<加茂克さん、則末チエさん> 発条ロールシアター「タダデネ!」(2014年10月2日-5日)
 海の民による幻のロマン史劇 水浸しの図書館を舞台に
Dr.エクアドルさん

加茂克(かも・かつ)(写真左)
1966年青森県生まれ。大学在学中に鳳いく太主宰の游劇社に参加。竹内銃一郎の流れをくむ不条理劇の世界へ。劇団退団後は他劇団への出演を重ね、コメディから市民劇団まで幅広く参加。2006年、脱線劇団PAGE・ONEの復活公演に参加。2008年、則末チエと発条ロールシアターを旗揚げ。全公演を企画。

則末チエ(のりすえ・ちえ)
1975年北海道生まれ。俳優のIKKANと漫画家の新井祥が主宰するオフィス★怪人社に旗揚げメンバーとして参加。2005年まで全公演に参加。後期はIKKAN、新井祥と共同で脚本・演出も手がける。1998年からはテレビ出演や雑誌連載などで活動。脱線PAGE・ONEの復活公演に出演。2008年発条ロールシアターを旗揚げ。全公演の脚本・演出を手がける。

webサイト:http://sky.geocities.jp/hatsujoroll/

異世界が現れる

−今回の作品は、図書館が舞台ですか。

則末 図書館は図書館なんですけど、ちょっと数百年前に行っちゃう。私たちの公演では、日常から一歩外れたりして、違う世界に行ってしまったという舞台が多いんです。

−ホームページに掲載されたこれまでの公演概要を読ませてもらったら、舞台は古いアパートの一室だったり(第10回公演「パソドブレ」、第7回公演「セイルオフ」)、終電車あとの無人駅舎(第9回公演「ソンデネヴァ!」)、老舗デパートの屋上遊園地(第6回公演「ファンタステカ」)などだったりします。華やかと言うより、少しうら寂れた場所が多いようです。そんな場所に似つかわしい人たちがなぜか集まってきて(笑)、ふとした弾みで現在とは異なる時間や空間が現れる…。今回はどうですか。

則末 今回の舞台には、行き場のない初老の飲んだくれ男とか、図書館に来てるのにスマホをいじっている若者や、他人とコミュニケーションをとれない図書館司書とかが登場します。
加茂 それに失敗続きの出版者の営業マンも出てきますよ。
則末 司書を含めて女性は3人出ます。

−そこに過去が現れるのですか。それとも登場人物が過去に入り込んだり投げ込まれたりするのですか。

則末 図書館が大雨で浸水したという状態で、夢なのか現実なのか分からない設定です。水の中に書架が立っている状況を想定しています。
加茂 チラシを持って来たのですが、海の写真と図書館内部の写真を合成して、その情景を作ってみました。

−あっ、ホントだ。図書館が浸水している(笑)。図書館内部の写真をよく撮れましたね。


「タダデネ!」公演チラシ表 「タダデネ!」公演チラシ裏

タイトルはカタナカで

−前々回のタイトルは「パソドブレ」、その前は「ソンデネヴァ!」。今回は「タダデネ!」。外国語ですか。

加茂 「ソンデネヴァ!」は津軽弁で「そうでなきゃ」という意味です。それらしいかもしれませんが、外国語ではありません。青森出身なので津軽弁。響きが外国語っぽいでしょう(笑)。旗揚げから公演タイトルは全部カタカナです。

−前々回の「パソドブレ」も津軽弁ですか、それとも…。

加茂 これはスペイン語です(笑)。社交ダンスで、闘牛をベースにした踊りのことを指しています。♪タカタッタカタッタカタタタ、タカタッタカタッタカタタタ…。こんな感じじゃないですか(笑)。

−いろいろあって惑わされそうですね(笑)。いつも舞台には、異なる世界が現れる仕掛けを用意しているのでしょうか。

加茂 そういう作品がほとんどですが、この間、今年4月の公演「ラブホテルインブルー」はそうでもないね。
則末 ホームページにまだ載せてないんですけど。
加茂 ラブホテルの話です。
則末 あっちの世界に行かない、初めての舞台です。そう、初めてごく普通の話になりました。ラブホテルの冴えないマネージャーが恋に狂っておかしくなる、彼女に入れあげるという話です。

