<鈴木厚人さん、まつながかよこさん> 劇団印象第10回公演「枕闇(まくらやみ)」(9月5日-10日)
二人の目に夢追い人はどう映る? 演出家とプロデューサーが語る『夢』への批評性
鈴木厚人さん

鈴木厚人(すずき・あつと)東京都出身。慶應義塾大学湘南藤沢(SFC)在学中に映画制作に携わる。2003年に劇団印象旗揚げ。大学卒業後、CM制作会社勤務を経て、現在フリーランスで活動しつつ外部執筆・演劇評論にも積極的に取り組んでいる。劇団印象主宰。
まつながかよこ:東京都出身。会社勤務時に、アルバイトに来た劇団主宰の鈴木と知り合い、制作から総合プロデューサーに。劇団印象のもう一人の代表。役者の外部出演の際はマネージメントも一括して務める。
web:http://www.inzou.com/
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―ブログを見ると映画から演劇までご覧になっているようですが。
鈴木:見るのも好きなので、できるだけ数見てます。数見ると全体の傾向が見えるから。
まつなが:ジャンルはあまり問わずに、できるだけ私も数見るようにしていて。一緒に作っていく上で、お互いの価値観とかを、見終わった後照らし合わせることが多い。だから、同じ回を見に行くこともある。
鈴木:「水と油」の公演で、僕が招待券をもらって、その時制作のお手伝いだったんで一緒に見に行ってもらったんですけど、その「水と油」の「均衡」がすごく面白くて。
まつなが:休止になってしまう最後の公演でしたよね。シアタートラムの。
鈴木:僕の観劇歴の中で三本の指に入るぐらい面白いやつだったんです。でも、パントマイムとダンスだから言葉がないし、わかりやすいジャンルでもなかったから、深く演劇に関わってない人が面白いかどうかが不安で、聞いてみたんですよ。
まつなが:わくわくするステージだったなと思って。鈴木が一枚招待券をもらったんだけど、本番一時間前ぐらいに思い立って当日券を買って、一番後ろのトラムシートで見たんです。
鈴木:僕は一番前か、前から二列目ぐらいで。
まつなが:だからお互いどういう状況で見てたのか全然わからなかったんだけど、面白かった。私も未だに三本の指に入ってる作品ですね。その時の感想というか、価値観とかもあんまり説明なく共有できたんです。
鈴木:「水と油」が一般の人にもちゃんと届くんだなっていうのがあったのと、抽象的な、自分が見て感じるしかない芝居を「面白い」って言う人だったら、俺がやりたいことをお客さんに渡す役割をやってくれるだろうなと思って。それが今みたいなプロデューサー的な役割をお願いするきっかけだったんです。
まつなが:制作からプロデューサーになって、脚本にも演出にも口を出すことに(笑)。
鈴木:あと、キャスティングにも。

―劇団四季の総合プロデューサーの浅利慶太さん、みたいな(笑)。
まつなが:そうなるといいんですけどね(笑)。

―役者が外部の仕事をするようになって、稽古に支障はありませんか。
鈴木:映像の仕事は、演劇の稽古に戻ってきたときにもプラスになると思ってるんですよ。ひとつの稽古としての外部の仕事というか。
まつなが:たとえ映らなくても、必ず何か得るものがあるんだから、得てこなきゃだめだと。で、時間が間に合うんだったらどんなに早朝からだったとしても必ず稽古にも来させます。

―役者が外部でどうだったかって話についてもお二人ともブログでかなり触れていらっしゃいますよね。
鈴木:今印象に仕事をくれるような人は、割とはっきり言う人が多いんですよね。使ってくれるんだけどぼろくそに言ってくれるんで、できるだけ本人たちにも伝えたほうがいいかなって。
まつなが:ありがたいと思います。普段はなかなか厳しいことを言ってもらえないですから。

―意外と批評性って失われやすいですからね。
鈴木・まつなが:そうなんですよね。
まつなが:仲間になるのは関わり方としては非常にいいんですけど、仲良しになっちゃうと磨いていくっていうの、なんて言うの……すごい少なくなっちゃうかなって。
鈴木:切磋琢磨。
まつなが:うん。
鈴木:まあ、慣れるっていうのがね、一番……。
まつなが:怖い。
鈴木:絶えず批評されてかなきゃいけないと思ってて、それは役者だけでなく作・演出も同じなんですけど。

