいというこだわりはあります。
  シチュエーションを大事にしたコントや、コメディや、ファルスや、いろいろな笑いがあるとは思いますが、何だかんだといいながら、ベースが「バカバカしい」というところに一番のこだわりがあります。
  そのバカバカしいことの中に、劇作家としてのこだわりが現れるんじゃないかと思ってます。もっと大げさに言えば「哲学」だとかいうものは、人間のどうちゃらこうちゃらというバカバカしいところにこそ宿るんじゃないかと思っています。
  ちょっと照れ隠しというところもあるんですが、大上段に構えて「生きる意味はこうだ」とか、「哲学はこうこうこうだ」というのは照れくさいんですよね。笑いの中にちょっと、小出ししていくぐらいかなと思うんです。
  見てくれたお客さんが、「ただバカバカしくて面白かったね」っていうのもいいし、「いや、深い話だったね」といってくれるのもいい。見る人に振り幅がある、そういう両方に備えられるようにしたいと思っています。

(ここで休憩終了、再び稽古)

−今日やってらしたのは3シーンでしたが、これは全体でいうと、どのあたりなんでしょうか。
山田 まず、頭のオープニングですね。
  どなたもそうでしょうけれど、ぼくは入り口に特にこだわりがあるんです。お客さんが3000円のチケットを買ってくれたとしたら、1500円は頭の15分に払っているんではないかと思っているぐらいに、オープニングを大事にしてます。「何かやってくれそう」感というのを提示できるように努めてます。
  ちょっとネガティブな言い方になりますが、そういうオープニングができれば開始40分ぐらいまでは「勝つ」と思ってます(笑)。
  たとえ仮に、オーラスにどんでん返しが待っていて、それまでの構成がしっかりしていたとしても、アメフトでいうファースト・ダウンというか、ゲーセンのレーシング・ゲームでいう、ラップを1回通らないといかんのではないか。スタンプラリーでちゃんとお客さんにスタンプをついていってもらわないと、最後まで読んでもらえないと思っているんです。
  だから、今日は、入り口の部分を2パターン試していました。あとは、中盤のシーンですね。

−全体像はいかがですか。
山田 いや、まだ全然できてません。まだぼく意外、誰も全体像を知りません(笑)。
客演さんに今日初めてきてもらったというところです。今のところ、暇なメンバーを呼んでは、自分がやりたい感じをエチュード形式みたいにやってもらってます。そのイメージを見ることが、書くに当たっての協力になるんですね。
  ぼくは座付きなんで、座付き作家のメリットは最大に生かしてます。通常の稽古で、一人一人のできることを増やしていけるようにしてます。そうじゃないと、「毎回、こいつこれかい」になっちゃいますのでね。

−「笑い」をつくるときに一番大事にしていることはどういうことでしょう。
山田 ダントツ、圧倒的に、「空気」ですかね。「間」というのも、つきつめると「空気」だと思うわけです。未熟な奴にはとてもできないでしょうが、正解というのは、もちろん日々変わるわけです。だから、その場その場で、どういう「空気」を成立させればいいかってことがわかってさえいれば、そんなにズレはしないんではないかと思います。
  演劇でいうアンサンブルから立ち上がってくるのも、お互いの距離や、関係性、ことばの質が合うことが大切ですよね。それが「空気」というものになるんだと思います。
  「空気」のあるなしが、すべてじゃないかなと思ってます。
  お客さんが「ふふふ」とか、声出して笑うとか、いろいろあるでしょうが、お客さんが持っている「笑い袋」みたいなものを、その場の「空気」によって、表面に出しておくことができれば、こちらが直接さわることができると思うんです。そういう「空気」を作りだすことが大事だろうなといつも思ってます。

−そうすると山田さんがもっている勘所がより確実にメンバーに伝わっていないと成立しませんね。
山田 そうですね。それは共有できてると思ってます。一番長いやつで7、8年のつきあいがありますから。短くても3年ぐらいですから。ま、不満もありますけど。あ、これはお互いかもしれないですね(笑)。
  ホンはできていないと言ったものの、大枠もおとしどころもぼくの頭にあります。キャスト同士の相性も大きな要素なので、設計図はありますが、この場でやりながら作るっていう感じですね。いつも20日前ぐらいにはほぼできあがるんですが、スタッフさんを困らせてはいますね。

−今回一番見せたいのはどんなことでしょうか。
山田 「八つ当たりにちょうどいい顔」という題名にイメージの多くがこめられてます。 今回は「境界線」の話なんです。
  「怒り」というのはなんでしょうか。例えば危害を加えられたことに対して怒るというのは、正当な怒りだと思います。すると、「八つ当たり」というのは、説明が難しいけど、そういう「正当さ」がないところで、自分でダイナモ回して「怒り」をかき立てるというか、しなくてはならないんじゃないか。
  じゃあ、どこまでが八つ当たりなのか、というのもあると思います。
  「八つ当たり」を考えると、その人がなにか行動する時の理由の端っこというか、行動の発端にある「境界線」というのが、どこなんだ、ということが気になってきます。
  「八つ当たり」を素材にして、大きく言えば、自分が日々進んでいく上で(というとちょっとダサいけど)、どこを着火点にして、前に進んでいくかというところを考えていきたい。
  どこからが八つ当たりなのか。すべて八つ当たりなんではないか、とか。どこまでも八つ当たりではないとも言えるだろうし、そのあたりをうまく処理したいなと目論んでます。

−本日はどうもありがとうございました。

 

ひとこと> 「お笑い」に徹しつつ演劇的にも十分レベルの高い作品を作ろうとする「山田ジャパン」。稽古場にはいい緊張感がみなぎっていた。役者たちの能力もモチベーションも高く、それをよく知る座付きの山田さんがさらに一つ高いレベルを要求していく。稽古を見るだけで、公演が楽しみになった。主宰山田能龍さんの、演劇でお笑いを追求したいという決意も実に尊敬できる。(インタビュー・構成 カトリヒデトシ)

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