−でもラブホテルも、異界の入り口になりそうな雰囲気はありますよ。

加茂 ラブホテルの裏手にお墓がある、という設定です(笑)。鶯谷と谷中周辺をイメージしました。
則末 あそこはおもしろいロケーションでしたね。鶯谷のラブホテル街を挟んで、山手線の向こう側にお墓がバーッと並ぶ。生と死が対照的な風景なんです。

地下劇場の雰囲気が好き

−やはり小劇場の雰囲気を残したタイニイアリスがいいということですか。

加茂 そうですね。
則末 とても使いやすい劇場です。地下劇場が好きなんです。大丈夫かな、という雰囲気が好き(笑)。

−それはどういうことでしょう(笑)。

則末 若いお客さんのなかには、イスも何もないところに座って芝居を見るのは初めてと言うひとがいるんですけど、狭いところにみなが集まって見る空間が好きなんです。旗揚げ公演はお金がなくてタイニイアリスを借りられませんでした(笑)。でも、第2回公演からはずうっとアリスです。もともと作品の雰囲気がタイニイアリスの空間と合っていたのかもしれませんね。
加茂 若いころ芝居を見に行くと、何があるのだろう、何が起きるのだろうとワクワクしましたが、最近の劇場は座席も場内もきれいで、芝居は鑑賞するものという雰囲気があります。ちょっと暗くてギュウギュウ詰めの空間で、ワクワクしながら芝居を見る感じが欲しくなりますね。
則末 今回の作品の舞台になる図書館も、両岸に書架がそびえ立って、自分たちはその底にいる感じなので、あの劇場にピッタリだと思います。

−やっと今回の舞台になりました(笑)。タイトルは「タダデネ!」。日本語ですよね(笑)。

加茂 そうです。「ただ事ではない」という意味合いです。

海の民が現れる

−今回も、リアルの日常に別の世界が入り交じるのですか。それとも4月公演のような、ごく普通の世界に落ち着くのですか。

加茂 今回の舞台はタイトル通り、どこかに「ただ事ではない」というイメージがあります。
則末 やはりビックリ感が欲しいので、私たちの舞台は、情景が突然一気に変わることが多い。今回もそう。過去の世界に変わります。でも、英雄が出てくる派手な話というより、歴史の中の一コマと言うんでしょうか、だれの記憶にも史実にも残っていないけれど、当時もそういう人たちがみんな生きていた、という舞台になります。

−次の舞台はこうしようと、お二人で話し合われるのですか。

則末 原案は加茂が出して…。
加茂 もともとはそういう形で始めたんですが、脚本担当は則末なので、最近は則末が書いていますね。もちろん二人で話し合いはしますけど。
則末 最初の頃は原案を加茂が出して、それを脚本にしていました。最近は私が原案を出して書くんですが、その原案もだんだん加茂の考える世界に似てきた。洗脳されたんですね(笑)。

−則末さんの出身は?

則末 私は北海道です。割りにいい加減(笑)。先のことを考えずに、ともかく行ってみよう(笑)。

−おおらかで大陸的ですね(笑)。言葉も訛りがない。

則末 そうですね。

−北海道は鉱山が多かったけど、各地から人が集まるので、いわゆる標準語が使われていたようですね。あとは、港町もそういう傾向にあるようですよ。

加茂 今回の話は実は、港町まではいきませんが、海の民、海賊の話になるんです。調べてみると、土地の漁師が、有力者に雇われて戦いに出ていく事例が多いようですね。

−時代はいつころでしょう。

則末 1500年頃、室町時代になります。
加茂 室町時代と言っても、京都の話ではなくて、関東の伊豆あたりが舞台になります。
則末 私も今回勉強しなければ、伊豆の海賊なんて知らなかったと思います。当時の権力者に従わない人が「賊」と呼ばれる。登場する海の民が略奪行為をするわけではないのに「海賊」呼ばわりされる。中央からは、自分たちの命令に従わない人たちが「海賊」に見えるんですね。そういう海の民の話です。

