<鈴木厚人さん+まつながかよこさん> 劇団印象第9回公演「青鬼」(11月9日-13日)
「食べる」から奇想天外な展開へ 笑いをベースに裏のモチーフも
鈴木厚人さん

鈴木厚人(すずき・あつと)
1980年5月、東京都千代田区生まれ。慶応大学SFC卒業。CM制作会社を経て、演劇活動に専念。劇団印象代表。作演出担当。2003年2月に旗揚げ。今回の「父産(とうさん)」は第8回公演。
まつなが・かよこ
東京生まれ。会社勤務時に、アルバイトに来た劇団主宰の鈴木と出会い、制作スタッフに。 劇団印象サイトのブログで制作日記を掲載。
劇団webサイト:http://www.inzou.com/
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−これまでも公演のタイトルは漢字二文字でしたが、湯桶読みだったり動詞+名詞の意味だったりしました。今回の「青鬼」はどう読むのでしょう。特別な意味はあるのですか。

鈴木 今回はそのまま「あおおに」と読ませます。食べるということをテーマにした話です。

−前回の芝居は場面転換がとても印象的でした。2メーター四方ぐらいの白幕が下手から上手へ、逆に上手から下手へズルズルと動いていくと、登場人物が入れ替わっていて、同じ舞台セットなのに別の情景に切り替わってしまう。暗転でない場面転換が新鮮で、演劇ならではの約束事の世界が巧みに活用されていたと思います。今回もあのような演出上の仕掛けが出てくるのでしょうか。

鈴木 そうですね。前回は仕掛けと言うほど特段に意識してやったわけではなくて、暗転のない芝居フェチ(笑)なので、場面転換を一瞬でするにはどうするか考えた結果、演劇ではブレヒト幕と言われていますが、手品なんかでもよく出てきたりする、あの幕を使いました。今回は、いま第3案がスタッフから出たところです。最終的にはまだ決まっていません。水を使いたいと思っていて、本物の水を使うかプロジェクターで映した映像の水にするか議論しているところです。

−「空白」(そらしろ)公演は照明で場面を切り替えていくのがピッタリの芝居でした。前回の「父産」(とうさん)公演は奇想天外な内容にブレヒト幕がふさわしかった。芝居の中身に即した方法をとっていると思いますが。

鈴木 「空白」の頃は無意識に出てきた方法でやってましたが、「父産」はツールと物語のマッチングという意味では、どの素材を使ってやるか、徹底的にこだわりました。バックのセットは全部和紙でしたが、単なる和紙ではなくて、美術スタッフが取り寄せた特製の和紙なんです。ブレヒト幕も、演技の邪魔にならず、しかも子宮という「父産」のモチーフに合う布を、スタッフが知恵を絞って見つけてきてくれました。

−舞台の映像記録を公開するサービスがネット上でいくつか始まっています。劇団印象も映像を見せるようにはならないのですか。

鈴木 自分たちの舞台を記録して放送したり販売したりするということですよね。やるかもしれませんが、そこに力を入れていこうとはいまのところ考えていません。ぼくはもともと大学で映像を専攻していたので、舞台のおもしろさの本質が映像に映るとは考えていません。舞台はお客さんに劇場に来てもらって、そこで同じ空間と時間を共有することでおもしろさを分かってもらえるメディアだと思っているので、アーカイブ化は必要だし大切だとは思いますが、それが本質だと思いません。はやるとも思えませんね。

−映像技術を駆使して舞台を記録するやり方と、映像化するために舞台を作り替えるやり方もあります。いわゆる映画化ですね。台本がしっかりしていたら可能ではありませんか。

鈴木 映像には出来ないおもしろさ、舞台でしか出来ないおもしろさをやりたいと思ってるので、映像に仕立てるとしたら、映像でしか出来ないおもしろさを別に考えると思います。前回の「父産」は舞台寄りでした。ある役を複数の人間が演じる、つまり複数の人物が同じ人間であるという設定でしたから、映像でそのあたりを表現するのは難しい。CGでは可能かもしれませんが、いまぱっとアイデアは出てきませんね。同じ人物である複数の役者は背丈が20センチも違うけれど、演劇だと同じ人間に見えてしまう。ぼくにとってはそこが演劇のおもしろさなんです。どう嘘をつくか、どんなふうにお客さんをだますかを考えて芝居を作りたいと考えているので。もちろん資料としては残しますよ。劇場に来てもらうために、放送したりインターネットでみせたり敷居を低くする意味では使っていくと思いますが、自分が舞台を見て楽しんでいるようなおもしろさを、舞台のアーカイブ映像を使って体験してもらうような使い方はしないだろうなと思います。いろんな問題もあって、例えば何台かのカメラで映像は押さえていても、セリフがきちんととれていなかったりする。テイクが違えば音声レベルも違うので、簡単に編集すればいいというわけにもいかないのです。一般販売する場合は、商品としてのクオリティも考慮しなければいけませんから。

−今回の公演の話題にしましょうか。どんな舞台を想定して劇場に足を運べばいいのですか。

鈴木 アラスカに新婚旅行に出かけた夫婦が旅先で偶然、ある料理を食べてしまう。そこから物語が始まるんですけど…。うーん。これだけじゃ、不十分ですよね(笑)。どこまでお話ししようかなあ。