―鈴木さんは前々からブログで劇評書いてらっしゃいますよね。
まつなが:でも数としては少ないですよね。大量生産しろってことではなくて、文章を速く書き上げることのスピード感とかリズム感とかを掴む練習は必要じゃないかな。
鈴木:そう、速く書く練習をしようと思ってたんだ。前にWonderlandに頼まれた時は一週間ぐらい……。
まつなが:どうしようかって構想を練ってる(笑)。
鈴木:ちょっとほっといて気持ちを冷ましたりして時間をかけて。
まつなが:でも劇評ってスピードも要るじゃないですか。見るために参考にしたいとか。
鈴木:いや、見るための参考にするってだけが劇評の役割じゃないと思うから、スピードだけなのもどうなんだろうと思うけど、それとは別に速く書きたいなっていうのがありました。じゃないと、脚本を書く時間を削っちゃうから。

―あ、劇評を書いている間は脚本を書かない。
鈴木:書けなくなっちゃう(笑)。
まつなが:それはどういうことなんだって(笑)。役者はだいたい三足のわらじを履いてるんですけど、文を書くのを生業としていこうとしているのに脚本を書いている間は何も書けないんですかって。文章を書くのは鈴木厚人しかいないのに。私もむちゃくちゃ口を出しますけど、文章を書くのは鈴木厚人。役者も皆そこについてきてるんだから、それはやってほしいと。鈴木が今回参加したWonderlandの「劇評を書くセミナー」(注1)は、きちんきちんと〆切がある。でも公演の準備で忙しくなってくると、チェックしたらやっぱり、休もうとしていた疑いがあって(笑)。

―セミナー中もチェックが入っていたわけですね。
鈴木:いやそんなに入っていたわけではないんですけど、やっぱり脚本に煮詰まる中で、劇評出すのやめようかなって(笑)。でも「完成度が100%じゃなくてもいいから、出せ」って。
まつなが:お仕事として原稿料をもらうってところまでいってないんですから、人の目に触れることに意義がある。役者には言ったりするんですよ、偉そうに(笑)。なぜ同じことをダメ出しされるかっていう(笑)。どこで誰が見てるかわからないので。まだ劇団印象を知らない人に、劇評分野でも興味を持ってもらえるかなって。

―劇評家として活動していても劇団としての意識を持つということ?
まつなが:うーん。劇団と言っても役者で正式に所属しているのは加藤慎吾だけなので……。

―じゃあレーベルみたいな感覚でしょうか。
まつなが:そう!そうかもしれないですね。印象のいろんな要素を出していきたいから。

―そういえば「バイトが休めないから外部の仕事に出られない」という役者に対して鈴木さんが自身のブログで書いていましたが。
鈴木:あのね、みんなまじめなんですよ(笑)。
まつなが:人に嫌われたくない人なんだな。
鈴木:批評すれば「人に嫌われたくない人」なんだけど、アルバイトであってもきちんと仕事をしている意識がすごく強い。
まつなが:欲張る所が違うっていうのかな。休むことでバイトをクビになるかもしれないけど、最初からそこに線を引くことでどれだけのチャンスを無駄にしてしまうかって思う。
鈴木:ずるさがないっていうか、戦略性が無いっていうか(笑)。バイトも、役者も、両方一生懸命なんていうのは、できるわけがないんですよ。いかに高い時給で、休んでも文句言われないポジションに就いて、クビにならないように仕事をするか(笑)社会人としてはぎりぎりの所に留まりながらでないと、役者をやってくのは難しいと思うんですよね。

―役者は夢追い人の代名詞とも言われますが、9月公演「枕闇」は夢の話なんですよね。
鈴木:夢の不条理な感じとかを出したくて、プロットを考えずに思いついたことをばーっと書いていって、ある程度書きたいものが出てから構成していく方法にしました。今(台本は)……80%ぐらいかな。
まつなが:前回の公演の打ち上げで、「公演の2ヵ月前までに台本が書きあがらなかったら坊主にする」っていう約束をしてしまったら、見事に役者が期限を覚えていて(笑)、毎日のように言ってくる。だからとりあえず第一稿は上がったんです。〆切がプラスになって。

―坊主、似合いそうですけどね。
まつなが:(爆笑)
鈴木:似合いそうですかねえ?
まつなが:第一稿はいつも「ラストがまだ、ダメだねこりゃ」みたいな感じなんですけど、第一稿が上がってるって時点で役者も落ち着く。今回は直すことに時間をかけたかったので。一番いいのは演出しながら脚本を直していくってスタイルで、今共演している出演陣はそれにすごく慣れてくれてるので、稽古する度にいろんなことが変わっていってる。第一稿はプロットだったかな。

