<対談・谷賢一さんvs.玉置玲央さん> ジェットラグプロデュース公演「幸せを踏みにじる幸せ」(2010年5月28日-31日)
 自分のスピリットをもって愛される舞台を作りたい(谷)
  ワンランク上の役者をめざしてリベンジしたい(玉置)

谷賢一さんと玉置玲央さん

谷賢一(たに・けんいち)=写真・左
  1982年千葉県生まれ。明治大学演劇学専攻卒。演劇・映像サークル「騒動舎」28期。2004年に英国University of Kent に1年間留学、主に近現代演劇史、イギリス現代戯曲論、演出論などを学ぶ。翌2005年9月に明治大学文化プロジェクト『マクベス』演出を担当。2005年10月に 劇団・DULL-COLORED POPを旗上げ。以後全公演の作・演出。最近の主な作品は、『マリー・ド・ブランヴィリエ侯爵夫人』『プルーフ/証明』など。個人ブログplaynote.net
玉置玲央(たまおき・れお)=写真・右
  1985年東京都生まれ。私立関東国際高校演劇科を卒業後、中屋敷法仁と出会い、劇団「柿喰う客」の中心メンバーとして活躍。自身でも演劇ユニット「カスガイ」の主宰として演出にも挑戦。客演も多く、小劇場界で今最も注目される俳優の一人。
ジェットラグwebサイト:http://www.jetlag.jp
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ジェットラグとのなれそめと縁

玉置 どういう経緯で谷さんが今回の作・演出を引き受けることになったんですか。ぼくもそのあたりは知らないんです。
 話をつないでくれたのがジェットラグ・プロデューサーの武藤(博伸)さんです。それでゼネラルプロデューサーの阿部敏信さんと会って自己紹介して、そのあとOKが出てからプロットを提出したのか、プロットを書いてからOKが出たのか…。昨年10月か11月かな。お酒の飲み過ぎで、記憶がどんどんあやふやになってますね(笑)。
玉置 いろんなところで谷さんは飲み過ぎじゃないかって話を聞きますよ。
 やばいなあ(笑)。でもこの1ヵ月ぐらいはあまり飲んでないよ。ジェットラグ公演は小劇場の知名度の高い人たちが登場しているので、話が来たときはもろ飛び込んだって感じ。ちょうど劇団(DULL-COLORED POP)の活動休止を決めた直後だったし、「すぐにやります!」(笑)。
玉置 ジェットラグ公演は見ていたんですか。
 結構ね。岩井秀人さん(ハイバイ)作・演出・出演の「投げられやす〜い石」(2008年1月、新宿ゴールデン街劇場)をみてえらい衝撃を受けました。そのあと中屋敷(法仁)君(柿喰う客)が演出した「あなたと私のやわらなか棘」(2008年10月)。わざわざ自分でチケット購入して、彼に「見に行くよ」って電話して行ったなあ。いまはなくなった新宿のTHEATER/TOPSで上演しましたね。もう1本は、前回公演の「肌」(2009年10月、銀座みゆき館劇場)。というわけでぼくはジェットラグと恋に落ちた(笑)。玲央君はどうですか。
玉置 ぼくは以前「誰ソ彼」(2008年5月、新宿シアターサンモール)に出演しました。ピースというお笑いコンビの又吉(直樹)さんの作、空間ゼリーの深寅芥さんが演出した公演です。ただぼくは出来がよくなくて…。阿部さんには機会があればまたやらせてください、と言ってたんです。でもなかなか日程のやり繰りが付かなくて…。前回の「肌」は水泳部の話なんでぼくにぴったりだったんです。学生時代、水泳部でしたから。
 そうだったんだ。
玉置 ええ。ただスケジュールが合わなくて出られなかった。それで今回阿部さんから話が来て、谷さんが作・演出で、出演者はぼくだけが決まっていてと聞いて、来た来た! という感じ。そのときはプロットも大筋が固まっていたのかな。その後はそんなに変わってないでしょう。
 変わってないよ。玲央君がいじめられるとこは変わってない(笑)。そうか、割と長い付き合いだったんだね。
玉置 正直言って、ぼくはリベンジしたかった。
 エーッ、なにそれ。
玉置玲央さん玉置 「誰ソ彼」の演技は自分で納得できなかった。だからもう一度ジェットラグに挑戦させてもらってリベンジしたかった。阿部さんにもお願いしていたし。「あなたと私のやわらなか棘」のときも、演出の中屋敷は劇団(柿喰う客)を一緒にやってるぐらいだから、玉置のいちばんおもしろい面を見せられると思うので出演させてくれって頼んだりしたぐらい。それでずっとやろう、やろうと言ってた。今回は谷さんと組めるというのですごく期待しています。
 あれ、「誰ソ彼」公演ってあのときだよね。ぼくと玲央君が田端で…。
玉置 そうそう。
 奇遇って言うか、縁があるもんだ。感慨深いね。実はぼくが主宰しているDULL-COLORED POP公演「小部屋の中のマリー」(2008年6月、新宿タイニイ・アリス)に出ようよと玲央君を誘っていたらオファーが来て、2人で話し合ってそちら(ジェットラグ公演)に出ることになったんだよね。そのあとも一緒にやろうと言ってたけどうまくいかなかった。
玉置 ほんとに時期が合わなくてね。
 再会したのがまたジェットラグだというのもおもしろいね。ドラマチックだね。
玉置 出会うべくして出会った、ってことかな。

