<まつながかよこさん> 劇団印象第7回公演「愛撃」(あいうち)(11月22日-26日)
「ポップなコメディーを華のある役者で 創作環境の整備が制作の仕事」
まつなが・かよこさん

【まつなが・かよこ】
  東京生まれ。会社勤務時に、アルバイトに来た劇団主宰の鈴木と出会い、制作スタッフに。 劇団印象サイトのブログで制作日記を掲載。「役者じゃない、裏方だから」と写真はご覧のようになりました。稽古場の入り口で即席で撮ったそうですが、なかなかの出来映えです。
webサイト:http://www.inzou.com/

「愛撃」公演チラシ

−今年の6月に劇団主宰の鈴木厚人さんとインタビューして、劇団結成のいきさつなどはすでにうかがっているので、今回は別の側面からお話をお願いしたいと思います。通常は主宰、代表の方が話してくれるのですが、制作担当者が単独でインタビューに応じるのは珍しいですね。
まつなが 制作だけでなく、広報の役割も受け持っているので今回は私が、ということになりました。

−いつから劇団の仕事をするようになったんですか。「空白」公演(2005年6月)あたりですか。
まつなが いえ、そのころはまだ。次の「望遠」公演(2005年12月)で受付のお手伝いをしたのが最初です。ホントにちょっとお手伝いのつもりだったんです。私が勤めていた会社に主宰の鈴木がアルバイトに来て、たまたまお昼を一緒に食べに行く連絡経路を教え合ったとき、メールアドレスに独自のドメイン名が付いていたので、劇団を主宰していると分かった。バイトをしているときは演劇をやっていそうにまったく見えないし、しかも役者でなくて作・演出だったので、意外な感じでしたね。食事を一緒にしながら劇団のことを聞いて、じゃあ、ちょっと手伝ってみるかと…(笑)。

−勤めながらだと大変ですね。
まつなが 劇団の世話をする人が必要ではないかと思って、今年の夏から会社を辞めて劇団の仕事に専念しています。両立できないわけではないんですが、もともとが打ち込むタイプなんですよ(笑)。メンバーの仕事も増えて、マネジャーとしての活動も必要になってきたし…。

−劇団「印象」の舞台を最初に見た印象はいかがでしたか。
まつなが 私が最初に見た「望遠」は、脚本の出来上がりがとっても遅かった上に、これまでにない大きな会場の相鉄本多劇場で上演したこともあって、演出で迷ったことがあったみたいです。でも幕を開けてみたら、お客さんの評判がすごくよくて、結果としては得ることが多かったと思います。これまで劇場にあまり足を運んでこなかった方でも笑って楽しめる作品、若い人だけでなく幅広い年齢層の方々に喜んでもらえる舞台になったのではないでしょうか。テーマでやや緩んだ個所があるので点数を付けると辛くなりますが、最初から100点を取ることではなくて、現状を手がかりに、ともかく前に進むことが大切だと思います。

−タイニイアリスの前回の舞台「友霊」(2006年7月)は、「望遠」に比べるとどんなところが進化しましたか。
まつなが 「友霊」はキャラクターの絡み合いとか、意識してシチュエーション・コメディーを書こうとした作品です。台本も早く出来上がったので、おもしろい仕上がりになったと思います。「友霊」の舞台はご覧になっていかがでしたか。

−メロドラマでよく使われる手法が目に付きましたが、組み立てがしっかりして、ポップでおもしろい芝居というのはなかなかハードルが高い。そこにあえて挑戦しているような気がしますね。別件で鈴木さんと会ったときも、そんなことを伝えました。タイニイアリスでまた公演しますね。
まつなが 今度もタイニイアリスにお世話になりますが、しばらくは新宿にいたい、と鈴木とも話しています。実は劇場をどこにするか、何カ所か同規模の劇場を見に行ったんですが、タイニイアリスに行ったとき、あっ、ここでやりたいなと思ったんです。それで2回続けて公演することにしました。