―三谷幸喜さんの「決闘!高田馬場」を見た後、その劇中で使われていたブレヒト幕を、劇団の本公演でも使っていたことがありましたが(注2)、今回は?
鈴木:今回は蜷川幸雄さんですね(笑)。タイニィアリスでどれぐらいできるかわからないんですけど。
まつなが:どの仕掛けかは内緒にしておきたいです、できるかどうかわからないんで(笑)。

―そんなに大仕掛けなんですか。
鈴木:ちょっと天井が低いとね。
まつなが:人手がそんなにないし。上手くできるかもしれないけど大仕掛けだから、後でどうやって片付けるのかなーって(笑)。

―舞台装置については今後のお楽しみということですね。願望としての夢と夜見る夢、の話についてもう少しくわしく伺いたいんですが。
鈴木:「夢」って基本的には、いい言葉として使われるじゃないですか。だけどいつも夢が自分にとっていいもの、味方とは限らない。味方じゃないときの夢が、どういう現れ方をするかとか、どういう美しさを持っているか、その美しさの怖さを書きたい。味方じゃなくても美しい夢はあると思う。現実世界では気付けないことを夢が教えてくれることがあると思うので、それを物語の中で伝えていかなければいけないかなと。三島由紀夫の「邯鄲」に影響されたわけじゃないんですけど、本を枕にして寝る男が見る夢、の話なんですよ。

―「邯鄲」のようなアドベンチャー・ストーリー(笑)。
鈴木:そうですね。アドベンチャーですね(笑)。夢で起こったことが現実にも跳ね返ってきて、影響してきて、そこがちょっとアドベンチャーかなっていう。
まつなが:なんでこうもごもご話してるかって言うと、鈴木厚人って人間はネタバレが全然OKなんです。人に映画を薦める時も「見てね」って言いながらストーリー全部話してしまう。
鈴木:僕は自分の台本を3レイヤーぐらい、三層構造で考えてるんですよ。一番上の、浅いところのやつは、ベタな観客としての自分に向けたストーリー。二つ目が批評家としての自分に向けた、現代性や社会への批評で、三つ目が演出家としてやりたいこと。それを構成して作品を作っていて、お客さんには二層目、三層目を読み取ってほしいので、表層的なストーリー部分のネタバレはいくらでもOK(笑)。
まつなが:表層的なところは起承転結全部話してもいいと思ってる。それは見たのと一緒じゃないかって(笑)。今みたいなわかりやすい説明は初めて聴きましたけど、もっと二個目のレイヤー? 次回公演の批評性とかについて話してもいいんじゃないかと思う。
鈴木:現代の空気みたいなのをキャラクターに反映させていきたい。いろいろな形をとった現代の日本人を出していきたいなって思う。神様を信じてる人、信じてない人とか。
まつなが:今どきの夢破れた人、夢叶った人がいて、でも「夢叶った人」にしても一色じゃないじゃないですか。役者と演出面の力量で、キャラクターを重層的に立ち上げて、生きてる人間を見せたいな。今回はリアルな状況設定の話ではないんですけど、リアルじゃない、現実離れした世界観なのにお客さんがリアリティを感じるお芝居が、今の劇団印象のカラーだと思うから。

―夢という非日常的な世界観の中で共感性を強く打ち出す作品を鋭意制作中ということですね。今日はどうもありがとうございました。

(注1)「劇評を書くセミナー」は2008年4月から7月まで毎月2回(全8回)新宿・芸能花伝舎で開かれた。
http://www.wonderlands.jp/info/seminar08spring.html
(注2)「三谷幸喜さんが書いたParco歌舞伎「決闘!高田馬場」(2006年3月2日-26日)もすごくおもしろかった。野田秀樹さんの書いた歌舞伎もおもしろいと思います。様式や手法があって、早変わりとか仏壇返しとか、ケレンとストーリーで見せていくんです。そういうアイデアと仕掛けで見せていく芝居が気に入って、次の芝居では歌舞伎を参考にした演出を考えています」(アリスインタビュー2006 劇団印象「友霊」(7月21日-23日)「幽霊と記憶をめぐるコメディー 歌舞伎調の演出も」)

ひとこと>絶えず劇場に足を運んでは芝居を見て、自分の公演に取り入れる作業を、継続的にやっている劇団はどれぐらいいるのでしょうか。身内に挨拶をする以外の目的で、役者やスタッフとも連れだって劇場に足を運んで情報を共有していると言います。劇団員間で仲が悪いのがかえって素晴らしい作品を生む奇跡も起こりえるのが表現のおもしろいところですが、絶えず価値観をすり合わせていく印象の活動は、はたして舞台にどう表れるのでしょうか。9月が楽しみです。 (取材・文・写真=小畑明日香)

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