−その新婚さんは日本に戻ってくるんですか。

鈴木 ええ、戻ってきます。というより、ストーリーは基本的に日本で展開します。

−前回の「父産」のように、不条理な筋書きが交錯するような、奇想天外な展開になるのですか。それとも…。

鈴木 今回も簡単に言うと奇想天外系ですね。あっ、よかった、プロデューサーが来ましたね。どこまで話せるか、彼女に聞いてみましょう(笑)。
まつなが 遅れてすみません。物語はですね、なぜか最初はアラスカで始まりますが、あとは現代の日本で展開します。奇想天外な話とはいっても、日常生活がベースにあって、そこから少しずつズレたりして、とんでもないことになる。あり得ないように見えるけれども、はじめからあり得ない架空のお話ではなくて、現実と少し違っていても、ちょっと想像してみるとあり得るかもしれないと思えるようなお話ですね。それを描いてみたいと作者は思っているのではないでしょうか。

−前回の「父産」公演は、筒井康隆の創作方法と似ているのではないかと感じたんです。日常のある設定を論理操作で次々に展開してゆき、現実がシュールに歪んできたり、実は現実の方が歪んでいた、ブラックだったことがあらわになったりするプロセスを小説にするやり方です。物語は成立するけれども、成立した世界は壊れているという特徴がある。もちろん筒井作品と鈴木さんの芝居ではテイストも着地も違いますが、展開の方法論はかなり共通するのではないかと思ったのですが。

鈴木 筒井さんの小説を意識したことはありませんが、そう言われると共通する点があるかもしれませんね。発想の仕方、最初の変なアイデアから物語を作るやり方は近いですね。あり得るかもしれないけれど、ちょっと不自然な仮定をまず置く。例えば前回は、父親が出産するということでしたが、現実にはあり得ないけれど、もしあり得た場合どうなってしまうのだろうと興味をそそるような仮定ですね。その仮定に沿ってみると、どうなるのかを自分自身が知りたくて物語を考えました。確かに今回も同じやり方で作品を作りましたね。もう一つ、物語の表向きの展開とはちょっと違って、ぼくの中には裏のモチーフがあるんです。今、身体に興味があるんです。身体を誇張してみたい、誇張することによっておもしろくなるストーリーを考えてみたいと。「父産」では父が産むことをへその緒を使ったりしてやったのが、僕なりの身体の誇張だったんですが、今回は、「食べる」という行為で身体を誇張したいんです。もちろん、笑いをベースに。それがぼくらのオリジナリティになるのではないかと思っています。

−さてそこで、今回はどんな作品になるか、もう少し情報が得られるといいのですが(笑)。

まつなが 鈴木は筋書きをあらかじめ考えてから台本に取りかかるタイプじゃないんですよ。
鈴木 いまぼくがストーリーをしゃべっても、きっと最終的に出来上がった作品は予想もしなかった方向になっていると思います(笑)。
まつなが むずかしいんです。どんなプロットになるのか、私も知りたいし役者も知りたい。
鈴木 ぼくも知りたい(笑)。
まつなが 早めに台本を書き上げてほしいとは言っていますが、ストーリーが変わるかもしれないということについては、スタッフもあらかじめ備えています(笑)。でもタイトルは最初に決めた「青鬼」のままにしてほしいと私から要望を出しました。芝居好きな方は、「青鬼」と聞けば、野田秀樹さんの「赤鬼」を連想すると思います。話はまったく違った展開になると思いますが、このタイトルにすれば、「赤鬼」が持っている命や死に関するテーマには触れると思ったので、「青鬼」のタイトルで自由に作ってほしいと思いました。

−今回はアリスフェスティバルに招かれてますね。このフェスティバルに参加した劇団はその後、一段と飛躍するといわれています。最近ではチェルフィッチュやシベリア少女鉄道、ゴキブリコンビナートもそうだし、遡れば燐光群や少年王者館などもフェスティバルの常連でした。目利きプロデューサーのめがねにかなったかもしれません。今後の舞台を期待しています。
(2007年10月9日、東京・原宿の喫茶店。 写真は杉並区の稽古場)

【関連情報】
・劇団印象webサイト 「青鬼」(あおおに)公演
・アリスインタビュー <鈴木厚人さん> 劇団印象第8回公演「父産」(とうさん)(2007年6月8日-11日)
・アリスインタビュー <まつながかよこさん> 劇団印象第7回公演「愛撃」(あいうち)(2006年11月22日-26日)
・アリスインタビュー <鈴木厚人さん> 劇団印象第6回公演「友霊」(ゆうれい)(2006年7月21日-23日)

ひとこと> 「グルメ」などと称して、食べることは至福の悦楽だという錯覚がながらく富める社会を支配しているようです。しかし「食」も社会や心身の状態と相関しているので、起伏もあれば奥も深いのではないでしょうか。飽食、粗食、悪食、拒食など食の形態もさまざまですが、ぼくの体験では断食がもっとも印象に残ります。つまり「食べない」状態が続くと、個体としての身体が急激にその状況に対応します。胃袋を中心に身体がきしみ、世の中はさまざまな臭いに満ちみちていることを知らされます。食にまつわるもろもろの断面が断食を契機として眼前にせり上がり、心身が痛みと共に受容するのです。しかしいまや、こういう体験も身体のロマン主義と言われかねません。インタビューを終えたあと、しばし食を巡る妄想が脳裏を駆けめぐりました。舞台が楽しみです。 (インタビュー・構成 北嶋孝@ワンダーランド)

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