−どこが気に入ったんですか。
まつなが どこでしょうね。うーん、劇場らしさでしょうか。まず新宿でお芝居を見るというのが、場所的にはぴったりですよね。新宿だと、気軽に来てもらえるでしょう。あとタイニイアリスの空気感が独特なんです。ご近所の劇場が持ってない雰囲気、何て言ったらいいのかなあ、舞台を作り込めるし、見やすい。最初にタイニイアリスで見たのが「野鳩」の公演だったんですが、客席がギュウギュウでも、座ってみてもあまり疲れないし、とても見やすかった。そんなとこが気に入ったのかな。ピンと来る劇場って、意外に少ないんですよ。スタッフの方も親切で、昔から一緒にやって来たような気になってしまいました。「友霊」公演のとき、スタッフの方に「みんな、仲がいいんだね」って言われました。団結して一緒に頑張っている様子を見ていてくれたんだなあと、親身になってくれたのが分かってうれしかった。

−今度の公演は、これまでと違った展開になるんでしょうか。鈴木さんが自分のブログで「精神的に相当エロい話です」と書いています(笑)。
まつなが 書いたのをさっと斜め読みしかしてないんです(笑)。

−「今回の芝居のイメージは、数年前の、僕がモテていた一年を元にしています」(笑)。「不可解な男と女の感情をポップに演出したい」と続きますが…。
まつなが モテたのはホントらしいですよ(笑)。これまでの舞台に男女の関係は入っていても、色気は少なかった。例えば男性の役だと、さわやかな好青年はいても、ねちっこく絡む人物はいなかった。役柄としても役者としても、「印象」の舞台はもっと色気をだしていけたらいいと思っているんです。特に役者には色気が必要だと思うので、今回は意識してほしいと思ってます。やっぱり、お客さんは華のある役者を見に来るものだと思うので、その華をつけるには色気が出ていなきゃいけないと思うんです。あと、「印象」の舞台は、大人が楽しめる芝居にしたい、ポップなコメディーを目指したいと思います。

−今回はどんな芝居なのでしょう。
まつなが 脚本家と女優の話になります。舞台ではなくテレビの世界のお話で、テレビのプロデューサーたちが登場します。どちらかというと、愛憎劇になるでしょうか。脚本家と女優は夫婦ですが、女優は浮気をしている。夫はそれを知っているのかどうか分かりませんが、自分の書くドラマで、あくまでドラマの中でですが、女優の妻を殺していく、という内容です。前回と比べると、演出は随分変わると思います。具体的な美術ではなく、やや抽象的な美術にして、布や糸、カーテンを使って、人間関係をエロく(笑)演出したいそうです。

−まつながさんは演劇活動の経験はありますか。
まつなが 児童劇団に入ったことはありますが、それ以降は全然。音楽活動を少し…。数年前に普通の生活に戻って会社で働いていましたから、もう人前に出ることはありません。人を支える仕事に専念します。

−劇団制作の仕事って何でしょう。どんなことをするんでしょうか。
まつなが 広報、営業、経理、総務、受付など一切合切。私の場合、衣裳や音響、いや全部かな? 私が言ってよくなると思う部分、全部に意見を言います。でもまだ、芝居小屋の仕組みが分からない。そこは弱いんです。専属の制作を置いている劇団はそれほど多くないし、制作自体の仕事も膨大ですけど、作品をよりよくするために、全体を見通したいと思ってるんです。

−まつながさんが考える制作担当のイメージは…。
まつなが 劇団を運営するためには何でもするということに尽きますが、創作活動を進めていく人たちは選択に迷ったり方向を探しあぐねることが少なくない。演出、役者、スタッフが迷ったとき、まず何に迷っているのかを尋ねられる役割でありたい。当事者が見通しよく進むことができるように、きっかけを与えられたらいいなあと思います。次の公演をどうするか、役者をどう集めるか、スケジュールを含めて劇団の具体的な問題はたくさんありますから、それぞれが安心して自分の役割を果たせるような環境を作れたらいいのですが…。私は割にでんと構えている方なので、問題があってもその場ではひとまず大丈夫と受け止めて、あとでどうしようか考えてますねえ(笑)。