「事故」が起きたらおもしろい

 ぼくは意外に玲央君の舞台を見てないんじゃないかな。柿喰う客の公演と、あとは競泳水着の舞台。年に1、2回は必ずみてたけど。
玉置 おれも。最初は「セシウムベリー・ジャム」公演かな。1日だけの日替わりゲストでちょっと出演した。
 あれはおもしろかったね。(台本)3ページぐらいの出番だけど、脱ぐはバク転するわ、主役みたい(笑)。
玉置 玉置を起用するというのはどんな理由から?
 早い段階から、玲央君をいじめるというコンセプトがあったから(笑)。それはともかく(笑)、以前から一緒にやりたいということがあったし、最初のころの打ち合わせで阿部さんから玲央君の話が出たんじゃなかったかなあ。
  ぼくにとっての玲央君は複雑な印象なんだよ。パンチ力のある役柄ができるし、虎視眈々としたところもあるし、気悪くしないでよ、ちょっとおバカなところもあるしさ(笑)。でも話してみるとクレバーだったり複雑なんだよ。不気味なところもあるし。普段は配役を決めるときは本人のこんなところを引き出したらおもしろいとか、こんな性格ならこういう役をやってもらいたいとか思うんだけど、玲央君はそういうありきたりの思惑が当て嵌まらなくて、むしろ事故が起こったらおもしろいのではないかと思ったりするね。
玉置 事故ねえ(笑)。
 予期しないことが起きたときに玲央君がどう反応するか、はみ出したところに期待できる俳優だと思う。
玉置 そうかあ。
 ブログなんかを読んでも、玉置玲央という役者は演劇にかける愛とかひたむきさは図抜けてるからね。そういう人に無茶振りする楽しさはある。ぼくがあまりコントロールできないところが逆におもしろいところだよね。
玉置 うーん。なるほど。
 ぼくが演出家としてこうやってと言えばたいていの役者は合わせてやってくれるし、玲央君もそうやってくれると思うけれども、でも演劇信念や直覚の核心ですれ違ったりぶつかったりする部分が多分出てくるから、そういうときにおもしろいことが起きるんじゃないかと思う。現場でバチバチやり合って、アクシデント的に物事が進むときがぼくは結構おもしろい。そのとき舞台上で予期してなかった熱気が出たりするしね。
玉置 そうかあ。やあ、おもしろそう。
 ぼくも楽しみにしています。ところで玲央君はぼくのことをどう見ているのかな。
玉置 前回はジェットラグ公演で谷さんの公演に出られなくて、今回はそのジェットラグ公演に谷さんと組んで出られるのは、これは運命だなと思います。その2年半の間に2人ともいろいろあったわけだから絶対、変化があったわけでしょう。だから劇団活動を休止して、いわば裸になった作・演出家としての谷さんはどうなったかに興味があった。俳優としても友達としてもメチャメチャ興味がある。これは時期が来たんだ、一緒にやりたいと思いましたね。