−日本史研究で知られている網野善彦さんも、海の民の経済・文化ネットワークがとても広いと指摘していました。スケールの大きな話になりそうですね。

加茂 ぼくも網野さんの著書はよく読みました。室町時代の津軽だと、十三湊(現在の五所川原市)が交易の拠点でした。網野さんは「敗れたものの歴史がある」と語っています。

3年連続のアリスフェスティバル

−アリスフェスティバルはしばしば参加していますね。

加茂 2012年、2013年に続いて今年が3回目になります。プロデューサーの西村博子さんから声をかけてもらいました。
則末 うれしかったね。
加茂 そう、ありがたかった。

−出演する役者さんは。

加茂 藤一平さんは前回も参加していますが、游劇社の旗揚げメンバーです。発条の旗揚げから出演してくれている江戸川良さんも游劇社の出身です。
則末 加茂も游劇社でしたから、出演する8人のうち3人が游劇社出身ですね。あとは江戸川さん同様に旗揚げから出演してくれている杉浦直さんが今回は主演で、ほか初めてご一緒する若い役者の皆さんが出ています。

−みな息が合っているから、台本が遅れても大丈夫?

加茂 いやあ、それは(笑)。役者は困りますよ(笑)。

−スタッフの方々は。

加茂 同じスタッフの方々にずっとお世話になっています。

−台本が遅れても大丈夫(笑)。

加茂、則末 まあ、まあ(笑)。

−今年のアリスフェスティバルのトップバッターですね。フェスティバル全体のイメージが最初の公演に現れるのではありませんか。

加茂 わあ、それは責任重大(笑)。

いろんな要素が次々に

−劇団の名前は「発条」と書いて「はつじょう」の読ませるのですか。普通は「ばね」ですよね。

加茂 そうなんですけど、「はつじょう」は立心偏の「発情」に掛けているんです。嫌らしいというか猥雑というか、そういうイメージを連想してもらってもいいかなと。できれば、そいう芝居をやっていきたいと思っていますが、僕らの舞台はなかなかそこまで行きません。個人的には、ゴキブリコンビナートのような芝居が好きなんです。

−エッ、そうなんですか(笑)。

加茂 「発条」はもともとは「ばね」ですから、ばねがグルグル回っているイメージ。いろんな要素が入っていて、それが次から次に現れたらいいなあと。ひところ「シアター」を付けた劇団がわりとあって、「遊◎機械/全自動シアター」とか「ツェッペリンシアター」とかありましたよね。まあ、当時の小劇場ブームの雰囲気・空気みたいなものへのこだわりというか…。それで最後に「シアター」と付けてみました。

則末 当初、私は大反対で、いまどきこんな古めかしい名前はないよ、と言っていたんですが、いまはすっかり気に入っている(笑)。
もともと名前を付けるのが苦手で、作品のタイトルはみんなお任せ。でも登場人物は自分で決めなきゃしょうがないので、あるときは春の七草から取ったりお酒の名前にしたり(笑)。今回は数にヒントを得て付けました。

−今回の公演紹介で、「幻のロマン史劇」と謳っていますね。

加茂 「ソンデネヴァ!」では、「異世界リアルファンタジー」と名づけていました。それぞれ舞台の世界にふさわしいネーミングだと思います。

−なるほど。期待しています。
(2014年9月6日、高円寺で。聞き手・構成 北嶋孝)


公演概要

発条ロールシアター第12回公演「タダデネ!」−アリスフェスティバル2014参加作品
脚本・演出:則末チエ
会場:タイニイアリス
日程:2014 年10月2日(木)〜5日(日)
【出演】
杉浦直
加茂克
江戸川良
まみ
川村あゆ美
大河
藤一平
則末チエ
【スタッフ】
音響:伊藤秀明
照明:廣瀬浩二
制作:後藤優也(夢幻堂)
協力:池山喜勇、花見卓哉
☆発条ロールシアター「タダデネ!」予約ページ >>

【発条ロールシアターとは】
元・游劇社の加茂克さんが企画、則末チエさん(元オフィス★怪人社)が脚本・演出を手がける。2008年の旗揚げ。「日常から少しだけ異世界を垣間見るような芝居」が特徴。今回が第12回公演。


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