−演劇の世界に未経験で入ってきて、制作の仕事で戸惑ったことはないですか。
まつなが 大勢のメンバーを抱えている劇団ではありませんから、公演のために役者を確保することがとっても重要です。作品の役柄にふさわしいと思う役者さんと交渉するのですが、所属している劇団のスケジュールが合わなかったりアルバイトの都合などでうまく進まないことがよくある。それがつらいですね。無理をしても「印象」の舞台に立ちたいと思ってもらえるようになるために、私たちがすることはまだあるなあという感じです。

−(作・演出の)鈴木さんと相談しながらになりますね。
まつなが いま稽古にほとんど立ち会っていますし、おもしろそうなほかの劇団の公演もできるだけ見るようにしてます。ある程度状況が飲み込めているので、これはという役者さんにはその場ですぐに声をかけます。これまでその役目は鈴木一人でしたから、今度私が加わったので、女優さんをワークショップに誘うときでも安心してもらえる(笑)。あの役者が出られないなら仕方がない。足りなければ探しに行く。脚本がまだできてないと言われても、完成させる気があるならできる(笑)。と言うように、私はたいていのことは受け入れるタイプなんですよ(笑)。

−血液型はO型ですか。
まつなが そうなんです、O型です(笑)。年齢が離れているせいか、私が言うことはメンバーが割によく聞いてくれます。自分が経験していることしか言ってない。それが伝わってるのかな。だから怖がられている(笑)。劇団の制作と言うより、お母さん役かな。

−「印象」のどんな点に引き付けられたのですか。
まつなが どちらかというと不器用な人の集団ですが、だから集中して物事に打ち込んでいる。そういうふうに生きる人たちはいまの時代、少ないんじゃないかと思えて、そういう彼らが成長する姿を楽しみながら見てみたい、と思ったんです。

−ブログを読むと、メンバーが出演する映画のロケにもマネジャーとして同行しているんですね。
まつなが これからは劇団という名のプロダクションにしていきたい。役者は映像の仕事もどんどんするべきだと思います。舞台だけで食べていくのは難しいでしょう。いまは映画出演と言ってもエキストラですが、逆に私がマネジャーとして付いていくことで事務所扱いされ、少しは優遇してもらえる。そんなことを手始めに、プロダクション化していきたいと考えています。1日仕事になりますけど、付いていけば役者がもがいている現場を目にすることになります。せりふがあったりなかったり、削られたり増えたり。その現場を見届けることを仕事にしていくべきだと思っているんです。その上で次にどうするかが考えられますから。

−ハードルがいくつもありますね。
まつなが 簡単にできそうもない目標の方がいいんです。すぐできたらおもしろくないでしょう。苦労して、失敗するぐらいがいい。公演も一定のクオリティーを保つのは当然ですが、その上で失敗を恐れてはいけない。やろうとしないで合格点を取るよりは、やりたいことに挑戦して、少しぐらい失敗しても次で取り返そうぐらいの気持ちの方が楽しいと思います。

−劇団の活動にも波があり、野球に例えるとヒットやホームランのときもあれば、内野ゴロや凡フライのときもある。でも一生懸命走ったりプレーしていたら必ず報われると思う姿勢が次につながるのでしょうね。ありがとうございました。
(2006.10.26、東京都杉並区の稽古場)

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ひとこと> 初対面のとき、美貌の女優が入団したのかと思ったら「制作です」と、明るくいなされたのが印象に残っています。おおらかで前向き。「お母さん」役というより「社長」向きでしょうか。劇団の才能と可能性を芸術的にも経営的にも引き出し、開花させる役割にぴったりかもしれません。珍しい専属の制作に期待しています。(インタビュー・構成 北嶋@マガジン・ワンダーランド)

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