いい座組を作って、ステキな公演に

谷賢一さん 昨年は自分の作・演出で作品を3本上演した。ぼくは手法から作品を作るのが好きで、3人で1人の人物を演じたどうなるかとか、古典劇のようなせりふを書いたらおもしろいのではないかとか、逆に破綻、解体された話を持ち出したらいいんじゃないかとか、スタイルがまずあって、あとでそれに見合った中身を考えてきたけれど、そういうやりたい手法はほぼやり尽くしたと思っていて、それが劇団休止の理由に一つでもあるわけです。
  去年手がけた中で印象に残っているのがサラ・ケインの芝居で、ほとんどポエムのような台本です。ストーリーの説明もなく、配役も分からない、解体されたような作り方をしています。ぼくはとてもおもしろかったんですが、やっぱりお客さんの中には物語がほしいという方もいらっしゃるし、演劇として間口を広げることを考えていくときに、ウェルメイドまではいかなくても、ぼくの母が見に来ておもしろい、という芝居も結構大事だと思う。劇団を休止して、一人の劇作家としてオーダーを受けて、俳優に要求されるような作品を書けるかどうかという点は気になりますね。そういう意味では、自分でこうなりたいというスピリットを持ったまま1時間半なり2時間を楽しんでもらえる芝居、愛される舞台を作りたいと思っています。そういうバランスの取れた作品にしたい。
  去年はいろいろやり過ぎて器用貧乏に見えて、自分のやりたい芝居は何かがぼやけてきた気がしたんで、それなら昔からやって来たように、お話に重点を置いた作り方をやってもいいんじゃないかと思ったわけです。原点回帰かな。
  それで今回の作品ですが、玉置をいじめるというコンセプトだとさっきから言ってますが(笑)正確には玉置という役者が演じる役がいじめられるということですけど(笑)、役柄的には熱血漢ですね。
玉置 熱血漢?
 松岡修造って知ってる? 元テニスのプロ選手で、いまスポーツ番組の解説やリポーターをよくやっている人…。
玉置 エッ、それだれ?
 玲央君はこれまで影のある役が割に多かったじゃない。
玉置 そうなんだよ。最近特にそういう役が多い。
 だから松岡さんって、頑張ればできる、死ぬことないよ生きようぜ!って励ましたり叫んだりするような、すごくポジティブな人なので、今回玲央君はそんな感じの暑苦しい役(笑)。
玉置 面倒くさそう(笑)。
 そういう前向きの人がいろんな事情があってドンドンいじめられていくんだけど、その中でどう変わっていくかが見所かな。
玉置 ぼくは谷さんが(スタッフだった)タイニイアリスをどう使うか興味があるけど。
 タイニイはいろんな使い方はあるけど、オーソドックスにやるのがいちばんかなと思う。最近は台本を書き終えてから演出を考えることが多いから、あとで舞台美術担当の方と考えたい。
玉置 楽しみですね。
 玉置という役者はこの2年でどう成長したのかな。
玉置 うーん。いろいろあるけれど、体力は上がった(笑)。持久力と新陳代謝と筋肉量は上がりました。多分メンタル面も強くなった。旅公演もあったし、一人芝居をやったりしたから(『いまさらキスシーン』2008年11月)。でも演劇って、俳優一人でもできないし作家でも演出家だけでもできない。スタッフも含めて座組の力、総合力を信じられるようになりましたね。個人技もおもしろいし、そのスキルを上げるのは当たり前でしょう。けれどこの2年でお客さんを含めた総合力、その劇場空間を信じられるようになりました。
  今回の舞台は(ゼネラルプロデューサーの)阿部さんのために成功させたい。客席を満杯にしたい。(阿部さんは)すごくいい方だとぼくが言うのはおこがましいけれどとても信頼しているし、前回の舞台とは違って、玉置はもうちょい上等の役者だと見てもらいたい。ジェットラグ・プロデュースとしても個人的にも満足できるような舞台にしたいですね。だってわざわざ声をかけてくれたわけだし、谷さんとはすれ違いという因縁のいきさつもあるわけだから、これは期待にこたえてやるしかない。しかも共演したいと思っていた方が何人もいる。だからいい座組を作って、ステキな公演にしたいよね。
(2010年4月28日、新宿の喫茶店)

ひとこと> ここはいつもはインタビュー欄ですが、二人の組み合わせは異色の対談形式となりました。友人同士なのに、これまで知らなかった意外な事実と展開が待ち受けていて互いに驚く一幕も。人気、実力ともに急上昇中の二人だけに、演劇に賭ける意気込みが合わさって話が熱く盛り上がった1時間でした。(インタビュー・構成 北嶋孝@ワンダーランド)

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